表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
573/725

11 古竜の習性 2

 新たに捕獲した――リリースできない呪われた紫竜(ポケ〇ン)の名は【シュガール】。


 金竜が目を離した隙に、彼から逃げるために故郷を捨てて新天地を目指そうとしていて、中継地点としてカトリーナのシマに滞在していたそうだ。



 そこで、空を飛ぶ人工物――外見上は巨大な積乱雲のようにしか見えないはずだけれど、シュガールは的確にこれを敵だと判断した。

 そして、特に何も考えずに突っ込んできてこのざまというわけだ。

 判断力がおかしいとしかいいようがないけれど、古竜の習性に突っ込むのも野暮なのだろう。




「金って酷い奴なんだ。人間が好きなのはまあどうでもいいんだけどさ、おいらの縄張りで悪さしてた人間殺したら、なんでかおいらの方が怒られたんだわ。おいら、古竜としての役目を果たしただけだぜ?」


 などと供述している。

 もちろん、当事者の一方だけの話を鵜呑みにするつもりはない。


 その上で、シュガールの言い分を要約すると、「彼の縄張り内で、犯罪組織に属する人間たちが、麻薬栽培や兵器製造目的で彼の素材や魔石等を採取しようとしていてムカついたので、組織ごとぶっ潰した。すると、金竜が出張ってきて『やりすぎだ』とボコられた」ということらしい。



「まあ、どこの組織かとか細かいことはよく分かんなかったから、それっぽいのをまとめて滅ぼしたけど、人間って大体一緒じゃん? つまり、人間滅ぼすのは正義だろ?」


 などと、一方の話だけでも大概アレな感じなので、余計に鵜呑みはできない。


 ただ、それ以降も金竜にしつこく粘着されて、縄張りを変えることさえ許されなかったというのもやりすぎなように思える。

 もっとも、ここで「金竜の言い分も聞いてみよう」などと言うと余計なフラグが立ちそうなのでスルーしたけれど。



「灰? 知らない。さすがに金の近くでは出ないんじゃないかな? あいつ、人間に近い所にいる――っていうか、人間に崇められてるし、人間に化けて人間の町に行ったりもしてるみたいだし。それに、何かあればすぐに首突っ込んでくるから、面倒くさいんだよ」


 もちろん、私たちがウェイストランドに来た理由も話して情報交換もした。

 あまり役には立たなかったけれど。



「とにかく、絶好のチャンスだから金から離れたいんだ。だから頼むよ。あっちの大陸に戻るんなら、おいらも乗せてってくれよ。それと、どこか平和な所で静かに暮らしたいんだけど、縄張り争いとか無縁な良い所紹介してくんない?」


「人間が好きじゃとか、変わった古竜もおるものじゃのう」


「恐らく、ピカピカ光っていれば偉いと思っている莫迦なのだろう」


「あら、ユノもキラキラしているわよ? 赤はユノも莫迦にしているのかしら?」


「まあ、赤が莫迦で金が変わり者なのは間違いないだろう。人間のどこに何を期待しているのやら」


「ユノのキラキラは良いキラキラ。金のキラキラは下品。カムイには分かる」


「だが、太陽神殿だったか? 空中移動要塞を持っているとは侮れん――まさか、奴は組織の……!」


「また始まった。でも、神殿勝負でユノの名を冠したママ―ウィルが負けるのは許されない。もっと改造しないと!」


「ハニー、金と勝負するの? ハニーのちょっといいとこ見れるの? いくら払えば見れるの?」


「ワタシの計算では、明日の天気はおおむね晴れ。所により血の雨が降るでしょう!」


 それよりも、古竜たちは何かにつけて対抗心を燃やしたがるようで、ただの雑談でもひとりが何かを話すと被せていかなくては気が済まないらしく、いちいち話が長くなるのが困りものだ。

 その上、パイパーあたりから脱線していくので、何の話だか分からなくなることもしばしばある。



「いや、金と戦うとか無謀すぎだろ。あいつ、ムカつく奴だけど古竜の中では頭ひとつふたつ格上だぜ? しかも、太陽神殿って魔力電池まで持ってるし、まともにやったらおいらたちが束になっても敵わないぞ?」


「儂らを貴様ごときと一緒にするなよ、小僧。儂らは毎日のように強敵に挑んでレベルアップしておる」


「それもこれもユノ様のおかげ。ユノ様の手にかかれば、古竜を育てることも、九頭竜を殺すことも想いのままなのだ」


「そういえば、縄張り争いのない場所を探しているのだったかしら? 南にある大陸には古竜はいなかったと記憶しているけれど」


「私もユノと出会って若返ったしな。むしろ、若返り続けて今が全盛期まである」


「ふっ、組織との戦いにおいて、盟友の協力は必要不可欠。むしろ、盟友だけで充分まであるが、俺の手助け(殺虫剤)も盟友には必要不可欠……!」


「幼馴染の僕には分ってたけどね、ユノなら九頭竜だって敵じゃないって。もちろん、僕も協力し……た……? うっ、頭が……!」


「ハニーの母性は、賢母を通り越して酵母にもなるの。ハニーの砂糖とハニーの酵母でできたお酒は、ハニーそのものといってもいいわ!」


「しかも、ダーリンの酵母は無酸素どころか無糖でもお酒ができます。……嘘やろ!? このエモ味で無糖!?」


「「「ムトゥ?」」」


 なんだか分からないけれど踊り始めたし。

 もう話がどうとかいうレベルではない。


 とりあえず、太鼓でも打っておくか。


◇◇◇


 なんだかんだあって、新たにシュガールが群れの仲間入りを果たした。


 そんなつもりではなかったけれど、古竜のコンプリートが近い。


 もっとも、金はともかく、灰の情報は一切無し。

 そもそも、後者は常時存在しているものではないらしいので、見つからなくても不思議ではないらしい。

 むしろ、見つからない方が平和なのだ。




 その後、酒の席での話に出ていた「南の大陸」――現代でいうところのオーストラリア大陸を見物するために南東へ針路をとる。


 ちなみに、シュガールの協力を得たママ―ウィルの巨大積乱雲型暴風結界に雷属性が追加された。

 本来、積乱雲には雷が付きものだと思うけれど、魔法はそのあたりの物理法則とかを無視するので、これまでは海水と一緒に巻き上げられた石や岩、魚やサメとかが飛び交っていただけだった。


 それが今や、立派なラピュ〇である。


 しかも、それが超音速で飛ぶ。

 迷惑極まりない。


 もしかすると、私たち自身が「灰」だったのかもしれない。


 ――そんな反省も込めて、「バルス!」と唱えてみたけれど何も起こらず、古竜たちに慰められた。




 さて、異世界オーストラリアだけれど、先史文明末期の大戦ではアザゼルさんのような技術者がほとんどいなかったためか、主戦場になっていない。

 そして、古竜の不存在はさして影響が無いように思えるけれど、カンガルーやコアラが生存し続けられるくらいに魔物による被害も少なく、資源はそこそこ豊富。

 当然、人類の生存圏の割合はほかの大陸よりも大きく、限定的ではあるけれど道路や線路などのインフラも存在している。

 さすがに大陸間を行き来できるような飛行機や船舶は無いようだけれど。



 ただ、文明の発展度という点では、先史文明の影響が小さい分控えめ。

 むしろ、アザゼルさんのようなイレギュラーが平均値を乱しているのであって、それを抜きにして考えると精々が近代レベル?

 よく分からない。


 さておき、特に兵器関連技術は、そちらにしても比較にならないくらいに低い。

 精々が重機関銃や迫撃砲程度。

 もっとも、小型の兵器は魔法で代用できるところもあるし、古竜などの災害級の魔物がいないために長射程高威力の物も必要ないとなると、そんなものかもしれない。



 一方で、脅威となる敵がいないと――いても一致団結はしないことを考えると、人間同士で対立するのも当然のことなのかもしれない。


 紋章から察するに、少なくとも4つの勢力がいて一部で争っている。

 もしかすると、同勢力内でも争っているかもしれない。


 世界最大の一枚岩はこちらの世界にも存在しているというのに、嘆かわしいことである。



 ちなみに、世界最大の一枚岩と聞いて「ウルル(エアーズロック)」を想像する人もいるそうだけれど、実際には2位である。

 1位は同国西部にある「マウント・オーガスタス」で、その大きさはウルルの2.5倍もある。

 しかも、可愛いムラムラが群生しているらしい。



 何の話だったか……。



 ……そうだ、争いだ。



 この世界では、魔法を用いた戦闘では射程距離に難があり、長距離精密誘導を可能とするような科学技術はまだなく、魔法では代用できないというのは共通事項だ。


 そして、この大陸には古竜が不存在で、上位の竜は空を飛べない地竜種である。


 そうなると、航空戦力が戦術の核となるのも当然。

 多分。

 戦術とかよく分からないし。


 とにかく、飛行機の技術が存在して、充分な資材があって、必要なインフラを構築・維持できるなら、こうなるのか――という想像だけれど。

 ただし、衛星を打ち上げるための技術だとか、距離や速度的に情報共有できる限界などの問題もあるため、現代の最新型戦闘機のような洗練された物ではない。

 なので、現代でいうところの第二次世界大戦後数年程度の出来。

 大半はプロペラ機で、一部にジェット機はあるけれど、ヤマトで見た物よりも古くさい印象だ。


 それが、突如飛来したママ―ウィルの調査のためか飛んできた。


 

 そして、古竜たちが怒りを露にする。


「おのれ、傲慢な人間どもめ……! 儂らの前で空を穢すことがどれほど罪深いことか、その身をもって知るがよいわ!」


「ママ―ウィルも空を飛んでいるけれど、これはいいの?」


「ママ―ウィルには人間は乗っていないのでセーフです! もし人間がいても、ユノ様を称える施設に、ユノ様を称える者が乗る分にはセーフでしょう!」


 どういう理屈だ……?


 というか、アーサーは、私を称える人をこれに乗せるつもりなの?

 暴走しない?



「ユノ、よく聞きなさい。人間は増長するものよ。このまま放っておけば、いずれは『核兵器』に手を出すわ」


 それはそうかもしれない。


「うむ、それを活用するための航空機は叩いておくべきなのだ! それも、今すぐに!」


 うーん、ただ「気に食わないから壊したい」っていうのに理由をつけてるだけだよね?


 表情を見る限りでは、使命感や正義感は一切感じられないし。



「これも組織の陰謀によるものか……! 俺たちをこの大陸から遠ざけておいて、その間に何かをなそうという魂胆だったのだな!」


 いつもながら、何がしたいのかさっぱり分からないふわっふわな組織である。

 こんな孤立した大陸を支配してどうしようというのか。

 神族はどこからでも増援を送れるので、籠城戦をするにしても限界があると思うけれど。


「ふっ、だけど、残念だったな。僕たちにはユノがいる。お前たちの悪事なんてお見通しなんだよ!」


 コウチンもその設定に乗るの?

 というか、貴方たちには何が見えているの?



「ハニー、よく聞いて。空は私たち翼を持つ物だけに許された領域なの。紛い物の鉄の翼なんて認めちゃいけないの」


「貴様! ワタシの翼を否定するのか!? だが残念だったな! 貴様らの翼には血が通っているが、ワタシの翼にはダーリンのオイルが通っているのだからな!」


「よっしゃあ! 俺のレールガンが火を噴くぜ! アースは緑の命綱だって思い知らせてやる! 艦載電磁砲かんさいでんじほう闇鏡あんきょうかい』起動っ!」


 なぜかこっちでは喧嘩が始まっていて、シュガールは漏電しているし。

 困ったことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ