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46 認識不足

「呼吸を卒業していれば、あんな無様ぶざまなことにはならないのです」


 なぜか雰囲気がおかしくなっていたので、さきの戦い――といえるようなものではないけれど、感想戦を行ってみた。



「立ち回りの技術の差と、スタミナの差で、一方的に有利な状況に持ち込むボス、かっけーっす!」


「ありがとうございます。でも、貴女のボスはそっちです」


 すさまじいまでの駄犬感。

 揺れる尻尾が幻視できるようだ。



「呼吸の有無で差が出ることは分かりましたが……。心臓を抜き取られてしまえば、呼吸は関係無いのでは?」


 安倍さんは分かっていないな。



「呼吸を卒業していれば、心臓が無くなっても大して困りません。そもそも、そんなに簡単に心臓を採られるようなことはなくなります」


「「「?」」」


 誰ひとりとして理解していない感じ。

 やはり、実際にそういう階梯にならないと分からないか。



「御神苗さんは、生物だけでなく、生物のパーツもアポートできるのですね……」


「それって最強では? いえ、馬頭鬼の方にだけというのは、何か条件があるのでしょうか」


「他家の能力の事情を探るのはマナー違反ですが、目の前で見せられてしまうと気になってしまいますね」


 綾小路さんたちも、今ひとつ――どころではなく理解できていない模様。



「それも認識の差ですよ」


 もしかすると、「呼吸を卒業する」という表現が悪いのかな?


 それが可能になれば、自身や世界に対する認識が変わるとルナさんたちは言っていた。

 しかし、どう変わるか、元がどうだったのかは、私にはよく分からないので、説明のしようがない。


 個々の認識の話になるので、それぞれ供述が違うのも混乱の素になっているように思う。



「その『認識』というのは、どうやって変えればいいのでしょうか?」


 今度は、ずっと沈黙していた清水さんが食いついてきた。


 アルが言うには、その感覚を掴むのは、身体能力強化などの魔法や異能力との相性がいいらしい。

 つまり、その系統の彼女にも分からないようだと、私には説明が難しい。


 そもそも、身も蓋もない言い方をすると、「人それぞれ」なのだし。



 一応、それができなければ死ぬくらいまで追い込めば――しかし、ルナさんたちと同じ訓練を彼女たちに課すと即死しそうだし、手を抜くとただの暴行だしなあ。

 回復魔法やシステムの助けも無いし、これは話さない方がいいだろう。



「私は感覚的にできているので、他人に教えるのはどうにも苦手で……。兄の方が教えるのが上手なので、一度訊いてみますね」


 アルは、いくつもの強化魔法を同時に行使しているのが常態化していることが呼吸の卒業との相性が良かったようで、人間では初となるそれを達成している。

 とはいえ、まだ時間制限なんかもあるようだけれど。


 なので、理屈的なことは彼に訊いた方がいいと思う。



「よろしくお願いします!」


 すごく食いついてきた。

 清水さんだけでなく、綾小路さんと内藤さんと一条さんとかも。


 ごめんよ、アル。

 仕事増やしちゃった。




 そんなことを話していると、青っぽいウマに乗っている、ヘビのような尻尾の付いた体格のいい男性が、突然出現した。


 もちろん、突然とはいっても朔の領域で認識していたので、奇襲を仕掛けてきていれば反撃していたけれど。



 しかし、その男性――嫌な感じの尻尾といい、室内でウマに乗る意味不明さといい、悪魔の系譜だろうか?

 それが私たちを気にした様子もなく、さきのウシとウマの死体を観察している。



 そんな青い人に、安倍さんたちが一拍遅れて気づいて蒼褪めていた。

 そして、ヒソヒソと話し始める。



「まさか、アバドン以外にも召喚されていたとは……!」


 安倍さんは、彼が何者なのかを知っているのだろうか。

 知っているなら教えて――いや、排除対象かどうかだけ教えてほしい。



「す、すごい妖気です。牛頭鬼や馬頭鬼とは比べ物にならない……息苦しいくらいです」


 観さんが胸を抑えてうずくまる。

 そんなにかな?

 というか、呼吸を卒業していない人は大変だね。



「ヤバいな、上位の悪魔だ。ここは一旦撤退すべきだ」


「よし、『おはしも(※押さない・走らない・喋らない・戻らない)』で行くぞ」


 砂井さんと上井さんまでもがボスを無視して方針を決めたけれど、少し遅かった。




「おっと、悪いけど逃がさないよ。でもまあ、いきなり殺したりはしないから安心しなって」


 青い人に気づかれ、釘を刺された。


 まあ、見えてはいるし、聞こえてもいるよね。



「それと、無駄な抵抗も止めた方がいい。君たちの仲間を預かってるから――後は言わなくても分かるよね?」


 青い人の表情と口調だけは愛想がいいけれど、内容と雰囲気はそうでもない。


 人として大事なものが欠けているというのは、こういうことだろうか?

 いや、悪魔っぽいけれど。


 確かに、なぜかイラっとする。



「で、これは君たちがやったの? 雑魚とはいえ、普通の人間が斃せるようなものじゃないはずなんだけどなあ。どんな裏技使ったの?」


「裏技も何も、普通に正攻法――いや、基本もできていない相手でしたし、遊んであげただけですよ」


 なぜかみんな大袈裟にビビっているので、私が答えるしかないっぽい。



「ははっ、冗談キツイぜ子ネコちゃん。いくらこいつらが雑魚でも、もっと雑魚な子ネコちゃんたちに斃せるようなもんじゃないんだぜ」


『君もその雑魚と大差ないんだけど』


 おおい!

 なぜ喧嘩を売っているの!?

 冗談キツイぜ!



「ははっ、言うねえ。おー、怖い怖い」


 む、舐められているなあ。

 その方が好都合だけれど。



「でも、忘れちゃいないよなあ? こっちには人質がいるんだぜ? 大人しく従っとけば、もう少し生かしておいてやるからさ」


『悪魔の言うことを信じろと? 人質が本当にいるかどうかも分からないのに、従うわけないじゃないですか。莫迦なんですか?』


「それに、こういう仕事をしているなら、こういうときに見殺しにされるのも覚悟の上でしょうし。大丈夫、仇は討ちます!」


「おいおい、子ネコちゃんには人の心が無いのかよ!? 可愛い顔してえげつねえなあ! ――仕方ないな、やれ!」



 悪魔が何かに指示を出した。


 その直後、大量の餓鬼が出現して、私たちに襲いかかってきた。


 人質への加害命令ではなかったらしい。

 残念。


 というか、これで私たちを制圧するつもりなのか?

 やはり舐められているのだろうか。




 さておき、ウシとウマをどうやって斃したかは把握されていないようなので、私も三味線を弾くことにする。



 両手に拳銃を取り出して、大挙して押し寄せてくる餓鬼の群れとの間合いを調整しつつ、片っ端から撃ち殺していく。


 アルは、「二丁拳銃は格好いいだけで、実際には複数のターゲットを同時に狙うのは難しいし、リロードもしにくくなるから微妙」と言っていた。

 しかし、私なら領域や朔のサポートがあればどんな撃ち方をしても中るし、弾切れの心配も無い。


 そして、綾小路さんたちが相手にしていた時に感じたとおり、餓鬼程度なら拳銃でも充分な殺傷能力がある。


 つまり、今の私はとても格好いいはず。



 なのに、みんな餓鬼の迎撃に必死で、誰も私を見ていない。

 というか、私ひとりでも充分なのだけれど、拳銃の処理能力に限界があるせいでそう思われていないのか、援護してくれているつもりらしい。


 後方から援護射撃してくれている砂井さん以外は、前線に出られると射線を塞がれたりして邪魔なのだけれど……。



「さあ、餓鬼はまだまだいるよ! それと、これは受けられるかな――何い!? そんな莫迦な!?」


 悪魔が大きな火の玉を作ろうとしていてので、銃弾で撃ち抜いたように見せかけて、朔の領域で無効化すると、大袈裟に驚かれた。


 どうやら、彼は朔の領域に囚われていることも認識していないようで、本気で銃弾で魔法を消されたと思っているようだ。



 領域内のことを把握していないし、そもそも領域についての認識も浅いようなので、さすがにこの悪魔が領域の主ということはあり得ないか。

 なので、さきの牛馬同様、排除しても特に問題は無いと判断する。



(ちょっと待って。ボクに考えがあるから、適度に追い詰めて)


 片付けてしまおうかと思ったところに、朔からの制止がかかった。


 どうやら、揺さぶりをかけて情報を引き出すつもりらしい。



 よし。

 詳細は分からないけれど、追い詰めるのは得意なので任せてもらおうか。

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