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23 NTRマシーン

――ユノ視点――

 よく分からないけれど、話がまとまったのか、なぜかチップを渡されて、カジノで遊ぶことになった。



 とはいえ、言葉は分からないし、ルールも分からない。


 いや、配られたカードの合計が21に近ければいいくらいは知っているけれど、細かいルールはさっぱりだ。

 何だよ、スプリットって。

 変化球でも投げるの?

 私のスプリットは、ボールが分裂――というか、破裂するよ?



 さておき、勝ち負けはどうでもいいのだけれど、何も分からないので楽しみようがないというのが致命的。


 そもそも、駆け引きを楽しむようなゲームで、相手の手札どころか山札までもが丸見えでは、私に楽しめるゲームではないと思う。

 ついでに、手の動きだったり、精神の動きだったりで、イカサマも見えてしまうのも問題だ。


 客を楽しませるために適度に勝ち負けをコントロールしているとか、よく訓練しているといえば聞こえはいいかもしれないけれど、こうまで丸分かりだとえる。



 しかも、私がルールを知らないと思ってか、搾り取りに来た。

 ルールは知らなくても、イカサマなら私や朔でもできるのだよ?

 そっちがその気なら受けて立つよ?



 ということで、朔の確率操作能力で、私に配られるカードがブラックジャックになるように操作。


 いくらディーラーさんが配る寸前にカードを摩り替えようとしても、朔の領域下では不可能。


 あれ? 私必要無い?



 負けるはずのない勝負で連敗して狼狽うろたえるディーラーさんが可哀そうになってきたので、テーブルを離れてスロットマシンへ。

 ルーレットにも惹かれたけれど、ルールが分からないと面白さも半減するだろうし、分かりやすい方を選んだ。


 とはいえ、レバーを引いて絵柄が揃うだけのものが面白いかといわれると、そうでもない。

 当たり外れが適度にあるなら、当たった時は面白いと感じるのかもしれないけれど、朔が確率を操作しているのか、当たりしかないし。

 最早、普段は試す機会のない、朔の能力の実験になってしまっている。

 そして、この実験は朔的には結構楽しいらしい。



(次はあれやってみたい)


 珍しく朔が興奮気味だった。

 気分は、小さな子供をテーマパークに連れてきた母親といったところか。



(早く!)


 はいはい、と心の中で返事をして、朔の指定する台の前へ移動する。


 それはスロットマシン――いや、パチンコになるのか?

 パチンコはやったことがないので、これがそうなのかは断言できないというか、ひときわ巨大で派手な物なので、「何だこれ?」というのが正直な感想だ。


 基本は玉を打つからパチンコで? 台の中央にはスロットマシンのようなリールがあって、更に随所にピタゴラスイッチ的な仕掛けが施されている。


 ひとつだけはっきりしているのは、当たればきっといっぱい出るやつだということ。

 というか、上に表示されているのが、大当たりした時の金額だろうか。


 すごいよ。

 日本円にして百億円だ。

 正気か?


 こんな非合法な所で勝負する人がいるのか?


 そもそも、ギャンブルには「還元率」というのが設定されているそうだし、普通にやればまず当たらないのだと思うけれど、これもイカサマを使えば当たるのだろうか。



(うーん、この状態だと、大当たりする確率は0%っぽい)


 朔が判断するならそうなのだろう。

 それだとさすがに朔でも無理か?

 というか、それはイカサマというか、詐欺じゃないの?


(仕掛けのひとつひとつはクリア可能なんだけど、微妙な玉のサイズとか、重量とか、それぞれ微妙に前提条件が異なるから、組み合わせると不可能になる。恐らく、念動力とかの対策だと思うんだけど、錯視を利用した工夫なんかもあるし、魔術的な防御もあるかもしれないね。上手く作られてると思うよ)


 額を考えれば当然なのかな?


 まあ、私なら世界を改竄すればどうにでもなるけれど、やったところでお金くらいしか手に入らないのと、その後が面倒くさそうなのでしない。

 むしろ、面倒事軽減のために、ここで適度に負けておく方がいいと思うくらいだ。



(いや、これだけやれば大丈夫だと思ってるところを崩すのが楽しいんじゃないか。ユノだって、困難に立ち向かうのは好きでしょ? いや、ここで彼を負かすことが、彼の階梯を上げるために必要なことなんじゃないかな?)


 そう言われると否定できないけれど、朔は自分の能力の実験がしたいだけだよね?



(うん)


 それじゃあ仕方がない。

 打つか。


◇◇◇


――第三者視点――

 カジノの責任者でもあるジェイも、異能力の存在を知っている以上、対策は充分に整えていた。

 それは、身辺の警護だけではなく、カジノでのイカサマ対策も同様のこと。


 もっとも、前者も、銃器程度ならともかく、さきのように霊獣を取り寄せられては、対策が不十分だったと認めざるを得ない。



 それでも、カジノのゲームではアポートは役に立たない。


 ――そのはずだった。




 ブラックジャックでは、イカサマどころかルールすら知らない様子である。

 何しろ、21になるかバーストするまでヒットしかしないのだ。

 そう判断するのも当然だろう。


 これ幸いにと、何かの切っ掛けにするために「適度に搾り取れ」と指示を出したが、それに気づかれてからは謎の連勝が始まった。



 アポートを使っている様子は無い。


 そもそも、手元にしか取り寄せられず、正確に認識している物しか取り寄せられないはずのアポートで、手札を揃えるのは現実的ではない。


 ほかの能力で何かをしている可能性も無い。

 魔術と違って、異能力はひとりにつきひとつだけ――ただひとりの例外を除いて、それがこの世界の常識なのだ。


 ユノの能力がアポートかそれに近いものなのは、自身の目で確認済みである。


 しかし、アポートを警戒云々以前に、手を触れてもいない手札が100%ブラックジャックになるのだ。

 ディーラーも困惑しているようで、ディーラーのイカサマを上回る方法でイカサマをしているのは明らかだったが、それが何なのかが分からない。



 今一度、ユノの能力がアポートではないのかもしれないとも考えた。


 しかし、それでは霊獣を取り寄せた能力の正体が分からない。


 魔術と異能力との両立は可能なので、「召喚術」という線もあるが、あんな霊獣が召喚できるアポート能力者など、考えただけで怖すぎる。

 違う意味でチェックメイトだ。


 しかし、召喚獣であれば、術者と召喚獣の間には必ず契約が存在する。


 そして、召喚時に支払うべき対価――魔力が無い彼女には召喚魔術の行使は不可能で、魔力の代わりに生命力を提供しているようにも見えない。

 したがって、「召喚術」という線は薄い。


 また、古の魔女のように、使い魔として従えていたのだとしても、それはそれで最初からいたはずで、これだけ力のある霊獣に気づかないはずがない。

 むしろ、こんな霊獣を使い魔にしている方が怖い。

 一般的な使い魔は、主人のちょっとした目や手になる程度のものなのだ。

 こんな破壊力の高い目や手があるなら、アポートより先にそれが話題になるはずである。



 しかし、ジェイが手掛かりを掴むより先に、ユノが行動を起こした。


 彼女が移動した先は、アポートなど活かしようがないはずのスロットマシンである。

 そして、大当たりを連発するという、あり得ないイカサマを始めた。

 むしろ、これ以上ない挑発である。


 とはいえ、タネが分からないのにイカサマだと言っても難癖でしかなく、暴力に訴えるには相手が悪すぎる。


 今の彼女を止めるのは、スロットマシンの身代わりになるということである。

 自身の身体から、何がジャンジャンバリバリ溢れ出すかなど、考えたくもない。



「ジェイさん、のんびりしている時間はないのでは?」


 早々にチップを使い切ってしまった柳田が、気の毒そうにジェイに声をかけた。


 柳田も、場合によっては、これがジェイとの最後の会話になると理解している。



「もし貴方が我々のエージェントの保護に協力していただけるのなら、我々にも貴方を保護する用意がありますが」


 その上で揺さぶりをかけた。


 当然、こんな展開になるとは考えていなかったので、皇にも柳田にもジェイを保護する用意など全く無い。

 精々、彼が皇のエージェントに対して行ったものと同じ扱いになるだけだろう。



 ジェイも、柳田の提案に一瞬心が揺らいだ。


 しかし、すぐに柳田の真意を見抜くと、「元はといえば、お前があいつらを連れてきたせいだろう!」と逆ギレした。

 声や態度に出さなかったのは、柳田の隣で、妹の暴挙をにこやかに見守っている御神苗アルトの存在が怖かったからである。


(こいつら、賭場荒らしを何とも思ってねえ……! 黄龍会を――いや、バックもまとめて相手にしても構わねえってことか? いや、妹の方の能力か! あれ? 兄貴の方もか? どっちにしても、いつでもどこでも暗殺される危険がある――敵に回せば、間違いなく組織から切り捨てられる! 何だよ、下っ端エージェントひとり拉致ったくらいでここまでやるか!? 天女様みたいな顔してんのに、とんだ死神だぜ……! そうか、NHD拠点襲撃も、真正面からやってもこれだけできるって見せるためだけのデモンストレーションだったってわけか!? ヤベえな、こいつらイカれすぎだろ……)


 ジェイの性格上、これまで舐めきっていた皇や柳田に頭を下げるのはプライドが許さない。


 それでも、御神苗と直接敵対はできない。


 ならば、やるのは皇だ――と、論理が飛躍したのは、絶対に負けるはずのない彼の自信作が、盛大に理解させられていたからだろうか。



 日本のとあるコミックから着想を得て実際に造り上げた、難攻不落どころか絶対に攻略不可能なはずの、彼にとっては貞淑(ていしゅく)な妻のような存在のそれが、出会ったばかりの小娘に篭絡ろうらくされていたのだ。

 脳細胞が破壊されていてもおかしくはない。

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