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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十三章 邪神さんと変わりゆく世界
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幕間 アルフォンス・B・グレイの覚醒

――アルフォンス視点――

 なんだか長い夢を見ていた気がする。


 いや、夢といういうには明瞭で、恐らく、ユノの記憶というか、些細な違いであり得たかもしれない可能性というか、そういったものだったのだろう。

 ドヤ顔で話して違ってたら恥ずかしいから誰にも言わないけどな。



 ユノとの「対話」は想像以上にきつかった。

 っていうか、あれでもかなり加減されてたんだろう。

 それでも受け止めきれなくてあの(ざま)だったけど、前よりもちょっとユノのことが理解できたような気がする。

 多分、俺のこともいろいろと知られてるだろう。



 まず、ユノが妹さんたちを大事にしてるのは、彼女自身がそう決めたから――という、彼女らしくてよく分からない理由だ。

 彼女なりの家族愛はあるようだけれど、俺たちの想像する家族愛とは違うというか、薄っぺらい――もしかすると、一周回って俺たちには分からないレベルで奥深いのかもしれん。

 何にしても、俺たちの視点だと、「愛」というより「執着」かな。



 それでも、その執着が現在のユノを形成しているのは間違いない。

 兄として妹さんたちを守るために人間でいようとしたのが、今も彼女が「人間であること」にこだわる理由なんだろう。

 妹さんたちや、そうあるように誘導したご両親に、「グッジョブ!」と言いたい。




 だけど、ユノが人間でいる理由を失った可能世界? ――「if世界」は、それはそれは酷いものだった。



 妹さんたちがいなくなる理由までは夢の中だと分からなかったけど、その状況のユノを束縛するものが何も無い。

 それだけで自棄を起こしたり、報復や八つ当たりのようなことはしないみたい――むしろ、気味悪いくらいに落ち着いてるけど、世界がユノを放っておかない。


 それで、ちょっかい掛けられた時にストッパーが無いと、社会に対する帰属意識の無い彼女は滅茶苦茶する。



 とにかく、殺人や破壊に忌避感や躊躇(ちゅうちょ)が無い。


 本人的には、誰彼構わずとか何でもかんでもではないつもりらしいけど、彼女の力で「生き死には時の運」ってやるのは無差別と同じだと思う。

 もちろん、日本にいた時の彼女は現在ほど滅茶苦茶な能力じゃないけど、追い詰めると覚醒――というか、お義父さんが施してた封印が解けて、現在の彼女かそれ以上にヤバい何かが出てくるのでさあ大変。


 で、一度暴れだすと、日本の司法や行政は無力で、警察や自衛隊程度じゃ止められない。

 同盟国や友好国に支援してもらってもどうにもならなくて、日本壊滅待ったなし。


 そこに、「人道」を名目に火事場泥棒的な感じで日本に進軍してきた近隣国も返り討ちにして、そのまま海を泳いで渡って逆侵攻。

 ……ゴ〇ラかな?


 そんなことをやってるうちに、必死に抗う人間の姿が気に入ったのか、戦火は拡大。


 当然、直接被害を受けなくても、被害を受けた国との輸出入がある国はダメージを受ける。

 それが食糧やエネルギー関連だと詰む。


 そうして、気づいた時には人類を滅亡寸前にまで追い込んでて、ついたあだ名が「魔王」。

 なお、「邪神」って呼ぶと被害が大きくなるので禁句とされてた。


 その後、追い詰められた人類が核を使って()()()世界大戦は終わったけど、ユノが死んだわけじゃなくて、「やりすぎた」って気づいただけなのが酷い。




 こっちの世界に来た後でも、朔の覚醒が少し遅れてたら、クリスたちと会わなかった可能性もあった。

 その場合は、言葉も通じないまま迷走することになって、帝国は当然として、どこに辿り着いても大問題を起こしてた可能性がある。


 中には、とりあえずで帝国が滅ぼされて、災害救助で派遣された俺まで殺される未来もあった。



 ちなみに、どんな未来でもユノは女性に戻ってて、オプションパーツにはウサギ耳と尻尾とか、犬耳と尻尾とか、時には角が生えたりとバリエーションがあった。

 どんな世界でも迷走はするらしい。


 というか、あいつが可愛すぎるのと、それを手に入れるために手段を(えら)ばない人がいる限り、騒動が起きるのは避けられないっぽい。



 まあ、全ては「あったかもしれない可能性」の話で、やりすぎた時は主神に封印されて再利用されるパターンが多かった。

 それはそれで長い長い年月をかけて逆に主神を侵食してしまう未来もあったと考えると、「済んだこと」で流していいことじゃないけどな。


 それでも、今は妹さんたち以外にもユノを世界を繋ぐ存在が増えたことで、ユノが世界を滅ぼすような可能性はかなり減った。

 ゼロじゃないのは、うっかりで滅ぼせるからだ。



 それと、自慢じゃないけど、今は俺もユノと世界を繋ぐもののひとつだ。

 今回頑張ったことで、アイリス様と並んでその最上位になったぽい。


 だけど、そのおかげというかせいというか、俺が非業の死を遂げたりすると、ユノがその遺志を継いでしまうようにもなったかもしれない。




 例えば、俺がヤマトとオルデアの戦争で死んでた場合――特に、オルデア側の神の干渉が強かった場合は悲惨なことになってたっぽい。



 そこまでの経緯とかはさっぱり分からんけど、アナスタシアさんたちと竜神との決戦の場で、百万――もっとか? 冗談みたいな天使の大群を率いてた女神がひとり勝ちしそうなところにユノが乱入してきた可能世界があった。


 そこで、「こんなことのためにアルが」とか、「神殺しに挑戦した心意気に報いるために遺志を継ぐ」とか言ってたから、多分俺は死んでるんだろう。

 蘇生するでもなく、復讐するでもなく、遺志を継ぐってところがあいつらしい気がするけど、何か微妙に怒ってた感じがして、ちょっと嬉しくなった。

 一応、俺の死に何かは感じてくれてるんだなって。



 でも、その直後、弱ってたとはいえ竜神を領域で瞬殺してて、そんな感傷はどこかに行った。


 仮にも最強の神様が、反応すらできずに殺されるってどういうことよ?

 神殺しは人間の特権じゃなかったのか?

 いや、ユノからしてみれば、あれは神じゃないのか?


 なんて考えてたら、「人間に余計な因果を背負わせるな」とか言って、こっちも口答えすら許さずに、女神様と大量の天使を言葉どおりグチャグチャのドロドロに……。

 それでも死んではいないらしくて、女神様と何百万もの天使が混じった不定形生物の湖ができてた。


 さすがに神様を殺すのはまずいと考えるだけの理性はあったのかもしれないけど、これがセーフなのかは分からん。

 っていうか、瘴気を発してないのが不思議なくらいヤバさ満点な状態。


 普通に考えたらアウトなんだけど、その時のアナスタシアさんたちが何も言わなかったからセーフなのかも。

 まあ、あの人たちも何が起きたか理解しきれなかったとか、現実逃避してただけかもしれん。


 今まで見たこともないようなすごい顔してたしな。


 俺も、しばらくお好み焼きは食えそうにない。




 でも、事はそれだけに終わらなかった。


 女神様がグチャグチャになったからって、女神様のやってきたことまでは消えない。

 消さなかったっていうべきなんだろうか?


 でも、女神様が人間に背負わせた因果はどうにかしなきゃいけないって思ったらしい。



 それで執った手段が、既に殺してる竜神の代わりを務めること。


 オルデアが竜神と戦ったら全滅してるだろうから、それよりマシなら何やってもいいとか思ってたみたいだけど、空も、大地も、人間も、壊れて溶けて――女神様ですら抵抗できなかったものが、オルデアに降りかかった。


 突然、世界が敵になった――あって当然のものが、全ての寄る辺が無くなった人たちの恐怖とか絶望は想像もできん。

 もしかすると、人間は無事に死ねてるみたいだし、何が起きたのか分かってないかもって考えると、幸せ――ではないな。


 女神様と、それに踊らされた――としても、擁護できない人もいるけど、そんな人たちのとばっちりで殺された、何の罪もない人――かどうかは分からんけど、同情というか、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 すまん、俺が死んだばかりに……。



 結局、オルデアの人口の半分以上が死んで、インフラとか社会も崩壊して、生き残ったのは子供やその親といった、労働力にはならない人たち。

 滅亡待ったなしだよ。


 力技でどうにかするかもしれんけど、最初からもっと加減を――そういや、苦手って言ってたな。




 まあ、それは「あり得たかもしれない可能性の話」で、実際にはもっと穏便に決着してるわけだし、そんなことに対してああだこうだ言っても仕方がないんだろうな。


 でもな、俺が受けた攻撃って、同系統のやつだと思うんだ。

 だから、そんな荒唐無稽(こうとうむけい)な話でも、ただの夢じゃないって信じられたんだ。



 あって当然だと思ってたものを、唐突に見失う――いや、上手く認識できなくなってたんだと思う。


 俺は夢の中で客観視できたから、今なら何となく分かる。

 空気とか、地面とか、システムも、自分自身も、概念的にグチャグチャのドロドロに――全て可能性だけの状態にされた。


 で、重要なのが、自分自身をどれだけ正確に認識できてるか――確固たる意志とか、そういうものかと思ってたんだけど、どうにも違うか、それ以外にもあるっぽい。


 俺にはそんなものは無いし、一発食らった後はほとんど思考能力失ってたからな。

 頭の中――だけじゃなく、全身全霊で、痛いとか、苦しいとか、きついとか、だけどちょっと気持ちいいとか、そんなことでいっぱいで、でもなんでか足が止まらなかったような記憶。



 それで、俺は一体どうなったんだろう?

 意識はある――といういか、意識しかない?



 まあ、本気だと神様でも抵抗できないし、加減されても英霊が裸足で逃げ出すし、俺なら即死しててもおかしくない。


 一応、ユノに立ち向かうことがあるかもと思って、耐性とか対策とかいろいろ準備してたんだけど、どれも全く役に立たなかった。

 いや、役に立ってたのかもしれないけど、国に支給された数打ちの剣と盾持って核爆弾に突っ込んだみたいなものだったんだろう。

 大袈裟じゃなく、それくらい無謀なチャレンジだったと思う。


 でも、何発かは耐えてた記憶はあるし、今も意識だけはあるんだよな……。


 もちろん、手加減されてたんだとは思うけど、俺がこうして生きてるのが――もしかして、死んで地縛霊にでもなってるのかもしれんけど、意識が残っていることが不思議で仕方がない。

 今の俺はどうなってんの?

 こんなこと考えてるくらいだから、自己認識は足りてないと思う。


 多分だけど、俺以外の要素――嫁とか、子供たちとか、ついでに友人とか、そういう人たちとの繋がりが影響してるのかもしれん。



 そこんところはよく分からんけど、あの雑さを見るに、俺は老衰かユノに殺される以外の理由で死んじゃいけなくなったらしい。

 望むところだ――といいたいところだけど、そろそろ《主人公体質》が怖い。




 そんなことを思っていたからだろうか。

 目を覚ました直後に聞こえた容赦のないシステムアナウンスに、裏切られた気持ちになった。


<ユニークスキル《主人公体質》が、エクストラスキル《真主人公体質》に進化しました>


 ただでさえ頭が割れそうに痛いのに、新たな頭痛の種が追い打ちをかけてくる。

 目の前が真っ暗になった――いや、最初から真っ暗だった。



「おはよう。身体は大丈夫?」


 頭上から声が聞こえる。

 ユノの声だ。



「ああ、うん。酷く頭が痛いけど、生きてるみたいだ」


 状況は分からないけど、頭痛は酷いけど――同時に不思議と心地好い。

 痛みがあるってことは、きっと生きてるってこと。

 痛みがあるから、心地よさだってあるんだ(※錯乱)。



「そう。じゃあ、もう少し休んでいるといいよ」


 ユノがそう言うと、顔の上に柔らかくて良い匂いのする何かが圧し掛かってくる。

後頭部も柔らかくて温かい何かに乗せられていることから推測するに、俺は今ユノに膝枕されてて、おっぱいが顔に乗せられている状態なのだろう。

 頭痛なんか感じている場合じゃないと思うと、一気に痛みが引いていく。

 ふとももとおっぱいって、万病に効く特効薬だったんだな。


 真理の一端に触れた俺は、そのまま真理に身を任せて再び夢の世界へと旅立った。


◇◇◇


 二度寝から覚めると、随分体調も良くなっていた。

 やっぱり、膝枕と乳嚢は癒しだったんだ!



 ……さて、俺は5日間も眠ってたらしい。


 その間、ずっとユノが膝枕してくれてたらしくて、そうやって回復効果を増進させてくれてた上での5日だっていうし、下手すると一生目が覚めなかったのかと考えると、危ないところだったっぽい。


 今回の件ではいろいろ思うところもあったけど、それよりも先にやることがある。

 あのまま投げっ放しにしてたらどうなるか分からんしな。




 ……5日間で、事態がかなり進展(悪化)してた。




 農場の引継ぎについては、バルバトスさんとコレットちゃんが、素晴らしい理解力と、よく分からない理解力を発揮してた。



「なるほど。輪作――循環しているように見えて、その実螺旋(らせん)だったのだ。そこにゴブリンを織り込むことによって、ゴブリンの可能性を追求していたのか。今にして思えば、『ゴブリンは野菜』というのもその伏線! 魔界最高の頭脳を持つ私が、見事に一本取られたわ! ははは、『ゴブリンは概念』とはよくいったものだ!」


 え、いや、そんな壮大なことは考えてなかったんだけど?

 何が「なるほど」なの?

 魔界最高の頭脳どうなってんの?



「魔法の本質は可能性だってユノさんが言ってました。その究極は、私たち自身が『魔法』になることだって。――つまり、私たちが魔法になれるなら、ゴブリンだって魔法になれる! いや、私たちの手で、ゴブリンを魔法にしてしまおうって試みなんですね!」


 コレットちゃんは、随分とアクロバティックな解を出してきたな!


 でも、純粋そうな彼女に「違う」とは言えずに頷いてしまった。

 弱い俺を許してほしい。




 それはもうそれでいいとして、農場自体は、ユノが自重を止めていたせいかかなり拡張されていた。


 そこに、行き場のなかった英霊たちが管理職として配置されてて、子供たちと上手くやっていた。



 ライナー抜きなら割とまともな英霊と、やはり分かりやすい強さに憧れる子供たちの相性が良かったらしい。


 さらに、二千年の浦島太郎状態だと思い込んでいる英霊たちは、実際に特殊ゴブリン式農法――いや、もうゴブリン式魔法だったかを見ても、「時代が変わればこんなものか」と理解を示してた。

 元々彼らはゴブリン養殖にあまり良い感情を抱いてなかったみたいだけど、バルバトスさんとコレットちゃんの小難しくてイカれた理論にナベリウスが可能性を感じて、全員が掌を返したらしい。


 それに、ユノの正体を知った子供たちは何でも素直に信じるようになってた。


 そんなこんなで、禁忌の実験場が、ゴブリンの聖地になってた。

 奇跡のマリアージュってこういうことなんだと思った。




 もう俺要らないんじゃないかな――なんて考えながら農場に顔を出したら、英霊たちに(ひざまず)かれて出迎えられた。


 なぜか、ユノから助けてもらったことに対して恩義を感じてるらしい。



 俺としては、彼らを助けたっていうより、ユノを助けたつもりだったんだけどな。

 でも、彼らとしてはユノの領域での攻撃コミュニケーションがよほど効いていたみたいで、それをこんなになるまで食らっていた俺に、感謝以上の恐怖を感じているっぽい。



「兄貴の言ってたこと、全部真実だったんだな……。聞いたよ、兄貴のこと、いろいろと。ゴブリンだけじゃなく、文化(アイドル)も育てようとしてたんだな……。俺、本当に何も知らなくて、もしかしたら、全部台無しにしてたかと思うと……!」


 それと、こいつ(ライナー)だ。

 何があったかは大体想像がつくけど、それでなんで「兄貴」呼びされることになった?



「俺、これから頑張って修行するよ。そうしたら、いつか兄貴みたいな立派な伝道者になれるかな?」


「……ああ。お前なら、魔界初の文化(アイドル)伝道者(プロデューサー)になって、悪魔族全員にその素晴らしさを教えてやれるさ! そしたら、女神様もその想いに応えてくれるんじゃないかな」


「はいっ!」


「ふはは、よく言った、マス――ライナーよ! それでこそ王の器!」


「俺たちもここでゴブリンを育てつつ、姫様をアイドルにしてみせるぜ!」


「そうだね。進む道は違っても、目指すところは同じ。僕たちも君に負けないように頑張るよ!」


「殿! この無能なる私めに、文化の何たるかを――作詞作曲振り付けについてご教示いただきたい!」


 ものすごく感動してるとこ悪いが、適当に言った。

 責任は取らん。


 で、殿って誰だよ?

 って、俺しかいないか。


 後でユノのライブ映像くらいは渡しとくか。

 前線でビーム撃つ軍師から、最前線でオタ芸打つ軍師になりそうだけど。



 まあ、こいつらのテンションの異常さは、すぐ側に元凶(ユノ)がいるせいもあると思うけど――そういや、こいつ何でついてきてんだ?

 いつもなら、こういう面倒なことには顔を出さないで丸投げしてるはずなんだけど?


 何か言いたいことがあるのかと思ったけど、何も言わずについてくるだけ。

 可愛いけど落ち着かない。

 でも可愛いからついてきてほしい。


 もしかして、俺は自分が気づいてないだけでどこか壊れてるとか?

 その経過観察?

 それも不可視状態で観察してれば済むことだけど。


 よく分からんが、可愛いに見られてると可愛くて癒されるし、そういうことかもしれん。




 分からないなら本人に訊くのが確実なんだけど、ひとつ怖いパターンがあって、それを引き寄せるかと思うとちょっと勇気が出ない。



 それっていうのは、あれの続き。


 あれは終わったわけじゃなくて中断してるだけ。

 ユノは再開のチャンスを窺ってる。

 なぜかそれだけは理解できる。


 いきなり襲われることはないと思うけど――そうか、姿を見せてるのはそれが理由か。

 予告のつもりなんだな?



 今更ながら、ヤベーのに手を出しちゃったな。


 まあ、今度の人生は、「後悔しないように生きる」って決めてたから、後悔はしてないけど、嫁や子供たちを残して死ぬわけにはいかないしな。

 思い出しただけでもショック死しそうなあれの続きとか、今はちょっと無理。

 いや、ちょっとじゃなくてかなり。

 今はじゃなくて当分――少なくとも子供たちが成人するまで――できれば跡を継いでもらうまで。


 でもなあ、ユノだもんなあ。

 俺の《真主人公体質》もあるしなあ……。


 関係無いところでユノのうっかりが起こって、俺が巻き込まれるのが目に見えるようだ。

 なんで日本についていくって言っちゃったかなあ……。


 まあ、巻き込まれるときはどこにいても巻き込まれそうだし、里帰りってわけじゃないみたいだけど、日本観光できると思えば悪くはないんだけどな。

 ちょっと世界滅亡の様子が脳裏から消えてくれないだけで。




 とりあえず、遺言でも書いとくか。



 お前たちがこれを読んでいるということは、今頃俺はこの世界にはいないのだろう(一度言ってみたかった)。


 俺が突然死したら、犯人はユノだ。


 だけど、ユノが悪いわけじゃないから復讐は考えるな。

 家のことはみんなに任せる――でも、家を放棄して湯の川に移住は止めてください。

 きっと、ユノもそういうのは望まないだろうから。


 ユノとの距離感は間違えないように。

 間違えると俺のようになる。


 ―中略―


 なお、この手紙は自動的に消滅する(一度言ってみたかった)。



 こんなところか。

 思い残すことが無いようにしようとしたら変なのが交じったけど、俺らしくていいんじゃないかな。




「怪文書?」


 というか、ユノが後ろで見てたんだよなあ。



「いや、遺書のつもり。書式でたらめだから効力無いと思うけど」


『ふむ。まあ、いつどこで何が起きるかなんて分からないからね。いろいろと準備しておくのは悪いことじゃない』


 うーん、お前らが能力をフル活用したら過去も現在も未来もどうにでもなるだろ。

 というか、分かってて言ってるなら性質(たち)悪いな。



「アルに死なれると私も困るのだけれど――死ぬのは仕方ないにしても、簡単には死なないでほしいな」


 それはつまり、簡単には殺さないということか?

 俺だって死ぬつもりなんてないけど、お前との付き合いは命懸けだからな。



「私に愛を教えてくれるんだよね?」


 あ……れ……?

 後ろから抱きつかれて後頭部に柔らかい何かが!


『アルフォンスの愛の形とか性的嗜好は見させてもらったけど、「ユノが愛を知った」というにはほど遠いからね。ユノにはしばらく君の嗜好に合わせるよう言ってあるから――こういうの、好きだよね?』


「大好きです!」


 人生に必要なのはイチャラブだってはっきり分かんだよね。

 NTRは脳細胞が破壊される――つまり傷害事件といっても過言じゃない。

 即逮捕か、その場で射殺するべきだろ。



『君の素直なところはとてもいい。まあ、多少のやりすぎには目を瞑るから、君のやり方で頑張ってほしい』


 これは朔の悪巧みのひとつなんだと思う。

 だけど、たとえ罠でもかからなければならないときもある!



「期待させたのだから、その責任は取ってね」


 うおお! 脳が溶ける!


 責任云々はユノっぽくないから、朔にそう言わされてるか、冗談だと思うけど、台詞の後にハートマークがついていそうな甘い声にクラクラしちゃうのおおお!



 もしかして、これが《真主人公体質》の威力なのだろうか?


 女神をデレさせるとか、マジで主人公伝説始まった?

 反動が怖い!


 でも、ここまできたら止められないぜ!


 だけど、あれの続きは心の準備ができるまで待ってほしい。

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