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38 人相の悪い法の番人

――ユノ視点――

 公安の方で動きがあったのを、眷属の視界で捉えた。


 その進行方向からして、どうやらこちらに向かっているようだ。


 到着まで15分といったところだろうか。

 アルの出発から1時間ほどしか経っていないのだけれど……。

 思っていたよりも動きが早い。

 日本の警察――公安だったか? は優秀だったと喜ぶべきか。



 どうしよう?


 しかし、こっちに来ているということは、直接あっちの島に乗り込むわけではないということだから、まだ時間稼ぎはできるということ?


 船を動かないように細工はしているとのことだけれど、ヘリコプターとかまで対策しているとは聞いていない。

 まあ、ヘリコプターのような目立つ物を使ったならすぐ分かるし、眷属を使って、バードストライクに見せかけて落とすけれど。




 さて、こっちに向かっているのは10人で、内訳はセダンタイプの乗用車に3人。少し離れてワンボックスカーに6人とバイクにひとり。こっちの人たちは武装している。


 というか、この人たち人相悪いな。

 本当に公安なのか?

 公安だからか?


 特に、恐らくボス格の人、ただでさえごつい体格に強面なのに、目力めぢからがヤバい。

 異世界の亜人でも、ここまでのはなかなかいない。


 人を見た目で判断してはいけないのは分かっているけれど、「公安」という公言できない職業が、悪いイメージに更に拍車をかけているのか。



 いや、相手の立場で考えてみれば、私たちは人殺しとか非合法組織の戦闘員とかになるのか?

 ……それは気合も入るか。



 よくよく考えれば、見せしめのために余所の国まで行って暴れてくるって、相当にヤバいよね?


 私は元々、降りかかる火の粉には対応するだけで、「来た時よりも美しく」とか、「立つ鳥跡を濁さず」をモットーにしていたはずなのだけれど、いつの間にか異世界での価値観に馴染んでしまったのだろうか?




 などと考えて、軽くショックを受けている間に、公安の人たちが到着してしまった。


 というか、ワゴン車から降りた人たちが、遠巻きにではあるものの、私を包囲するように展開中だ。

 包囲網はゆるゆるだし、敵対意思までは見えないけれど、緊張感は伝わってくる。



 ……そんなことよりも、柳田さんたちを起こすのを忘れていた。


 今からでも起こしに行くか?

 けれど、それだと包囲網を突破しないといけないんだよね。


 坂本さんがいればお願いできたのだけれど、彼は私が捕まえた敵性魔術師さんの尋問のため、場所を移している。



 そうして私が困惑している間に、車から降りてきた強面の男性が、のっしのっしと大股で近づいてくる。


 ヤバいね、人外の血でも入っているのかと思うくらいに顔がいかつい。

 不細工というほどではないけれど、控え目にいっても、事案発生レベルの顔面である。


 お巡りさん、こっちです――あ、この人も表向きの肩書きは警官だったか。



「待ってください、山本さん。そんな怖い顔で近づいたら通報されますよ?」


「う、うむ。いや、そんなつもりではなかったのだが……」


 強面の人を、ワンボックスカーから降りてきた長身で長髪の青年が制止する。


 うん、まあ、彼の言うとおりではあるのだけれど、このご時世に堂々と二本差ししている彼も充分に怖いのだけれど。

 もちろん、怖いのは刀ではなく、現代日本で武装して平然としていられる神経の方である。


 そこに、バイクから降りてきた若い女性が、彼の横に並ぶ。

 なお、その手には、銃身を切り詰めた(ソードオフ)ショットガンが握られている。

 殺意が高い。


 しかし、「通報される」云々はネタなのだろうか?

 ツッコミ待ち?


 顔が怖いのは精々事案発生レベルだけれど、武器の所持は完全に違法だよ?

 捕まるよ?




「こんばんは、御神苗ユノさんですね。少々お話よろしいでしょうか?」


 長身長髪の青年が声をかけてきた。

 ロケーション的にカルトの勧誘に聞こえてしまう。



「こんばんは」

『仕事中ですので、手短にお願いします』


 何はともあれ、挨拶は大事。

 後は朔が引き受けてくれるそうなのでお任せする。



「……ありがとうございます。では――今日はこんな所で何を?」


 ついさっき「仕事中だ」と言ったはずなのだけれど……?

 他人の話を聞かない人なのかもしれない。



『礼には及びませんが、そうですね――「こんな所で何を」というのは、むしろ、こちらの台詞でしょうか』


「それは、私たちも仕事ですので――」

『貴方方が仕事をしていないから、私たちが出張ってきたんですよ』


 ええ……?

 喧嘩を売っちゃ駄目だよ?

 顔が怖い方の人が、もっと怖い顔になったよ?



「それは聞き捨てなりませんな。我々は国家や国民の安全を第一に考えて――」

『彼らがネコハコーポレーションを襲撃しようとしている情報くらいは入手しているでしょう? 実行に移されると、貴方方が守っているものの多くが台無しになりますが』


 長髪の人ではなく、強面の人が答える。

 責任者としての努めだろうか。


 それにしても、被せていくなあ。

 人の話は最後まできちんと聞いた方がいいと思うのだけれど。



「それは……。ですが、それにも手順や都合が――」

『それを私たちが負担しているのです。後数時間もすれば問題がひとつ片付きますので、大人しくしておいてください』


 非合法組織とはいえ、制約も多くて大変なのは想像できる。

 しかし、その事情は私たちには関係無い。


 朔も、彼らの事情に斟酌しんしゃくするつもりもないのだろう。

 少し言葉に詰まった隙に、またも被せていく。



「さっきから黙って聞いてりゃ、いきなり出てきて好き放題言って、何様のつもりなの!? あたしたちがどんな想いで我慢させられてたかも知りもしないくせに!」

「止めろ、真紀」


 今度は、長髪の人の隣にいた女性が吠えた。

 怒っているポイントがよく分からないのだけれど、これが逆ギレだろうか。


 長髪の人がいさめたことを考えると、やはりそうなのだろう。



『想いなんて関係無いですよ。結果が必要なところで、結果が出ていないから動かなければいけなくなっただけです。それとも、このまま任せていれば解決してくれるのですか?』


 朔も、言いたいことは分かるけれど、「想い」は大事だよ?

 むしろ、それと比べると、結果の方がどうでもいい。

 成功して希望を得るのも、失敗して絶望に沈むのも、どちらも尊いものだよ?

(黙ってて)

 あっはい。



「……貴女方なら解決できると?」


『もちろん』


 強面の人の質問に、朔が即答する。



「申し訳ありませんが、私たちとしてはその言葉を鵜呑みするわけにはいきません。ああ、いえ、貴女方の力を疑っているということではなく、この日本でNHDや、黄龍会の時のような騒動を起こされては隠蔽しきれませんので……」


『それもご心配なく。兄が教団施設に乗り込んでから一時間ほどですが、大きな騒ぎにはなっていないでしょう?』


 長髪の人のクレームにも、朔が論理的に対応する。

 雰囲気はよくないけれど、上手く抑え込めている感じだろうか。


 とはいえ、騒ぎになるかどうかは相手次第のところもあるけれど、今のところは朔の言うとおり、大きな騒ぎは起きていない。



 事前の予測で、最悪のパターンは教団幹部の処理に失敗して、施設を自爆されることだ。


 とはいえ、それだけなら「ガス爆発」などといった言い訳も使える。


 それに、教団も警察やら消防やらに施設内へ踏み込まれたくないはずなので、よほど追い詰められないとしないだろうし、その権限を持っている幹部を処理してしまえばその心配は無くなる。



 後は残された戦力だけれど、面と向かっての戦闘なら、アルが後れを取ることはない。

 能力差がありすぎて、魔術や異能力は発動前に潰せるし、銃撃や砲撃も通用しない。


 それこそ、アルが大好きな「主人公無双」ができるシチュエーションである。

 今頃、目一杯楽しんでいることだろう。



「それでも、『はい、そうですか』と引き下がるわけにはいかないのですよ。我々の肩には、この国の未来が懸かっているのです!」


『その意気は結構。ですが、ここでは何もできませんし、させません』


 随分と挑発するなあ。



『といっても、納得できないのでしょうし、少し遊んであげましょうか。私たちの力が分からないことが、不安の種なのでしょう?』


 朔の挑発で、彼らの目の色が変わった。


 なぜ喧嘩を売っているの?

 何か嫌なことでもあったの?

 昼間はあんなに上機嫌だったのに……。


 もっとも、後何時間も会話で凌ぐのも難しかっただろうし、どこかで衝突するのもやむを得なかったのかもしれないけれど。

 それでも、もう少し言い方とかあったのでは?


 何というか、さっきから目の色というか、魂の色が違う――本気で覚悟を決めているような雰囲気が伝わってきているのだけれど?

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