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28 試行錯誤

 高級レストランには、「高級」といわれるだけの理由があるのだと理解させられた。

 アルや妹たちも、その味は当然としてパフォーマンスにも大満足だったようで、食事が終わってからもずっと期待の籠った目で私を見ている。


 彼らは、今の私が「一度見たものをほぼ完全に再現できる(※機械操作を除く)」ことを知っているので、これも再現させようとしているのだろう。



 もちろん、そういう機会があれば、全力でおもてなしするのもやぶさかではない。


 そうだ。

 夏休み中に、三上さんや亜門さんたちも誘ってBBQをするのもいいかもしれない。


 お店の人には悪いけれど、この機会にいろいろな技術を学んでおこう。




 食事が終わって部屋に戻ると、アルは現場の下見や《転移》できそうなポイントを探しにと外出してしまった。


 ここには仕事で来ているので当然なのだけれど、部屋は綺麗だし、夜景もいい感じだし――湯の川の大吟城や世界樹ほどではないにしても雰囲気は良い。

 なので、口説かれるかと思っていたのだけれど、少し肩透かしを食らった気分だ。



 というか、アルは魔界での一件以降、その直前ほどグイグイこなくなった。

 少しやりすぎたのか、私が期待値を上げすぎているからか、それとも奥さんたちとの関係を再確認したからか、なかなか「愛」を教えてくれない。

 朔が言うには『繊細な男心なんじゃない?』とのことだけれど、それを出されるとお手上げである。



 とにかく、恋愛経験の無い私にはいまいち状況が分からない。


 まあ、何事も受け身ではいけない――いや、受け身は大事なのだけれどそういうことではなくて、積極性が大事というか、学ぼうとする意志が重要というか。



 さて、恋愛経験が無いなら、ほかの経験で補えばいい。


 例えば、プロのアスリートが現役を引退した後、それまでの経験を活かして解説者や監督やトレーナーになるとか、時には飲食店を開業するのはよく聞く話だ。

 つまり、何らかの分野で一流になった人には、他分野でも活躍できる可能性が蓄積されているはずなのだ。



 そういう理屈でいくなら、私が頼るべきものは「間合い操作」だろうか。

 恋の駆け引きなんて言葉もあるし、駆け引きといえば間合い操作なので、間違ってはいないと思う。


 しかし、恋の間合いとはどんなものなのだろう?

 物理的にアルを制圧するだけなら簡単なのだけれど、それを恋というのは何かが違うような気がする。

 というか、どう考えてもただの暴力である。



 だとすると、アルから手を出しやすいように隙を見せる方がいいのかな?

 確かに、私には隙が無いから、それが分かっているアルには手を出せなかったのかもしれないと考えると辻褄も合う。

 ……いや、同じ条件でも、アイリスはガンガン来るしなあ。


 とにかく、具体的に何をどうすればいいのかはまだ何も分からないけれど、いろいろ学んで試していく中で何か分かるかもしれない。


◇◇◇


――アルフォンス視点――

 今回のターゲットは、とあるカルト教団の更に暗部。


 民主主義国家の建前を盾に、水面下でいろいろと危険なことをしている組織だ。

 ってか、表でも脅迫まがいの勧誘や、洗脳しての集金だとか、いろいろと悪いことをしてたな……。




 国家権力で対応してくれればいいんだけど、人権や自由やといった建前のせいで、ほかにも政治家との癒着もあったりしてなかなか難しいんだろう。

 関係者を捕まえようとしても、トカゲの尻尾切りで終わりだろうしな。


 で、手をこまねいてるうちに、立派なテロリスト予備軍が育ってたというわけだ。



 今のところ、俺たちやネコハコーポレーションに直接被害があるわけじゃない。

 襲撃計画はあるらしいけど、脅威にはならんしな。


 でも、洗脳した一般人を使ってのテロを起こされたり、能力とは無縁で生きている人を混乱させるようなまねをされると、非常に寝覚めが悪い。

 だから、今のうちにガツンと叩いておこうという流れになった。



 起きていない未来を理由に実力行使は酷いと思う人もいるかもしれない。

 だけど、起きてからだと被害が大きくなりすぎる。


 それに、うちには問題無くても、今現在も洗脳とか密輸とか武装化とか暗殺とかアウトなこともやってるし、やるにももう遅いくらいなんだよな。


 今なら殺すのは十数人で済む。

 ってか、暗殺とか不意打ち以外だと、敵の大半が洗脳されただけの一般人になるってのが面倒くさいんだよな。



 以前、王都で邪教徒の取り締まりに協力したことがあったんだけど、洗脳された一般人は《解呪》で治療できるからって、ターゲット以外は可能な限り殺すなって指示が出されたせいですごく苦労した。

 まあ、チート全開でやり遂げたわけだけど、俺がいなきゃ結構グダってたんじゃないかな……。



 まあ、それはおいといて、強権の発動できない民主主義とかだと、こうなることもあるわけだ。

 ネットで調べれば誰でも作れる毒とか爆発物なんかもあるし、ただの自動車でも悪用すれば凶器になるから、テロも防ぎようがない。

 異世界とどっちが平和なのか分からんね。



 といっても、こっちの世界じゃ俺たちも危険人物だ。

 テロリスト相手にテロを仕掛けた実績まである。


 だから、ホームにいる時はそうでもないけど、大きく移動すると今みたいに監視が付く。


 まあ、こっちを刺激しないようにかなり遠巻きで、日常生活には支障はないんだけど、首都に来るとさすがにそうもいかないようで、距離も若干近くなったし、数も増えた。


 障害になるってほどじゃないけど――いや、このプロっぽい人たちを引き連れて現場視察とかきついわ。

 一応、国内だし大きな騒ぎにならないようにするつもりだから、今はまだ相手に気取られるのはまずい。



 どうするかなーと考えながら、タクシーに乗って目的地方向へ。


 目的地は、一般的には船でなければ行けない離島にある。

 ひとまず人目が無い所にまで行って、そこから飛んで行こうと思ってたんだけど、どうやらそれは難しい感じ。

 今はまだ手の内は隠しておきたいしなあ。



 当然だけど、夜間は船は出ていない。


 《認識阻害》を使って飛ぼうかとも考えたけど、アクマゾンで小型の船を購入して、配送先を近くの港に指定。それに乗り換えて目的地に近い島を目指す。

 湯の川で船舶の操縦の練習しててよかったわ。


 監視の人には恨みはないけど、想定外の事態に慌てている様子はなかなか愉快だ。

 とにかく、これですぐには追ってこれまい。



 船で島に乗り入れると目立つかと考えて、途中で船から《飛行》魔法に切り替える。

 さすがに《固有空間》に船が入るほどの余裕はないので、回収はアクマゾンに頼むことに。


 更に《認識阻害》を掛ければ、この世界で俺に気づける人はいない。

 ちょっと移動に時間を使いすぎたけど、ここからはサクサクといこう。




 そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。


 ひとつ手前の島にもいるわいるわ、どう見てもその筋の人がいっぱいだった。


 恐らく、ここからそう遠くない島のカルト教団を見張ってる――いや、牽制しているのか?

 ただの監視にしては雰囲気がピリピリしてるし。


 ……邪魔すぎる。



 半月ほど前に悪魔から報告を受けた時には、こんなことになってるとは聞いてなかった。


 その後で何かあったのか?

 あんまり悪魔に頼りすぎるのは駄目だと思って自重してたのが、ここで裏目に出たか。



 うーん、敵の敵は味方だとは限らないし、むしろ、無能な味方の方が怖いし、どうしたものかなあ……。



 カルト案件だと公安系かと思うけど、あの団体の敵は多そうだから断定はできない。


 皇だったら横槍入れられるかもしれないけど、見知った顔はいない――ってか、柳田さんとかは現場の人間じゃないし、玉川君はまだ検査とか療養期間だろうしな。



 あれ? 

 あの子、確かユノのクラスメイトの陰陽師の家系の子じゃなかったかな?

 それに、もうひとり。あっちは神道系の家の子だったか。

 複数組織が合同なのか?


 いや、でも、報告だとどっちの子も対人系の能力じゃなかったと思うし、偶然この辺りでそういうトラブルが発生したってことも?



 いくら考えても分からん。

 分からないなら訊くしかない。

 とりあえず、無難なところからいってみよう。


◇◇◇


『……もしもし?』


 夜遅くに電話がかかってきたからか、それとも知らない番号からかかってきたからか、電話の向こう側の相手は機嫌が悪い――というか、警戒されてる。



「こんばんは、夜分遅くに失礼いたします。柳田さんでしょうか?」


『…………ええ、そうですが』


 ()がすごい。

 めっちゃ警戒されてるわー。



「私、御神苗アルトと申します。今お時間よろしいでしょうか?」


『えっ、は? あ、いえ、せ、先日はどうもありがとうございましたっ! も、もちろん時間は大丈夫です!』


 今度はめっちゃ焦ってる。



「ええとですね、少し確認したいことと、ご相談があるのですが――」


◇◇◇


『ええ、一応機密ですので、詳しくは話せませんが……』


 電話で話せるようなことじゃないから言葉を濁してるけど、これは当たりだったみたいだ。



「そうですよね。実は次のうちのターゲットが近くにいまして、そのあたりのことで少々ご相談があるんですが、電話でする内容ではないので、できるだけ早いうちにお会いできればと思いまして」


『なるほど、ご配慮いただきありがとうございます。では、明日は少々立て込んでおりますので――』


「ああ、こちらの都合で申し訳ないんですが、この件にかけられる時間があまりなくてですね。遅くとも13日の夜には決行する予定ですので、柳田さんの都合が合わないようでしたら、代理の方に用件を――」

『でっ、でしたら今からでも――そうですね、1時間後にホテルの方にお伺いします!』


 そこまで慌てなくてもいいと思うんだけど。

 それと、当然のように宿泊先は特定されてるのな。

 ま、いいけどね。




 結局、この日の仕事が終わったのは翌三時くらい。

 毎日こんなだときついけど、スパイごっこみたいでちょっと楽しい。

 まあ、ごっこといっても、俺の場合、本職より能力高いけどな。

 消えたり飛んだり爆発したりできるからな!



 それで、肝心の確認の内容は、大方予想どおり。


 あそこに配置されてる人員は、カルト教団の監視と牽制が主目的。

 なのに、対人向きじゃない人員がいるのは、どうやらカルト教団側が魔物――こっちの世界じゃ「魔」とか「闇」とかいうらしいけど、それを召喚して仕掛けてくるようになったからっぽい。


 カルト教団がそんな強気に出るようになった切っ掛けは、有名な異能力持ち傭兵の入国を幇助した際になんやかんやあって、その傭兵を雇うことに成功したかららしい。



 それでも、ひと通りの状況を聞いた後でこっちの要求を伝えたんだけど、カルト教団の件は皇もかかわってるけど主導権を持ってないとか、そもそも柳田さんの担当じゃないとか、とにかく即答はできないと言われた。

 まあ、それはそうだろうとしかいえないよな。


 できるだけ早く結論を出すと言って急いで帰ってしまったけど、大丈夫だろうか?

 無理して身体を壊して異世界転生とかしないといいんだけど。


◇◇◇


「おかえり、随分遅かったね。ご飯にする? お風呂にする? それとも寝る?」


 ちなみに、俺は多少無理をしても、待っててくれる女神様がいるので何の問題も無い。


 ただ、最後のは「それとも、わ・た・し?」とやってほしかったところだけど――いや、やられたら理性飛びそうだから、それでよかったのかもしれん。


 っていうか、高級ホテルでふたりきりってシチュエーションのせいもあるかもしれないけど、何かユノ自身の破壊力も一段と高いような気がする。

 何がどうとはいえないけど……。



「もう遅いし、軽く汗だけ流して寝るよ」


 小腹も空いてるけど、明日はハードな一日になりそうだし、早く寝て気力体力を養わないといけないしな。



「それじゃあ、背中を流してあげようか?」


「えっ」


 落ち着け、俺!

 ユノのことだからやましい意味じゃないはずだ!


 だけど、何でいきなりそんなことを?

 ユノも普段と違うシチュエーションでおかしくなってるのか?



「いや、シャワー浴びるだけだから」


「そう」


 あれ?

 何か残念そう?

 いや、表情は変わってないんだけど……。



「それじゃ、寝る時は添い寝でもしてもらおうかな」


 何が「それじゃ」何だか分からんけど、つい口が滑ってしまった。



「分かった」


「えっ」


 何が分かったんだ!?

 いや、ユノのことだから、また朔に妙なことを吹き込まれたか?


 何にしても、ある意味では良い機会だ。

 今日もまた俺の自制心が試されるだけだしな。

 もちろん、取消すなんて選択肢は無い。



 とにかく、ユノには愛を教えてやるって約束したしな。

 だからこそ、簡単には手を出せなくなったんだけど――ただの行為だけで「こんなものか」って思われるのは俺の意図とは違うんだ。

 っていうか、いろいろな段階すっ飛ばして、もっと激しい行為をして昇天しかけた後だからな。

 あれを上回れる、ユノを満足させられる性技は持ってないんだわ。


 そんな感じだから、軽い気持ちで手を出したら、間違いなく俺の方が――俺だけが溺れる。

 それは認めたくない。


 俺はやればできる子。

 俺ならできる。


 俺だけのハッピーエンドじゃなくて、ふたりにとってのトゥルーエンドを目指して、男を磨くしかない。


 どうすりゃいいのかさっぱり分からんけど、今回の件で、チャンスがあったらいろいろ試してみるか。

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