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16 嵐の前の静けさ

 体育祭の後、用務員さんの失踪が少しだけ話題になった。


 もっとも、彼と事務的以上の付き合いがあった人がほとんどいなかったことと、彼に多額の借金があったことが発覚してから話題にならなくなった。

 彼についての噂はそれだけで、盗撮とか、余罪のことに関してはさっぱり聞かない。



 なお、期末考査でも赤点を取ったので奉仕活動をさせられていたのだけれど、その時はさすがに隠しカメラなどは見つからなかった。

 それもあの用務員さんが犯人だったのかは分からないけれど、大事なのは今が平穏であることだ。




 もっとも、平穏なのは学校の中だけ。

 私の住んでいるマンションの方は悪魔たちが守ってくれているのでともかく、実家の方――というか、会社の周辺が騒がしくなっている。



 今年度末――来年の3月末までにはネコハコーポレーションを畳むつもりで動いていたのだけれど、その情報がどこかから――恐らく、銀行とかから漏れたらしい。

 銀行以外にも、土地の売却や、建物の取り壊しとかも必要だしね。

 守秘義務があったとしても、業者間での情報の共有が必要になることもあるし、それ自体は防ぎようが無いし、それについては想定はしていたそうだ。



 それからというもの、お得意さんからの問合せはひっきりなしにくるし、堅気ではなさそうな人たちが、会社や実家の周辺で見られるようになった。



 想定外だったのは、ネコハコーポレーションの商品を愛飲している人の中には魔術師や異能力者がいたり、一般人でも異能力に目覚める人がいたことだ。


 それらも日本に来る前に聞いていたけれど、調査前――私のいた日本が判明する前に起こっていた事実についてはどうにもならない。


 既に魔術師界隈でのネコハコーポレーションの認知度は誤魔化しが利くようなレベルではなく、新たに誕生した異能力者についても把握できる数ではない。



 ネコハコーポレーションの店仕舞い自体は決定事項なので変えられないけれど、どういった反応が起きるかは全く読めない。


 なので、対症療法になるのも仕方がない――と、状況の推移を見守っていたところ、一部の素行が良くない人たちの動きが怪しい。


 というか、元から素行が悪い、若しくはそういった要素があった人たちがネコハ製品のせいで力を得たことで、業界全体に迷惑を掛けていたのが、ついにうちにも矛先を向けたというべきか。


 ネコハコーポレーションを畳むという噂が、彼らを焚きつけたような形になったのだろう。



 もちろん、放置するわけにもいかない。

 残念ながら、「立つ鳥跡を濁さず」とはいかくなった――いや、もうそういう段階ではないのか?



 そこで、夏休みを利用して、テロリストやマフィアのひとつかふたつを潰してみようかという話になっている。



「お前にもできそうな仕事が見つかってよかったじゃん」


 私が「してみたい」と言ったのはアルバイトであって、破壊活動ではないのだけれど……。

 それとも、民間軍事会社(PMC)でもアルバイトとかパートを募集していたりするのだろうか?



 とにかく、こんな待ち遠しくない夏休みは初めてである。


 とはいえ、わざとではないとはいえ私が蒔いた種でもあるし、悪魔に任せっぱなしというのも都合が悪い。


 なぜかって?

 悪魔に対抗心を燃やした神がスタンバイを始めているからだよ。

 よその世界に神を介入させるとか、それはもう侵略だと思うの。



 なので、悪魔にも裏方以上のことはさせないで、私も人間レベルで頑張るつもりだ。

 というか、なぜかアルがついてきてくれるそうなので、少しだけ楽しみもでてきた。



 なお、極めてどうでもいいことなのだけれど、学期末に渡される通知表は、5段階評価でオール5だった。

 過去に学校に通っていた時とは評価基準や項目が違うようなのでよく分からないけれど、テストの点数はそんなに良くなかったし、何らかの圧力でも掛かったのだろうか。


 それはともかく、「観点別評価」とやらは何なのか。

 私の通知表だけみんなと違って「SSS」とか「別紙参照」となっていて、後者の方は「貴女が授業を受けてくれているだけで幸せ」みたいなポエムが添付されていたり、婚姻届が添付されたりしていた。


 私は何を試されているのだろう?


◇◇◇


――第三者視点――

 名城の体育祭以降、とある組織の間では、ネコハコーポレーション及び名城周辺の緊張度が一気に増した。


 切っ掛けのひとつとなったのは、御神苗ユノとその関係者による、名城用務員【石田聖一】の傷害と拉致事件である。



 同日、石田が御神苗ユノの制服を盗んで着用し、奇行に及んだ上で更に隠しカメラを仕掛けようとしていたところは確認されていたのだが、偶然か必然か、当の御神苗ユノがその場に現れ、抵抗しようとした石田を銃撃した。



 この時点で、問題となる点がいくつか存在する。


 ひとつは、ユノがどこから拳銃を持ち込んだのか、いつから持っていたのかが分からなかったこと。

 少なくとも競技中は持っていなかったはずで、移動中にも不自然な動きはなかった。


 最も可能性が高い推測が、「アポート」とよばれる物質転送能力である。

 しかし、ただでさえ使い手の少ない扱いが難しい能力を、能力を行使する気配も、その痕跡も残さずにというのはレベルが窺い知れない。


 そして、躊躇(ためら)いもせずに石田を撃ったことから、こういったことに非常に慣れていると判断できた。

 つまり、闇払いの能力はまだ不明だが、対人戦闘の適性は充分あるということである。

 さらに、ここまでの身体能力や身のこなしを見るに、その実力も相当なものであることも窺える。


 それがアポートと組み合わさった時を考えると、比重が闇払いに傾いている竜胆では相手にならない可能性が高く、異能の弱い怜奈でも荷が重い。

 巴の総合力ならあるいはといったところだが、人を殺せるかどうかという場面が分岐点になると不安が残る。


 どんなやり取りがあったのかは分からないが、相手は顔色ひとつ変えずに兄まで撃とうとする狂人なのだ。

 その兄も、顔色ひとつ変えずに受け止める剛の者だったが。


 身内にも厳しいと自負していた彼らも、ここまで過激な家庭環境にはドン引きだった。



 また、その兄――御神苗アルトが合流する際、直前までの隠形を見破れず、それ以前にどうやって連絡を取っていたのかも不明である。



 さらに、ふたりが石田を残して去った後で現れた組織の人間らしき者たちに至っては、最早瞬間移動でもしてきたとしか思えないほどの手際の良さである。

 当然、彼らの監視にも気づいていたはずだが、いないものとして扱われた――脅威になるものではないと判断され、見逃されたのだ。


 むしろ、彼らはそれを、綾小路家や一条家にわざと見せつけているのだ。

 監視されているのが分かっていながら、「この程度はバレても問題無い」と、力の差を示しているのだ。



 また、証拠隠滅などの工作も完璧で、現場には術の痕跡はおろか、事件など無かったかのように血痕や弾痕も見つからない。


 彼らも証拠隠滅などの工作には心得があるが、御神苗の技術が全く理解できない。

 というより、最初から何も起きておらず、彼らが集団幻覚を見ていたという方が説得力がある。


 石田の失踪についても完璧なカバーストーリーが用意されていて、当然、彼が見つかることもなかった。



 白昼堂々と人を攫って、若しくは殺しておいて、ここまで完璧に痕跡を消せる組織は聞いたこともない。


 それに、どれほど秘密主義であったとしても、噂のひとつも無いというのも理解できない。

 最早、未来や異世界から現れたと言われても、反論できないレベルである。



 こんな正体不明の組織を前に、どちらが先に出し抜けるかなどと争っている場合ではないと判断した綾小路家と一条家は、協力体制をとることにした。


 両家が手を取るのは今回が初めてのことではないが、それは各勢力単独では手に負えない「闇」が発生した場合などに限定されていた。


 彼らのような裏で活動する集団は、基本的には秘密主義で、縄張り意識が強い。

 自分たちの能力を暴露されたり盗まれたりすることを恐れているのだ。




 まず両家が行ったのは情報交換。


 もっとも、特に目新しい情報は出てこなかったが。



 次に、現地派遣員同士の顔合わせ。

 そこには当然、竜胆や怜奈、巴も含まれている。



 そして、方針の一本化。


 御神苗ユノやその所属組織をいたずらに刺激しないために、ネコハコーポレーションや猫羽姉妹に対するアプローチを一旦停止。

 ユノに対するアプローチをどうするかで少し揉めたが、友好的に、控え目に行うことで合意した。

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