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43 急展開

 そんな折に、山本の携帯電話から、着信を報せるメロディーが流れた。


 全員の意識がそちらに移る。


 彼の職業やその立場、そして、時間帯と状況を考えると、いい報せではないことは容易に想像がつくからだ。


 一部はすっかり気が緩んでいたが、今も御神苗による教団攻略作戦の真っ最中である。



 そして、皆の想像どおりの内容に、山本の眉間に皺が寄っていく。



「すまないが、緊急事態が発生した。我々はすぐに戻らなくてはならない。そこで、御神苗殿にもご協力いただきたい。事情は車中で――」

『申し訳ありませんが、貴方の要請がどの立場からなのかが分かりませんし、そうでなくても、私の一存ではお受けできません』


 山本からの協力要請を、朔が一刀両断にする。

 しかも、ぐうの音も出ないほどに正論である。

 強権を発動すればそうなるかが理解させられた後なのも性質(たち)が悪い。



 山本にもそれは分かっているので、苦虫を噛み潰したような顔になりながらも、無理には反論はしない。

 ただ、安倍たちに戦闘準備を命じる傍らで、どこかに電話をかける。




 それからしばらくして、皇の柳田と清水が、山本の許にやってきた。



 山本が電話をかけた先は皇の担当者で、そこで事情を話し、皇の上層部から柳田たちに話が回ったのだ。



 その際の彼らは、敵性国家の機密情報満載の車内で、睡眠をとれるような状況になかった。

 御神苗の不興を買うわけにはいかないので派手な詮索は行えないが、パッと見ただけでも分かるお宝がゴロゴロ転がっているのだ。

 どういったつもりでユノが彼らにこれを提供したのかは分からないが、特に柳田の立場上、無視していい問題ではない。


 しかし、どうやって解決するべきかは上の判断を仰ぐべき案件であり、現場判断での応急的な対応を取るとしても、どう切りだせばいいか分からない。



 そんなところにかかってきた、上からの電話。


「教団の一部過激派集団が、現地で活動中の公安部隊を襲撃している。事が大きくなる前に、公安の山本と協力して速やかに事態を収束させろ。必要であれば、御神苗にも協力を要請していい。……責任は全てこちらで取る」


 そんな一方的な命令で電話は切られた。

 上層部にも無理を言っている自覚があり、反論を聞いたり、御神苗に対する判断を迫られたりしたくなかったのは明白である。

 特に、最後のひと言は途中から消え入りそうな声で、心の底から嫌がっていることが電話越しにも伝わってきた。



 どちらにしても、柳田にそれを無視できるような権限はない。

 そして、状況的にグダグダ悩んでいられる余裕も無い。


 ならば、動くしかない。




「――という状況らしく、御神苗さんにも協力をお願いできないかと」


 柳田は、清水きよみずの舞台から飛び降りるつもりで、断られても「私が悪いわけではない」と開き直って交渉してみた。



『分かりました。ただ、そちらの方にも申上げましたが、私の一存で決められることには限りがありますので、今回は「貸し」ひとつということでお願いしますね』


 それに対するユノの答えは、まさかの承諾である。

 御神苗に「借り」を作るのは恐ろしいが、状況的に背に腹は代えられない。


 そもそも、山本が精鋭を連れてこんな所にまで出張ってくるから状況が悪化しているのだから、彼らに支払わせればいいと考えることにした。

 皇の上層部が責任を取ったとしても、彼自身にも何らかの形で影響があると考えると、そうするのが合理的だと判断したのだ。



「え、ええ、承りました。この件における監督者にしっかりと支払わせます。それと、あのトレーラーの車内にある物なのですが……」


「もちろん、好きに使ってくださって構いませんよ」


 今度は成層圏から飛び降りるつもりで切り出した柳田だが、これもまさかの快諾だった。


 ただし、柳田は機密情報のことを言ったつもりなのだが、ユノはアメニティグッズ的な意味だと思って答えている。

 当該トレーラーが前者の塊なのは事実だが、そこで人が生活する以上、後者も当然に存在しているのだ。


 とはいえ、機密情報のことだと認識していたとしても、「自己責任でどうぞ」と答えたであろうことを考慮すると、結果は変わらない。




「ひとまず、急いだ方がいいようですし、話はこれくらいにして行きましょうか」


 柳田に債務を押し付けられ、それでも言い返すわけにはいかずに、さりとて納得できなくて口をパクパクさせていた山本を見たユノが、そこで話を打ち切る。

 同時に、地雷系ファッションから、戦闘用のボディスーツに早着替えをする。


 それに特に意味は無いのだが、朔が何かを企んでいる気配を察した彼女が、おかしなことになる前に先手を打っただけである。

 さすがに、クラスメイトの眼前で魔法少女にされるのは御免被りたかったのだ。



 日本では異世界のように衣服に関する裁量権が無いわけではないが、朔が衣服を侵食して作り変える可能性もゼロではない。

 日本にはシステムの影響がほぼ無いからか、朔の階梯が上がっているからか、朔の自由意思でできることの範囲が広がっているため、ユノも気を抜けない。



 しかし、そんな無意味な駆け引きを余所に、大きな衝撃を受けている者たちがいた。


(アポートって、そんなに精密な制御ができるもですの? というか、腰回りが細いですわね……。羨ましいですわ……)


(戦闘スーツ、格好いい……。うちもああいうのを導入してくれませんかね? スタイルは……プロテクターつけたら分からないでしょうし)


(エッロ……! 身体のライン出すぎじゃないの? でも、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んで……エッロ! 何食べたらこんなになるの!?)


 大半は竜胆のように術の精緻さに感動し、同時に、巴のようにえもいわれぬ色気に惑わされて。



「それで、貴方たちはここの防衛を。貴方たちは島から逃げようとしている人を捕まえなさい」


 ユノは、若干挙動不審になった者たちには構わず、眷属たちに指示を与える。

 それも、いちいち口に出して指示する必要は無いのだが、この場にいる者たちに分かりやすいようにそうしただけだ。



「では、行きましょうか」


 眷属たちがユノの指示に従って行動を始めたのを確認すると、ユノが若干前傾した山本に出発を促す。



「あっ、あのっ! 私もついていっても構わないでしょうか!? 御神苗さんからもっと学びたいのです!」


「えっ、お嬢様!? いえ、できれば後学のために私も……」


「そういうことなら私もお願いします。いえ、何と言われてもついていきます!」


 そこに竜胆が割り込み、怜奈と巴も追従する。



「……遊びではないのだが」


 山本は、口ではそう言いつつも、人員が増えるのは悪いことではないと考えている。

 彼女たちと直接やり取りしたことはないが、彼女たちが綾小路家と一条家の者であることは知っているし、その両家からこの現場に派遣されているのであれば、ある程度の能力はあるはずだ。


 しかし、彼女たちとユノとの関係を考えると、これまでのような雑な扱いはできない。



「私は構いませんよ。状況によっては、手伝ってもらうこともあるかもしれませんし」


 ユノとしては、竜胆たちがどうしようが「特に気にならない」というのが正直なところ。


 彼女が欲しいのは、飽くまで友人である。


 仕事仲間がそれに当たるのか――という疑問に、『そういうところから芽生える友情とかもあるんじゃない?』と朔に唆されてその気になった。

 少なくとも、弟子よりはそうなる可能性は高いだろうと。



「え、ええ! 私にできることなら何でも言ってくださいませ!」


「私も微力ながらお手伝いいたします」


「私も式神が使えますので――あっ、もちろん、御神苗さんの霊獣ほどではないですが、応用範囲は広いと思います!」


 ユノの返事に、三人は素直に喜んだ。



「清水君、君も行ってきたまえ」


 そこに、柳田が清水をねじ込んだ。

 当然、公安や御神苗に協力したいということではなく、「教団や御神苗の情報収集をしてこい」という意味である。



「えっ、あ、はい。ですが――」

「私のことはいい。霊獣様が護ってくださる。それよりも、もう少しお時間がいただけるなら、ほかの者にも声をかけますが」


 清水にも柳田の意図は伝わったが、大筋で内容を聞かされていた彼女にしてみれば、参加したくないというのが正直なところだ。

 教団はともかく、御神苗は見ても分からないのだ。


 当然、彼女も術者の端くれであり、見たいとは思うものの、報告を求められても、小学生の読書感想文並みのものしか出てこないだろう。



「いえ、結構ですよ。多すぎても邪魔になるだけですし、再編成する時間も惜しいでしょうし」


 柳田の増員の提案を、ユノが拒絶する。

 彼としては、もっと人を送り込みたいところだったが、ユノに断られてしまった以上、素直に引き下がるしかない。


 山本としても、人員は多ければ多いほどよかったのだが、ユノの言ったように時間が惜しいのもまた事実である。



「……では、御神苗さんは我々の車に。詳細はそこで。皇の方は、彼女たちをお願いします」


「はい」


 そして、山本に促されて、ユノも行動を開始する。

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