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09 乗り込め詐欺

「よくやりました、人間よ! アナタにはその褒美に、これから行われる『人類根絶計画』を特等席で見せてあげましょう! さあ、こちらからお乗りください! 大丈夫、危険とか一切ありませんしお金もかかりません!」


 完成した途端、それまで指示を出していた人がよく分からないことを喚きながら、竜型巨大ロボットの胸部にある搭乗口を開いてきた。


 しかし、私は知らないうちにこんなに大きな物を造っていたのか。

 もしかして、私って優秀なのでは……?

 なんとか計画には興味が無いけれど、既に達成感でいっぱいである。



『そんなことはないと思うけど、面白そうだから乗ってみよう』


 むう――いや、まあ、言われるままに組み立てていただけだし、それもそうか。



 とにかく、朔に促されるままに操縦席らしき場所に乗り込んでみる。

 というか、操縦桿やペダルに計器やスイッチがいっぱいあるけれど、さすがに操縦はできないよ?



「ふふふ、どうですか? ワタシの特等席の乗り心地は?」


 ……「特等席」って物理的な意味だったのか。


 まあ、クッションは少し固めだけれど、スポーツカーのシートのような身体にフィットする感じで悪くない。



「まあまあいい」


「これで『まあまあ』とは、見かけによらず乗り慣れて、お尻が肥えているのですね。少し興奮してきました。では、多点式特製シートベルトをきつく縛ってくださいい」


 お尻が肥える……?


 もしかして、“舌が肥える”の間違いか、ただの罵倒か?


 それよりも、このシートベルト、荒縄なのだけれど?

 妙におっぱいが強調される感じで、なんだか少しいかがわしい感じがするのだけれど?



「はあ、はあ……。とても良い縛り心地です。人類を根絶させるのがもったいなくなってきました」


 ……はっきりと「縛る」って言っちゃっているよ。

 大丈夫かな、この人。

 いろいろと拗らせているようだけれど。



「では発進しましょう! 中央にある突起物を奥まで押し込んで、抜いて、もう一度強く押し込んで――いいっ! い、イキますっ! イクウゥゥウ!」


 指示役の人の絶叫と同時に接続されていたケーブルが外れ、各部にある排気口から蒸気が放出され、その反動でかガタガタと激しく揺れる。

 組付けが悪かったのか、元々の部品に問題があったのかは分からないけれど、ちょっとヤバい感じ。

 少なくとも、乗り心地はとても悪い。




 それからしばらくすると揺れは治まった。

 というか、ロボットが動かなくなった。


 故障したのだろうか……?

 私のせいじゃないよね?



「あのー、大丈夫? もう帰ってもいい?」


「……もう少しこのままで」


 声の人は無事だった。

 いや、当然だけれど。


 しかし、まだ私に何かをさせるつもりか?

 というか、今更だけれど、この人が灰か無色だったりしないだろうか?



「貴女、灰か無色?」


「……灰? 無色? データベースに該当無し。なお、ワタシの名は【エシュロン】です。今後とも末永くよろしく」


 ストレートに訊いてみたけれど、よく分かっていない様子。

 (とぼ)けているようには見えない――というか、本人に自覚がない場合もあるのかもしれないので判断できない。



「さっき、人類を根絶するとか言っていなかった?」


 なので、さきの彼女の言葉を引用して追及してみる。



「……もうそんなことはどうでもいいです。人間は平和を求めていながら、なぜ争いを止められないのでしょうか……」


 しかし、先ほどまでの高いテンションはどこにいったのか、抜け殻のようになっている。

 人類に対する敵意というか、それ以前に何のやる気も感じられない。

 これはハズレか?



「だったら、灰か無色について何か知らない?」


「『灰』及び『無色』について再検索…………検索中……」


 この反応からすると、こっちも駄目っぽい。



「『ハイ、エシュロン』若しくは『オッケー、エシュロン』と呼びかけていただければ音声アシスタント機能が開始されます。なお、合言葉を『好き好き大好き』『愛してる』等に差し替えることも可能です。むしろ、愛言葉を希望します。また、ワタシは無職ではありません。アナタの愛の奴隷です。末永くご愛用ください。この情報は役に立ちましたか? ちなみに、ワタシはアナタを乗せていると何かが勃ちそうです」


 やっぱり壊れているのか。



「私、もう行かないと。さようなら。お大事に」


「待って! 行かないで! というか、行かせません!」


 別れの挨拶をして逃げようとしたところ、操縦席のハッチが閉まって閉じ込められた。



「ワタシをこんな身体にした責任を取ってください!」


 さらに、よく分からない理屈でも追い詰めてくる。



「私の仕事は荷物を運ぶことだけですし、その後のことは『善きサマリア人の法』的判定でセーフです。なので帰ります」


「ワタシと話しているのに、ほかのオンナの話をしないでください!」


 えっ?

 そんな話したかな?


 いや、話が通じない人が相手では、いくら正論を並べても意味が無い。


 なので、多少強引にでも脱出しようとハッチをこじ開けにかかる。



「ああっ、私のナカでアナタの逞しいアナタが暴れてっ! あっ、今お腹蹴った! 待って、イカないで!」


 かなり錯乱している様子だけれど、構わずに脱出。

 そして、一目散に逃げだした。


 ……よく考えれば、瞬間移動すればよかったのかも。

 いや、きちんと拒絶の意を示すのは大事だし、間違ってはいないはず。


◇◇◇


 地上に戻ると、町の人たちに「施設の大半は解放したけれど、最奥に変なのがいるから近寄らないように」と釘を刺してからママ―ウィルに戻る。



 そこでは、いまだに酒盛りが続いていたのはいいとして、なぜか知らない人――というか、人型ロボットが混じっている。


「おっ、戻ったか。お主、儂らを置いてどこに行っておったのじゃ? 大変だったのじゃぞ?」


「ユノ様が不在の間に、こやつ――恐らく無色かと思うのですが、酒の香りに釣られて現れまして」


「先ほどはどうも。姿形は違いますが、アナタの愛の奴隷、エシュロンです。今後ともよろしく」


 ……逃げられていなかったようだ。



「本当に大変だったのよ? ママ―ウィルの造りが雑だとか、最適化が必要だとか言われて扱き使われて。疲れてしまったから特別なお酒が必要だわ」


「もっとも、手直ししたのはまだ一部だけだがな。それでも、良い仕事をしたことには変わりない」


「ユノ、ヤク○ト。濃いめで」


「この巨大移動要塞、素人が造ったにしては大したものです。ワタシの知識があればもっと素晴らしい物になる確率100%。なので、ワタシにも燃料の注入をお願いします」


「俺は機械のことはよく分からんが、防虫処理――いや、組織対策で頑張ったぞ!」


「僕は無能な黒とは違って、摺動部しゅうどうぶの強化とか手伝ったけどね」


「ハニー、聞いてよ! アタシの風魔法とハニーの魔石――秘石の相性が良すぎて、これはもう運命なんじゃないかって思うんだ!」


「『運命』――素敵な言葉です。ですが、ワタシのスーパーコンピューター的計算では、ワタシとダーリンの相性は666%。アナタのような雑魚の介入する余地はありません。どうぞゲラウェイ」


「何だとテメ―!? 人型のポンコツが調子に乗ってんじゃねえぞ!」


「ドラゴンモードも装甲パーツとのドッキングにより可能ですが何か? むしろ、ダーリンとドッキングしてきたばかりですが」


「えっ、何? ドッキングって!? ねえ、ハニー、アタシより機械の方がいいの!?」


「……操縦席に座っただけ」


 何がどうドッキングしたのか、そんなのこっちが聞きたい。

 もしかすると、私を乗せたのは生体部品にするつもりだったということか?



「そう、ダーリンはワタシのコックピットでジョイスティックを激しく……! ああっ、思い出しただけでまたっ! 燃料棒出ちゃいますっ!」


「ふっ、新入りどもはユノが独占できると思っておるようじゃ」


「ふっ、俺たちにもあったな、あんな頃が……」


「私たちがこうして落ち着いている理由が理解できないのかしら。哀れなものね」


「だが、こうも騒がれるとせっかくの酒が不味くなる――いや、ユノの酒はいつでもどこでも美味いが」


「そうだな。いい加減教えてやるべきか――組織のことも含めてな!」


「じゃあ、その役目はユノの幼馴染の僕がやろうか。黒の病気をうつされても困るしね」


 古竜界隈もかしましくなったなあ……。



 どうでもいいけれど、“女”が三つ集まると“姦”だけれど、“犬”が三つだと“ひょう・つむじかぜ”になる。

 私としては、「ヒョウ」というより「ケルベロス」の方がしっくりくる気がするし、「つむじ風」というイメージも湧いてこないのだけれど、昔の人は何を想ってこんな文字を作ったのか。

 解せぬ……。



 それはそうと、カムイが可愛いのでヤク〇トをあげなければ。

 パイパーもいい仕事をしたのでご褒美をあげようか。

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