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07 新たな日常

 学校が始まるまでの間、日中はいろいろな勉強をして過ごす。


 ただし、勉強といっても、学校で習うような語学とか数学のようなものより、料理とか、裁縫とか、そういった一般技能的なものが主である。

 学力とか成績はどうでもいいと言われている(※拡大解釈)し。




 異世界に拉致されるまでは、妹たちに無能扱いされていた私だけれど、女子力に目覚めた今はひと味違う。


 というか、当時は電化製品との相性が致命的に悪かったからなあ。

 いや、今も悪いままだけれど、アクマゾンで買った商品には使える物が多いので助かっている。



 さて、料理は普通にできる。


 身体を動かすことにかけて私以上の人はそうそういないので、素材加工の精度と速さは超一流。輪違い大根も余裕でできる。

 むしろ、素材の声が聞こえるというか、魂のようなものが視えるので、「貴方に魂があるなら……応えて」とやると、とても美味しい料理ができる。


 もっとも、作れる物はまだ料理法が簡単なものだけに限られていて、ついでに魚をさばくこともできない。

 後者は仕方がないにしても、前者はこれからいろいろと覚えていきたい。



 ただ、料理魔法のように、美味しい物と美味しい物を掛け合わせても、美味しくならないのは不満かも。

 素材が間違っているのか、レシピが間違っているのか。


 例えば、普通のクリームソーダを煮たら、炭酸は抜けてアイスも溶けるとか、想定外だった。

 私の創った物は熱とかに負けないからなあ……。


 とりあえず、こっちにいる間は物理法則に逆らう気は無いので、レシピが確立していて、評価の高い物から覚えていこうと思う。




 裁縫の方は、ただ縫うだけならミシンより速く正確にできる。

 織物とか編物はできるので、これくらいは当然ともいえる。


 ただ、設計図というか、型紙が作れないので、服を作るのは無理っぽい。

 もっとも、型紙なら朔に頼めば――いや、朔なら完成品が出せるわけだし、どうしても作りたい物ができたときにまた考えよう。




 掃除はどうにでもなるのでさておき、洗濯は勉強というより必要なのでやるしかない。


 もっとも、こっちの世界だとスイッチひとつでとても簡単なので、さほどの手間ではない。

 ただ、下着だけは手洗いしないといけないようなのだけれど、元々下着の締め付けられるような着用感が好きではないこともあって、これが非常に面倒くさい。

 コンシェルジュに言えば常に新品を用意してくれるそうなのだけれど、それはそれでやりすぎな気がする。


 いっそ、「着けない」というのもひとつの解決策かと思ったのだれど、真由とかレティシアに怒られたので、それは不採用となった。

 とにかく、こういった苦労も勉強といえるのかもしれないし、もう少し頑張ってみようと思う。




 意外な才能があったのが音楽だ。


 ピアノでも、バイオリンでも、三味線でも、一度でも見聞きしたものはほぼ完全に再現できる。

 さらに、音だけではなく演奏中の姿勢や表情までも再現できるので、「感情が込められていない」などといった意味不明なクレームを受けることもない。


 もっとも、何度も同じ曲を繰り返すと「デジャヴュかな?」となるようなので、再現する奏者のレパートリーを増やすか、出し惜しみするかした方がいいかもしれない。



『普通に練習すれば?』


 ごもっともな意見だけれど、私には楽譜が読めないのだ。

 というか、あれは何の暗号? みんなあんなのを読んでいるの?

 天才か?




 とにかく、そんな感じで、道具が使えるうちにいろいろと経験しておこうという趣旨で、手当たり次第に何でもやった。

 そういう意味でも、郊外という立地は妥当なものだった。

 騒音――ではないと思うけれど、そういうトラブルは多いと聞くし。



 欲をいうなら、短期間でもアルバイトをやってみたかったのだけれど、満場一致で却下された。


 まあ、「お金に対する興味や稼ぐ必要性も無いのに、仕事――責任が負えるはずがない」とか、「真面目に仕事をしている人に失礼だ」「仕事は遊びじゃねえんだぞ」と言われては、言い方は気になるものの、反論できないところもある。

 お金が欲しいわけではなくて、経験してみたいだけだしね。



 それに、仕事によっては、私の容姿が職場に影響を与える可能性もある――とも言われた。


 客商売で、私の容姿に惹かれてお客さんが増えるのはいいことかもしれないけれど、トラブルも増える――場合によっては、その対応で仕事が回らなくなる可能性だってある。

 だったら人手を増やせば――というのは、私がアルバイトを辞めた後の諸々を考えると、あまり良い手ではない。

 その人たちにも生活があるのだ。



「お前にできるのは、神様かアイドルくらいだ」


 アルにはそんな失礼なことを言われたけれど、一応、私にもできそうな仕事を見繕ってくれるとも言うので期待しておこう。




 とはいえ、アルバイトは仕方がないとして、一切外出しないというのは無理がある。

 それに、外出のたびにボディーガードがつくのも大袈裟すぎるし、異世界のように被り物をするわけにもいかない。

 少なくとも、学校に通うのにそんなことをしていては、友達はできないと思う。

 それが目的の里帰りなのに、本末転倒もいいところだ。



 なお、シュトルツを連れてきたのは、ペット好きのよしみで友達を作れないか――という下心もある。

 子犬――子オオカミにしてはサイズが大きいけれど、グリフォンとかペガサスを連れてくるわけにもいかないし、手頃なのがこの子だけだったのだ。

 まあ、この子もイヌというには野性味に溢れているけれど、雑種だと言っておけば誤魔化せるだろう。




 さて、夕食は基本的にはマンションで、アルと一緒に料理を作って食べる。

 彼は土木工事だけではなく料理も得意なので、私にとってもいい勉強になるし、何より楽しい。


 たまに妹たちの様子を見るついでに実家に帰って作ったりもする。

 妹たちも、私の料理の腕は認めているようで、彼女たちの聖域――厨房に入っても文句を言わなくなった。

 ただし、あまり頻繁に帰るとウザがられる。

 私がいるとゲームがしにくいからか、「問題起こす前に帰って!」とか、酷いことを言われたりもする。

 私がそんなに問題を起こすと思っているのだろうか?

 起こしても揉み消せば、無かったことと同じなんだよ?



 その後は、アルの仕事を手伝ったり、ゲームをしたり。


 なお、ここでいう「アルの仕事」とは、異世界にある彼の領地の仕事ではない。

 いや、さすがに重要な案件は私を通じてその都度持ち込んでいるけれど、基本的にはいつだったかの会議で話していた私が登場するゲーム制作だ。


 今までも、不本意ながらちょくちょく協力はしていたのだけれど、ここでは異世界では用意できない機材もあるし、人手が必要なら悪魔を扱き使えるしと環境的には最高なので、リリースに向けて進められるだけ進めたいらしい。



 ちなみに、ベースとなるゲームのプログラムや素材などは、アルの発想の元ネタになったものを、アクマゾンがアルのいた日本から丸パクリして彼に提供しているそうだ。


 著作権等関係法規は、世界が違うので問題無いらしい。

 モラルとかも大事にしよう?



 とにかく、仕事の内容は、追加の歌や音声の収録とか、身体中にセンサーを付けてダンスを踊ったり――モーションキャプチャというらしいのだけれど、今のところはそんな感じ。


 ちなみに、私の身体のデータはゲームをするときにスキャンしたものをパク――使用している。

 もう何でもありだな。

 というか、あの不自然なまでのゲーム推しはこれが目的だったのだろうか?


 終わったことだし、まあいい。

 全裸でデータを取らなくてよかったと思うことにしよう。




 ゲームの方は、ぼちぼちとマイペースで進めている。


 そのせいか、猛烈にやり込んでいるらしい真由とレティシアとはレベルが違いすぎてまだ遊べていない。というか、アバターの容姿や名前すら教えてもらっていない。

 まあ、それは私たちもレベルと名を上げて、役に立つことを証明して見返すしかないのだろう。



 とはいえ、ゲーム内の私の、一般人的な身体の感覚や身体能力というのは全く馴染みがないもので、アバターの操作以上に、その差に苦戦している。



 アバターが呼吸していないので、呼吸を卒業しているのかと思っていたら、少し走っただけで息が切れるという意味不明さ。


 それでも、歩いている分には息が切れることはないので、水中を歩いていたら溺れたという理不尽さ。

 水中でも喋れていたのに、なぜ?


 ほかにも、一定以上の高さから落ちると、受け身を取っても即死するとか、地面以外では受け身できないとか。

 それと、感覚のずれのせいか、やたらと転ぶ。


 とにかく、一般人には危険がいっぱい。


 ゲームの仕様上という理由もあるのかもしれないけれど、個人で解決できそうなのが転ばないように気をつけることだけ。

 それも、うっかりが多い私には難しいのだけれど。



 さて、ゲームの主な遊び方は、いくつかのシナリオが用意されていて、それを追っていく感じだろうか。

 ただ、シナリオには「推奨レベル」というものが設定されているので、それに近いレベルまで上げないとクリアは難しいそうだ。


 シナリオ以外では、敵NPCを倒してレベルを上げて、更に強い敵NPCを倒してレベルを上げるという、苦行にも似たアバターの育成を楽しむのが流行りだとか。

 もっとも、ただ漠然と強くするわけではないらしく、何らかの矜持や方針に従ってとか、とにかく格好良く可愛く着飾らせるとか、何が何でも目立とうとか、方向性は人それぞれ。



 私の場合は方向性を語る段階ではないけれど、前衛のアルと組んでの魔法使いプレイをしている。


 使える魔法は、薬を買うお金を節約するための回復魔法【ヒール】と、念願の火の魔法【ファイア(※肉は焼けなかった)】と、後は身体能力を強化する【ストレングスアップ】とか【アジリティアップ】のような魔法をいくつか。


 もっとも、まだまだ初心者の現状では、アルにストレングスアップを掛けて突っ込ませるのが確実で、攻撃魔法や回復魔法の出番はあまりない。



 なお、ひとりで戦おうとすると、アバターが弱すぎるのと感覚のずれのせいで、恐らく一般人以下の強さだと思う。

 さらに、データにすぎないNPCでは、起こりはほとんど読めないし、NPCに限らず精神も視認できない。

 魂は何にでも宿るので、あるといえばあるのだけれど、その状態がいまいち分からない。


 つまり、全力でやっても、最弱といわれる大ネズミのモンスター相手に死闘を繰り広げる有様だ。

 何だかアイリスの気持ちが分かる気がした。



 それでも、誰かと「力を合わせる」という感覚はとても心地いい。

 そうして何かを達成した時には、何ともいえない充足感のようなものがある。


 まあ、初心者エリアのボスの大きなウサギさんを倒しただけなのだけれど。

 アルだけではなくて、知らない人たちとも協力して、とても素敵な時間だった。


 普通の人はいつもこういうのが味わえるの?

 ずるくない?

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