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12 可愛いだけじゃない

――ユノ視点――

 初日の事故のせいで、車通学は危険と判断されて、しばらくヘリコプターで通学することになった。

 お嬢様設定にしても過保護すぎるような気がするのだけれど、学校側の許可も下りた――というか、洗脳したらしいので問題無いらしい。



 もちろん、そんなことをしていれば嫌でも目立つ。


 休憩時間のたびに、多くの野次馬が訪れる。


 もっとも、私の前の席の一条さんも転校生らしいので、何割かは彼女のお客さんだと思う。


 なお、彼女は人見知りが激しい性格のようで、挨拶以上の会話ができたことがない。

 まあ、初日からパトカーで護送されたり、ヘリで登校するような人に絡まれたくない気持ちは分かる。




 通学を始めた当初、放課後になると、担任の藤林先生が広すぎる学校の案内をしてくれた。


 名城は幼少中高大一貫校ということもあって、敷地がとにかく広いので、主要施設を回るだけで2日かかった。


 教師という職業は激務だと聞いていたのだけれど、私ひとりのためにこんなに時間を割いてくれるとは親切な先生である。

 これで神を信仰していなければ最高だったのに。

 信仰の自由に口を出すつもりはないけれど、実に惜しい。



 さておき、藤林先生が私をエスコートしてくれた理由は、恐らく野次馬を牽制したかったのだと思う。


 先生が一緒にいてもなお野次馬が大名行列のようになっていたのだ。

 いなかったらどうなっていたことか……。


 一条さんに「一緒に校内見学をしよう」と誘ったのを断られたのも納得だ。



 それでも、育ちが良い人が多いからか、暴走する人がいないのはいいことだろうか。

 好奇心はネコを殺すらしいけれど、成長には必要なものだと思うし、それそのものを咎めるのは駄目だと思うし、この状況も致し方なしか。


 とはいえ、登下校時の教室とヘリポート間の移動にも藤林先生に付き添ってもらうのは単純に申し訳ない気もするし、依怙贔屓えこひいき的な意味でも彼の立場を悪くしかねない。

 いろいろなところに配慮しておいた方がよさそうだ。




 そんなこんなで、良いか悪いかは別にして、私の存在は、転入三日目にして名城のほぼ全ての関係者が知るところとなった。


 普通なら出る杭は打たれるものだと思うのだけれど、今のところは絡まれたりはしていない。

 なんとなく、ただの野次馬とは違う雰囲気の人もいるのだけれど、いつまで経っても減らない野次馬のせいで身動きが取れないというところだろうか。

 立ち回りには注意した方が――いや、社会勉強というなら、一度くらいは虐めも経験しておくべきか?




 さて、新年度開始直後となると、学校ではいろいろと行事も多い。



 転入して早々の身体測定は特に問題無し。


 強いていうなら、翼を出していてもいなくても体重が一緒な理由が分からないことくらいだろうか。

 目に見えなくてもそこにある、目に見えるものだけが全てではないということか?


 ……何にしても、《鑑定》のように、センシティブな情報を無理矢理暴かれたりしないのは良いことだと思う。

 《鑑定》のように、一瞬で終わらないデメリットもあるけれど。




 逆に、健康診断の方は問題しかなかった。


 尿が出ないから尿検査は受けられないし、まさかお酒を出すわけにもいかない。

 呼吸も心臓の拍動もしていないので、聴診器を当てられたり心電図を測られたりすると、死亡診断書が出るかもしれない。


 なので、洗脳と、転入前に健康診断を受けた感じで書類を偽造して免れた。




 しかし、やはり早々に行われた実力テストはいただけない。

 私の実力を測ろうとか何様のつもりなのか、そもそも、こんなもので私の何が測れるというのか(※学力)。


 重要なのは知識ではなく、それをどう活かすかということ。

 それを無視して知識量を数値化して測ろうとか、異世界でのステータス至上主義に通じる愚かしさがあるといわざるを得ない。


 しかし、それでも逃げられないならやるしかない。

 ズルも実力のうちといえばそうなのだけれど、そもそもの目的が「一年間学校に通うこと」であって「卒業する」ことではないので、ここはあえて実力で挑んだ。



 朔の実力はそこそこだった。


 いや、良すぎず悪すぎずといったところで、ちょうどよかったのかもしれない。

 私と朔は一心同体、表裏一体だから、朔の実力は私の実力でもあるよね?




 体力テストでは少々やらかしてしまった。


 目標は、「高校三年生女子の平均より少し上」くらいだった。


 なのに、握力でいきなり80キログラムを出してしまった。

 これでもかなり加減したつもりだったのだけれど、握力計の手応えがよく分からなくて、ちょっと握り込んだだけのはずが――むしろ、握り潰さなかったことを褒めてもらいたいくらいだ。


 当然、機器の故障を疑われたけれど、測り直したら10キログラム減って70キログラムになっただけだった。

 洗脳でもしてもらおうかと思ったけれど、真由とレティシアには無視されたし、その日は隠れて視察に来ていたアルも反応なしだったので、そのまま――高い方の80キログラムが採用された。



 そんな感じでいきなりつまずいてしまったけれど、後の項目は前の人を参考にすればいいだけなので、大きく逸脱することはない。


 もっとも、出席番号順でやられると、私の前にはふたりしかいないのだけれど。

 それでも、いないよりはマシで、そのふたりの成績も似たような感じだったので、私もそれより少し上に合わせた。


 ……なのに、なぜか全項目で最高評価を叩きだしていた。


 なぜか、私以降のクラスメイトの結果は、私たちの半分にも満たないものが大半だったのだ。

 ふたりともアスリートだったのだろうか?


 あまり鍛えているような身体には見えなかったけれど、やはり人を見た目で判断してはいけないようだ。




 ひととおりの測定を終えて、異世界より日本の方がステータスの測定や可視化に神経質かもしれないと感じた。

 まあ、健康診断は、病気の早期発見だとかに役に立つそうなので、その意義も理解できる。

 個人的には、項目とか単位とかの意味が分からないので、何がどう役に立つのか分からないけれど。

 とりあえず、“要再検査”とかなければセーフらしい。



 日本と異世界との差は、個人情報保護の観点くらいだろうか。

 これも是非異世界に導入してほしいところなのだけれど、学力テストとかは勘弁してほしいし、何事にも一長一短があるのかもしれない。


◇◇◇


――第三者視点――

「御神苗さんのポニーテール、良いよね……」


「「「いい……」」」


「めっちゃ揺れてたよな」


「うん。揺れるだけなら猫羽さんの妹の方と綾小路さんもすごいんだけど」


「「「全然記憶に無いわ」」」


「うちのクラス、御神苗さん以外にも可愛い子多いはずなんだけどなあ」


「現実に付き合うならそういう子で、見てるだけなら御神苗さんだな。夢見るだけで幸せ」


「「「分かる」」」


「まあ、俺らはどっちにも相手にされないんだけどな」


「「「……分かってる」」


「それはそうとして、短パン越しのおしりとか、生足の破壊力も高くて……。集中できなくて成績めっちゃ落ちたわ」


「「「俺もだ」」」


「微妙に前屈みになってる奴多かったよな。っていうか、先生も前屈みだったしな」


 体力テストが終わった直後の三年A組の話題は、各々の成績などではなく、当然のようにユノ一色だった。


 運動のために上げられた髪に、制服よりも体形が出る体操服姿。そして、ハーフパンツから伸びるすらりとした生足。

 ユノのそんな姿は、男子生徒だけではなく、女子生徒や教師、そして用務員にも刺激が強すぎた。



「走るお姿、跳ぶお姿、どのような姿もお美しいなんて、体力テストが歌劇よりも素敵だなんて思いもしませんでしたわ」


「私、今日で確信いたしましたわ。やはり御神苗さんの美貌は神が与えたもうたものなのですわ」


「私はむしろ、御神苗さんこそが地上に降りてきた女神様だと思いますわ」


 ユノの可愛さでSAN値を削られたクラスメイトたちが壊れていた。



「……何よ。ちょっと可愛いからって、みんなチヤホヤしちゃって……」


「握力80とかゴリラじゃん。リンゴとか握り潰せるんじゃないの?」


 一方、壊れた者の中には自身と向き合うことができずに、ユノを敵視する者もいた。



「御神苗さんの搾ったリンゴジュース、美味しそうですわね……」


「ええ、文化祭の出し物は決まりましたね」


「正に禁断の果実(※知恵の樹の実を「リンゴ」とするのは誤訳とされていて、通説では「イチジク」です)ですわね。差し詰め、御神苗さんは新世界のイブというところかしら」


 そして、信者にとってはノイズすらも燃料となる。



「次の行事は体育祭かー。いつもは怠いだけなんだけど、今年はちょっと楽しみかも」


「まあ、徒競走とかリレーは陸上部いるクラスが絶対有利だしな」


「でも、御神苗さんなら下手な陸上部より速いしな」


「ついでに前屈みにさせる能力持ちだしな。もう御神苗さんしか勝たん」


「待て。御神苗さんが勝つのは当然だけど、御神苗さんが応援してくれたら俺らも勝ちじゃないか?」


「大勝利だな」


「俺、男女混合二人三脚の種目追加要望出してくる」


「組体操もいいんじゃね? もちろん、男女混合で!」


「署名集めるか!」


「「「協力するぜ!」」」


 クラスメイトたちの次なる目標が定まり、野望に燃えていた。

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