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13 ユノは友達がいない

――ユノ視点――

 五月に入ると、気の早いクラスメイトは、六月上旬に行われる体育祭の話題で持ちきりだった。


 しかし、そんなことよりひとつの懸念があった。


 ――私には友達がいないのでは?



 嫌われているわけではないと思う。

 いや、真由とレティシアにはガン無視されているけれど、嫌われてはいないはず。


 ふたり以外のクラスメイトは、どうにも溝というか壁がある感じ。

 一応、どちらかというと好かれている方が多いかと思うけれど、どうにもその方向性がアイドルとファンのそれに近いような気がする。



 とにかく、まだ一か月――まだ慌てる時間ではない。


 しかし、さすがに無いとは思うけれど、このまま友達がひとりもできなかったりすると……?


 社会勉強を積みに来ているのに、これは少々まずいのではないだろうか?



 理由として思いつくのは、やはりヘリコプター通学だろうか。

 いくら私が異世界召喚アタックを受けやすい性質だといっても、明らかにやりすぎである。


 普通に考えれば、ヤベー奴だと思われて距離を取られても仕方がない。

 つまり、私だからこそこの程度の被害で収まっているのかもしれない。



 そうすると、やはりヘリコプター通学は止める方向で、できれば電車とバス――バスは万一のことがあると被害が大きくなる可能性があるので、マンションから車で駅まで、駅から電車でひと駅、そこから歩くか?

 むしろ、マンションから歩くか?




 思い立ったが吉日なので、一度試してみた。


 通学路でクラスメイトの何人かと話す機会はできたけれど、それ以上に、学校関係者以外も交じった大名行列みたいなのができて、また警察が出動する事態になった。


 結局、国家権力によって強制的に解散させられて、学校へは再びパトカーで護送されて、学校ではまた怒られた。


 というか、日本人は行列を作るのが好きすぎるのではないだろうか。


 とりあえず、ほとぼりが冷めるまでは大人しくしているしかない。



 そんな感じで、ヘリコプターやパトカーで通学する生徒というレッテルはなかなか手強い。

 話しかけてくれる生徒はいても、まだまだ警戒されている感が強すぎて、友達を作るどころか腹の探り合いでもしているかのような感じである。



 ふと、何かの切っ掛けになればと思って、髪形をアイリスに禁断と言わしめたハーフツインに変えてみたのだけれど、誰も触れてくれなかった。

 自惚れていたみたいでとても恥ずかしい。


 まあ、それですぐに元に戻すのも、アイリスが間違っていたと認めてしまうようだし、しばらくは続けようと思う。



 そんなこんなで、大型連休はアルと温泉に行っただけ。

 それはそれで楽しかったし、日本の温泉の良さを再確認できたけれど、妹たちと一緒だともっとよかったと思う。


 もちろん、ふたりも誘ったのだけれど、「友達と約束がある」と断られた。

 友達のいない私にはなかなか厳しいカウンターだった。


 幸い、温泉がとてもよかったので、その傷も癒されたけれど。



 なお、ふたりの言う友達とはゲーム内の友達だったと、ふたりの様子を見に行った亜門さんから聞かされた。

 あのインドア娘どもめ……。


 ゲームが駄目とか、ゲーム内の友達が駄目とはいわないけれど、亜門さんや三上さんに心配掛けるようなのは駄目でしょう。

 夏休みはまた無理矢理にでもキャンプにでも連れていこうかな。


◇◇◇


 連休が明けると、クラスの話題は本格的に体育祭に向けてのもので占められる。

 自身が、又は誰がどんな種目に出るとか、応援合戦がどうとか。



 種目は、徒競走やリレーといったオーソドックスなものから、障害物競走や借り物競争のような運動神経以外の要素が入ったもの、男女混合の綱引きと、男子騎馬戦、女子ダンスなどなど、比較的無難な構成。


 なぜか男女混合の二人三脚が種目になかったことを嘆いているクラスメイトが多かったけれど、代わりにフォークダンスが検討中ということで、生きる気力を取り戻していた。

 大袈裟な気もするけれど、これは私にとってはチャンスである。



 ひとり最大三種目までエントリー可能。


 もっとも、女子ダンスや男子騎馬戦が基本全員参加で、これも一枠使うので、エントリーできるのは実質二種目。


 ひとつは推薦でスウェーデンリレーに決まってしまったので、もうひとつは障害物競走にエントリーした。

 リレーの方は一応集団競技なので、練習する中で仲良くなれるかもしれない。


 障害物競走は、この年代の少年少女ならウケ狙いの障害もひとつふたつは入っているだろうと予想して、「近寄り難い」というイメージを払拭するのが目的だ。


 それと、ダンスがどれくらいの規模のものかにもよるけれど、余裕があれば有志による応援団にも参加してみたい。




 そんなふうに考えていた時期が私にもありました。



 五月中旬に行われた中間考査で、古文が赤点だった。


 朔にとって重要なのは、解けるか解けないかであって、実際に正解を出すことは重要ではない。

 なので、数学など理系の教科では一部問題をわざと解かずに点数を調整しているし、国語では独特な解釈で遊んでいたりする。


 しかし、朔にとっては古文は興味をそそられない科目だったらしく、やる気どころか覚える気すらなく、独自解釈も通用しなかった。

 それがこの結果である。



 その後、補習はあるし、追試は失敗するし――いろいろと事情を考慮されたおかげで、一週間の奉仕活動で見逃してもらえることになった。

 つまり、これから古文のテストがあるたびに奉仕活動である。


 おかげで応援団参加は見送らざるを得なくなってしまった。

 もちろん、本気を出せば振り付けを覚えるくらいは余裕だと思うけれど、それを「余力がある」と勘違いされて、奉仕活動の方で注文が増えると困る。



 それよりも、その奉仕活動が問題だった。



 自慢ではないけれど、私は仕活動には自信がある。

 湯の川での大半は奉仕活動みたいなものだし。


 そう意気込んで、藤林先生に連れてこられた場所は、よりにもよって礼拝堂だった。


 確かに、元とはいえミッション系の学校なのだからあってもおかしくはないけれど、よりにもよってここはないでしょう?

 神に対する冒涜だと思うよ?


 そもそも、私はミッション系よりサブミッションの方が得意なのだけれど?



「よくお似合いですよ、マイフェアレディ」


 ユニフォームというか、修道服擬きに着替えた私を見て、藤林先生が社交辞令を口にする。

 もちろん、私にとっては皮肉にしか聞こえない。


 本物の修道女というわけではないので、飽くまで似た感じのコスプレなのは救いだけれど、それでも、これ以上ない屈辱である。

 ぐぬぬ……。


 こんなのを着るくらいなら、露出の多い魔法少女の方がまだマシだよ。

 なぜこんな酷い仕打ちをするかなあ……。



 とはいえ、野次馬も多い中で不機嫌な顔をするわけにもいかないので、本物のシスターとかいう人の指示で雑用をこなしていく。


 仕事は特段難しいことも宗教色の強いものもなく、本当に簡単な雑用だけ。


 さすがに資格の必要なものだとか、責任の重い仕事が任されないのは理解できる。


 しかし、個人的には、礼拝堂の近くに配置されている幼稚園や託児所の方にお手伝いにいきたい――いや、こんな服装では無垢な子供たちに悪影響を与えてしまうか?

 残念だけれど、子供たちの可能性を狭めないためにも我慢するしかないか……。



 それはさておき、トイレの掃除をしていたところ、隠しカメラを発見してしまった。

 というか、初めて見た。

 こんなに小さくても写真が撮れるのか。

 科学の進歩がすごい。


 とはいえ、どれだけ小さくても、巧妙に隠していても、()の目は誤魔化せない。


 しかし、なかなか罰当たりでよろしいと褒めるべきなのか、やはり女性の敵なので罪を償わせるべきか。

 学校関係者で「怪しい」と思う人はいるけれど、礼拝堂は一般にも解放されているそうなので、外部の人の可能性もある。



 もっとも、私の考えることではないので、私をずっと見守っている神父さんと藤林先生に報告して任せてしまおう。

 ふたりが結託して行っているのではなければ、なるようになるだろう。


◇◇◇


――第三者視点――

 ユノが防波堤となって、綾小路や一条などの組織からの接触を免れていた猫羽姉妹だが、逆にふたりの活躍によって、ユノは平穏な学校生活を送れていた。



 ユノの防波堤は完全に無自覚なもので、それはそれで姉妹を非日常の生活から遠ざけていた。

 ある程度の魔法は使えるが、戦闘は得意ではないふたりにとって、それに長けた魔術師や異能力者との戦いになると不利――彼女たちを見守っている悪魔が出てくることを考えれば、非常に都合の良い形である。



 一方で、姉妹が行っていたのは、ユノに行きすぎた想いを抱いてしまった者に対して、「洗脳」という名の救済である。


 姉妹が洗脳しなければ、思いつめて事件を起こしていたような者も少なくなかった。



 例えば、団藤核。


 彼は、初日にユノに反論されたことを根に持ち、それでも彼女の魅力にやられていて嫌われるようなことはできず、その持て余した感情を伊藤に転嫁して、直接的な危害を加えようとしていた。


 ファッションチンピラである彼に大それたことができるかは微妙なところだったが、慣れていないからこそ加減を間違えることもある。


 そこで、姉妹は念のために、「ユノが団藤のことを否定したわけではない」と彼に刷り込んで、現在は経過観察中である。



 ほかにも、ユノを除けばクラス一の――一昨年と昨年の学園祭で、見事ミスコンを二連覇した学校一の美少女である【姫路莉奈】は危険だった。


 自他共に認める「可愛い」は、彼女のアイデンティティの根幹をなすものだった。

 そして、高校最後の年となる今年は学園祭ミスコン三連覇、さらに、満を持して日本一の座を目指すつもりが、初っ端からとんでもなくヤベー奴が現れたのだ。


 その直前の一条も、容貌はかなりのレベルの高さだったが、胸の差で勝てると安堵していた。

 そこにきて、絶世という評価すら生温い、勝てる要素がどこにも見当たらない美少女が現れたのである。


 姫路が町を歩けば、若い男性から熱い視線を送られるが、彼女が町を歩けば、老若男女問わずに重課金されてもおかしくない――勝手に彼女を保護するためのクラウドファンディングが始まるくらいの格の違いがある。


 周りの空気すら違うくらいの差に絶望した彼女は、なぜか彼女を殺すか自分が死ぬかというところまで追い詰められていた。


 それを姉妹が、「姫路さんってお洒落で羨ましいってあの人が褒めてた」と吹き込むと、なぜか必要以上に自信を取り戻して、さらに、なぜかユノの信者――ストーカーになっていた。


 残念ながら、姉妹の能力ではこれ以上の処置はできなかった。



 ほかにも、ユノの魅力に惑わされて、玉砕――自爆覚悟での告白を敢行しようとする者も男女問わずいたが、刃物を持っての告白などを許すわけにもいかない。

 そんな者たちに対しても、姉妹はこっそり防波堤となっていた。

 ある意味では、ユノが姉妹を非日常に落としているともいえた。


 それでも、姉妹たちだけでは全てを防止することは適わない。

 三上や亜門たちの、時には悪魔の力も借りて、そのたびに気を遣って精神を擦り減らしていく。



「うー、あの莫迦姉のせいで何でこんな苦労を……」


「しかも、ちょっと落ち着いてきたかなってところで、髪型変えてテコ入れするなんて……」


「あれには参ったねー……」


 ユノの髪型変更以降、活動の機会が増えた姉妹は頭を抱えていた。



 ふたりは、アルフォンスなどからのアドバイスで、「ユノの可愛さは、普通の人間でもある程度慣れる」と聞いていた。


 そうして、しばらくの間の辛抱だと頑張っていたのに、多少落ち着いてきたところに火に油を注がれたのだ。


 それが悪意あってのものではないと分かっていても、文句のひとつも言いたくなるし、やはり学校で仲よくしようとは思えない。

 むしろ、適切な距離を取っていないと、事件防止の妨げとなる。


 姉が嫌いなわけではないが、だからこそ遠ざけなければならない。

 もう何人か味方がいれば状況も変わるのだろうが、頼れる人がいない。



 結局、姉妹が落ち着けるのは、学校以外の時間だけ。

 その中でも、ゲームの中では余計な(しがらみ)から解放される。

 単純にゲームが楽しいこともあったが、姉の世話から解放されるこの時間が心の支えだった。

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