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19 古竜合流

――ユノ視点――

『嫌な事件だったね……』


 何事も楽しんでいくスタンスの朔がこんなことを言うのは珍しい。


 もっとも、私にも似たようなところはあるけれど、今回の件については同感である。



 ――あれから各地でクーデターが発生して、人間同士で争うようになった。

 言葉にするとそれだけだけれど、古竜による災害と変わらないくらいの血が流れたのではないだろうか。

 これが「モノからヒトへ」ということかもしれない。

 ……違うかも?


 とにかく、混乱の最中――というか、それに乗じてというか、「魔女狩り」のようなものまであったらしい。

 いやはや、「正義は我にあり」なんて思い込んだ人は怖いね。



 ほかにも、聖樹教(もど)きの狂信者集団が発生していた。

 それが、歌って踊って――はともかく、私には全く身に覚えのない教えを説きながら、各地を回って増殖していったのだ。


 風評被害も甚だしいけれど、さきの正義で暴走を始めた人たちを制御するのに利用するしかなく、やむを得ず――間接的にではあるけれどお墨付きを与えることになってしまった。

 もちろん、最低限修正しないといけないところは修正するつもりだけれど。

 いつか、そのうち。



 それよりも、問題は裏で糸を引いていた――私の個人情報とか都合の良い妄想を垂れ流していた金竜である。


 彼がなぜこんな所にいるのか。

 なぜそんなことをしているのか。

 私に何の恨みがあるのか――は、ボコってそのまま放置したからか?


 とにかく、こちらも彼らを利用することで幕引きを図ったのだけれど、そのせいで、彼が神の使いのようなポジションに落ち着いてしまった。

 キラキラ輝いているのも、説得力向上に役立っているのかもしれない。

 激しい光の点滅には注意が必要とはこういうことか。



 とはいえ、うちの古竜たちの後始末をしてもらったところもあるし、功績が無いわけでもない。

 特に、魔物化が伝染するウイルスだか呪いだかは、下手をすればパンデミックを起こしていた可能性もある。


 適当に聞き流して確認しなかった私も悪い――いや、やっぱり悪くはないけれど、付け入る隙を与えたのは事実である。



 そして、そんな彼らが首謀者や関係者を血祭りにした勢いのまま聖地(ママ―ウィル)の許までやってきた。

 というか、包囲された。


 なお、「血祭」といっても殺したわけではなく、瀕死になるまで拷問してから回復魔法で癒してを何度も繰り返した後、はりつけにして持参している。


 私にどうしろというのか。


 しかも、それを幟旗のぼりばたのように掲げて、歌って踊っての大狂乱である。

 何この邪教徒。

 怖い。



「ほれ、もうお主が歌って鎮める以外にないじゃろう。早よ行け」


「くっ! なぜ奴がこんな所にいる!? ヤマトに向かったのではなかったのか!?」


「ヤマトもユノの支配下にあるのだから、ユノのことを知っていてもおかしくはないけれど……」


「理解者面をしているのは気に食わんな。奴ごときがユノの何を知っているというのだ」


「まさか、奴が組織の――! 盟友よ、油断するなよ!」


「ヤマトでユノが何をやったっていうの……!? 僕は……うっ、頭が!」


「あのクソ野郎、アタシたちにウェイストランドを押しつけといて、自分はこんな所にいるなんて絶対に許せないっ!」


「ワタシのスーパーコンピューターによると、『この地に灰災害が迫っていた』とするが吉と出ています。ついでに、縁談も吉。ただし、邪魔多し。ワタシのように理性的で論理的な相手がいいでしょう」


「なるほどなあ! 全部灰のせいにしようってのか! それでおいらは怒られないんだな!? 頼むよ、マジで!」


 古竜たちはみんな責任回避モードに入っている。

 コウチンに至っては、心神喪失での無罪を狙っている。



 とはいえ、灰の責任にしてしまうのは良い考えかもしれない。

 結局、灰らしき人物は影も形も見えなかったけれど、灰災害が起きてもおかしくない状況だったのは事実だろうし。


 しかし、丸く収めるためには、古竜たちの――金竜の言い分を否定することができない。

 もちろん、全ての言い分を通させるのはよくない。

 それに、ある程度状況を整理するためにも、金竜と会っていろいろと言い聞かせなければならないだろう。


◇◇◇


「俺を覚えていますか!? あの時助けていただいた古竜です! 貴女に恩を返すために頑張りました! まだ返し足りないので、もっと頑張ります!」


 なので、最低限の人員を選んで、面会を許可した途端にこれである。

 私を認知症だとでも思っているのか――いや、できることなら忘れたい。忘れたままでいさせてほしかった。



 それはそうと、詳細を知らない人が聞けば、動物報恩譚のように聞こえるかもしれない。


 しかし、ぶっ飛ばしたまま放置したけれど、命までは取らなかったことを「助けた」といってもいいものか。

 返したいのは「恩」ではなくて、「怨」ではないのか?

 というか、押し売りの圧がすごいな。


 などなど、思うところはいろいろある。



「ユノよ、儂らがおらんところでまた何かやらかしたのか? お主は本当に儂が付いておらんと駄目な奴じゃな」


「ユノ様のなされることは全て正義ですが、そいつは生理的に駄目です。一刻も早く処分を!」


「貴女、無自覚なのは分かるけれど、その節操の無さは本当にどうにかなさい? そのうち刺されるわよ?」


「いや、貴様らの方こそ『この娘には何を言っても無駄だ』と悟るべきではないか?」


「盟友よ、気をつけろ! これは組織の陰謀だぞ! だが、こいつが出てきたということは、決戦の日は近い!」


「僕はこいつ嫌いだな。目つきが赤に似てていやらしいし、ユノに都合の良い幻想でも抱いてるんじゃないかってところも気に食わないや」


「アタシにウェイストランドを押しつけといて、自分はこんなところで鼻の下伸ばしてるとか信じられない! 死ねばいいのに!」


「なぜだか分かりませんが、ワタシのスーパーコンピューターが『こいつは敵だ』と訴えています! 滅ぼしましょう!」


「何なんだよテメ―は!? おいらにゃ暴力振るうくせに、ユノには尻尾を振ろうってのか!? ふざけんじゃねえぞ!」


 古竜たちの反応はおおむねネガティブ。

 一部、疑惑の目が私に向けられているけれど、私は無実――湯の川の防衛をしただけだ。



「なんだお前ら、古竜が雁首揃えて恥ずかしいとは思わんのか?」


「儂らは貴様がフラフラしておる時に灰災害に対処しておったのじゃが? ユノの下でな!」


「俺たちはずっと古竜としての役目を果たしていたというのにな。ユノ様の下でな!」


「こんなにも遅れてやってきて、随分な物言いね。ここのことだけじゃなくて、私たちは九頭竜退治にも参加したのよ? ユノと一緒にね!」


「言うてやるな、白よ。それで金など必要無いことが分かってしまったのだからな。ユノと私たちだけで充分だ」


「ユノ、あいつひとりで雁首揃えてる。ププ、恥ずかしい奴」


「盟友よ、さきにも言ったが油断するなよ! 灰を使った作戦が破綻したから後始末に姿を現しただけで、奴は組織の尖兵だ!」


「雁首揃えるも何も、僕はユノの幼馴染だから、ほかの奴らが後から集まってきただけなんだけど?」


「アンタこそ今頃になって出てきて恥ずかしくないの? っていうか、アタシとハニーだけで解決できたのよ! 邪魔だから帰れよ!」


「ワタシのスーパーコンピューターによると、こいつが『灰』である確率100%。ついでに、反社会的勢力であるとも思われます。推奨、死刑」


「はあ? おいらはもうユノに忠誠を誓った身だから、ほかの奴がどうとか言われても一向に恥ずかしくありませんが何か?」


 困った。

 高速で会話が進んでいくので口を挟むチャンスがない。


 というか、シュガールの忠誠とか受け取った記憶が無いのだけれど、彼の中では――いや、彼だけではないけれど、一体何がどうなっているのだろう。




『はいはい、いがみ合いはそのあたりにしてね。金竜が連れてきた人間が困ってるじゃないか』


 こんなときに頼りになるのは、やはり朔である。

 強い言葉ではなかったけれど、騒ぎもピタリと収まった。

 若干気配をお出ししたからかもしれないけれど。



『これが本当に灰災害だったのかどうかは分からないけれど、一応は人間の手で清算できた。ボクとしてはそれでいいと思うんだけど、人間の立場からはどう思う? ぜひ忌憚きたんのない意見を聞かせてほしい」


 金竜が連れてきていたのは、母娘らしいふたりの人間だ。

 魂の感じがよく似ている。


 とにかく、外見的にも、魂や精神的にもいたって普通の人である。

 それなのに、彼に私のあることないことを吹き込まれて、歌って踊ってと奇行をさせられていた挙句に、「聖女」などと祭り上げられてしまったのだ。

 可哀そう。


 今も、金竜の正体を知っている母娘はほかの人化している古竜たちの正体も察しているようで、ものすごく肩身が狭そうにしている。

 というか、ひとりはロボットだし、場を仕切っているのが可愛らしい黒ネコの人形である。

 誰だって混乱するか。



「ユノ様よりお預かりしているこの世界を穢した者が罰を受けるのは当然のこと。むしろ、それに気づきもせずのうのうと過ごしていた私たちも同罪! ゆえに、この命をもって清算すべく参上いたしました!」


「ふはは! ユノの生贄になれるとは羨ましいではないか!」


 えっ、この人たちは何を言っているの?

 怖いのだけれど。



『えっ、いや、そういうのは望んでないんだけど』


「女神様、待ってくだせえ! おっ母は女手ひとつでずっとおらを育ててくれてて――そんなおっ母が、サン様のサンで女の幸せを取り戻しただ! おら、おっ母には幸せになってほしい――だから、生贄にするならおらにしてくんろ!」


「お前ももう少し成長した後なら女の喜びを教えてやれたのだがな!」


 なんだ、この邪竜は。

 滅ぼすべきはこいつでは?



「愛ですね……」


 アイリスもこう言っているし、これが異種族コミュニケーションなのかも。

 ……えっ?

 どういうこと?


 ……最近の彼女の愛はビームになって人を襲うし、何が「愛」なのか更に分からなくなってきた。



「ただ、ユノの想いや聖樹教の教義とは食い違っている部分もあるようなので、そこの修正は必要ですね。そのためにも、まずはユノの素晴らしさを知ってもらうところから始めましょうか」


「! ライブですね!」


「では、早速ステージを用意いたしましょう!」


「神託中継システム稼働!」


 神族の反応と動きが速い。


 ずっと機会を窺っていたのだろう。

 それなら、ここまで状況が悪化する前にそうしてほしかった。



 それでも、いろいろと有耶無耶にするにはこれが最善なのだろう。

 ただの「嫌な事件」で終わらせないためにも、頑張って歌おうか。

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