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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第二章 邪神さん、異世界で変身する
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25 ドジっ子メイド

誤字脱字等修正。

「アイリス、治して」


 自ら傷付けた掌と指名料の金貨を差し出して、アイリスを個室に誘う。


 リリーがおねだりしてくれなかったのは残念だけれど、こうしていても始まらないので、アイリスと相談した上で、さっさと助けに行きたい。



「ユ、ユノちゃんが怪我だと!? アイリス様、どうか、どうか傷が残らないように頼む! 金が必要ならいくら出しても構わねえ!」


 なぜかモヒカンさんが過剰に反応していた。


 それはつい先ほどお金の支払いで揉めていた人とは思えない言葉だった。

 あるなら立替えてあげればよかったのに。


「オラ! 救急患者が通るぞ! 道を開けやがれ!」


 言っていることは無茶苦茶だけれど、彼が露払いまでしてくれたおかげで、すんなりと個室まで行くことができた。

 何だか分からないけれど助かったのは確かなので、後でお酒でも差し入れてあげよう。




「行くんですか?」


 個室に着いて、関係者だけになると、すぐにアイリスが切り出した。


「うん、そのつもり」


「――確かに、早ければ早いほど助かる確率は上がります。ギルドや王国に救出を依頼したとしても、場所が場所だけに準備だけでも一日はかかるでしょうし、更に被害が拡大する可能性もあります」


「一時間くらいで帰ってくるつもりだけれど」


 ソウマくんたちがどこまで進んでいるのかは分からないけれど、本気を出せば1時間もあれば4、50階くらいは行けそうな気がする。

 なので、追加料金は無しの方向で頑張ろう。


「――大丈夫だとは思いますが、無理はしないでくださいね。アリバイはこちらで作っておきます」


 アイリスにも、いろいろと言いたいことはあるのだろう。


 それでも、時間が貴重なことはお互い充分に理解しているので、会話は最低限で済ませた。

 こうやってアイリスがバックアップしてくれるのなら、私も安心して行動できる。



「ありがとう。リリーはもしジェイソンさんが起きたら事情を聞いて、魔法か何かでミーティアに連絡してくれるかな?」


「え、あ、はい!」


 オロオロしているリリーにも役割を与えて、出発準備は完了だ。

 神殿から迷宮の島まで結構な距離はがあるけれど、今のリリーの魔力なら、《念話》くらいは届くだろう。

 まあ、届かなくても問題は無いけれど。


 これは、リリーの不安や焦りなどを解消させるための方便なのだ。

 一応、状況や会話を認識できるくらいには落ち着いているようだけれど、だからといって、ケアをしなくてもいいということではないと思う。


 問題は、ミーティアが酔っ払っていないかだけれど、酔っていた場合は泳いで行くか、水面を走って行くしかない。


◇◇◇


 教会を窓から抜け出して、朔の探知能力も使って、誰にも目撃されないように宿へ向かう。


 急いでいるとはいえ、人に見られるとアリバイ作りも台無しになるので、慎重に行動しなければならない。

 こういう時に《転移》魔法とかがあれば助かるのだけれど。



「ヘイ、タクシー!」


 どうにか宿まで辿り着くと、窓から片手を挙げて、室内にいるミーティアを呼ぶ。


「いきなり窓から帰ってきたかと思えば、何を言うとるんじゃ? リリーはどうした?」


 畳の上にうつ伏せ状態でだらけていたミーティアが、首だけをこちらに向けて問い返してきた。

 幸いなことに、まだ酔ってはいないようだ。


「ちょっと急用で。悪いのだけれど、島まで運んでくれないかな?」


「儂を都合の良い乗り物扱いか? 高くつくぞ?」


 ミーティアの顔にはありありと「面倒くさい」と出ているけれど、何だかんだで「嫌」とは言わないのは有り難い。


「また身体を洗ってあげるから、頼むよ」


 身体というのはもちろん竜型のことだ。

 人型は毎日洗わされている。

 もちろん、疚しいことなど何もない。


 (くだん)の条件は、ミーティアが脱皮した直後、あちこちに付いていた細かな古い皮をリリーと一緒に洗ってあげたのだけれど、人型とはまた違った心地良さがあったらしく、また洗ってほしいとお願いされていたのを持ち出したのだ。



「ふむ、まあよかろう。詳しいことは上で聞こうかの」


 ミーティアはそう言うと、私を抱えて空へと飛び上がった。

 そして、町が随分小さく見える高度まで上昇したところで、ミーティアが本来の竜の姿に戻って私を背に乗せる。


 そのまま抱えて飛んでもいいのではないかと思うのだけれど、またもや竜としての矜持があるらしい。

 面倒くさいね。


 まあ、バレなければ何でもいいけれど。


 とはいえ、超高速で一直線に飛ぶ姿は、地上からは流れ星のようにしか見えなかったと思うけれど。


◇◇◇


「それで、儂はここで待っとるだけでよいのか?」


「一緒に行ったら正体バレバレだし」


 ミーティアに、迷宮の入り口から少し離れた場所に着陸してもらうと、竜型のままで待機してもらうようにお願いした。


 一緒に迷宮に入れば、私たちの正体がバレる。

 というか、ミーティアが人型になるだけでもバレるだろう。


 冒険者に見つかると面倒だけれど、《認識阻害》の魔法も掛かっているらしいし、既に日も暮れ始めている。

 すぐに闇に紛れて分かりにくくなるはずだ。


 それに、島では夜間に狩りをする人がほとんどいないのは確認済みだ。



 しかし、ここでふと思い出した。


 厄介事に首を突っ込むときは、変装すると決めていたのだった。

 アイリスやクリスさんたちと、そんな約束をした記憶がある。


 既に変装してるとはいえ、不用意に顔を見せるのはまずい気がする。


 とはいえ、朔の中にある物は、投擲用の武器と、岩や石などの自然物に魔物の素材と魔石、水と食料、薬品類、お金。

 それと、先日竜型のミーティアを洗った時に使った掃除用具と、今日購入したリリーの衣類。

 後は、その他の日用品少々。


 これらの何かを使って、若しくは組み合わせて顔を隠さなければならない。




「何をやっとるんじゃ?」


 ミーティアが(いぶか)し気に尋ねてくるけれど、それも無理はない。


 自分でも迷走しているのは自覚している。



 タオルを上手く使えればと思って、顔の正面を丸ごと覆ってみたものの、固定が上手くいかない。

 少し動くとずれ落ちてしまうし、きつく縛ろうとするとその時点で壊れれてしまう。


 ロープで固定することも考えたけれど、顔をタオルとロープでぐるぐる巻きとか、猟奇的(りょうきてき)な絵面になる気がする。


 助けに来たと言っても信じてもらえないかもしれない。

 魔物の皮などを使ったものも、同様の理由で却下だ。


 ミーティアに何か持っていないか確認してみるも、そんなものはないと返された。


 まあ、見せたがりのミーティアが覆面など持っているはずがない。

 愚問だった。


 リリーの衣類、特にパンツを使うのは論外だ。

 大して顔が隠れない上に、こんな変態に助けられるくらいなら、私なら死を選ぶ。

 何より、リリーに合わせる顔がない。



 何も思いつかなくて、何気なくバケツを被ってみると、案外しっくりきた。

 内部にクッションになるような物でも付ければ、高速行動にも耐えられそうだ。


 それに、冒険者の被るヘルメットに、似たような物があった点もグッドだ。

 これくらいなら、エリート冒険者さんたちと比べれば大人しい方だし。

 視界はゼロだけれど、それは領域を広げれば問題無い。



 他に適当な物も見当たらないし、これ以上時間を使うわけにもいかないので、これで決定とする。

 ずっとこの格好でいるわけでもないしね。


 朔が気を利かせてくれたのか、いつものゴスロリ服をメイド服に変更してくれた。

 できればロングスカートにしてほしいところだったけれど、頭の中で『却下』と聞こえた気がした。

 有り難くて涙が出そうだ。


 せっかくなので、デッキブラシも背負って準備完了。

 同じやるなら徹底的にやるべきだ。



 そして、これなら、どこからどう見ても、掃除にきたメイドさんだ。


 なお、このデッキブラシはクリスさん謹製の耐久力が桁外れのスーパーデッキブラシで、その中でも、竜型のミーティアを洗うのに使った生き残りである。

 最早、相棒といっても過言ではない。

 やっぱり過言かも。



「お主がそれでよいのなら何も言わんが……」


「他に良さそうなのもないし、こんなヘルメット被っている冒険者もいるし――ヘルメットを被ったメイド、略してヘルメイド――って、あれ? 地獄から来たメイドみたいな響きに……! 冥途のメイド!」


「お主は一体何を言うとる? お主の言っておることが理解不能すぎて、時々怖くなるのじゃが」


 確かにさっきのは面白くなかった。


 それにしても、「怖い」は言いすぎではないだろうか。

 ミーティアにはきっとユーモアのセンスがないのだ。



 何にしても、長々と話していても仕方がない。


「それで、その地獄メイドとやらに朗報じゃ。探しものは30階の一番奥。門番手前の小部屋じゃ」


 ジェイソンさんが目覚めてリリーが場所を聞き出したのか、ミーティアの口から目的地が告げられた。


 予想以上に進んでいる。

 それでも、突入前に聞けたのは有り難い。



 追加情報として、勇者一行は30階の門番に挑む寸前――荷物や装備の最終確認中に、トレインに遭遇したそうだ。

 しかし、ジェイソンさんがそれに逸早く気づいたおかげで、どうにか全員無事に小部屋に逃げ込めた。

 ただ、荷物や装備の大半は回収することができずに失ってしまったらしく、水や食料もほとんど残されていない状況なのだそうだ。



 予想では、もって5日。

 ただし、戦闘などを行わないことが条件だ。


 そこから自力で20階のポータルまで戻ることはほぼ不可能で、救出隊の到着を待っていても助からない可能性も高い。



 そこでパーティーは、ソウマくんに保険代わりに持たせていた、【転移のアミュレット】という《転移》魔法の込められた道具で、ソウマくんだけでも逃がそうとしたものの、ソウマくんがこれを拒否。

 だったら、誰かが救援を呼びに行くという話になったものの、転移のアミュレットに込められた魔力量と、各人の時空魔法適性では、地上までの《転移》はまず不可能。

 彼らの中では最高の戦闘能力を誇るソウマくんでも、単独で地上に生還できる可能性は微妙。

 むしろ、危機回避能力に長けたジェイソンさんが最も可能性が高かった。


 何より、ソウマくんが欠けると、残されたメンバーの生存の可能性は極めて低くなる。


 そう判断されて送り出されたジェイソンさんが、偶然遭遇したモヒカンさんのパーティーに助けを求めた――ということらしい。



 ソウマくんは、子供だとばかり思っていたけれど、しっかりと男の子をしていて、とても好感が持てる。


 ジェイソンさんや、他の人たちの覚悟もだ。


 まあ、ソウマくんひとりを逃がそうという(てい)で、無自覚だとは思うけれど、自分たちが逃避をしていたのはどうかと思うけれど。



 とにかく、ちょっとやる気が出た。

 それが救助を急がせるために、多少脚色されていた話だとしてもだ。




「本当にひとりで行くのか? お主の苦手な虫やアンデッドはどうするつもりじゃ?」


 ソウマくんの心意気に応えようと気合を入れた途端、ミーティアのひと言に水を差された。


 そういえば、迷宮には気持ち悪いものがいっぱいいた。

 その時はリリーとミーティアが処理してくれたのだけれど、ひとりで行くということは、私自身で対処しなければならないのだ。



「う……、我慢……する」


 それでも、迷宮の主だか管理者に素性を知られたくない。


「儂にはお主ひとりの方が、よほど問題を起こすように思うが……。まあよい。今のお主は新種の魔物に見えなくもない」


「酷いな」


『見た目が怪しい。中身も妖しい。冒険者と遭遇したら、間違いなく襲われるね』


 そんなに!?

 というか、中身は普通だと思う。

 むしろ、怪しいのは朔の方だろう。



「まあ、行ってくる」


 このまま話していても私が弄られるだけだと思うので、時間の無駄――迷宮に入る前に、既に20分も使っているのだ。

 これ以上遊んでいるわけにはいかない。


 ということで、緊迫感の欠片もない会話を切り上げて、迷宮に向かった。


◇◇◇


 時間との勝負ではあるものの、一身上の都合によりポータルは使えない。

 使っても、10階程度だと誤差でしかないし。



 朔と同化して、領域を薄く展開して目的地までのコースを割り出す。

 当然、見たくない、触りたくもないものもいろいろと発見して、精神に重大なダメージを受ける。


 迷宮に入って2秒で地面に膝を突いた。


 この探知能力はとても便利なのだけれど、領域内の視覚情報だけでなく、嗅覚や触覚、果ては味覚まで認識できてしまう諸刃の剣なのだ。


 領域を薄く展開していることと、朔が不要な情報をカットしてくれるようになったので、今はどうにか我慢できているけれど、朔との意思疎通が上手くいかないとこうなる。


 というか、朔はそういうのも味わいたい派らしいので、遮断してくれるだろうと油断をしているとこうなる。


 この憤りをどこにぶつければいいのか――神か? 世界か?

 余計なものを創りやがって。

 不快害虫の姿が可愛らしい妖精さんとかなら、世界はもっと平和だったはずなのに。



 それでも、ソウマくんたちが無事なことは確認できたし、コースも朔が覚えてくれた。


 ソウマくんたちと同じ場所に、見覚えのない冒険者風の男の人がふたりいるけれど、彼らも遭難者なのだろうか?

 ジェイソンさんからの報告には無かったので、分からない。


 とはいえ、それは現地で確認すればいいだけだ。


 彼らが立て籠っている小部屋の外は、魔物のバーゲンセール状態なので、とにかく急いだ方がいいだろう。

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