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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第三章 邪神さん、華麗に羽化する
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02 アンチエイジング

 ひとまずの顔合わせが終わったと思っていいのか、少しだけ雰囲気が緩んだように感じる。

 人の気配は分からないけれど、そういうのは何となく分かる。


「とりあえずはそういうことだ。城内に部屋を用意したので、しばらくはミーティア殿や、もうひとりの連れと一緒にそこを使うとよい。

他に必要なものがあれば、係の者に言い付けてくれれば用意する」


 どうやら、突発的に連れてこられた私たちとは違って、陛下たちの方は準備万端だった模様。

 そして、拒否権は無い模様。


 流れ的にそういうこともあるかと思ってはいたけれど、まさかお城に泊まる日が来るとはね。

 人生何があるか分からないものだ。


 もちろん、我が家に勝るものはないのだけれど、ここまで辿り着いたことは、少しは前進していると思っていいのだろう。



「アイリスはどうする? お前の部屋は残してあるが」

「もちろん私もそこに。その方が何かと都合が良いでしょうし」


 いきなり同棲とは。

 可愛い子供と、飲んだくれの姑的なものもついているけれど。


「まあ、今しばらくは節度ある生活をな。それと、やはり王籍には戻らんのか?」

 節度も何も、子供もいるような場所で何をどうしろというのか。


「はい。ユノが権力を使いこなせるとも思えませんし、権力と武力を兼ね備えた家など、他の方からすれば脅威以外の何物でもないでしょう?」

「そうか。少し寂しくはあるが、いつでも遊びに来るがよい。ならば、新年会でお前たちのことを正式に発表する。表向きは同性なので結婚の報告とはいかんが、それはお前たちで話し合って決めるとよい」


 陛下は、早くも結婚式にまで想像が及んでいるのか、涙ぐんでいる。

 想像力豊かだなあ。


「良かったわね、アイリス。素敵な人が見つかって」

「ありがとうございます、お母様。このような運命を用意してくださった女神様にも感謝ですわ」

 アイリスはとても良い娘なのだけれど、神を信じていることだけが玉に瑕だ。


 個人の趣味嗜好――もちろん、信仰にも口を出すつもりはないのだけれど、神なんて人間に試練という名の嫌がらせしかしないし、クリアしても何の特典も与えないという存在の無駄っぷりである。

 神なんていない方が――いたとしても、表に出てこない方が世界は平和になると思う。



「そうねえ。そんなに取り繕わなくても、出家する時の貴女があまりにも必死なものでしたから、大体のことは察していますよ」

「あれの父親は立派な人物だったのだがな……。幼い頃はああでも、大きくなれば偉大な父を目指してくれると期待しておったが、儂に見る目が無かったようだ」


 話題は、事の発端となったアズマ公爵の話題に移る。

 どうでもいいのだけれど、陛下の一人称は「儂」か。

 ミーティアと違って、イケオジが言うと様になるね。


『話は少し伺っていますが、そんなに駄目な人なんですか?』

「駄目だ」

「駄目ね」

「駄目すぎます」

「駄目とかいう次元じゃない」


 苦虫を噛み潰したような国王陛下と王妃殿下、害虫を見るような嫌悪感を滲ませるアイリス、爽やかな笑顔だが不穏な影が見えているアル。デレク何某さんだけは口を開かなかったけれど、その表情で大体分かる。


 打ち合わせでもいていたかのように、見事な満場一致だった。


「領民を重税で苦しめたり、いわれのない罪で投獄したり、意味も無く殺してしまったりと、まるで山賊のごとき振る舞い。そのせいで領民の流出が止まらんのだが、それを恥じるでもなく、民が悪いと開き直る。最早、王国貴族の恥だ」

「領地の収入は下がり続けていますが、恐らく獅子身中の虫となるよう期待されて、他国から資金を得ているようです。他は無能なのに、軍事力だけは優秀なのが困りものなのです」

 陛下の愚痴はともかく、教会にいながらそんなことまで知っているアイリスが怖い。


「直接的に他の貴族を害したりすれば、アルフォンスに逆賊討伐を申し付けるのだが……。残念なことに、金で買われた没落貴族が捨て石にされるだけなのが現状だ」

「せこい嫌がらせばかりで、直接俺に何かしてくることはないんだけどな。人様の嫁にまで色目を使ったり、手を出そうとしたり……。ははは、さっさと死ねばいいのに」

「ただでさえお金や暴力で従えた女性をたくさん侍らしているのに、それでもまだ他人のものを見ると欲しくなる。まるで子供です。いえ、子供の方がまだ分別があります」


 堰を切ったように一斉に不満、憤懣が噴出する。

 そこまで酷いなら暗殺でもすればいいのに――ああ、無駄に強いとかだったか。

 アルならできるのでは?

 政治的な問題とか?

 よく分からないけれど、なかなかに面倒臭い人らしい。


「そういうことだからユノ、お前の役割は重要だ。奴は間違いなくアイリスの降嫁に異議を唱えるし、お前も我が物としようとするだろう。

お前なら良いエサになるだろうし、エサだけを取られる心配も無い」


 陛下がそこまで言うと、みんなが一斉にとても良い笑顔になった。怖い。


 つまり、神前試合という機会は与えるけれど、それ以降の異議は認めない。

 それでも手を出してくるなら、竜殺しの英雄としての特権で処分してもいいということらしい。


 私の《竜殺し》はお酒なのだけれど?

 お酒が入っていれば無罪ということ?

 何でもかんでもお酒のせいにするのは良くないよ?


 さておき、王国側で裁ける名目ができることが対外的には一番なのだけれど、比較的自由に動ける私がその名目を探したり、いざという時の協力も期待されているらしい。

 私も、アイリス誘拐の件があるのでひと言物申したい気持ちはあるのだけれど、私よりも相応しい人がいるならそちらに任せるべきだろう。


 私の願いは、飽くまで家に帰ることなのだ。

 これが出張とか旅行のようなものだと思うと、必要以上に余所の世界に迷惑を掛けたくない。



 今日の目的は、私を直接見ることで、公爵の件は話の流れでそうなっただけ。

 彼を追い詰める詳細な計画作りはこれからになる。


 私を直接見たからといって、何が分かるのかは知る由もないけれど、国王だとか将軍ともなると、人を見る目も養われるのかもしれない。



 私の品評会が終わると、私の評価とは関係無い雑談に移った。


 もちろん、雑談といってもただの雑談ではなく、そこは王侯貴族の戦場らしく、様々な駆け引きが繰り広げられていた。


「さっきは少し脅したがの、過去のことはもう気にせんでもよい。むしろ、面白い者にも出会えたしのう」


 ミーティアはつまらない顔合わせが終わって、お酒が出てくると分かりやすくご機嫌になった。

 私のお酒が一番とか言っておきながら、お酒なら何でもいいらしい。

 何とも節操がない。


「さすがミーティア殿、我らには及びもつかぬほど永きにわたり叡智を磨いておられるだけあって、懐も深い。感服いたしました! 

ささ、これは王国内でも評判の銘酒でございます」

「お主、分かっておるのう! その心がけさえ忘れなければ、お主は良い王になるぞ!」

 ミーティアはすぐに天狗になるので、あまり調子に乗らせないでほしい。

 というか、それが駆け引きなのか?

 それでも、仲良くやっているようなら何より、なのか?


「ユノちゃん、本当にお人形さんみたいね。ケースに入れて飾っておきたいわ。――そうだわ、ユノちゃんはお料理もできると聞いたわ」

 殿下の方は、ほのぼのとしているようで若干猟奇的。

 そして、話題の転換が急すぎてついていけない。

 なお、ほんの少し前まで、お酒の話とか国王陛下の話題だった。


 さておき、料理の件の情報源はアルだろう。

 秘匿するような情報でもないので構わないのだけれど、せめて「できる」と「出せる」の違いは正確に伝えておくべきだと思う。


「いえ、料理はできません。魔法でご飯が出せるくらいです」

「あらあら、まあまあ。変わった魔法を持っているのねえ。よかったら見せてもらえるかしら?」

「はい。では――」

 王妃殿下に請われるまま、いつものように――いや、ちょっとだけ良いところを見せようとして《ご飯付与》を使う――使ったはずだった。



 いつもより一メートルほど高い位置に出現したご飯が、ゆっくりと、そして七色に輝きながら降下してくる。


 こんなのは初めて見る。


 というか、なぜこのタイミングでこんなイレギュラーが出る?


 黄金に輝く卵かけご飯より更に神々しいそれをお茶碗に受け止めて、興味津々なみんなで観察する。


 これほど食べ物に見えない色の物はないというのに香りは素晴らしく、非常に食欲を刺激してくる。

 自分でも正気を疑ってしまうけれど、


 それは王侯貴族でも同じようで、食い入るように見つめている。

「これは何だ?」

「ご飯――いえ、分かりません。こんなのは初めてです」

 陛下の問いかけに正直に答える。


 五色米とか七色米という言葉を耳にした記憶はあるけれど、発光するお米ではなかったはず――そもそも、お米は発光しない。発酵するのが精一杯のはずだ。

 というか、この色どこかで見たことがあると思ったら、私から採れる秘石と同じ色なのだ。


「これは恐らくSSR(すごく素敵なライス)!」

 アルはこれが何か知っているのかな?

 アルのいた日本にはこれがあったの? 正気か?

「――では、私が毒見を」

 アルが誘惑に屈した。


 表情は毒見をする人のそれではなく、期待に満ち溢れている。


 そして、どこからともなく取り出したマイ箸で、軽くひと口分を口に運んで噛み締め、涙を流し始めた。

 口元から漏れる七色の光が不気味さを助長していて、正直怖い。


「まずい……」

「これほど食欲を刺激されるというのにか? もしや独り占めする気ではあるまいな!?」

 アルの口から漏れた呟きに、陛下が過剰に反応する。


「いえ、味は涙が止まらなくなるほどの美味です――が、ひと口食べただけなのに下がってしまいました……」

「何が下がったと言うのだ!? レベルか? 能力か? そんなものは下げさせておけばよい!」

 いや、駄目なんじゃないかな?


「レベルや能力は一切変化していません――下がったのは年齢なのです。ほんのひと口食べただけなのに、一歳若返ってしまいました」

 もっと駄目なものが下がっていた。

「何と!?」

「何ですって!?」

 いまだ涙が止まらないアルに、陛下と殿下が詰め寄る。


 というか、そんな効果だと私やアイリス、それにリリーは食べられないではないか。



「これで半分ずつだ、よいな?」

「あなたの方が五グラムくらい多いわ!」

「「ふおおぉぉおお!」」


「と、普段はとても仲の良い夫婦でもこうなってしまうくらいまずい。これは争いの――下手をすれば戦争の火種になる」

 滂沱の涙を流しながら、虹色の光を口の端から漏らす王族を見て納得する。

 というか、目や耳からも光が漏れている。

 絵面がヤバい。


 とにかく、不老に不死といえば権力者が求めてやまないものの定番だ。

 何といっても、若返って行く様子が分かるほどの効果なのだ。


 結果、陛下は44歳から30歳まで、殿下は41歳から26歳まで若返って、「腰が、肩が――身体が軽い!」「お肌の張りが戻ったわ!」「お前はやはり美しいな……」「貴方も素敵でしてよ……」と、お互いの若い頃の姿を見てはしゃいで、良い雰囲気になっている。


 この様子だとアイリスの兄弟が増える日も近いかもしれない。


 どうでもいいのだけれど、ここまで大幅に若返ったのは、よく噛んで食べると効果が上がったからだそうだ。

 なるほどね。

 よく噛んで食べることにはいろいろなメリットがあるからね。


「相変わらずユノはでたらめですね」

「飽きんでよいがのう」

「一応、年齢を下げる秘術とか秘薬ってのも存在するんだけど、材料に賢者の石とか神の秘石が必要になるらしいんだよな。それと、たまに迷宮とかでも拾えるんだけど、オークションとかに出ればとんでもない値が付く」

 アイリスとミーティアは多少驚いたという程度だったけれど、アルはこれがどれだけ非常識なことなのかを、親切丁寧に教えてくれた。

 まあ、今のところは狙って出せないから大丈夫だと思う。


 しかし、今更だけれど、世の条理に反するような能力はどうなのだろう?

 どこかでしっぺ返しがなければいいのだけれど。



 当然、この件は、私の存在も含めて極秘になった。

 極秘といっても、気のせいで済まないくらいに若返っているのだけれど、大丈夫なのだろうか?


 いや、この世界の人は、私の女装も見抜けないほど観察眼のない人が多い。

 もしかすると、脳の構造が日本人と少し違うのかもしれない。


 現に、一部始終を見ていたはずのデリク何某将軍さんは「はあ? おふたりが若々しいのはいつものことですが?」などと分かっていなかったようだし。

 正気か?

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