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04 ファーストコンタクト

 灰竜を探すには、人里へ行って情報収集するしかない。


 主神たちも、灰や無色の動向は把握できないそうなので、現地で地道に捜索するしかないのだ。

 まあ、捜索すれば見つかるような明確なものでもないのだけれど、「捜索した」と納得することが重要なのだろう。



 そこで向かったのが、この辺りで最大の町――というか城塞都市【パンクチュアリ】だ。


 主神たちに頼れば、衛星地図的なデータならすぐに出てくる。

 ただし、更新頻度は高くないので、現状は実地で確認してほしいとのこと。



 さて、先史文明の遺跡の上に発展したパンクチュアリは今もってその影響を強く受けていて、ドワーフの町とはまた違った形で機械化が進んでいる。


 まず、少人数で運用するような戦車とか装甲車は少ないのだけれど、それらのサイズの自律兵器がいっぱいある。

 魔法やスキルが発展していないわけではないけれど、魔物の脅威が低いここでは戦闘力はそれで充分なので、それらはどちらかというと生活に密接したところで活用されているようだ。

 水を出すとか、消毒とか。



 また、自律兵器があるといっても、それで全てが解決できるわけではない。

 AIとかで敵を攻撃できても、積載量などの問題もあって、戦利品を漁ったりができない――というのが最たるものか。

 ほかにも、新種の魔物や敵の偽装に対応できないこともある。


 なので、基本的には人間も随伴する必要がある。

 さきの襲撃は早期警戒とか先遣隊とかそういった類のものだったのだろう。

 当然、それと交戦した私たちは後続の部隊に追跡されている。



 後続部隊の主力はやはり自律兵器。

 さきの襲撃より大型の物も複数見受けられる。


 しかし、その中でもひと際目を惹くのは、パワードアーマーとでもいうのだろうか、全長五メートル弱の有人操作機体だ。

 それと、人体の一部、又は大部分が機械化されていて、ジェットエンジン搭載で空を飛ぶ人たち。

 前者は、映画や漫画なんかでもありそうな感じだけれど、後者は理解が及ばない。

 これには古竜たちも開いた口が塞がらない。


 私たちはそんな人たちに包囲されていて、「持ってる物全部置いてけ!」「俺たちは格好良い!」と脅されている。




 三分後、スクラップの山で、手足とジェットエンジンをもがれた人たちとの交渉が始まった。


「ピーガガガ。再起動により、深刻なエラーから回復しました。パンクチュアリにようこそ、お客人。むむ? ここはどこだ?」


「ガガ、ガガガガガ。本日はどのようなご用件で――やや、我が鋼のボディが見当たらない! メンテナンスが必要なので失礼したい!」


「ピーピーピー。我々は精密機械ですので、強い衝撃を与えると故障の原因になります。使い方を誤ると漏電や爆発することもありますので、取扱説明書に従って優しく使用しましょう」


 ……うざっ。


 壊し方が足りなかったか?



「ふむ。故障した機械を治すには、45トンでチョップじゃったか?」


「待て、角度が重要ではなかったか? 確か、刀線刃筋だったか――」


「私は“再起動”するといいと聞いたわ。一旦息の根を止めて、付け直すのだったかしら?」


 古竜たちも同じ気持ちらしい。

 というか、第2ラウンド開始のゴングを待ちわびている様子。



「ま、待ちたまえ! 我々は暴力ではなく言葉で通じ合える文明人だ。そうだろう? そうだと言ってくれ!」


「な、何が望みなんだ!? ちょっと揶揄からかっただけなのに、ここまでするなんて! ユーモアが足りないんじゃないかな!?」


「止めて! 乱暴する気でしょう! ウェイストランド人みたいに!」


 ……挑発されているのか、命乞いなのか微妙なところ。

 大陸が違えば文化も違うということだろうか。

 何を言っているのかよく分からないので、もう少し細かく分解してみようか。




 襲撃者の反応を見ながら、パンクチュアリや最近の情勢、そして竜について尋ねていく。


 分解していた時は故障したふりをしてやり過ごそうとしていた彼らも、真面目に答えるとパーツを戻していくようにすると素直になった。


 なるほど、「北風と太陽」のようなものか。

 それを古竜に提案されたというのがショックだけれど、カンナの年の功ということにしておこう。



 さて、まずパンクチュアリについては、彼らがそこの住人らしい。


 彼らは、ウェイストランド中どこにでもいる、【襲撃者レイダー】といわれる無法者を牽制けんせいするためにパトロール中で、怪しい集団――私たちを見つけて襲撃したらしい。


 なお、私たちはいたずらに現地の人を刺激しないよう、私はバケツを被っていたし、古竜たちも人型になっていた。

 侵略に来たわけではないのだから当然の配慮であり、疑われるのは納得いかない。


 しかし、彼らの常識では、生身でウェイストランドを旅するのは大体ヤバい奴なので、先制攻撃する以外になかったとのこと。

 一応、竜眼で異常が見つからなかったので嘘ではないようだけれど、素直に信じる気にもなれない。



 また、この地域の情勢についてはよく分からないとのこと。


 良くも悪くもここはどこまで行ってもウェイストランドで、襲撃者より強い人にとっての楽園で、弱い人にとっての地獄なのだとか。

 ……けものかな?

 機械化が進むと、反動で野性が目覚めたりするのだろうか?



 竜については全く知らないとのこと。

 少なくとも、パンクチュアリ近辺では目撃例どころか、言い伝えのようなものすら無いらしい。



 これについては、主神からの情報になるけれど、ウェイストランドの環境と、金竜の人間好きな性格が影響しているのでは――と推測されている。


 災害という形で人間の増長を防いだり、逆に成長を促すのが古竜の役目だそうだけれど、彼らが行動しなくても災害は勝手にやってくるものだ。

 特に、ウェイストランドのような土地では、毎日が災害といっても過言ではないらしい。


 したがって、ウェイストランドにおいて、古竜としては「何もしない」ことが通常業務となる。

 もちろん、手を出してきたお莫迦さんにはきっちりとお灸を据えるようだけれど。



 そこにきて、人間が大好きな金竜がいる。


 なお、この「大好き」は基本的に応援的というかポジティブなものだけれど、虐めるのも「大好き」なので、注意が必要とのこと。

 ただ、その虐めも「愛」が前提にあるもので、正しく古竜であるといえる。


 そう聞くと、少し親近感のようなものを抱いてしまう。

 もっとも、私は趣味で人間を虐めたりはしないけれど。



 しかし、その「愛」が少々過剰なようで、ほかの古竜が同じように人間にちょっかいをかけるのが気に食わないらしい。

 独占欲が強いタイプなのだろうか?


 なお、過去にはご近所さんの紫竜が若気の至りで少々派手に暴れていたところ、金竜が乱入してきて彼をボコボコにした事件もあったそうだ。



 と、居所の分かっている竜のことはさておき、無色と灰の情報は無し。


 金は暑苦しそうなので後回しにするかスルーするとして、緑や紫にも話を聞いてみるべきか。

 それで何もなければ古竜たちも諦めるだろう。




「で、こっちも訊きたいんだが、あんたら、何でそんな無防備な格好でウェイストランドを旅してるんだ?」


「そうだぜ。それじゃあまるで『襲ってください』って言ってるみてえなもんじゃねえか」


「ほかの大陸から来た? ははっ、冗談がきついぜ! 竜を探しにねえ……? そういうことなら、うちの長老にでも訊いてみればいいんじゃねえか? ついでに、旅に必要な物を買っていけよ。迷惑掛けた詫びに安くしてやるからよ」


 情報収集もほぼ済んで、これからの方針を決めようとしていたところ、襲撃者さんたちが自己擁護だとか商談を仕掛けてきた。

 逞しいというべきか、記憶障害――機械トラブルか。



「あら? 『何でもするから殺さないで』と命乞いをしていたのは何だったのかしら? それとも、その品物には貴方たちの命よりも価値があるのかしら?」


 しかし、揚げ足を取るポイントを発見したシロが、嬉しそうにくちばしれてくる。



「シロ、ステイ。追加で情報や物が手に入るかもしれないし、野宿しなくても済むかもしれないし、せっかくの厚意を無駄にするのは止そう?」


「じゃが、身の程をわきまえておらんのは、こやつらのためにもならんぞ?」


「問答無用で襲ってきて、返り討ちにされて、命があるだけでも幸運なはずですが」


「そうよお。私たちだからこうして笑いごとにできるけれど、人間同士ならもっと悲惨なことになっていたのかもしれないのよ?」


「ふん、ユノが野宿をするのが嫌なだけではないのか? でかい虫もいるそうだしな」


「む? 虫なら俺が――いや、それが組織の罠だとすれば……!?」


「僕はユノと一緒なら、野宿でも、連れ込み宿でも、どこでもいいんだけど」


 襲撃者さんに代わって古竜たちが仕掛けてきた。


 さて、面倒くさい流れになってきたぞ。

 今度は何を要求するつもりなのやら。



「……ユノ、お腹減った」


 そして、喫緊の問題が発生した。

 私の腕の中で眠っていたカムイが目を覚まして、空腹を訴えているのだ。



「じゃが、そうじゃなあ。ユノの手料理と酒があれば、大抵のことはどうでもよくなるがの」


「貴様と同意見なのは残念だが同感だ。こいつらを絞っても何が得られるわけでもないしな」


「ユノがこいつらの命の値段を払ってくれるというなら、私も文句は無いわ」


「だが、こんなところで酒盛りすれば、獣や虫も寄ってくるだろうしな、移動も致し方あるまい」


「む、もう飯の時間か? 組織との戦いには休息も必要。それも、盟友の料理に勝る物はないからな」


「僕は今日はステーキがいいかな。いや、ユノの料理は何でも美味しいんだけどね、そんな気分ってだけ。それか、精の付く物でも――」


 さあて、完全に流れが変わったぞ。

 襲撃者さんはそっちのけで、古竜たちの欲望が全開になっている。


 というか、古竜の主食――というかエネルギー源は魔素とか魔力なので、物質的な食事は特に必要無いはずである。

 しかし、私の創った料理は魔素が豊富な上に美味しいこともあって、古竜にも大人気なのだ。

 もちろん、創ってあげるくらいは構わないのだけれど、「何でもいい」と言いつつ注文が多いので面倒くさいのだ。



「お、俺にも家に腹を空かせたガキがいるんだ!」


「食料を持ってるなら分けて――いや、売ってください!」


「タレットやパワーアーマーなら売るほどある! 肉を! 肉と交換してくれないか!」


 襲撃者さんたちも「お肉」という言葉に反応して活気を出し――というか、冷却ガスっぽいのが漏れ始めた。



「おっ肉♪ おっ肉♪」


 カムイもお肉の口になったようで、可愛らしくおねだりしてくる。


 仕方ないなあ。

 パンクチュアリまで移動して食事にしようか。



「何をしておる? 早く行くぞ!」


「よし、今日は肉パーティーだ!」


「もちろん、なつ休み中だし、お酒もユノが無制限で出してくれるのよね?」


「ようし、私も久々に羽目を外すか!」


「おっ肉♪ おっ肉♪ 上手に焼けましたー♪」


「行くぞ、盟友よ! 腹が減っては戦ができんからな!」


「ようし、いっぱい食べて、精をつけるぞ!」


 そのつもりだったとはいえ、何だか釈然としない。


 それでも、小躍りするカムイが可愛いからいいか。

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