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幕間 混ぜるな危険

「ユノさん、お話があります!」


 新年早々、リリーが真剣な表情でそんなことを言ってきた。



「私、もっと強くなりたいです!」


 知らないうちに、また何かやらかしたのだろうかと身構えてみたものの、そんな他愛のないことで安心した。


 ……いや、ローティーンの少女が熱血少年漫画のようなことを言うのは、「他愛ない」で済ませていいものではない。

 それ自体が、「育て方を間違えた」というやらかしなのかもしれないし。



 それでも、強くなることは悪いことではない。

 それに、今の時代は、男性か女性かそれ以外かの話は面倒になるので、そこでの区別は不適切か。

 メリットもデメリットもあると理解した上で、押しつけがましくならない程度に、好きにやればいいと思う。




「リリーは今でも充分に強いと思うよ? 私としては、戦うだけじゃなくて、もっといろいろなものに触れて経験を積んでもらいたいのだけれど」


 さておき、今回のケースでは、いろいろと熟考したところ、こういう結論になった。


 後者の重要性はいうまでもないと思うけれど、前者は既に大魔王のダ……? ダ……ダイソン? を斃したことからも、充分な水準にあると思う。

 もしかすると、単独で斃せなかったことに思うところがあるのかもしれないけれど、相手は何百年も生きた名のある大魔王(ハエ)だよ?

 そんなに低いハードルだと、彼の立つ瀬が無くなってしまうよ?



 しかし、そんな私の言葉に、リリーは目に涙を溜めて不満を訴えてくる。


 思っていた以上に本気なのは分かったけれど、どうしてそんな考えに至ったのかを聞かなくてはならないようだ。


◇◇◇


 かなり時間がかかったけれど、リリーの言いたいことは分かった――と思う。



 どうにも、私が妹たちと再会したことで、何だかよく分からないけれど不安になったらしい。


 原因と結果に関連性が見いだせないので、何かを勘違いしている可能性も高いけれど、とにかく不安なのだそうだ。

 ホルモンバランス? とか、そういう年頃なのかもしれない。




 なので、感情的なところが理由なら、好きにさせるしかない――という結論になるのだけれど、単純に教育を放棄するようでは保護者失格である。



 まず、強くなりたいのはいいとして、「強さ」にも種類がある。

 戦闘能力という意味なら、魔界でルナさんたちにやったあれが一番効率的かと思うけれど、あれは成長途中のリリーには早い。


 そもそも、戦闘能力というなら、この歳で大魔王討伐メンバーの一員――というか主力だったのだから、もう充分だと思う。

 それ以上強くなって何と戦うつもりなのか――もしかして、男神の誰かに悪戯でもされたか!?

 それとも、私か!?

 ……これが反抗期なのだろうか?



 分からないけれど、どちらも非常にセンシティブなことなので、本人に訊くべきではないことは分かる。


 どちらにしても、リリーの希望を叶えるしかないのだろう。



 ただし、多少鍛えたからといっても、男神ロリコンに挑んだりすると返り討ち――いや、尊厳的に酷い目に遭うかもしれない。

 そうなれば私が彼らを滅ぼさなければならないけれど、被害が出てから動いても遅いし、被害が出る前に問い詰めても白を切られるだけだろう。


 とにかく、自衛のために力が必要――ということなら分かる。

 それでも、力といっても、戦闘能力だけが力ではない。



 だったらどうするか。


 ――そうだ、人脈を広げさせよう。



 学園に通うようになって、同年代の友人は何人かできたようだけれど、それではいたずらに被害を拡大させるだけ。


 なので、今度は大人を対象とする。

 私以外にも、頼れる大人はいるんだよということに気づいてもらいたい。


 私に依存気味のリリーにはうってつけの方針でもある。



『ユノが大人なのかはさておき、ミーティアとかアルフォンスには心を開いてるから、いきなり「頼れ」っていうより、まずは慣らしていくくらいでいいんじゃない?』


「ふむ、一理ある」


 言われてみれば、そのとおりである。


 ただ、冒険とか学園のように、自然に交流できる場ならともかく、そう仕向けるための口実が思いつかないし、強制しても意味が薄い。



『そうだね。リリーは勘が鋭いから、こっちの意図を見抜いて、そう振舞うことでクリアするかもね。でも、ボクに考えがあるから、任してくれていいよ。彼女が自発的に大人を頼るようになって、強くもなれる策を用意しよう!』


 ふむ、自信満々なのがかえって不安だけれど、代替案も無いし、思い切って任せてみようかな。


◇◇◇


 そうして、朔に言われるままに、リリーとパイパーを会議室に呼び出す。



 私に呼ばれた時は嬉しそうだったリリーも、パイパーが一緒だと分かると目に見えてテンションが下がった。


 まあ、気持ちは分からなくもないけれど。


 最近の彼は、替え玉受験の打ち合わせで湯の川に来ていたカルナの堂々とした姿に感化されたのか、「ふはは!」と意味も無く笑ったり、「余がヨガ」とうるさかったし。



『前にパイパーに作ってもらった殺虫剤なんだけど、いろいろと問題点があって使いにくいんだよね。そこで、パイパーにはそれの改善をしてもらいたいんだけど、毒のことはリリーの勉強にもなるだろうし――むしろ、リリーから良いアイデアが出るかもしれないってことで、手伝ってあげてくれない?』


「む、深淵の知者アルフォンスも認めた自信作だったのだが、悪魔族には効かなかったのか?」


『うーん、効いてたとは思うし、コンセプトは良かったんだけど、即効性がないから、力尽きるまでに体液とか撒き散らすんだよね。ユノの感覚だと、ビジュアル的にアウトなんだよ』


「ちゃんとユノさんのこと考えて作ってないってことですよね」


「だが、即効性を強めると、巣ごとの駆逐ができなくなるが――」

「ふはは! 話は聞かせてもらったぞ! そういうことであれば、なぜ我を頼らん!?」


 カルナに感化された第二号、九頭竜のキューちゃんが、呼んでもいないのに会議室に闖入ちんにゅうしてきた。

 神のくせに、この移ろいやすさは――いや、私の知っている神は大体移ろっていたな……。

 フレイヤさんとか、司っているものまで変わっているしね。



 それに、昨今の情勢を考えるに、「〇〇のくせに」という表現も良くない。

 LGBTQの“G”に“God”が追加される日が来ないようにしないといけない。


 個々人の各種自由は最大限保障されるのが理想だけれど、これも度がすぎると分断を招く原因になる気がするし。

 根っこのところでは繋がっているとか、そういう根源的なこともセットで考えないと。


 はて、何の話だったか……?



「毒は効く相手には有効な攻撃手段だが、耐性次第では全く効かんし、感染力も状況や運に左右される。そこでだ、『呪い」と組み合わせて補強するというのはどうだ? 我は『呪い』は専門ではないが、能力の合成については自信があるぞ! ふはは!」


 ああ、そうだった。

 殺虫剤の話だ。


 それはそうと、得意げに話しているキューちゃん可愛い。

 ずっとそのままでいてほしい。



「ほう、悪くない案だ。呪い――となると、アイリスか。奴の歪んだ愛は、余ら古竜でもダメージを受けるからな」


 うん? エスリンじゃなくて?

 いや、エスリン自身は「祝福」だと言い張っているけれど……。


 というか、アイリスの愛って、古竜たちから見ても呪い扱いなの?

 見た目は「良い」とはいえないけれど、結構心地いいものだよ?



「あら、また何か悪巧みでもしているのかしら? 私もまぜなさい」


 そして、呼んでもいないのにシロが来た。



「何の話かは知らんが、儂を差し置いて黒を頼るとは何事じゃ!」


 ミーティアも来た。



「ユノ、ヤク〇ト」


「こら、カムイ。今日の分の勉強がまだ終わっておらん!」


 カムイも来た。可愛い。

 当然のようにカンナもついてきた。



「ユノ様! 用事があるなら執事たる俺にお申しつけくださいとあれほど――」

「ユノ! 僕というものがありながら、なぜ黒なんかに頼るんだい!?」


 悪い虫も来た。


 リリーがものすごく困った顔でこちらを見る。


 ……ごめんね。

 こんなことになるはずでは……。

 というか、「竜は群れない」とかいう設定はどこに行ったの?


 仕方ない、アイリスも呼んで仕切ってもらうか……。


◇◇◇


 当初の予想より大きなプロジェクトになってしまったけれど、その分多くの大人と交流できたという意味では、リリーの良い訓練になったように思う。


 もっとも、古竜たちが「大人」というには大人気(おとなげ)ない――良い意味で純粋というか、子供っぽいところがあったので、そう肩肘張らなくてもいいのだと気づけたのかもしれない。

 要するに、結果オーライである。




 ただ、もうひとつの成果である、この殺虫剤――いや、ある種の神殺しはどうしたものか。


 効くか効かないかでいえば、間違いなく効く。

 むしろ、虫の神がいたとして、その神を滅ぼすくらいの物だと思う。



 これはさすがに軽々に使っていいものではない。


 不幸中の幸いというか、量産はできなかったようなので、私がしっかり死蔵しておけば済む話だけれど。



 とにかく、今度は「使い勝手の良さ」も条件に入れよう。

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