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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十三章 邪神さんと変わりゆく世界
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62 終わりと始まり

――ユノ視点――

 アイリスに次いで、アルも神殺しを達成した。

 ふたりとも、見事に私の想像を上回って……、上回ったのか?

 想像と違ったのは確かだけれど……。


 いや、どんな形であったとしても、不可能を可能にしたのは間違いない。

 やはり、環境が人を変えたのだろうか。



 とはいえ、アイリスの領域は、あれだけくっきり出せたのはすごいけれど、方向性が少し悪かった。

 自爆したのも無理もないことで、領域の階梯は低かったとはいえ、あの程度で済んだのは幸運だった。

 現状での神殺しには危険はつきものとはいえ、焦りは禁物だ。


 アイリスは生き急いでいるような感じがするので、もう少し周りにも目を向けてほしいところ。

 それが彼女の成長にも繋がると思うし。

 多分。




 アルの方も、積極的に殺すつもりはなかったとはいえ、ダメージ的には死んでもおかしくはなかったし、精神が壊れてもおかしくなかった。

 というか、あれだけ擦り切れているのに死んではいない状態とか、私も初めて見た。


 私の感覚では、アルにはクリアできない加減だったはず――私の予想以上にボロボロになっていたのだけれど、何が彼をそこまで頑張らせたのか、私の理解を超えてきた。

 代償は大きかったようだけれど、見事というほかない。


 いつかはやるだろうと思っていたけれど、こんなに早くとは思わなかった。



 もっとも、これがアルの思い描いていた神殺しかというと、そこに至るための一歩目とかそういう感じでしかないだろう。


 私から見ても、確たる領域を構築していたわけでもないし、やはりなぜ耐えられたのかは分からない。

 根源を通じて何らかの力が流れ込んでいたのは分かるけれど、それも私の領域に対抗できるようなものではなかったように思うし。


 ということは、最初に宣言していた「愛」とか「恋」が原動力なのだろうか。


 結果も合わせて見事な神殺しである。



 何にしても、こっちも少し時期尚早だったように思う。

 私も、「愛」とか「恋」というものに興味があるので、それを教えてもらうまでは死んでもらっては困る。

 もちろん、教えてもらえれば用済みとかそういうことではなく、もっともっと可能性を見せてもらいたいという意味で。

 そのためにも、もっと自身を大事にしてもらいたい。



 そのアルは、現在気絶――というか、意識不明である。

 重体ではないけれど、睡眠でも気絶でもなく意識不明。


 アイリスと同じく、現在の階梯では決して超えることのできない壁を、気合――精神力だけで乗り切ったのだ。

 肉体は回復して、しっかり魂も結合しているけれど、ボロボロになった精神だけが暴走している状態。

 有体(ありてい)にいって廃人である。



 アイリスは精神的に強かったおかげであの程度で済んでいるけれど、アルの精神はそこまで強くない。

 恐らく、アルは肉体と魂が強いので、精神がそれに引っ張られているけれど、精神が直接ダメージを受けると脆かったということかもしれない。



 まあ、アイリスの自爆とは違って、加減はしていたとはいえ私の本質に触れたのだから、存在を保っているだけでも賞賛に値する。

 回復するかは分からないけれど。


 私が看病すれば、ギリギリセーフか?



「あの、お姉様……いえ、ユノ様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」


「ユノさ――ま」


 そんな私の所に、リディアとコレットとルナさんがやって来た。

 というか、その後ろにルイスさんや体制派のお偉いさんもついてきている。


 まあ、説明しないと駄目だよね。




「ごめんね、ずっと嘘を吐いていて。詳細は長くなるから省くけれど、見てのとおり、私は悪魔族でも人族でもなくて、さっきも言ったように、『邪神』とか、『世界樹のゴニョゴニョ』みたいな存在なの」


 駄目だ。

 やはり素面で「神」を名乗るのはキツイ。



「でも、私がそういう存在だって知ったのがごく最近のことで、それまでずっと人間として生きてきたから、そういう自覚とか全然無いの。だから、そういう場じゃなければ、今までどおり接してくれると嬉しいな」



「お姉様がそう望まれるのでしたら」


「でも……」


「あっはい」


 リディアはブレないな。

 訓練の成果――といってもいいのだろうか。


 ルナさんは分かっているのかいないのか――訓練の時のように腰が引けているような感じではないので、適切な言葉が見つからずに戸惑っているのかな?


 コレットは――まあ、仕方がない。

 姿は変わっても中身は以前の私と変わらないことを教えてあげようと、「おいで」と言いながら両手を広げて待つ。


 なぜかルイスさんやルシオさんたちが猛り始めたので、その場から動けないように世界を改竄しておいた。



 肝心のコレットは、若干躊躇ためらう様子を見せながらも、ゆっくりと近づいてくる。

 やはり、大空洞での一件以降、信頼関係を築いてきたのがよかったのだろう。

 後ろで妙なプレッシャーを放っているリディアのせいではないと思いたい。



 コレットが、私の手が届く所にまで来ると、そのまま捕まえてハグする。

 もう抱っこされて誤魔化されるような歳でもないと思うけれど、私のハグは気持ちいいので多分大丈夫。案件にもならない。

 というか、照れてはいるけれど、嫌がっていなのでセーフ。



「私の姿や肩書が変わっても、私がコレットを好きなのは変わらないよ。それよりも、嘘ばっかりでごめんね」


「それはいいんです。そうしないといけなかったっていうのは分かるから……。ルシオ先生も、この件で裏で糸を引いているのはユノさんだって言ってましたし、驚きよりも『やっぱり』って感じです」


 おっと、気づかれていたか。

 それとも、アルがそれとなく(ほの)めかしていたか?


 まあ、特に情報の扱いに気を遣っていたわけではないし、頭の良い人たちには気づかれていても仕方がないか。



「私も『やはり』という感想が強いですね。むしろ、なぜか誇らしく思います。もっとも、お姉様が『女神様』であることに気づいたのは、ここに来る少し前のことですが」


「私も、初めて会った時からすごい人だっていうのは気づいてたけど、まさか女神様だったなんて……」


 リディアとルナさんも優秀だなあ。


 それにしても、もう少し混乱するとか拗れるとか思っていたけれど、すんなり理解してもらえたようで非常に助かる。



「でも、思い返してみると、そんなサインはいっぱいありましたよね。大空洞で大悪魔と仲良くしてたり、誰も知らない『魔法の本質』なんてことを知ってたり……。『ユノさんだから何でもあり』で納得してたけど、『女神様』だからって考えると、矛盾なんて無くなる――つまり、辺境の治安が良くなったり、ゴブリンが美味しくなったのも、全部全部ユノさんのおかげなんだ!」


 いや、意図してサインを出していたわけではないし、ゴブリンは私には関係無い。



「それだけではありませんよ。お姉様は、それだけのお力がありながら、魔界のことは私たちの手でなせるようにと、舞台を整え、私たちを鍛えるだけに止めておられたのです。私たちにならできると信じて! その思慮深さは、女神様というに相応しいですわ! つまり、この世の全てはお姉様のおかげといっても過言ではありません!」


 確かにそれは意図していたことだけれど、ちょっと大袈裟。

 過言すぎる。



「あの地獄以上の訓練を受けてた時は悪魔かと思ってたけど、こうなることを知ってて、これを乗り越えられるだけの力をつけさせるためだったんですね! やっぱり、私の目に狂いはなかったんだ! そんな女神様と繋がりがあるなんて、アルフォンス義兄さんもすごい――って、義兄さん大丈夫ですかね?」


 いや、特に何も考えていなかったのだけれど……。

 ルナさんは目が狂っているようだ。



 それよりも、アルだ。


 すぐにでも再構築するか、看病しないとまずい。


 前者は彼の頑張りを無駄にしてしまうので、一か八かになるけれど、後者しかないか。



 とりあえず、農場の運営などに関しては、私や朔に手伝えることはない。

 それに、今後の魔界での活動――撤退? のスケージュールについても私が決められるものではない。

 そのためにも、アルには早く目覚めてもらわないといけない。



 私のことに関しては、アイリスに任せるべきか?

 きっとアイリスの方が上手くやるし、闘大での救助活動も一段落しているし。


◇◇◇


 ということで、アイリスに簡単な説明を行ってからこっちに来てもらった。

 ついでに、何度も説明するのは面倒なので、ジュディスさん以下私の教え子たちも拉致した。



「えっ!? ここは――お嬢様! ご無事でしたか!」


「あれ、ご飯どこいったすか!?」


「強制《転移》!? あれ、先生!? その格好は!?」


「だっ、大魔王陛下や、将軍閣下も……!? え、拙らは何か悪いことをしましたか!?」


「そこにいるのは黄金の御座の――いや、雷霆の一撃か、その団長じゃないか? もう決着ついたのか?」


 事前説明無しで拉致した教え子たちは大混乱。


 ひとり、私やルイスさんたちではなく、食べかけだったご飯にしか意識がいっていなかった駄犬もいるけれど、それは予想の範囲内。



「全て――とはいきませんが、可能な限り説明しますので、ひとまず落ち着きましょうか」


「「「あ、はい」」」


 状況が理解できずに混乱していた闘大組も、アイリスが仕切り始めると素直に従っていた。

 飼い主とよく躾けられたペットのようだ。




 急遽(きゅうきょ)開催された、魔界の現状の説明と、私たちが魔界に来た理由、そして私たちの素性などを現地の代表者や住人に伝える、いわゆる住民説明会。



 突然、「このままでは貴方たちは滅亡するから、方針転換しなさい」などと言われても彼らも困るだろう。

 というか、「ふざけるな」となるところだと思う。


 しかし、主催者が魔神で、協賛が魔界を担当する神族や悪魔、実務が私たちとなると、文句どころか呼吸すら難しい様子である。

 ひと悶着あるかなと思っていた私やアイリスの素性も、さらっと流された。

 むしろ、私については納得された。

 リディアに至ってはなぜか得意気になっていたくらいだ――いや、予想が当たっていたとしても、動じないメンタルを褒めるべきなのだろうか。




 さておき、彼らが理解しているか納得しているかは別として、現況の説明については終わった。



 そして、肝心の今後のことに話が移ると、少し揉めた。



 まず、農場の引継ぎや残務整理が済み次第、私たちが魔界から撤退することについて。


 私たちからすると予定どおりなのだけれど、悪魔族の皆さんからすると、私たちがいるのが日常となっていたらしく、特にリディアとコレットには泣いて引き留められた。

 もちろん、私だけであれば分体を残すことも可能なのだけれど、新たな争いの火種を作るとか、新たな湯の川を作るわけにはいかないので、正体をバラした以上引き揚げざるを得ないのだ。



 ただ、そんな道理では納得しなかったふたりは、外界に出られない不備をネタにアイリスと交渉を始めた。

 一応、この農場が外界に出るための措置になる予定なのだけれど、その実現の可能性だとか、時空魔法的知見などという難しい理屈を並べて、私ではなくアイリスを狙って論理戦を仕掛けるあたり、頭の良い人というのは厄介である。




 その間、私は隅っこで気配を消していた雷霆の一撃の人たちの相手をすることに。


 とはいえ、神という立場になっている今となっては、何を言っても「神の言葉」になってしまう。

 この世界での神と存在の影響を考えると、下手なことは話せなくなった。



『何か訊きたいことは?』


 朔の判断で、一方的に質疑応答の時間になった。

 いや、彼らの表情を見るに冥途の土産になると思っているかもしれない。



「先に言っておくと、私としては、貴方たちに罰を与えたりするつもりはありません。手段と結果はどうあれ、魔界を良くしようとしていたのは事実でしょうし。それと、これからどうするかも強制するつもりはありません。貴方たちのやり方で魔界を救うのは非常に難しいのはさっきも言ったとおりだけれど、諦めずに続けるというならそれでも構いません。とはいえ、さっきの様子を見る限りでは、戦闘能力もそれ以外の要素でも期待はできないけれど。彼のように、不可能を可能に変えるくらいにやれば可能性も出てくるけれど、それにはまずデーモンコアに頼るのを止めて、英霊離れ、(マスター)離れしないとね」


 などと、せっかく頑張って長文を喋ったのに、反論どころか、返事をする気力もないらしい。


 私の想いが届いているかは分からないけれど、今はこれ以上言ってもどうにもならない気がする。



 もっとも、彼らがどうするか以前に、ルイスさんたちが彼らをどうするのかという問題もあるのだけれど、彼らだけではなくルイスさんたちにとっても大きな分岐点となるだろう。

 もちろん、私はノータッチ――といいたいところだけれど、アルを行動不能にしてしまったのは私なので、彼の意に沿うように口出しくらいはしてみようか。



 他方では、さすがのアイリスも専門知識が必要な分野で専門家に勝つのは難しかったようで、珍しく悔しそうな表情を隠せていなかった。


 結局、農場以外の救済方法の考案と、彼女たち個人に対しての救済措置――口止め料という話になった。

 まあ、いろいろと知るべきではない事実を知ってしまった人たちを魔界に放置しておいていいのかというと、悪魔族の性質から考えてアウトである。

 どれだけ口止めしても、尾ひれが付いて広まることは確実である。



 そうなると、全員を湯の川に連れ帰るか、口封じをするのが妥当になるのだけれど、それ以降の魔界が立ちいかなくなるのは明白である。

 それは彼らも望んではいないだろう。


 なので、最低限の条件はつけさせてもらった。



 こちらの条件は、ルイスさんと学長先生にはしっかりした後継者を育てることと、それを継承していける体制作りを、ダニエルさんとピエールさんも後任を育ててからであれば、湯の川への移住を許可とした。


 大魔王や体制派の重鎮たちが一気に消えた魔界の未来がどうなるかは考えたくもない。


 もっとも、これはルイスさんたちも分かっていたらしく、特に不満は出なかった。



 ほかの人たちについては、最低限外界進出資格相当の何かを示せば、町への移住までは許可。家族や配偶者は応相談。

 お城勤めを希望するなら機会を与えるので、自力で頑張ってもらう。



 ライナーさん以下傭兵団雷霆の一撃と黄金の御座は、ひとまず体制派の管理下に入ってもらう。

 もちろん、デーモンコアは没収で、当面は外界進出も認めない。


 デーモンコアはもう必要無いけれど、アナスタシアさんに返しておこうかと思う。



 そうして話がまとまったところで、私の正体については緘口令を敷いて、一旦解散となった。




 なお、戦挙はテロの影響で今日以降の分は中止。

 今日の0時時点でのポイントを最終的な結果とすることが決まったため、ルナさんチームは2位に終わった。


 しかし、今回の戦挙で序列1位になったマク何とかさんたちは、副学長先生と同じように異形化から元に戻った影響で弱体化しているらしく、戦挙結果を聞くとすぐに長期の療養に入ったとか何とか。

 それがただの逃避ではなく、奮起のためであればいいのだけれど。



 何とも不完全燃焼な形で終わった総戦挙は、打ち上げでも微妙な空気だった。

 まあ、そっちの原因は私の正体と緘口令(かんこうれい)のせいらしいけれど。


 みんなは、私がバケツを被っていた理由だとか、実は料理くらいは無制限で出せるのだとか、あれもこれも嘘だったのかといろいろと話したいけれど、私の前だと話せないのだ――と、朔が教えてくれた。


◇◇◇


 魔王城の方では、年が明けてもまだ、今回の件の後始末と、湯の川移住の条件達成のための準備で大忙しだ。


 特に、育てられていなかった後継者問題とか、新しい組織作りなど、やらなければならないことは山積みだ。

 普通に考えれば、彼らが条件を達成できるのはかなり先のことになるだろう。

 何といっても脳筋ばかりだし。


 ルイスさんに至っては、息子さんが頼りにならないので、ライナーさんを教育して後継者にしようかと企んでいる。

 また、学長先生は副学長先生を後継者に指名しようとして、弱体化した彼を見て「予定が狂った」と落ち込んでいる。



 なお、リディアとコレットは手際よく外界進出権を獲得していて、近く湯の川へ移住してくる予定だけれど、家族についてはまた後日――湯の川で地盤を固めてからにしたらしい。

 ルナさんとジュディスさん、エカテリーナにメアとメイやキリクについては、闘大でのテロ鎮圧に貢献したこともあって、近く外界進出権を手に入れるだろうとのこと。


 というか、実績としては充分に稼いでいるのだけれど、そのせいで各所から後継者として目をつけられて引き止められているのだとか。



 そんな彼らを見ていると、勝手に組織ができていて、何だか分からないけれど上手く回っている湯の川は――私は幸運なのか?

 いや、私がトップかと思えば、お願いを無視されたりもするし……。


 とりあえず、民主主義が採用されたときは逃げた方がいいかもしれない。



 魔界で過ごした半年強は、そう考えると自由だったのだろう。


 能力も言動も制限されていたけれど、能力は工夫でどうにかできることもあるし、言動はどんな立場でも気をつけるべきことだ。


 そんなことより、神扱いされないことが良かった。


 そんな日々も終わってしまったわけだけれど、また機会があれば、誰も私を知らないところで普通に過ごしてみたいものだ。

 お読みいただきありがとうございます。


 ここから新たな魔界が始まりますが、魔界編はここで終了です。


 いつものように幕間を挟んで、次章では舞台が現代日本に移ります。


 ただ、本話投稿予約時点において章単位でのストックが切れましたので、以降の投稿時期や間隔については少し考えつつ書いていきたいと考えています。

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