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14 太陽襲来

 チェストを離れたサンが、竜型のままで西へ飛ぶ。



 捜索対象が竜神と女神ユノのふたつに増えていたが、特に問題だとは考えていない。


 両者が一緒にいる可能性が高いことが理由のひとつ。

 もうひとつ、ヤマトとチェストの様子から察するに、女神は極めて善性の存在である。


 問題があるとすれば、どこにいるのか分からないことだけだ。

 もしも多くの神族がそうであるように神域に引き籠られていては、いかにサンでも見つけられないだろう。


 それでも、ヤマトやチェストのように女神の祝福を受けた国や町が存在していれば、何らかの手掛かりが掴める可能性もある。




 サンはそう信じて飛び続け、見事なまでに何も見つけられずに不安になってきたところでそれを見つけた。



 超高高度からでも分かる、明らかにスケールのおかしい一本の大樹。

 昼間でも太陽に負けじと輝くそれは、地上にある太陽――神の祝福が形をなした物――つまりは世界樹であると、本能的に理解できた。


 ちなみに、世界には「世界樹の紛い物」も多く存在する。

 誤認されても仕方がないような物から、何らかの意図でそう仕向けられている物まで様々で、ある意味では太陽神殿もその枠に入る。



 しかし、それは何かが根底から違う。

 むしろ、紛い物との類似点が見当たらない。



 湯の川の世界樹は、世界樹自身や十六夜の管理によって、『湯の川』にしか魔素を出していない。

 当然、その範囲外にいるサンにも届いていないが、だからこそ違和感を与えてしまう。


 本来であれば、ひときわ高い山や大きな樹木など、信仰の対象になる土地や物には()が宿る。

 それは時として龍脈に繋がることもあり、そこまでになると目を閉じていても肌で感じられるほどの存在となる。



 サンの経験則によると、この世界樹の規模であれば彼のいる場所にも魔力の波動が届いているはずである。

 それがないどころか、目を閉じてしまうと本当に何も無いようにしか思えないというのは不自然極まりない。

 幻術であっても術の気配があることを考えれば、「人為的に隠蔽している」という結論になる。


 しかし、一般常識に照らし合わせれば、隠蔽するならもっと上手にするはずである。

 これだけキラキラしていて「隠している」というのは、いくら何でも無理がある。


 また、古竜である彼としては、力や能力は誇るものだと認識している。

 そして、その認識では、かの世界樹は誇るべきものである。



 それだけであれば、「目に見える神域」ということで納得できたかもしれない。

 多くの神がそうするように異界に創らないのも、「誇っている」のだとすれば理解できる。



 しかし、その直近には人の住む町がある。

 神を祀る、若しくは神が住まう神殿があるのは理解できるが、人間のような堕落しやすい生物を世界樹の近くに住まわせるのは、善性だからといって許されるものではない。



 風呂で堕落しそうになったサンだからこそ分かる。

 世界樹は、人に与えるには過ぎた代物だと。

 そして、竜神は間違いなくここにいると。


 特に後者は深刻で、こんな所で力を蓄えられては、次に暴れ出されたときにはサンでも手の打ちようがなくなる。



 サンは、「この地の神は何をやっているのか」と憤慨しながら、ユノなる女神にガツンと言ってやらなければと鼻息を荒くする。


◇◇◇


――ユノ視点――

「ユノよ、面倒くさい奴がやってきたぞ」


「ええ……?」


 キューちゃんに指摘されて領域を展開してみると、遥か上空に、太陽かと見紛うくらいに輝く三つ首の竜がいた。


 恐らく、話に聞く金竜だろう。



 カトリーナやシュガールに聞いた話では、金竜は九頭竜の調査をするためにヤマト方面へ向かったとのことだったけれど、それがなぜここに……?


 まあ、その調査対象は私が殺害済みなので、探しているうちに――という線も考えられる。

 あるいはその後継であるキューちゃんを追ってきたとかそういうことだろうか?

 それとも、殺人――いや、殺竜犯として私を?

 まさか、オージーのことを勘付かれた?



「いや、ここを訪れるのは面倒くさい奴ばかりだったな! 訂正しよう! とても面倒な奴がやってきた!」


 キューちゃんは莫迦だなあ。

 そこが可愛くもあるのだけれど。


 古竜はみんな面倒くさいよ?

 キューちゃんも含めてね。



「キューちゃんの知り合い?」


 それはともかく、金竜がキューちゃんを追ってきたのであれば引渡すこともやぶさかではない。

 もちろん、その理由次第だし、キューちゃんにも抗弁の機会を与えるけれど。



「うむ――いや、無論、今の我とは面識がない。先代の我の討伐で主導的な役割を果たした者だ。非常に熱く、鬱陶うっとうしい奴だが、能力はほかの古竜より抜きんでておる。単純計算で3倍だな」


 そういうことを聞きたかったわけではないのだけれど……。


 というか、単純計算って首の数のこと?

 やっぱりキューちゃんは莫迦だなあ。



「能力的なことはどうでもいいけれど、鬱陶しいのは困るかも」


 そういう人って他人の話を聞かないところがあるからなあ。


 それも尊重すべき個性かもしれないけれど、ここでは説得できなければ実力行使するしかないだけに、せめて初対面の時くらいは控えてほしいものだ。



「なに、心配は要らん! 奴の太陽ねっけつより、ユノの太陽あいの方が熱かった! 奴にも格の違いを教えてやるとよい!」


「そういうことでは――いや、古竜的にはそれが正解なのかな?」 


 よくよく考えてみると、真由とレティシアを呼ぶことになった以上、湯の川を破壊されるわけにはいかない。

 まあ、その気になればどれだけ壊されても直せるのだけれど、そんなことを口にするとふたりに怒られる気がするし、町の人たちが頑張って作り上げた物が壊されるという事実も気に入らない。


 つまり、あまり選択肢がない。


 湯の川以外の場所で遭遇したのであれば「逃げる」という選択肢もあったのだけれど、そういう「もしも」は言っても仕方がないこと。



「うむ! ここにあるのは言葉だけでは信じられんものばかりだしな! 一度上下関係を叩き込んでからの方が話が早いのは間違いない!」 


 上下関係という表現には引っ掛かるけれど、友好関係を築くためにも一度戦うか共闘でもしないといけないのはなんとなく分かる。

 お酒を与えて有耶無耶にするのは楽だけれど、先代のキューちゃんもそうだったように、竜が強者に敬意を払うのは事実なのだ。

 そういうところを無視してしまうと、きっといつまで経っても相互理解はできないだろう。


 もちろん、その相手が私でなければならないということはない。


 むしろ、直接私と戦っていない古竜の方が多い。

 直接戦闘やほかの古竜との戦いを通じて間接的に、若しくは共闘するなどしてお互いのことを知っていく――よく分からないけれど、そんな感じで関係を構築してきたのだと思う。


 それを、初手で餌付けしようとするのはペットに対するアクションであって、同等以上の知性や感情を持つ相手の信頼を得られるはずがない――いや、でも、みんなお酒を信頼しているような気も……?

 むしろ、お酒の方が信頼されているような……?

 さて、分からなくなってきたぞ?



「それと、行くなら我も連れていくがいい。ユノの強さはここの者なら誰もが知っているが、初見では絶対に見抜けんからな!」


 なるほど。


 ただの敵なら手の内を隠しておくことも重要だけれど、「力試し」だと騙し討ちのような形になるのは不都合か。


 やはり小さくても竜神か。

 見た目からは想像もできないくらいにしっかりしている。

 肉体と魂と精神は影響し合うから、肉体に引っ張られて少しお莫迦になっているけれど。


 私のように全て合一していればそんなことにはならないけれど、勝手に成長していく肉体に引っ張られて魂や精神が成長することもない――あれ?

 いや、単純な時間経過ではなく、その内容が重要だし?

 内容……?



 ……とにかく、一発かましてから考えようか。

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