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03 謹賀神年

 大晦日には、私のライブの後にも、町やお城の有志によって様々なイベントが企画されている。


 ちなみに、私のライブが最初に行われた理由は、後だとそれが気になって各々のイベントで身が入らなくなるからだそうだ。




 さておき、企画されているイベントの主なものは、まず、白組と黒組に分かれての歌合戦。

 “紅白”ではないのは、「私の髪の色をイメージしての組分け」という理由らしい。

 個人的には「お葬式っぽい」と感じるのだけれど、こっちにはそういう文化は無いので、言っても困らせるだけだろう。



 次に、一対一で、武器あり魔法ありスキルありでの異種格闘技戦。

 これは説明の必要はないだろう。


 ほかにも、演劇――はいいとして、視聴者もいないのに笑うと罰ゲームを受ける24時間耐久レースとかいう理解し難い催しもあった。

 文化的なものに関しては日本人の影響が大きいようだけれど、上手く伝えられるかは別の話らしい。



 それらが、神殿や学園などの施設やライブ会場、最近建造された闘技場など、全て町にある施設で開催される。

 施設の数や規模の関係で全ての企画が通ったわけではないのだけれど、そのあたりは今回の結果を受けて、改めて議論すればいい。

 町の人たちが自主的にやることなので、私が干渉することではないのだ。


 とはいえ、私も興味があるので、飽くまで観客のひとりとして参加した。




 歌合戦は、神殿の第一礼拝堂で行われる。


 なかなか足を向けにくい場所だけれど、魔界から帰ってきたばかりのアイリスに誘われたので、彼女と一緒に観にいった。


 なぜ礼拝堂にそんなものがあるのか分からない貴賓席のような場所で、アイリスとふたりきり。

 充分なスペースはあるのに距離が近い。

 これがホーリー教的距離感なのだろうか。


 もっとも、TPOをわきまえているのかセクハラはないし、きちんと歌も聴いていたようだけれど。


 さておき、彼女は魔界でのアルの活躍を知って悔しがっていた。

 それでも、焦るではなく、「競争ではなく自分との戦い」だと切り替えられるあたりはとても好ましい。

 次の挑戦に期待するためにも、彼女の望みどおりにしてあげたいと思う。



 さておき、歌の方は想像していたよりもレベルが高かった。


 事前に審査とかを受けていたそうなので、ある程度の実力があるのは分かっていたのだけれど、本番でも臆さずに堂々と自分たちを表現できているのはとても素晴らしい。


 ちなみに、歌自体はどこかで聞いたようなものが多かった。

 恐らく、湯の川にいる元日本人たちの知識や記憶が反映されているからだろう。

 現代知識無双というか、無法状態である。


 私の歌もアルが提供してくれているので、他人のことはいえないけれど。

 下手なオリジナルよりクオリティーは高いしね。



 個人的な感想としては、人魚とかハーピーとか、声が綺麗な種族の歌とかコーラスが心地よかった。


 巨人族の人の演歌は音響攻撃だろうか?

 コブシは効いていたと思うけれど、肺活量というか、変なスキルでも乗ったか、設備は壊れるし、観客もダメージを受けていた。

 どうやって予選を通過したのか……。


 もっとも、湯の川っ子はそれくらいでは堪えないみたいだけれど。


 まあ、一年の総決算の披露ということで、気合が入りすぎてしまったのかもしれない。

 緊張して委縮してしまうよりはいいけれど、どんなときでも平常心でいられるように頑張ってほしい。




 さて、異種格闘技戦には、下手の横好きのソフィアと観戦した。


 なお、古竜たちが実況や解説をしていて、彼らの上から目線の的確な解説と洞察、そしてアドバイスは、参加者は当然として、観客にとっても非常にためになる学びの場になっていた。


 後でちゃんとご褒美をあげよう――まさか、これが目的だったのか?



 さておき、私からすれば参加者たちの能力は普通。


 まあこんなものだよね――というのが正直な感想だけれど、そこに至るまでの努力の跡が窺えるのはとても好ましい。

 恐らく、これは長い目で彼らの成長を楽しむものなのだろう。



 しかし、そんなものでもソフィア的には楽しいらしい。


 安心して見ていられるからとか、技術が理解できる範囲だからとか、それで優越感に浸れるからとかそんな理由で。


 ちなみに、彼女は、私と古竜や魔王たちとの訓練風景を見ると気分が悪くなるらしく、絶対に参加しようとしない。

 参加するとしても、型の練習とかだけ。

 もちろん、楽しみ方については人それぞれだと思うので、どうでもいいけれど。



 というか、ソフィアは戦いを見るのは好きだけれど、実際に戦うのは嫌い――というよりも苦手で、止むを得ない場合を除いて召喚魔法で済ませていた変わり者の魔王である。

 その止むを得ない場合で私を引き当てたのは災難だったけれど、とにかく、戦いにおいては「エンジョイ勢」といわれるものらしい。


 何をエンジョイするのかは知らないけれど、いろいろな(しがらみ)から解放されたのだから、これからは何でも精一杯楽しめばいいと思う。




 演劇も観客として観にいったのだけれど、こちらは同伴者が多かった。


 リリーと、魔界から帰ってきたばかりのアルとその奥さんたち。それと、アルの家臣の主だった人たち。


 後者の人たちについては、彼らの子供たちが湯の川の学園に通っているそうで、その子たちが劇を披露するので観に来ているのだとか。

 もちろん、アルの息子のレオンくんたちも出演していて、子供たちの演技にいちいち歓声が上がる。

 そうして、舞台の外では親莫迦合戦も始まっていた。


 なお、リリーが出演ではなく観客に回ったのは、彼女はいつでも勉強や訓練を見てもらえるからと、こんな機会くらいはみんなに主役を譲ろうと判断したからだそうだ。

 なんと健気な……。



 リリーの演劇も観てみたかったけれど、もっと素敵なものを見せてもらった気がするので悪い気はしない。

 というか、早速届いたゲーム機に夢中になっている妹たちにも見習わせたい。



 私に愛を教えてくれると言ったアルとは、表面上はいつもどおり。

 期待はしているけれど、今みたいに奥さんたちや子供たちがいる時はそちらを優先してほしい。

 というか、奥さんたちや子供たちをないがしろにするようでは、愛の何を教えるつもりなのかということになる。

 なので、何といえばいいのか分からないけれど、妥協しないでほしいというか、矛盾するかもしれないけれど、誘惑に負けないでほしい。


 ということで、私もアルの家庭に配慮しつつ、気長に待つことにするつもりだ。




 新年の0時になると同時に、町の各所で盛大に花火が打ち上げられる。


 町のことはノータッチとは言ったけれど、安全性とか大丈夫なのかとさすがに気になる。

 町も人口が増えてきたので心配事は尽きない。



 それでも、去年の今頃に比べれば、心配事のレベルが比較にならないくらいに下がっている。



 あれから一年。

 いろいろあったけれど、妹たちだけではなく両親とも再会できた。

 さらに、一時的にではあるけれど、日本に帰る算段もついた。

 ゼロからの出発でこれは快挙といってもいいのでは?


 もっとも、私も頑張ったつもりではあるけれど、みんなの助けがなければこうは上手くいかなかっただろう。



 特に朔だ。

 口に出したり考えを読まれたりすると、また妙な要求をされるので内緒だけれど、朔の力を借りてクリスに会えていなければ、そこで詰んでいたかもしれない。

 それに、人間を辞めようとした時に止めてくれなければ、主神は喰っていただろうし、父さんも傷付けていたかもしれない。


 一応補足しておくと、生物的に人間かどうかではなく、在り方が人間かどうかの方が大事だから。


 ほかにもいろいろと助けられているけれど、私なんて世界樹を創るくらいしか能がないのだから、町の人たちも祀るなら朔の方がいいのではないだろうか?




 さて、明日――いや、もう今日か。


 去年は初詣にも行けなかったので――もちろん、神に祈るとか神頼みとかは反吐(へど)が出るので、毎年そういう演技をしていただけだったけれど、それでも貴重な家族での恒例行事だった。

 なので、「今年こそは!」と思っていたら、まさかの参拝される立場だよ。



 いつもは「寒いからイヤ!」「神なんていません」などと行くのを渋っていた妹たちが、私の前で二礼二拍手一礼して、「お姉ちゃんが人の心を理解するようになりますように」「姉さんが問題を起こしませんように」などと虐めてくる。


 フレイヤさんも「豊満――違ったわ。豊穣の座を取り戻せますように」などと言いながら胸を揉んでくるし、古竜や魔王に神族も、お酒や散歩やおっぱいや握手会などと欲望を垂れ流していく。

 神とはこんな理不尽な要求に耐えなければいけないのか?


 リリーくらいだよ。「みんなで仲良く楽しく過ごしたいです」なんて健気なこと言ったの。


 なお、アイリスは「内緒です」と言っていたけれど、私でも分かるくらいの邪念が漏れ出していた。

 まだダメージも残っているのだから、もうしばらくは安静にしていてほしい。



 午後からは、ロメリア国王も参拝に来るらしい。


 去年の今頃は「陛下」と呼んでいたアイリスのお父さんを呼び捨てにしなければいけないとか、出世どころか罰ゲームだよ。


 さらに、アルからは、「ヤマトにも顔を出してほしい」と要請があった。


 あー、どこかに身代わりになってくれる人がいないかなあ。

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