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01 なつ休み始めました

――ユノ視点――

 湯の川にも「なつ休み」は存在する。


 人によっては、「常夏の国なのに何を言っているの?」と思うかもしれない。



 しかし、人には休息が必要である。

 特に、狂信者は限度とか限界を知らないから、第三者が責任をもってしっかりと休ませないといけない。

 というか、死ねば私への供物になるとか考えていそうで怖い。

 むしろ、私への供物というなら、精一杯「生」を謳歌してほしい。



 そこで私は考えた。

 日本の「夏季休暇」に相当するものを湯の川でも導入しようと。



 もちろん、全住民に学生くらいの長期休暇を与えてしまうと町の運営に支障をきたす――いや、私が頑張ればきたさないけれど、それは何かが違う気がする。


 そこで思いついたのが、「7月と8月の間に、7日か8日か別に9日でもいいけれど、休暇をとることを推奨する制度」を略して「七つか八つか九つでもいいけれど休め」、それを更に略して「なつ休め」である。


 トシヤには「……可愛いんじゃないっすか?」と同情され、魔王の方のレオンには「ふふっ」と鼻で笑われ、アイリスには「よしよし」されたけれど、制度としては悪くないはずだ。

 とにかく、そんな感じで見切り発車することにした。




 話は変わるけれど、盆踊り――というか、季節は関係ないダンスが一部地域で流行っている。



 こちらは私が主導したわけではなく、替え玉受験に行っていたカルナが、現地で視聴した故郷のダンスに感銘を受けて習得してしまった。

 それを、視察目的で同行していたコレットが「母神に捧げる踊り」だと解釈して、魔界や湯の川に持ち帰って流行らせたものだ。



 私が気づいた時には手遅れだった。


 ……いつもそんな感じな気もするけれど、とにかく、町の至る所で突然歌い出したり踊り出す人たちが出現するようになった。

 そして、それが周囲の人にも伝播して、フラッシュモブ的なイベントに発展する。

 脈絡がなさすぎて怖い。



 それでも好意的に考えると、「母神に捧げる」という一念の下、個人や種族を問わず広く受け入れられて、コミュニケーションの一助となっている。


 ケンタウロスとかアラクネなどのように、直立二足歩行ではなくても踊れるように。

 個人の資質的に踊りが苦手でも、音楽隊としてなど、様々な形で参加できるように。


 そうして、町の人たちが一丸となっていくのを止めることは私にはできない。


 それに、学園で小さな子たちが懸命に踊っているのを見るのはほっこりするし、むしろ、私が太鼓を打って鼓舞してあげるまである。

 もちろん、普通の太鼓だと塵になってしまうので、エア太鼓だけれど。


 そんな新たなコミュニケーションに、リリーも大喜び。

 一緒に何かをする時間が増えたからかもしれないけれど、彼女に限らず、これが狩りや戦闘訓練とは違う可能性を提示しているのは大きいような気がする。


 ただ、湯の川がどこに向かっているのか、どんどん分からなくなっていくのが怖いけれど。




 さておき、そのなつ休み制度だけれど、一部にはすぐに浸透した。


「おおい、ユノよ。早く『美味しくな~れ☆』をやるのじゃ。それが儂らに休みを強いたお主の役目じゃろう?」


「ユノ様に労わっていただけるということでしたら、このアーサー、膝枕を所望します! それか、顔面騎乗で!」


「ユノ、早くおっぱい出しなさい。レオンは右で、私が左よ」


「まったく、こやつらは……静かに飲むこともできんのか。ユノよ、ここは騒がしい。個室に行くぞ」


「ユノ、ヤク〇ト山盛りで。むしろ、カムイはヤク〇トになりたい」


「くくく、来るべき組織との決戦に備えて、休息が必要ということなのだな! ふっ、盟友がそこまで言うなら従おう!」


「僕はユノと一緒にいるだけで心休まってるけど? もっと休めっていうなら、その、い、い、いっ一緒になるしかないね。幸せにするよ!」


「ふむ、『休め』と言われても、我は何千年も休みっぱなしだったからな。むしろ、今は遊びたくて仕方がないのだ。ということで、ユノよ! 我と一緒に砂浜で戯れようぞ!」


 適応力が高いというか、そもそもほぼ毎日が夏休みだったような竜たちである。

 面構え――面の皮の厚さが違っていて、若干イラっとさせられるのもいる。



「ふむ、誤解をしておるようじゃが、儂ら、最近まで殺虫魔法の開発をしとったわけじゃが」


「最近って、春先までくらいの話で、その後はぐうたらしていなかった? それに、その報酬は充分に支払ったはずだけれど、まさか、もう全部飲んじゃったの?」


 なぜかミーティアが言い訳を始めたので、逆に問い詰めてみると、不自然に目を逸らされた。

 (やま)しいことでもあるのだろうか。

 というか、結構な量の――少なくとも一年分くらいのお酒をあげたはずなのだけれど、本当に全部飲み干したのか?



「お待ちください、ユノ様。我々古竜は災害の化身。それが働き者では人々が困りましょう。つまり、飲んだくれるのが我らの仕事といえます!」


「そうよ。私たちがぐうたらしているのは平和な証拠なの。だから、おっぱいが駄目なら、せめてお酒をちょうだい」


 アーサーとシロがミーティアの援護射撃をする。


 それに、何その「警察が暇なのは平和な証拠」みたいな論理は。


 暇そうに見えていても、警察の方々にはいろいろと仕事があるんだよ?

 主に私みたいな奴のせいで。

 私がどれだけ証拠の出ない事件を起こしたと思っているの?

 彼らに謝りなさい。



「老い先短い年寄りを(いた)わろうとは思わんのか。無論、(ねぎら)いは言葉ではなく現物で頼む」


 うわあ、面倒くさいのが出たよ。

 というか、さきの暑中見舞いライブの時には「まだまだ年寄り扱いするな!」っと言ってはしゃいでいたように思うのだけれど……。



「ヤク〇トが駄目ならユノになる。抱っこして」


 ここではカムイの可愛さだけが癒しだ。



 抱っこ受け入れモーションをとると、カムイはカンナの側を離れて、嬉しそうに駆け寄ってくる。可愛い。

 そして、カンナの愕然としている表情は見なかったことにして抱き上げる。


 このふたりはいつも一緒にいるけれど、カムイがカンナに甘えるとか懐いているところは、いまだに見たことがない。

 もしかすると、子供なりに彼女の面倒くささを感じ取っているのかもしれない。



「待って、ユノ! 抱っこするなら僕が先なんじゃない!?」


 何がどうなってそう思った?



「ふ……。組織との決戦の日は近い。油断するなよ」


 パイパーはいつもどおり。

 報酬のお酒も飲み干していないようだし、偉いね。



「だがなあ、せっかく上手くいっている町全体の休暇ムードを、我らが仕事をすれば台無しにしてしまうのではないか? それにだ、力あるものとして、力なき者たちの立場も考えてやらんとな」


 む、キューちゃんが頭良さそうなことを言い始めた。



「そうじゃそうじゃ! 儂らは儂らにできる形で――儂らにしかできぬことのみで貢献するのが健全な関係というものじゃ!」


「俺はたまに鍛冶屋に炎を与えたりしていますが、必要以上に干渉しないようにしていますよ」


「そうよ。人間たちを成長させるため、私たちはあえて何もしていないのよ」


「うむ。成長を促すために試練を課すというなら分からなくもないが、湯の川ではその必要は無いしな」


「だが、組織の闇は、確実に深く、濃くなっている!」


「僕らだって、濃くなっている! あっ、違う! 本当はもっと活躍の場が欲しいんだよ!」


 群れないと言っていたはずの古竜が結託している。

 しかし、変なのが交ざって、それに釣られているあたり、結託しきれてはいないようだ。



「誤解をしているのは貴方たちだよ。最初から私は責めてはいないのだけれど――『休暇』の意味を勘違いしていることに思うところはあったけれど、みんながそれぞれのやり方で貢献してくれているのは認めているよ」


 さて、論点がずれていたのと、相手をするのが面倒くさくなったので、話を振り出しに戻す。



「我は分かっておったがな! 何せ、それで一度殺されているからな!」


 分かっちゃったか。


 なお、「殺された」と言っているけれど、実際に私が殺したのは彼の先代で、彼はその記憶を継承しているだけだと思うけれど、それが活かせているのなら重畳ちょうじょうである。



「そこでだ、我らにしかできないこと――でもないが、やってみようではないか。現在の“灰探し”はどうなっている?」


 また知らないワードが飛びだしてきたけれど、キューちゃんの口からということに警戒感を覚える。

 何しろ、先代は世界を破壊しようとか、わけの分からないことをしていたからね。


 ただ、言葉そのものからは、「灰かぶり姫」を連想する。

 それを探すのだから、恋のお話とかそういう類だと面白そうなのだけれど。



「灰か。あるいはアルフォンスがそうなのかとも思っておったが、どうやらそうでもなさそうじゃしな。心当たりはまるで無いわ」


「俺も少し前まではあちこち見て回っていたが、そういう気配は全く無かったな。帝国にならいても不思議ではないが」


「ヤマト近辺には貴方がいたし、ユノも介入してきたから、そういう芽は無いんじゃないかしら」


「そういう意味ではオルデアの線も薄いな。いくら女神(ディアナ)が狂っておったとしても、灰は放置せんだろうしな」


「暗黒大陸には、そもそも人族が少ない。組織が潜伏するには良い場所だが、灰が育つ土壌ではないな」


「魔界では――あれ? 僕はなんで魔界なんかのことを――うっ! 頭が!」


「ユノ、灰って何?」


 カムイは可愛いなあ。


 さておき、それは私も知らない。



「なんじゃ? 青よ、お主はカムイを後継者にすると言っておきながら、そんなことも教えておらなんだのか?」


「名を継承する時に、自動で知識に加えられるとはいえ、継承するのが確実であれば、早めに知っておいた方がいいことだと思うがな」


「怠慢よねえ。それとも、傲慢かしら? どちらにしても、貴女に子育ての才能は無いわねえ」


「さっ、才能くらいあるわ! そ、それにユノも言っていただろう! やろうとする意志が重要だと!」


「そうだな、誰かがやらねばいかんことだ。たとえどれだけ犠牲を払うことになってもな……!」


「うごごごご……!」


「ふむ、ユノも分かっておらんようだし、我が説明してやろうではないか!」


 キューちゃんがそう宣言すると、教え魔の()がある古竜たちの目の色が変わった。

 パイパーとコウチンも正気に戻っているあたり、本気らしい。


 面倒くさいことになったなあとは思うものの、私が逃げるとカムイが犠牲になりそうだし、この子が将来こんなのにならないように守ってあげなければいけない。

 お読みいただきありがとうございます。


 若干見切り発車ですが、15章の投稿を開始します。

 特に理由はありませんが、毎週金曜日と日曜日の18時に更新予定です。

 お付き合いのほどよろしくお願いいたします。

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