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幕間 ハッピーホリデーズ Re

 昨年のクリスマスの話で時系列が滅茶苦茶ですが、大目に見ていただければ幸いです。

 今日はクリスマスイブ。


 湯の川ではそろそろライブが始まる時間。

 バナナの迷宮とかいろいろと考え事をしている間に開催が決定していて、気づいた時には取消せる雰囲気ではなかった。

 それでも、父さんや母さん、真由とレティシアも見にくるそうなので、結果的によかったのかもしれない。


 それに、会場の設営とかステージの演出などなど、いつもはアルがひとりで、若しくは指示してやっていたことを、みんなが力を合わせて再現――いや、超えようと努力していた様子はとても素晴らしいものだった。

 私もそんなみんなの頑張りに応えるべく頑張ろうと思う。




 ちなみに、当のアルは現在生死の境にいる。

 クリスマスイブに人生クライマックス。

 何かが大ハードである。

 犯人は私。


 ……いや、雷霆の一撃の人たちの想いの強さを試そうとしていたところに、なぜかアルが割り込んできて彼を試す流れになってしまったのだけれど、想像以上に――理解不能なくらいに想いが強くて粘った結果、こうなってしまっただけだ。



 結果的にアルが私を好きなことは分かったけれど、それは今更だし、このタイミングでの告白に意味はあったのだろうか?

 雷霆の一撃の人たちが大人しくなったからいいようなものを、そうならなくて落としどころを見失ってしまうと、皆殺しにするしかなかったかもしれないのだ。

 なので、軍師とか策士が最前線に出るのは駄目だと思う。



 それに、告白してどうしたかったのかもよく分からないままだ。


 一応、アルがイチャイチャするのが好きなことは理解した。

 しかし、奥さんたちとの記憶を覗いた限りでは、奥さんごとに「イチャイチャ」のバリエーションが豊富すぎて理解不能だった。

 普通に漫画や映画で見るような恋人っぽいのも、ちょっと過激なじゃれ合いも、他人が見れば戦闘にしか見えないものまでがそうとなると、私では定義不能だよ?

 なので、共通している肉体的接触――性行為も含めた遥か上の階梯で侵食した結果があれである。



 なお、私の理解では、性行為とは生殖が主目的だけれど、快楽とかコミュニケーション目的でも行われるものだ。

 もっとも、私に対しての場合は前者は非常に難しいと思われるので、現状では必然的に後者になる。

 さらに、最初の侵食で、アルが快楽だけを求めているわけではないことは理解した。

 そして、コミュニケーション目的なら侵食し合うのが一番。

 さすがにコレットもいたあの場でアルの考えている階梯の行為は不適切だしね。

 唐突すぎるし。


 とにかく、少なくとも、私はそれでも充分に楽しかったのだけれど、一方のアルはこのざまだ。


 何か間違っていたのだろうか……?



 まあ、いい。

 アルが目を覚ませば教えてもらえばいい。

 ……目を覚ますかどうかが微妙なところだけれど。


 強引に目を覚まさせることも可能だけれど、それをするとアルの想いや生き様に水を差すことになる。

 こういう時にこそサンタクロースの奇跡が必要――いや、ゴブリンを使って生命倫理や尊厳的にあれなことをやっていた彼は「良い子」ではないかもしれない。

 少なくとも、ゴブリンにとっては――というか、気づいてしまった。


 クリスマスのイメージカラーといえば赤と緑。

 つまり、サンタクロース(赤)とゴブリン(緑)の相性は抜群。

 そして、ここはゴブリンの可能性が暴走している狂気の農場である。

 さらに、管理者不在。

 急ぎでリンリンリンされてしまうかもしれない。


 そんな子供たちの夢を壊すような事態にしてはいけない。

 警戒を厳にしよう。


 というか、他人が起こす奇跡なんかに頼ってもろくなことにならないだろうし、自分でできる範囲のことをするのが筋か。


 とりあえず、アルが目を覚ますことを願いながら、彼の好きな膝枕で看護することにしよう。




 さて、私に愛をぶつけてくるもうひとりがアイリスだ。


 まあ、彼女以外にも私に好意を向けている人は大勢いるけれど、彼女ほど分かりやすくアグレッシブな人はいない。

 アグレッシブすぎて本当に「愛」なのか疑問に思うこともあるけれど、愛の形は人それぞれらしいので、恐らくそうなのだろう。



「ぐぬぬ……! 湯の川ではユノのライブが……! でも、ユノとふたりきりのクリスマスも捨て難い……!」


 そんな彼女が苦悩していた。

 ライブを観るために一度湯の川に戻るか、このままここでふたりきりで過ごすかで。


「ライブを観てからふたりで過ごせばいいのでは?」


「それも考えましたが、今の私のコンディションではライブだけで力尽きて――もしかすると浄化されてしまって、その後何もできなくなるかもしれませんので」


 どういうことだ?

 何を浄化されるの?

 ライブの後に何をするつもりなの?


 アイリスの言うことは時々難しい。



「それに、まだこっちでやらなければいけないことがいくつも残っていますしね」


 これはまあ分かる。


 アイリスは魔界に来た時から一貫して湯の川に帰ろうとはしなかった。

 初志貫徹とでもいうのだろうか。

 その「初志」が何なのかは知らないけれど、妹たちの世話を頼んだ時は例外だったのだ。

 有り難いことである。


 だからこそ、日頃の感謝をこういう機会に返そうと思うのだけれど、彼女が何を望んでいるのか分からないので直接訊くしかない。



「ですが、こちらに残っても、今の私では――いえ、彼の活躍を聞いた後では私も負けていられませんし――競うことではないのは分かっていますが、この滾りが押さえられません……!」


 ……アイリスは何と戦っているのだろう?


 アクション映画を見た後の妹たちがよくこんな感じになっていた――ふたりとも意外と好戦的なので、アイリスのこれとはまた違うのかもしれない。

 どちらにしても一過性のものだと思うけれど、それにしては想いが強すぎるのが気懸りだ。



「大丈夫です。戦いといっても自分自身とのものですから」


 えっ、心を読まれた!?



「私とユノの仲ですからね。それくらいは分かりますよ」


 また!?

 いや、読まれて困ることではないけれど……。



「残念なことに、グレイは勇敢でした」


 何か話し始めた。

 というか、不幸があったようにも聞こえる表現はどうなの?



「勝ち目の無い戦いに挑むのはただの蛮勇だと思っていましたが、不思議と胸を打たれるものがありました……。話を聞いていただけでこれですので、実際に体験したのでは――くっ! してやられました!」


 本当に何を言っているのか分からないけれど、勝ち目の無い戦いに挑むのは普通に蛮勇だと思うよ?

 勝った負けたとか、結果が全てではないだけで。



 それよりも、アイリスは何を求めているのだろう?


 せっかくのクリスマスだし、今日もすごく頑張っていたし、追加で何か贈ろうかと思ったのだけれど、この様子からは何を求めているのか読み取れない。


 何にしても、私には「人の心」とか「乙女心」のような論理的に解明できないものは分からないので、今の彼女が必要としているものを論理的に考えるしかない。




 まず、今のアイリスに必要な物といえば休息だ。

 疲労のせいでテンションがおかしくなっているところも多分にあると思う。


 同様に、ストレスとか精神的なケアも必要なのだろう。

 今日は人死にもいっぱい出たし、彼女にはつらい日だったはずだ。


 そして、アルなき今、明日のみんなへの事情説明、若しくは誤魔化しは、彼女の肩にかかっている――というのは私の都合か。

 いや、そういうことにして今現在みんなの追及を逃れているのはアイリスの発案によるものだ。

 何かしら考えがあるのだと思うので期待したい。



 つまり、アイリスに必要なのは、やはり休息ということ。


 なので、アルと同じように膝枕をしてあげようかと、ベッドの上に上がって正座をして、膝をポンポンと叩いて誘うと、何かに葛藤していたアイリスが猛然と突っ込んできた。

 そして、私の膝の上で深呼吸――いや、全身で呼吸している!?


 皮膚呼吸とかそういうことではなくて、全身が――存在が口であり鼻であり、胃であり肺であるような、何かがおかしな領域になっている……!

 それでも、ナチュラルにこれだけの領域を構築できるというのは「才能」というしかないのだろうか……。

 もしかすると、アルより侵食耐性が高いかもしれない。


 なでなでも全身で味わって身悶えているし……。

 頭を撫でているだけなのに、これはもしや淫らな行為になっているのでは?

 すごいな、アイリス。



 まあ、ある意味では努力の成果といえなくもないし、誰に見られているでもないし、いいか。


 今年一年良い子にしていたみんなに、ハッピーホリデーズだ。

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