20 洗脳大作戦
――ユノ視点――
ドラゴン退治を終えて一時帰国すると、クラスメイトたちから遊びのお誘いが来ていた。
もちろん、私はチャンスを逃す女ではないので、参加希望の旨と、直近の空き日程を送った。
すると、あれよあれよという間にいろいろと決まって、日程は8月15日から2泊3日で、行き先は稲葉くんのご両親が都合してくれた温泉旅館。
なんでも、団体客の急なキャンセルが出たとかで部屋が空いていたらしい。
私の空き日程に合わせてそんな偶然が起きるとは考えにくいので、恐らく、稲葉くんのご両親が気を利かせてくれた上に、気を遣わせないように配慮してくれたのだろう。
そういった事情なので、料金などは気にしなくていいと言われたけれど、見た目は小娘でも社会人経験がある私としては、やはり何らかの形でお返ししておくべきだと思う。
もちろん、配慮を無視するような現金は論外である。
安すぎず高すぎずの旅行のお土産くらいがいいかなと思うけれど、NHDでの戦利品は、武器弾薬や金銀財宝と麻薬と拉致被害者くらいである。
どれもお土産向きではない――というか、拉致被害者に関しては、帰る所があるなら帰らせる方針なので、お土産にはできない。
そうなると、8月2日から中東で、6日からは東アジアで、直前の11日から国内での作戦らしいので、余裕があれば何か見繕おう。
さておき、クラス全体のもの以外の連絡手段が無かったので、夏休みに遊びに行けるとは思っていなかったのだけれど、これは友達を作るチャンスである。
もっとも、時期的に都合がつかなかったのか、参加者はクラスメイトの四分の一か五分の一くらいだけれど、その人たちと集中的に仲良くなれると思えば悪いことではない。
それに、何を想ったのか、真由とレティシアまで参加する。
もっとも、私のところには「勘違いするな」とか、「余計なことはするな」などと、毒のあるメッセージが届けられているのだけれど。
何にしても、ふたりが自発的に外に出てくれるなんて、姉としては嬉しい限りだ。
また、14日には姫路さんたちとお買い物イベントまで発生している。
水着とか、15日に行う予定のBBQの食材を買うとか。
BBQといえばウシ! ウシといえばcow! cowを買う!
いや、ウシ1頭を買ったりはしないけれど。
それよりも、その日は直前の作戦の日程からは外れているのだけれど、万一延長などされてしまうと参加できなくなってしまう。
それ以外の作戦でもそうだけれど、予定厳守でしっかり仕事を片付けよう。
◇◇◇
8月2日。
今回の標的は、とある武装組織の一団で、ロケーションは紛争地における市街戦になる。
彼らは、テロリストを相手に、若しくはテロリストに扮して、戦闘系の能力に目覚めた人の実戦データを取っている集団だそうだ。
一応、私設組織ではあるのだけれど、後ろ盾に大国がいたりするので、今回の作戦ではそれらをいたずらに刺激しないようにこっそりと行う。
と言ってはいるけれど、恐らく雰囲気で作戦を立てていると思われる。
いつものことだし、方針が明確な方がやりやすいので従うけれど。
作戦は2段階。
第一段階は、前線でデータを集めている兵士たちと、バックアップ――というか、観測部隊の無力化。
可能なら生け捕りにするのが望ましいけれど、今回は私たちの痕跡を残さないことが最優先で、無理そうなら皆殺しにして証拠隠滅。
第二段階は、彼らの基地というか、施設で行われている実験データの破壊と、研究員の排除。
こちらも私たちの痕跡を残さないのが前提で、全てを台無しにしていいならともかく、必要な分だけとなると私ひとりでは難しい。
まあ、アルに腹案があるようなので期待したいところ。
◇◇◇
中東某所紛争地。
戦場から少し離れた場所で、廃墟に隠すように配置された3台のトレーラー。
簡易管制室兼、異能力持ち兵士さんたちの戦闘データ収集用の車両である。
まずはこれを掌握する。
普通に襲撃しても構わないのだけれど、それが基地や前線の兵士さんに伝われば面倒になる可能性がある。
とはいえ、そっちは完全にアルにお任せ。
アルが光学迷彩的な魔法を使って堂々とトレーラーに潜入すると、《洗脳》の魔法で見張りの兵士さんや、オペレーターさんたちの意識を混濁させる。
それだけで、彼の思いどおりに動かせる人形の出来上がり。
私はその間に前線の兵士さんたちのお片付け。
身元がバレるといけないので、現地のテロリストが着ているような戦闘服に身を包み、ヘルメットとマスクで顔を隠す。
そして、アルの操るオペレーターさんに偽情報を流させて、兵士さんたちをテロリストさん側のキルゾーンに誘導。
一般的な部隊だとこの時点で詰みだと思うけれど、「超人部隊計画」とかいう香ばしいプロジェクトのモルモットさんたちは、このくらいでは斃せない。
何しろ、銃撃やちょっとした爆発程度では死なない人とか、普通の人間の反応速度では捉えきれないくらいの速さで動く人とか、念動力っぽい能力で簡易バリケードを造ったりする人、負傷した人を即席で癒す人などがいて、バリエーションに富んだ能力で状況にも対応している。
異世界でよく見た光景である。
もっとも、テロリストさんたちには悪いけれど、彼らは囮である。
まずは、広範囲で戦場を観測して、戦域内の目につくドローンを撃墜。
何のドローンかは分からないけれど、ハイテク機器のことはさっぱりなので、排除しておいた方が面倒がない。
それから、オペレーターさんに情報を流しているであろう前線の兵士さんと、ついでにスピード違反の兵士さんを、フラッシュバンの大量投下で無力化。
すぐさま観測手さんの方を攫って分隊の目を奪い、無力化しておく。
そして、目がなければ満足に動けない足――手か? はひとまず放置。
次の目標は、「彼女がいれば、多少の怪我は問題無い」と、精神的支柱になってるであろう回復役――衛生兵? の人を狙う。
しかし、彼女の周辺は守りも固くて、フラッシュバンの効果も割とすぐに回復されてしまったため、同じ手は使えない。
もちろん、強引に突破しようと思えばできるのだけれど、基本的にテロリストに紛れての作戦なので、あまりひとりだけ目立つわけにもいかない。
何より、今回は「極力標的を殺すな」と言われているので、立ち回りには気を遣わなければならない。
それらの制限の理由は知らないし、特に興味も無いけれど、とにかく、目立ったり手間取ったりして第三者に情報が流されてはいけない。
今のご時世、何かにつけてカメラで撮影しているらしいし、兵士の皆さんのヘルメットやボディアーマーにも大体それらしき物が付いている。
兵士さん自体より、ハイテクの分からない私にはよほど強敵である。
さて、閃光が効かないならスモークグレネードで、ついでに催涙グレネードも投げ込んで――それらは障壁のようなもので弾かれてしまったけれど、カメラに対する目くらましとしては充分だろう。
兵士さんたちは彼女を護るように円陣を組んで備えているけれど、味方との意思疎通ができていないとあまり意味が無い。
それに、部隊の目と脳となる人が潰されている状態では、見えない敵を相手にするのは難しいだろう。
問題は、障壁の正体だけれど、私の目でもよく見えないということは、空気を操っているとか、概念的なものか。
まあ、それとは別に瓦礫で銃弾を防いでいる人もいるし、それほど強力なものではないだろうと予想して、勢いをつけて飛び込む。
正解は――よく分からなかったけれど、特に問題無く相手の間合いに侵入できたので、手に持ったままのフラッシュバンを彼らの目の前で炸裂させた。
これだけ至近距離なら効くだろう。
それでできた隙に、衛生兵さんを攫って一時離脱する。
ほかの人も、すぐに戻ってくるから待っていてね。
離脱ついでに、テロリストさんに止めを刺されないようにスピード違反の人を回収して、次に狙うのは、孤立している銃撃や爆撃が効かない人にしよう。
彼は、銃撃や爆撃はおろか、閃光やガスでもダメージを受けないことに慢心しているのか、ひとり先行――突出しすぎている。
いかにも「狙ってくれ」といわんばかりの立ち回りで、自身を囮にすることで味方の損害を抑えるのが役割なのだろう。
しかし、後方支援が途絶えた今は、本当にただの浮き駒である。
それでも、テロリストさんの装備や技術では、彼を仕留めるどころか足止めもできないようで、やりたい放題されている。
能力的には――何だろう?
銃弾が体表に触れた瞬間に、逆再生しているかのように跳ね返されているっぽい。
魔界で会ったデネブのような、物理攻撃反射とかそういう系統かな?
……前にも思ったけれど、反射って何?
重力とか慣性とかは反射しないのに、都合よく攻撃だけは反射するとか意味が分からないのだけれど?
それと、フラッシュバンの閃光や爆音も反射したのだとしたら、太陽光とか仲間との会話とかはどうなっているの?
よく分からないけれど、私の想像どおり「反射」が彼の能力だとすると、例外が存在するということが弱点となるのはデネブで証明済み。
さらに、朔に言わせれば、反射されないものは山ほどある。
ということで、今回は初期料理魔法で出た黒い塊を使おうと思う。
料理は愛情というし、愛情を反射できるとかわけが分からないし、きっといけると思う。
「はっはっはっ! 無駄、無駄あ! ごふっ!?」
良い感じでヒャッハーしていた彼の大きく空いた口に黒い塊を放り込むと、あっという間に泡を吹いて昏倒してしまった。
やはり、ご飯は――いや、愛は反射対象ではなかったようだ。
「タイランがやられただと!?」
「くそっ、こいつらただのテロリストじゃねえ!」
「応援を――何だってんだ、応答しろ!?」
前線の彼が無力化されたことで、残された分隊のメンバーが慌ただしくなる。
彼がこの分隊のエースだったのだろうか。
まあ、どうでもいいか。
「あんな仲間いたか!?」
「分からん! だが、きっと神のご加護だ!」
「我にも加護を! 押し返せ! ゴーゴーゴーゴー!」
テロリストさんの方もかなり混乱している。
神なんて役に立たないものに祈っても仕方ないのに。
お次は、念動力を使って築かれた防壁の中に固まっている人たちに、フラググレネードを投げつける。
もっとも、大したスピードではなかったからか、新たに構築された防壁で阻まれてしまったけれど、術者は特定できた。
というか、魔力の流れが素直すぎて、小細工無しでも特定できたかもしれない。
それよりも、今更だけれど、テロリストさんや異能力者さんたちをまねて、いろいろと道具を使ってみているものの、使い方は合っているのだろうか?
銃は中てればいいだけなので分かりやすいけれど、特に、非殺傷用のフラッシュバンとかだと、効く人と効かない人の判別が難しい。
まあ、いいか。
どうせ雰囲気でやっているだけだし。
とにかく、疑問と一緒にフラググレネードを大きな放物線を描くように投げて、それに気をとられている隙に死角から接近する。
……はて、目の前にいる人は、何を担当していた人だったのだろう?
興味が無さすぎて覚えられない。
それでも、もう少しで終わりなので頑張ろう。
とりあえず、何の担当か分からない人の背後をとってから、首根っこを掴んで持ち上げると、即席人間の盾に早変わり。
ジタバタ暴れるのが良い感じのミスディレクションになっている――かどうかは分からないけれど、その盾を構えたまま、念動力を使っている人に肉薄する。
さて、盾の人ごと迎撃されるかとも警戒していたけれど、念動力使いの人はどうやら受け止めるつもりらしい。
まあ、そんなにスピードは出していないし、受け止められると思ったのだろうか。
なので、接触と同時に盾の人越しにアサルトライフルを発砲。
銃弾は、盾の人を貫いて念動力の人の体内で止まった。
これも念動力で無力化されるかと思って、盾の人の身体で銃を隠していたのだけれど、必要無かったかもしれない。
さておき、重要器官を避けた峰撃ちのつもりだったけれど、思っていたよりダメージを受けていた目隠しの人の銃創にライフルの銃身を突っ込んで止血代わりとする。
ついでに、念動力の人の体内に銃弾が残っているのも良くないと思い、腸が出てしまわないように注意しながらナイフを突っ込んで穿り出す。
なお、両者とも「断末魔かな?」と思うほど大きな叫び声をあげていたものの意識は失っていなかったので、精神分離パンチをぶち込んで気絶させた。
……最初からこれだけでよかった気もするけれど、いろいろと経験しておくことが今後に繋がるかもしれないということにしておこう。
とにかく、残るターゲットはふたり。
メインアームを手放してしまったので、今の私の武装はサイドアームの自動拳銃とナイフ、それと今しがた拾った防弾盾だけ。
ナイフでは真新しいことはできないと思うので、拳銃と盾でひとりずつ無力化してみようか。
ひとまず、盾を構えながら拳銃を撃つ。
使い方としては間違っていないと思う。
しかし、ターゲットのうち、前衛に出ている人に銃撃が当たらない――というか、避けられている。
二十メートル弱の距離で朔が照準を誤ることはないので、そういう能力なのだろう。
もっとも、キリクのように銃撃を斬って防ぐ人もいるので驚きはないけれど、得意満面な顔でやれらると少しイラッとする。
だったらこれも避けてみろと、盾を構えたまま全速前進。
避けようとしても、私の追尾能力の方が高いので、そのまま轢き逃げ。
あ、カメラのことを忘れていた。
まあ、済んでしまったことは仕方がないか。
少しばかり仕事が増えるだけだしね。
それよりも、その様子を見ていた、彼の後方で制圧射撃を行っていた人が、背を向けて逃走を始めたので、盾をぶん投げて逃走経路を塞ぐ。
それに驚いて足を止めようとした彼の得物と膝を撃ち抜いて無力化完了。
銃撃である必要は特に無かったけれど、まあいい。
とにかく、多少の負傷者はいるけれど、全員生きたまま捕まえた。
後は、勝ち鬨を上げているテロリストさんたちを証拠隠滅のために処分して、私の仕事は終了だ。
ギリギリの人もいるので急ごう。
◇◇◇
アルと合流して、捕まえた兵士さんたちを引き渡す。
三途の川を渡りかけていた人もいたけれど、彼の回復魔法が間に合ったのでギリギリセーフ。
そして、アルが彼らに洗脳を施すと、彼の仕事も一応終了。
後は、洗脳された彼らが、自分たちの基地を、自分たちの手で滅茶苦茶にしてくれるという寸法だ。
一応、帯同はして略奪はするつもりだそうだけれど、痕跡を残さなければ私たちの関与は疑われない。
《洗脳》大活躍である。
《洗脳》があれば万事上手くいく。
恐らく、彼女もできるし宝籤だって当たる。
やりすぎには注意――あれ? 私いなくてもよくなかった?
アクマゾンに提出する動画撮影用?
略奪用倉庫?
◇◇◇
――第三者視点――
中東にある、とある施設が壊滅したことを受けて、そこに出資していた組織は上を下への大騒ぎになっていた。
「何だと!? 栄光ある超人部隊が裏切っただと!? 一体どういうことだ!」
「わ、分かりません! 何分、情報不足ですので――」
「まだ推測の域を出ませんが、同施設で行われていた実験設備が念入りに破壊されていたことから、精神感応能力者が実験体の思念を拾って汚染されて――それが部隊に拡散したという可能性が高いかと」
「精神感応能力者の問題点は以前から指摘されていたが――まさか、術者が壊れやすいだけでなく、他者を汚染してしまうとはな……。部隊運用の要だが、扱い方を考えねばならんのかもな……」
「ええい、そんな時間がどこにある!? 我々の立場が分かっているのか!? 一刻も早く成果を出さねば、本国に見捨てられる――いや、明日にでも切り捨てられるかもしれんのだぞ!」
「……そうは言われましても、施設は全壊、それを行った部隊は全滅で、予備部隊だけでの運用は困難、施設の実験体も実験データも全て紛失となると、残念ですが、これ以上は……」
「……無いなら盗ってくればいい。そうだ、一から研究せずとも、既にあるところから盗ってくればいいのだ。人も、データも……!」
男の計画というにはお粗末な妄想は、秘密主義の界隈では「それができれば苦労しない」ものだが、追い詰められていた彼らには対案など思いつかなかった。
それに、彼らにとっては、元々異能の研究より人攫いの方が得意分野である。
表沙汰になれば不都合なことをやっていた彼らは、このままでは本国に処分されてしまうのは間違いない。
どうせなら、少しでも生き残れる可能性に賭けるべきだ――と、追い詰められていた彼らは、現実逃避気味に作戦を練り始める。
そうして彼らが目をつけたのが、他国に拠点を置く宗教団体――を隠れ蓑にした反社会的勢力だった。
当然、彼らが注目する以上、魔術や異能力とのかかわりが深い組織である。
もっとも、そこから人を攫うとか、情報を奪取するつもりではなく――全く無いわけではないが、当該組織が予定している「ネコハコーポレーション襲撃」計画に一枚噛んで、その恩恵にあずかろうという魂胆である。
正常性バイアス込みでも成功するかは微妙なところだが、彼らが提供するのは一般戦闘員と兵器類のみ。
作戦失敗時の混乱で、教団の人材を攫うのも、データを盗むもよし――と、追い詰められていた者たちはそんなことを考えていた。




