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01 邪神追放

 冬休みを利用して、真由とレティシアが湯の川に遊びに来た。


 なお、送迎にはアクマゾンの手を借りている。

 送料は無料だった。



 ちなみに、世界間の時間の流れがほぼ同期したため、こっちの世界での数日が向こうでの数時間ということもなくなっている。

 なので、面倒くさい計算や調整などが必要無くなって、気軽に来れるようになったのだ。


 といっても、今回のふたりはただ遊びに来たわけではない。

 新学期からの話になるけれど、社会学習という名目で私はふたりと同じ学校に通うことになるので、その打ち合わせも兼ねているのだ。


 まあ、年始年末のお祭りも堪能するつもりみたいだけれど。

 クリスマスに歌ったばかりなので、歌わなくていいのは幸運かもしれない。

 あの狂気の場を家族に見せるのは、心の準備と多少の工作が必要なのだ。




 そんなふたりが会うなり言った言葉が衝撃的だった。


「悪いけど、お姉ちゃんの部屋、もうないから」


「マンションか借家でも借りてくださいね」


 なぜか帰るはずの家を追い出された。



「いやね、駄目元で最新ゲーム機の抽選に応募したら当たっちゃって、それが超場所取るんだよね。だから、お姉ちゃんの部屋に置くことにしたの」


「……つまり、私はゲーム機に負けたの?」


「姉さんは家にいてもあまり役に立たなかったといいますか……。正直に言うと、役に立った試しがないというか、むしろ余計な手間が……」


「ええと、ごめんなさい」


 そういえば、家のことは何もしていなかったな。

 それについては言い返せなかったので、素直に謝る。



「でも、追い出すのはちょっと酷くない?」


 専用部屋が欲しいというのも、家の間取り的にそこしかないというのも分かる。

 分かるけれど、そういうのは自分の部屋に置こうよ。



「ほかに置き場所がないんだよ。()っちゃいクルマくらいのサイズがあるんだから。それが2台――レティにも当たったの! 限定生産高級モデルで、倍率一万倍以上の抽選でだよ!? そんなの、買うしかないじゃない!」


「私は真由ちゃんの予備のつもりで応募したんですけど、何だか当選しちゃったみたいで……。すみません、真由ちゃん言いだしたら聞かないから。姉さんも家事できるようになったんですよね? だったら大丈夫ですよ!」


「え、小さい車って……どうやって家の中に入れるの? それに、高級モデルって、いくらしたの?」


「もちろん、パーツごとに分解されて運ばれて、家の中で組み立てだよ。組み立ても初期設定も専門のスタッフが来てやってくれるし、アフターサービスもバッチリ。それでお値段は驚きのイチキュッパ! 滅茶苦茶お買い得なんだからっ!」


「……二万円弱ってことはないだろうし、二十万円もするの? 高くない?」


「桁がふたつ違うよっ」


 真由が目を逸らしながら言う。

 というか、ふたつって……?


「まさか、二千万円……? 本気? というか、正気? そもそも、どこにそんなお金が……」


「毎月のお小遣いが百万円もあればそれくらい貯まりますよ(※一年間に110万円を超える贈与は贈与税の対象となる可能性があります)。お小遣いと家のお金は別でしたし、私たちはふたりとも浪費する方ではありませんでしたし。しかも、後一年くらいで使えなくなるお金ですよ。『立つ鳥跡を濁さず』って姉さんの好きな言葉でしたよね? だから、私たちのお小遣いもうちのお金もできる限り合法な形で市場に還元しようって決まったんです」


 レティシアはなぜかジト目で睨んでくる。



「だからって、ゲーム機に二千万円……?」


「標準モデルは五万くらいなんだけど、それだとVRに毛が生えた程度なんだよね。で、いろいろ足していったら五十万くらいになるんだけど、どうせなら良いのが欲しいじゃない? ってことで、私たちが買った高級モデルは最先端のフルダイブシステム搭載で、対応してるゲームなら五感も再現できるできるし、EMS(Electrical Muscle Stimulation)も付いてるからゲームしながら体を鍛えたりもできるんだよ! ほかにもいろんな機能があって、身体をスキャンして本人そっくりのアバター作れたり、その応用で簡易健康状態チェックできたり、とにかくもうすごいんだから! 二千万なんて安い安い!」


 技術的なことは分からないけれど、真由のテンションが高すぎる。

 ある意味、お値段以上なのかもしれないけれど……。



「そういうことなので、申し訳ないですが、姉さんはどこか別の場所で、問題を起こさないように過ごしてくださいね」


 レティシアが冷たい。

 こんなにも心が籠っていない「申し訳ない」を初めて聞いたのが、妹の口からとは……。



 さて、これはどうにもならないパターンか。

 まさか、私が家を追い出される日が来るとは……。


 まあ、一年だけだし、妹たちの逆自立訓練と考えれば……?




 結局、ふたりは言葉という凶器を使って私を完膚なきまでに打ちのめすと、意気揚々と訓練に出かけた。


 ふたりが希望している冒険者登録は、「学校を卒業してから」という条件を付けているため、今はこちらに来ても訓練しかできないのだ。

 もっとも、初心者の皮を被った達人ギルドデビューとかいうのに憧れているらしく、それほど不満はないようだけれど。



 それから、ふたりと入れ違いに現れたのは、アクマゾンのお偉いさんでありながら、いろいろと雑用を引き受けてくれるセーレさんだ。



「ユノ様、お困りのようですネー」


 ふたりと話していた間は部屋の外で待っていた彼は、話を聞いていたのだろう。

 悪魔だけに地獄耳。()()()、参ったね。



「住居もお困りでしょうガ、一番の心配ハ、妹様方がこちらでもゲーム気分でいることでしょうカ」


「……よく分かるね」


 そう、心配しているのはまさにそこだ。

 駄洒落に夢中で今気づいたわけではない。



 さて、訓練したり、経験を積めば強くなるというのは、程度の差はあるものの、現実もゲームも変わらないのではないだろうか。


 その「程度の差」も、ふたりには強くなる素質があるらしくて、訓練のつらさを現実で強くなる充実感や達成感が上回っているため、あまり響かないようだ。



 もうひとつ理由を挙げるとすれば、ふたりが私の妹だと知れ渡っているために、教師役の人たちが甘くなるのだ。


 例えるなら、孫を甘やかす祖父母といったところだろうか。

 本人は厳しくしているつもりのようだけれど、傍目には甘々なのだ。

 まあ、ふたりは素質もあるし、私以外には素直だし、気持ちは分からなくもないけれど、このままでは駄目だと思うのだ。



「そこデ発想の逆転デース。現実をゲームのように感じているのなラ、ゲームで現実を思い知らせれバいいのデース! そこでご用意したのガ、妹様方が購入されたゲーム機と互換性のある物デース。というカ、この原形ハ、我々とハ別の悪魔のグループ【マックロソフト】ガ、主神様の世界にあっタ物を再現した物なのデース。それヲ異世界でモ販売しテ、情報収集の役に立てているのデース。それはさておキ、これを使っテ、妹様方に必要な経験を積ませるというのはいかがでショーウ?」


 営業かー。


 しかし、なるほどとも思う。

 ゲームの中なら危険はないし、遠慮も要らない?


 まあ、悪いアイデアではなさそうなので、反応を見るために導入してみるのもいいか。

 お金も余っているしね。

 反応が良ければ、学園やお城や神殿にも導入してもいいかもしれない。



「たダ、ゲームはどこまでいってもゲームでしかありまセーン。ゲームの中の敵を殺しても失われるものはありませんガ、現実では命が失われマース。逆に命を失うこともありますのデ、そのあたりは別の教育が必要になると思われマース」


 おっと、そういう発想はなかったな。

 悪魔なのに配慮が細かい。



『そういうのは、引率つけて実地訓練でもさせるしかないんじゃない?』


「それがよいかト」


『じゃあ、とりあえず真由とレティシアの分の物を。台数に余裕があるなら、もう少し注文できるかな?』


「毎度ありがとうございマース。それト、よろしければ日本での住居の方もご用意できますガ」


『それもお願い。条件として、セキュリティーがしっかりしてること。できれば有事の際に周辺被害が出にくくて、融通が利くところ。後は常識の範囲で――ああ、アルフォンスも一緒に行くから、彼の分の住居もお願い』


 セキュリティーとか、多忙なアルの分の住居はさておき、有事って何?

 何かが起きることが前提なの?



「畏まりましタ」


 畏まっちゃったか。

 お城とか要塞みたいなのを用意しなければいいのだけれど。


 まあ、常識って縛りもあるし、大丈夫だよね。

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