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21 接触

――ユノ視点――

 前回の《洗脳》作戦は大成功。


 《洗脳》があれば、もう私は必要無いのではないかと思うくらいだ。


 もちろん、拗ねているとかそういうことではなく、個人の意志を捻じ曲げるものが好きではないだけだ。

 被害を小さく抑えるためとか、必要に迫られてということも分かるけれど、やはり見ていて気持ちのいいものでもない。


 だからといってほかに対案があったわけではないし、暗殺などで対処するのはターゲットの数が多すぎたので、無理してやればもっと大事おおごとになっていた可能性が高いことは理解している。



 一応、アルの言い分としては、《洗脳》は対象の本質を変えてしまうようなことはないらしい。

 そういう命令を出すと、抵抗されたり破られたりする切っ掛けになるので、私が思っているほど意志を捻じ曲げてはいないはずだそうで――例としてオリアーナを出されると、納得できるようなできないような。

 まあ、アルがきちんと理解や覚悟をしてやっているなら、それでいいことでもある。

 最悪は、因果が巡ってくるだけのことだしね。



 ……そういえば、その時、洗脳されたアルに胸を刺されなかったか?


 私がその時のことを思い出しているのを察したのか、アルが慌てて言い訳を始めたけれど、別段責めているわけではないのだ。

 さきの人たちも、洗脳されていなくても、そもそも力に溺れて自身を見失っていたようだし、大差ないといえばそれまでなのだし。




 とにかく、気を取り直して次の作戦へ。


 今回の作戦は前回までの物と少し毛色が違っていて、政府系秘密組織からの依頼だそうだ。



 さて、魔術や異能力というのは、古くから――それこそ有史以前から存在する。

 もっとも、魔素や魂の性質を考えれば当然のことで、それを現代まで上手く隠していたことを褒めるべきか、咎めるべきか。


 そして、そこで何が行われているかも含めて、お上もある程度は把握している。

 というか、把握だけでなく、自組織で魔術師や異能力者を囲い込んだり、ほかの組織に対しても一定の管理を行っている。


 協力的な組織であってもそれなりの危険性があるのだから、国民の生命や財産を守るために必要なことなのだろう。



 なお、彼ら自身も公にすることはできない組織なので、その事実を知っている人は極めて少なく、総理大臣ですら知らされていないそうだ。


 まあ、総理大臣には余計な主義とか思想がついていることが多いので、妥当な判断ともいえる(※偏見)。

 迂闊にバラされたりすると大問題だし、政治家とは――ほぼ全ての人間は口を滑らせるものだからね。



 なので、組織系統はかなり特殊。

 所属員は、対外的な身分上は公務員だけれど、一般的な公務員のような権利や義務はなくて、もっと強い権力と制約が課されているそうだ。



 もちろん、その組織は、私たちのこと――ネコハコーポレーションについては以前から、最近は御神苗についても調べていたそうだ。


 しかも、ネコハコーポレーションの方は何度か返り討ちにあっていたらしく(※犯人)、御神苗については、調査していたら逆に悪魔に嵌められて弱みを握られたらしい。


 そこであれやこれやの駆け引きのようなものがあって、「私たちの不利益になるようなことはしないし、何かあれば最大限の配慮を行うので、何かあったときには力を貸してほしい」という契約が成立していたそうだ。

 アルは聞かされていたそうだけれど、私は初耳だった。


 アル曰く、「そりゃ、《洗脳》だけで全てが完結するとは限らないから、権力を味方につけるのは悪いことじゃない」そうで、言われてみればそんなものかと納得するしかない。


◇◇◇


 さておき、まずはとある高級ホテルで、くだんの組織の人と合流する予定になっている。


 詳細はそこで聞くことになっているので、ここで何をするのかは全く知らない。

 組織のこともついさっき聞いたばかりなので当然だろう。



 少し遅めの時間にホテルに到着。


 一応、その政府系組織が「ヤバい組織の息がかかっていない」と判断している高級ホテルなので、当然のようにドレスコードがある。


 なので、アルはスーツ姿なのだけれど、できる男が着ると格好よく見えるものである。

 しかし、私の時はどう頑張ってもコスプレ感が抜けなかったのに、この差は一体どこから来るのか。

 顔は問題無いと思うので、やはり体格とか筋肉なのか?


 まあ、今は女性だし、外見的には未成年なので、スーツを着る機会はほとんどないと思うけれど。



 なお、私の装いはシンプルなデザインの黒いイブニングドレスだ。


 アルからは、「素がいいから何でも似合うな」と、割と適当なコメントを頂いた。

 特別見るところはないので妥当な評価だとは思うけれど、ロビーではかなり注目を集めてしまった。

 適当すぎただろうか。



 アルがフロントで何やらやり取りしてしばらくすると、一組の男女が私たちに向かって歩いてきた。


 ふたりとも三十代前後といったところで、こちらも格好よくスーツを着こなしていて、やり手感が半端ない。


 なお、やり取りについてはアルに一任している――というか、何も喋るなと言われているので、置物と化しておく。 

 ただ、そこにいるだけで相手の冷静さを失わせるそうなので、お荷物ではないと思いたい。



「初めまして、すめらぎです。よろしくお願いします、御神苗さん」


 特に本人確認されることもなく挨拶された。

 散々調査していたらしいので当然か。



「初めまして、皇さん。御神苗です。こちらこそよろしくお願いします。それはそうと、身元確認は必要ですか?」


「い、いえ、容姿は存じておりますし、それに、聞いていた情報と恐ろしいほど一致していますので――むしろ、これほどとは……」


 ふたりはなぜか、こちらを見て納得――というより顔を青くしている。

 ……余計な手間が増えないなら何でもいいけれど、とりあえず会釈だけしておいた。




 簡単な挨拶が終わるとラウンジへ移動。


 先方の担当者さんは、冷静さを失いすぎてか、何もないところで(つまず)いて転ぶレベル。

 むしろ、演技なのかと疑うくらいに大袈裟に取り乱している。



 なお、男性の方が上司で【柳田】さん。「皇」というのは組織名のようなもので、個人を呼ぶときははそちらになる。

 公にできない組織なので、そのあたりは上手く使い分けろということらしい。

 なるほど、黙っていろと言われるわけだ。



 なお、柳田さんは32歳独身で部長のエリート。

 ただし、魔術や異能力は使えない。


 そもそも、異能力者や魔術師たちの大半は現場職で、第一線を退いても後進のサポートや指導など、必要とされる場が多いため、管理職の多くは魔術や異能力に理解のある一般人だそうだ。


 そんな人が現場に出てくるということは、今回はそれだけ重要な案件というか、私たちの対応がそれに当たるということか。



 そして、女性の方は【清水】さん。

 こちらは能力者で、柳田さんの護衛。

 能力は身体能力強化。


 ちなみに、こちらの世界での魔術と異能力は、異世界での魔法とユニークスキルのような分類で、ネコハコーポレーションの商品で目覚めるのは後者、前者は習得できれば誰でも使える。

 清水さんの身体強化も後者で、能力的には地味だけれど、汎用性の高い能力だそうだ。


 うーん、気合で身体能力を強化しているようにしか見えないし、魔力の持つ意味――本来の可能性に至っていないというのは指摘した方がいいのだろうか?

 まあ、いいか。

 大人しくしておくのが今回の仕事だし。




 さて、肝心の依頼内容はというと、口頭や書類での説明ではなく、何やらごつい眼鏡を渡された。

 それをアルが何も言わずに掛けるので、私もそれに倣ったけれど、特に何も起こらない。


 この間、みんなずっと無言である。


 何かを試されているのか、何がどうなっているか分からないのだけれど、私も負けずに置物になる。



「なるほど――」


 しばらくして、アルが眼鏡を外すと同時に指をパチンと鳴らして、何らかの魔法を発動する。


 それに対して一瞬身構える皇のふたり。

 何が起きているの?



「心配しないでください。防音と認識阻害の効果がある結界を展開しただけですので」


「――なるほど。聞いていたとおり――いや、それ以上の実力をお持ちのようだ」


「こんな高度な結界を一瞬で――! すさまじい――を通り越して、少し怖いですね。味方で良かった……」


 ふたりのヨイショしているわけではなく、本気で賞賛している感じに、アルもご満悦な様子。

 というか、何がどうなっているか説明してほしいのだけれど。



「突然で申し訳ない。ですが、必要な措置だとご理解ください。それと、外部からは差し障りのない会話をしているようにしか見えませんのでご安心を」


「いえ、ご配慮感謝します」


「申し訳ありません。あまりに見事な魔術に、少し取り乱してしまいました」


 アルが何だか楽しそうだ。



「いえ――本来はもっと落ち着いた場所で話せればいいんですが、これなら監視がいてもいい攪乱かくらんになると思いますので」


「そうですね。しかし、これはすごい――」


 柳田さんが、立ち上がって挙手をしたけれど、誰も気にした様子がない。

 さらに、手を振ったり、ジャンプしたりと、次第にエスカレートしていく彼を、清水さんが恥ずかしそうに制止して席に座らせる。



「失礼いたしました……」


 まあ、パートナーが突然奇行に走ったりすれば恥ずかしいよね。



「では、簡単に確認させてください。今回のご依頼は、敵勢力に捕まっているエージェントの救出ということで間違いないでしょうか?」


 そうなの?

 いつの間にそんな話に?

 もしかして、さっきの柳田さんの奇行は何かのサインだったのか?



「ええ。正確には、敵勢力ではなく、本来は協力関係にある組織なのですが……。お恥ずかしいことですが、国家間の勢力バランスの変化に伴って、少々目に余る行動も出てくるようになりまして……」


「魔術師、異能力者という括りでは仲間ともいえますが、根底にあるのは個人や人種――というか、環境でしょうか。特に国家を跨ぐと価値観が違うことも多々ありますので、付き合い方が難しいですね」


「ご心労お察しします。それで、我々にご依頼いただいたというのは、お仲間の救出ということでよろしいか?」


「ええ。ただ、さきのブリーフィング内容にもありましたように、先方と敵対しないというのが絶対条件で、なおかつ、可能であれば先方に非を認めさせた上で、謝罪と今後同様のことが起こらないようにしておきたいと考えております」


「ふむ、奪還だけなら簡単なんですが、後者は何か腹案がおありで?」


「簡単、ですか……」


「ええ、まあ。できるよな?」


 何か突然話を振られても分からないのだけれど、とりあえず頷いておく。



「……それは心強い。もしよろしければ、方法を教えていただいても?」


「部長、さすがにそれは――」

「いえ、構いませんよ。皇さんからすれば、当然確認しておくべきことでしょうし。ユノ、アポートを見せてあげて」


 何も分かっていないのだから、こっち話を振らないでほしい。


 というか、アポートとは何だったか?


 ……アポート、アポー――リンゴ? あ、分かった!


 手元には1匹のネコちゃん。a cat――アキャット!

 ……間違ったかな?


 思い出した!

 何かをお取り寄せする能力のことだったか?



「……生物まで転送できるのですか。なるほど、これなら……!」


「この距離で能力の行使の気配すら見えなかった。これが実戦だったら……」


 リアクションから察するに、あながち間違いでもなかった?


 さておき、新たに創ったこの眷属をどうしたものか。

 あまり大した能力は与えていないのだけれど。



「実は、腹案というほど大したものもなくて――我々としましては、御神苗さんと仲良くしているところを見せて、先方の反応を見ようかと――」


 なるほど。

 つまり、虎の威を借りたいとかそういうことかな?

 ネコでよければ貸してあげられるのだけれど。

 いや、仲良しアピールということは、プレゼントの方がいいか?



「でしたら、今から行ってみましょうか――ああ、アポとか取った方がいいんですかね?」


 む、「アポート」と「アポ」をかけたのか?



「え、いや特にアポは必要無いですが……。何か策でも?」


 さすがに冗談を言っている場合ではなかったか。

 口に出さなくてよかった。



「いえ、これといって特に。――ですが、捕まっている人も、尋問対策や防衛術式があるといっても、絶対に突破されないわけでもないでしょうし、暗号を解読されるのもよくないですよね。だったら、少しでも早く助け出した方がいいかと」


 アルがまたこちらに視線を寄こしてきたので、よく分からないけれどまた頷いておく。



「――分かりました。よろしくお願いします」


 よく分からないけれど話がまとまったのか、しばらく悩んでいた柳田さんがゴーサインを出した。

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