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02 ざまあ

 湯の川での私の仕事は、基本的に何もしないことである。


 神座に座って、じっとしている。

 重要な会議に出席しては、じっとしている。


 人によっては苦痛かもしれないけれど、分体が出せる私にとってはさほどのものではない。

 それに、それで上手く社会が回るのであれば、致し方ないとも思う。


 もちろん、それは分体が出せるからこその意見であって、誰かの犠牲の上でしか成立しない世界を肯定しているわけではないけれど。



 ただ、日本での、社長の椅子に座ってじっとしていた時と変わらない――いや、あっちでは、工場で原液槽に向けて「美味しくな~れ」と念を送っていたのが仕事といえなくもない。

 つまり、ここでは更に何もしていないということで、さすがにそれはいかがなものかとも思う。


 まるで成長していない――いや、何もせずに成果が出せるようになったという意味では、逆に成長しているのだろうか?


 というか、あの「美味しくな~れ」で商品に魔素を込めていたのだとすると、インチキ商品だと思っていた健康飲料(笑)がまさかのガチポーションだったということで、人気が高かったのも納得できる。

 つまり、私は会社にとって最大の功労者だといっても過言ではない。


 ふむ、何の話だったか?




 さて、湯の川でもライブを行ったりしているけれど、よくよく考えれば、これは「仕事」といっていいものだろうか。


 ライブや私関連の物販は、基本的には頑張っている湯の川の住民向けサービスであって、お金を取ったりはしていない――というか、お金では買えない仕組みになっている。

 副次効果として湯の川全体の質が向上しているけれど、これは私だけが恩恵を受けているわけではないし、むしろ、住民の方には恩恵しかない。


 というか、そもそもこれは私が神扱いされたくないから始めたことで、金銭的な損得は関係無い、完全に私の都合である。

 一応、その成果か、町に出かけても平伏されるようなことはなくなったけれど、お城にいる私は相変わらず崇拝の対象のままだ。


 努力が足りないか、方向性が間違っているのだろうか。

 とりあえず、次は少し趣向を変えてみようかな。




 さておき、労力と釣り合っているかどうか分からないライブだけれど、やるのが嫌なわけではない。


 むしろ、昨日の夜に行った「お正月イブライブ」――略して「イブライブ」には、真由とレティシア、それに父さんと母さんも仕事を休んで見に来てくれた。



 もちろん、「大晦日ライブ」ではないのかとか、クリスマスイブにやったばかりなのにとか、父さんと母さんは年末年始まで仕事だったのかなどと、思うところはいろいろとあった。


 しかし、シャロンたちが、「ご家族にユノ様の晴れ舞台を見ていただかなくては!」と張り切って準備した――それがサプライズ――私にまでというのはサプライズすぎたけれど、お膳立てが完了していた。

 さらに、「家族とは触れ合えるときに触れ合っておきませんと……」などと、身内を亡くしている彼女たちの立場で言われると断れなかったのだ。


 何だか上手く丸め込まれたような気もするけれど、両親や妹たちに、困難から背を向けるような娘や姉の姿を見せるわけにはいかない。



 なので、少し張り切って、総勢十二体の私で歌って踊ってエアー演奏してみたところ、いつも以上の大盛況だった。


 もっとも、真由とレティシアの感想には少し棘があったけれど、顔が紅潮して息が上がっていたので、何だかんだ言いながら楽しんでいたのだろう。

 そして、父さんと母さんは私が引くくらいに絶賛していた。

 こっちはちょっと親莫迦がすぎるように思う。


 ついでに――というほど軽いものではないけれど、母さんが連れてきた双子ちゃんが超可愛かった。

 この子たちに会えただけでも、ライブをやって良かったと思いました。




 ライブの後で、父さんと母さんの近況を聞いた。



 父さんの方はシステム修復と並行して、勇者召喚関連のテコ入れを行っていたそうだ。


 前者は、私が手を入れた世界樹のおかげである程度は自動化されていて、必要なのは微調整と確認作業だけらしい。

 そのうち、父さんの仕事は微調整の方で、確認作業は現地の神族や母さんが行っている。


 後者については、本来の用途だった種子の召喚という意味では、種子を創り出せる私がいるので、その意義を失っている。

 しかし、異世界からの勇者召喚自体は、「その世界で居場所がなかったり適応できない人たちに対する救済」という側面もあるので、廃止するわけにはいかないらしい。


 とはいえ、帝国による勇者召喚の悪用はそれに反するものだし、今までどおりに強力なユニークスキルを与えるだけというのも、力に振り回されて不幸になるケースが続出しているという問題がある。

 今はその対策について検討中の段階で、決定次第可及的速やかに導入する優先事項となっているらしい。



 母さんの方は、関係各所への連絡と、さきのとおり、現地でのシステム関連の確認作業の毎日だとか。


 また、仕事の合間に、日本での私の新しい戸籍を用意してくれていた。



 私の新しい名前は【御神苗おみなえユノ】。


 私としては、“神”とか入れないでほしかったのだけれど、既に関係各所に通達済みとのことなので、諦めるしかなかった。


 なお、珍しい苗字――というか、現実には存在しない創作の苗字なのは、万一同姓同名の人が存在して、その人に迷惑が掛からないようにという配慮だそうだ。

 それと、何のことかよく分からないけれど、“プン”と消えたりできるらしいので、一年限定の名前としてはピッタリなのだとか。


 とにかく、母さんが考えたものだからと、前向きに受け止めよう。



 ちなみに、私の新たな素性は、ハーフの帰国子女。

 猫羽家とは遠戚に当たり、詳細は秘密とのこと。


 余計なことを話さないようにということらしい。



 ついでに、アルの戸籍も用意してくれていて、私とは「歳の離れた兄妹」という設定になっているそうだ。


 今のアルは()()の後遺症で白髪だし、ギリギリ兄妹に見えなくもないか?

 まあ、そのあたりはどうにでもなるか。

 複雑な家庭環境に見せかけて、余計な詮索を受けないようするのもいいかもしれない。

 後でアルと相談しよう。



 なお、話の流れで、私が実家を追い出されたことが明るみに出た。


 なぜか、怒られたのは私だった。


「ははは、小遣いってレベルじゃないなあ! やはりユノはもっと常識を学ばなければいけないね!」


「同情するところもあるけど、自立するチャンスでもあるわね。あまりアルフォンス君に頼らないで、自分で家事ができるように頑張りなさい」


 解せぬ。



「あはは、ざまあ!」


「自業自得ですね」


 追い出しておいて、さらに追い打ちを掛けるの?

 まあ、冗談の延長で、本気ではないみたいだけれど。


 それでも釈然としないけれども……。


 やはり、過去に「ペット飼育は禁止」と言ったことを根に持っているのだろうか。

 でも、耳とか尻尾とか翼は隠せるよ?

 というか、お姉ちゃんはペットじゃないよ?



「ははは! 真由とレティシアも、ゲームに感けないで、勉強や家事もしっかりするんだよ?」


「ふたりのことだから心配はしてないけど、詐欺とかには充分気をつけるのよ?」


 信用の差が酷い。

 今なら私の方が生活力も高いはずだし、詐欺に引っ掛かってもビクともしない財力と、脅迫に屈しない腕力もあるのだけれど……。


 まあ、親にとっては子はいつまで経っても子供だとも聞くし、ふたりもそういう感覚で私を見ているのかもしれない。



 でも、見て。


 貴方たちの娘は、庭付き一戸建どころか大平原付きのお城に住んでいるよ?

 敷地内に温泉やプールもあるし、何ならプライベートビーチまであるよ?

 ご近所付き合いも良好で――むしろ、良好すぎて神殿が建つレベルだよ?


 自立しまくっているといっても過言ではないよ?

 というか、よく考えると、私の意志とは関係無く自立しているものまである。


 ……これは、自立が自律しているのか?

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