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12 裏目

 もう古竜たちの興奮が収まりそうな気配も無いので、ひとまず「航空機及び関連施設」のみに限定して破壊活動を許可した。


 もちろん、私の許可には何の意味も無い。


 やりたければ好きにやればいい。

 やりすぎだと思ったら止めるだけだし。



 そうして古竜たちが飛び立った直後、この地域の調和を司る神々が降臨して、「いくらユノ様でもこのような勝手は困ります」などと言う。

 困っているのはこっちだよ。

 タイミング的に、まず間違いなく狙ってやって来たくせに。


「かくなる上は、御身の威光をもって騒動を鎮めるしか……」


「そうすると、やはりライブしかありませんな」


 ほらね。

 まったく深刻そうな表情をしていないし、精神状態も浮かれ気味だし。


 若干とはいえ悪巧みを覚えてきたのは叱るべきか、成長の証と褒めるべきか。



「では歌ってください」


「……お膳立ても何も無しで?」


 この地域の神は頭がどうかしているのだろうか?

 悪巧みを覚える前に、配慮とかも覚えて?



「ユノ様がお歌いになれば万事解決では?」


「いや、待て。ユノ様が本気で歌えば、感動のあまり死んでしまう者も多数出るのではないか?」


「だが、ユノ様の歌声は死者を蘇らせる。何も問題は無い」


「それどころか、復活を果たした者が聖人化する可能性を考えれば、むしろ喜ばしいことではないか?」


「「「では歌ってください」」」


 この地域の神は頭がどうかしている!


 というか、こういうときに悪知恵を発揮するアルの重要性が明らかになった。


◇◇◇


 困り果てた私は、アイリスに相談することにした。


 最近の彼女は第三の眼の制御にも慣れてきて、無差別に愛を発射しなくなってきたので、そろそろ人前に出ても大丈夫。

 もちろん、相談だけなら引き籠っていてもできるけれど、第三者に説明するときには付いてきてもらった方が有り難い。




「古竜たちと何かしているのは知っていましたが、なぜこんなことに……?」


 現場に来てもらって、状況を説明して、その感想がこれだった。

 というか、理由が分かるなら私も知りたい。



「……歌って解決を図るのは最後の最後ですね。その前に、神託などを通じてユノに関する布教を行いましょうか」


 しばらく考え込んでいたアイリスだけれど、どうにか道筋がついたようで、それを話し始める。



「神託の内容ですが、竜災害を鎮めるのにユノの力が必要だと、祈りの力でユノを召喚しましょう――というような感じにして」


「なるほど。神話レベルの事件で済ませるのではなく、人の子たちも当事者にしてしまおうというのか」


「機械文明に傾倒して、信仰を疎かにしつつあった人の子たちに対する啓蒙にもなるな」


「さすがにユノ様が頼りにされるだけある人の子だ。素晴らしい叡智である」


 それはいわゆるマッチポンプでは?


 いや、私の周辺ではよくあることではあるし、対案も思いつかないけれど。



『それじゃ、古竜たちにも指示を出さないとね。最終的にユノが有耶無耶にできる程度に活動範囲を広げさせよう』


「それはあまり賛成できませんが、人の子の危機感を煽るためには致し方ないか……」


「うむ。人の子も苦しいだろうが、我らもまた心苦しい。だが、決して乗り越えられぬ試練ではない」


「試練を乗り越えた暁には楽園の訪れ(ライブ)が約束されているのだ。乗り越えてもらわねばならん!」


 神がポンコツだなあ……。

 とはいえ、下手に干渉されるよりはマシか。


 何だかよく分からないけれど、やれるだけやってみようか。

 失敗しても世界的に影響が出ない地域だしね。


◇◇◇


――第三者視点――

 現代でいうところのオーストラリア大陸――異世界現地では【オージー】とよばれる地域には、おおまかに東西南北に分かれて4つの国が存在している。

 4国それぞれ、思想や文化には特色があるものの、国力的にはさほど差がない。


 それぞれ隣国との関係はあまりいいものとはいえないが、4国ともに民主主義国家であるため、いきなり武力衝突などという事態にはならないのは救いだろうか。



 一方で、大陸中央にある聖地が建前上不可侵とされているため、東と西、南と北の関係は疎遠、あるいは相対的に友好関係にある。


 ゆえに、下手に関係を崩すと二正面――それどころか4国入り乱れての、更に内部分裂が発生しての戦乱になる可能性がある。


 また、他地域と比べれば魔物被害は小さいが、無いわけではない。


 他国だけならまだしも、それらまで勘案すると戦況の予測は非常に難しく、少なくとも真っ先に国力を低下させる開戦国になるのは愚の骨頂である。


 そのため、国家間の争いの場は外交と、間諜や工作員の活動が主になっていた。




 そんなところに発生した超巨大積乱雲スーパーセル

 外交だとか間諜や工作員でどうにかできる類のものではない。


 それが、大陸西部から上陸して、勢力を維持したまま東進。



 当然、被害を受けている西側の国家としては傍観していることもできないので、調査のためにと軍を出動させたところ、伝説に謳われるような竜が複数体飛び出してきた。


 調査隊はスーパーセルにろくに接近もできずにほぼ壊滅。

 特に航空部隊の受けた被害は深刻で、有人機はことごとくが破壊され、無人機は制御不能となって味方に牙を剥いた。


 バックアップの地上部隊や近隣の軍事施設など、周辺被害も甚大。


 さらに、同行していた報道陣によってその光景が生放送されてしまったため、西側だけでなくほかの3国でも大混乱に陥った。




「あれは一体何なのだ!? まさか、お伽噺にある『竜の巣』だとでもいうのか!? 中には超古代文明の遺産でも眠っていると!? ははっ、笑えない冗談だな!」


「総理、落ち着いてください。現在のところ、あれが何なのかは、実際の被害以上のことは分かりません。少なくとも、西側と我が国の兵器ではなく、声明が出ていないことからほか2国の物でもないくらいで……」


「調査しようにも航空機は落とされ、地上部隊は接近できず、自律兵器は制御不能に……。正直なところ、八方塞がりです」


「何にしても、他国との情報共有――それと、足並みを揃えるのは必要でしょう。対象は依然聖地方面へ向けて東進を続けていて、我が国の防衛圏に入ってくるのも時間の問題です。無論、現段階では我が国単独での対処は避けるべきですが、どこかで抜け出すことも必要です」


 西側を除く各国の反応はどこも似たようなもので、この時点ではまだ他国を出し抜く算段をする余裕があった。




 しかし、それから間もなく、「これは増長した人類が招いた災厄である。悔い改めて、創世の女神の慈悲を請え」との神託が下った。


 文明化が進み、古い信仰は歴史の彼方に置き去りにされ、新たな信仰は人間に都合の良いだけの治世の道具となっていたところにである。


 現在でも神託は無いではないが、ある意味では情勢が安定してる状況では、「あーはいはい」「さーせん。次からは気をつけまーす」「ちっ、うるせーな」となるのも仕方がない。



 そこに来ての、誤解の余地のない神託――というよりは宣告である。

 それがなければただの大災害だったが、これではどう曲解しても神罰である。


 理由が明らかになったからといって喜べる状況ではない。

 創世の女神などという最高神が出てきている意味を考えると、慈悲が請えなければ滅亡すると宣告されたも同然なのだ。



 しかし、「悔い改めろ」と言われても、古い信仰は形骸化していて、その教義を正しく受け継いでいる者がいない。

 事の重大性を考えると、トライアンドエラーが許される案件でもない。




 オージーの人間たちが打開策を出せない間にもスーパーセル改め竜の巣はゆっくりと東進を続け、ついには聖地に到達して停止した。


 せめてこのまま通過してくれれば――という淡い期待は見事に裏切られ、彼らにはいよいよ後がなくなった。


◇◇◇


 一方、この状況に困惑していたのはユノたちも同じだった。


 オージーの人々が何らかのアクションを起こせばそれに便乗するつもりだったが、個人レベルで懺悔するような者たちはいても、国家――どころか集団として何かをする様子がない。


 むしろ、温い停滞の中でとにかく自由や個性を尊重しまくった結果、協調性が皆無な者も少なくない。



「私は悪くない! 悪いのは真理を理解しないほかの奴らだ! そいつらが責任とってどうにかしろよ!」


「何のために高い税金払ってると思ってんだ! さっさと竜を殺せよ、税金泥棒が!」


「熊は殺すくせに、竜は殺せないっての!? 共存とか無理に決まってるじゃない! 子供にどう教育するつもりなんですか!?」


 などと、口汚く他者を責めるだけの者すらいる始末である。



 そんな状況に、災害が起これば団結するだろうと甘い考えでいた神々は閉口し、古竜たちも「このペースじゃと、そう遠くない未来に滅亡しそうなんじゃが?」と腰が引けてきていた。


 古竜にしてみれば、人間の国家がどうなろうが気にならないが、降って湧いたライブのチャンスをふいにするのは惜しい。

 古竜だけなら、最悪ライブさえ開催されれば「嫌な事件だったね……」と心の籠っていない慰めの言葉で締めくくっても構わないのだが、神々はそうはいかない。


 ライブを諦めて、「天災」ということにして通過させてしまえばひとまずの解決になるが、人間側の状況は何も改善しない――どころか、神託が仇になって「これでよかったのだ」と勘違いさせるおそれがある。

 いずれ機会が訪れる可能性があるライブと違い、それだけは認められない。



 そうして、人間の肥大した自我と神の欲望が衝突してできた地獄は、あっという間にオージー全土に広がっていった。

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