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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十三章 邪神さんと変わりゆく世界
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50 共通認識

 アルフォンスは、「大魔王ルイスを迎えるための打ち合わせ」と称して前乗りしてきた、闘大学長ルシオの接待を無事に乗り切っていた。


 そして、数時間後に迫った正念場を万全の態勢で迎えるために、妻であるリリスの助けを借りて深い眠りに落ちていた。




 サキュバス族であるリリスには、《魅了》系スキルの成功率上昇補正や夢に干渉できる種族特性があった。

 さらに、サキュバス族の歴史の中でも五本の指に入る才能の持ち主であり、自他ともに認めるエリートサキュバスである。


 現在、アルフォンスに掛けられている眠りの魔法も、彼女が掛けたものだ。

 その効果は非常に高く、現実の出来事の大半が全く認識できなくなるほど危険な状態だが、一方で通常の睡眠よりも大幅に体力や魔力を回復する癒しの効果もあった。



 もっとも、本来であれば、眠った相手にあれこれと悪戯をして、自身の体力や魔力を回復するのがサキュバス族の習性である。

 むしろ、起きている時にも物理的に吸精する、寝ても覚めても吸引力の変わらない種族である。 



 しかし、リリスは本能的な欲求を理性で抑え込み、愛する夫の体調管理に専念していた。


 とはいえ、【夢魔】のほかにも【淫魔】の異名を持つサキュバス族にとって、吸精を行わないのはヘビースモーカーの禁煙以上につらいものである。

 むしろ、人間の三大欲求のうち食欲と性欲にも通じているものを、更に愛する人とのイチャイチャという精神的な充足まで奪われているとなると、拷問といっても過言ではない。


 それでも、吸血鬼の「吸血」ように、それひとつに集約されていない――代償行為で発散できるだけマシといえる。

 とはいえ、いつまでも吸精をしないでいると、種族特性が弱化、若しくは不能になってしまうが。



 禁欲生活が続いていたリリスが能力を損なっていないのは、アルフォンスの精気が極上なため、「燃費がいい」というのが理由のひとつ。


 彼から初めて吸精した時の感動は、運命の出会いを確信するほどだった。



 そして、理由のもうひとつが湯の川産の飲食物である。

 むしろ、魔力的にはこちらの方が遥かに上質である。


 初めて味わったときの感動は、これこそサキュバス族の誕生した意味であり、世界の真理に至ったのだと確信するほどだった。


 特に、ユノ本人や眷属の創り出したものは天上の神気に満ち溢れており、それを優先的に取得できる立場の夫がいる限り、彼女が精気不足に陥ることはない。



 なお、ふたりの間では、「こんなの知っちゃったら、もうアナタの精気じゃ満足できないのっ!」「あんなの知っちゃったら、もうお前の性技じゃ満足できないんだ!」「「うごご……!」」とNTRプレイが捗っているらしいが、プライバシーに配慮して割愛する。




 さておき、サキュバス族の特性で強化された魔法の眠りは、一度掛かってしまうと、術者本人が解除するか、非常に高い魔法抵抗力がなければ覚めることはない。


「アル、起きて」


 もっとも、邪神のモーニングコールの前では、永遠の眠りすらも無意味である。



「ん……、ああ、おは、よう?」


 現在の時刻は午前四時。


 アルフォンスが眠りについたのが午前一時過ぎだったので、睡眠時間はおよそ三時間。

 ショートスリーパーではないアルフォンスにとって、充分な睡眠がとれたわけでも、頼んでいたわけでもない目覚めだったが、彼の心は爽やかだった。


 挨拶が疑問形だったのは、外がまだ暗かったからというだけで、太陽よりも眩く輝く美少女が目の前にいるのだ。

 彼の心には不満どころか感謝しかなく、目覚めた瞬間から絶好調で最高潮だった。



「ごめんね、早い時間に起こして。とりあえず、眠気覚ましに飲み物でも用意するね。コーヒーでいい?」


「ああ、うん。ありがとう」


 ふたりきりでのモーニングコーヒーという状況に、年甲斐もなくドキドキしてしまうアルフォンスだったが、絶好調だったため、どうにか平静を取り繕って答えた。



「砂糖とミルクはどうする?」


「たっぷり頼む」


 本来であればコーヒーはブラックで飲む派のアルフォンスだったが、ユノが淹れるコーヒーだけは別だった。


 理由は単純である。

 砂糖といえば、ユノを構成する三大要素(SSS)(※Sugar,Spice,Sutekinamono)のひとつであり、さらに、「ユノのミルク」という響きにもえもいわれぬ感動を覚えるからである。


 なお、湯の川では、彼と同様の理由で、砂糖とミルク、時にはスパイスや素敵な何かが入ったものを好む者が多い。



 さておき、ユノが手ずから淹れた――正確には創造したコーヒーは、「コーヒー」という名の神の飲み物である。

 それを飲んだアルフォンスの体力魔力は、完全回復どころか溢れんばかりに漲った。

 一方で、気持ちの方は落ち着いてきた。


 こんな時間に起こされた理由を考えると、いつまでも能天気ではいられなかったからだ。



「で、何やらかした?」


 コーヒーを飲み干してひと息ついたアルフォンスの口から出た言葉は、シンプルながらも辛辣なものだったが、口調に棘はない。


 彼も他人のことをいえた立場ではないのはさておき、ユノがやらかすのは珍しいことではない。

 そして、彼に声がかかるということは、彼にできると期待されているということでもある。



「私が何かしたわけではないのだけれど……」


 ユノにもアルフォンスが本気で責めていないことは分かったものの、何かがあればとりあえず疑われる風潮が気にいらなかったので反論した。


 もっとも、問題の火種自体は彼女が関与するものではなかったとしても、デーモンコアの発掘にその後の管理の不備など、火に油を注いだことに関しては言い逃れできない。



 とはいえ、ユノにしてみれば、デーモンコアの評価がそれほど高いものではなく、アルフォンスたちが手に負えないと判断すれば頼ってくるだろうと軽く考えている。

 そうした当事者意識の欠落と、興味が無いことに対する異常な忘れっぽさがマリアージュして、問題を問題として認識していない。


 朔が促さなければ、この件をアルフォンスに伝えるのは彼が起きてからになっていたはずで、その場合は彼を大いに困らせただろう。


◇◇◇


 それから、闘大での事件の概要と、テロリストの本命が本日ここに訪れる予定のルイスであることが、朔の口から語られた。



 闘大の方もまだ騒動の最中で、アルフォンスとしてはそこにいるはずの義妹のことも心配だったが、助けに行くことはできない。


 既にアイリスが率いる部隊が動き始めていて、多少の被害は許容せざるを得ないとか時間がかかるとしても、最悪のケースはないとする朔の分析を信じるしかなかった。


 むしろ、状況が深刻なのはアルフォンスの方である。



「デーモンコアって、俺は実物を見たことないんだけど、聞いた話だとアナスタシアさんの半身なんだろ? 半分以下――更に半分でも勝ち筋見えないんだけど?」


「うーん、割合的なことは私には分からないけれど、肉体はともかく精神を伴っていないしね。例えば、取って付けたような分を超えた力って、何もしなくても自滅したりもするから、額面どおりではないと思うよ」


「……何のことを言ってるんだ?」


「?」


 ユノは、実例を踏まえてアルフォンスを安心させようとしたが、肝心の実例に触れることを忘れていた。

 当然、何の話かよく分からないものになったが、きちんと説明できていたとしても、自滅の条件がアルフォンスに満たせるかは考慮されていないため、何の役にも立たない。



 弱小魔王くらいなら何とか戦えるレベルのアルフォンスにとって、魔神であるアナスタシアは、神剣の力を解放してもなお勝ち目など無い相手である。


 最初から、「どう戦うか」より、「戦いを回避する方法」を模索するべき相手であり、どうしても避けられない場合は人脈をフル活用して挑むしかない。



 しかし、現在の彼が頼れるのは、ユノを除けば妻のリリスとその家族、そして、大魔王ルイスをはじめとした体制派くらいである。

 そして、相手が悪すぎるので、残念ながらリリスとその家族は戦力として計上できるレベルではない。


 また、初めて顔を合わせる相手も多い体制派では、連携も取れずに、お互いに本領を発揮できないおそれもある。


 アクマゾンで契約できる大悪魔も手段のひとつではあるが、後始末に困る。

 所有者と認められなければ使えない神器とは違い、当事者間の契約で成立する関係性を他者に説明するのは難しい。

 説明しようとしても、ユノや湯の川と悪魔の関係や、アクマゾンの存在に触れるのは不適切なため、非常に難しくなる。

 魔界にも、エイナールのような、生半可な嘘が嘘が通用しない――豊富な知識に加えて、子供のような柔軟性を持ちあわせた手強い相手もいる。

 説得に失敗して、最悪の場合、アルフォンスが魔界で積み上げてきたものを全てふいにしてしまうおそれもある。


 ユノに頼れば、その点は素性と可愛さで誤魔化せるかもしれない。

 むしろ、「もう全部あいつひとりでいいんじゃないかな」になるだろう。

 しかし、そういう展開になるくらいなら魔界の未来を諦めるのも選択肢のひとつに入ってくる。



 元は妻の家族を守ることだけが目的だったのだ。

 魔界の未来についてはオプションでしかない。

 先に明言されていない以上、失敗や放棄にペナルティは無いだろうし、ユノの評価が変動することもないはずだ。


 ユノのツボはそこにはないのだから。




 アルフォンスは、まず欲望に流されないようにと別室で眠っていた妻のリリスを起こすと、朔から聞いた情報を簡潔に話した。

 それからすぐに、農場での作業を手伝ってもらっていた子供たちを安全な場所へ退避させるよう指示を出した。



 なお、湯の川産賢者の石を持つ魔法少女隊は、数値上では歴戦の戦士にも匹敵する。

 この場に留まらせれば戦力として計上することもできただろうし、何人かは悪魔族的本能に従って、残って戦うことを希望したが、アルフォンスがそれを許可しなかった。


 元はといえば、大人からの虐待など心を閉ざしていた子供たちである。

 ユノやアルフォンスたちの努力もあってようやく心を開き始めた彼らを、勝ち目の無い戦いで矢面に立たせるようなまねは、ユノの前ではなくても彼にはできなかった。

 彼はすぐに感情移入する上に、切り捨てることが苦手なタイプなのだ。



 アルフォンスは、リリスにルナや彼女の家族たちの保護も頼みたかったが、子供たちの引率だけでもかなりの労力が必要なことは分かりきっている。

 それよりも、中途半端にあれもこれもと手を出して失敗するリスクを無視できなかったので、それについては一旦保留とした。




 アルフォンスは、リリスに子供たちのことを託すと、自身は体制派の代表のひとりであるルシオと、彼の付き添いで来ていたコレットを起こしに行く。



 前日の接待で気分良くぐっすりと眠っていた彼らも、未明といえる時間に起こされては余韻も吹き飛んでしまう。

 それでも、「緊急事態」と言われてそんなことに拘るほど、彼らは愚鈍ではなかった。



 アルフォンスは、ふたりに非常識な時間に起こしたことを謝罪してから、リリスにしたより詳細な状況の説明を行った。


 魔界では内乱や反乱はそう珍しいことではないとはいえ、さすがにデーモンコアを用いた組織がとなると、暢気(のんき)に「またか」などと言っていられない。


 これが普通の反応なのだと、アルフォンスは不可視化して見ているであろうユノに無言で抗議するも、当然ながら反応は無い。



「現状では、さすがにデーモンコアを持っている相手に正面からやり合うことはできません。申し訳ありませんが、最低限を果たした時点で撤退させてもらいます」


「君の立場ならそれが当然だろう。むしろ、今すぐ撤退されないだけでも我々にとっては有り難い。感謝する」


「そうですよ。ここでグレイさんが死んだりしたら、悪魔族と人族の交流の望みが絶たれちゃいますし、逃げてもらわないと困ります」


 アルフォンスの退却宣言にも、悪魔族のふたりは気を悪くすることもなく肯定する。

 昨晩の接待――魔界の未来の可能性が功を奏していたといえる。




「それで、『最低限』っていうのは、敵が陛下の予定やこの場所をどうやって知ったかってことですか?」


 そして、話はすぐに実務についてのものになる。



「うん、そのとおり。それが分からないと、ただ逃げても追い詰められたり待ち伏せされたりで、その先で各個撃破ってことにもなりかねないし」


 特に話し合ったわけではないが、アルフォンスも体制派のふたりも、今回は「逃げる」という方針で一致している。


 デーモンコアを一度でも見たことがあれば、その力を過小評価することはない。

 また、アナスタシアと一度でも遭ったことがあれば、その半身といわれて舐めてかかれるような者はいない。


 そんなものと、大した準備もなく、まともにやり合って勝つ可能性は皆無に等しい。

 したがって、生き残るためにはそれ以外の選択肢が無い――というのが実情である。


 それでも、ただ逃げただけ、若しくは遭遇を回避するように動いただけでは、アルフォンスの挙げた結末が待っているだけだ。



 デーモンコアの相手は無理でも、敵の目や耳を封じることができればいろいろと採れる手段も出てくる。

 そのためにも、条件の良い間に一戦交えて、情報収集や対処を行わなければならないのだ。



「間者の類ではないと思うが――いや、陛下の予定を探るだけなら可能だが、場所の特定はこの魔晶がなければ不可能だ。私の知る限りでは、魔晶は厳重に管理されていたし、触れられる立場の者が陛下を、そして彼女を裏切るとは思えん」


「操られて――ってのもないでしょうね。それができるなら、暗殺狙いとか、反乱を起こして体制派の力を殺ぐとか、もっと効果的な方法でくるでしょうし」


「《予知》とか占術系で、ピンポイントに狙い打ちも現実的じゃないですよね。――あっ、でも、術士とデーモンコアの相性が良かったら、不可能でもないのかも? その線で考えると、場所の特定はどっちでもできるし、日時は――陛下を監視する人を用意した方が確実ですよね。でも、この場所に襲いに来るってことは、魔王軍と正面から戦いたくないってこと? つまり、敵にはデーモンコアがあって、陛下を斃す算段もあるけど、総力戦はしたくない? ということは、陛下を斃すための切り札は、使用回数制限があるような強力なスキルで、兵士を盾にされると困るのかも。だったら、敵の能力は《予知》かな。占術なら、『正規の手段で大魔王の座を狙うが吉』って出るだろうし。《予知》でどこまで見たかはさすがに分からないけど、《予知》は外れることも多いって聞くし、万一逃げられたときのことを考えたら帯同させるはず――いや、どうかな? 私だったら、勝ち目が高いなら連れていくけど……ううん、デーモンコア持っててそこまで慎重な人なら、やっぱり正規の大魔王戦挙に出馬するはず。なんだかチグハグな感じだけど……それを待てない理由でもあるのかな? とりあえず、どうにかして切り札を防ぐかして、《予知》能力者を見つけて殺して、一旦逃げてからユノさんと一緒に戦えれば、デーモンコアだって怖くない!」


 アルフォンスとルシオにとっては、とりあえずの意見出しのつもりだったが、コレットが驚くべき速度で結論を出した。


 彼女の推測は、経験不足からくる見落としや詰めの甘さも散見されるものの、要所要所はしっかりと押さえていたため、彼らにもおおむね納得できるものであった。

 コレットの優秀さは、ただの助手や見習いといった認識でいた彼らには嬉しい誤算だった。


 そんなコレットの活躍に、不可視化して様子を見ていたユノも大満足である。



 しかし、コレットの案に問題が無いわけでもない。


 特に、ユノを巻き込むという作戦は、目先の問題解決という意味では最善であるといえる。

 ただし、新たな問題が発生するとか、問題を認識できる人がいなくなるとか、彼女たちが考えているような結末になるかは不明なのだ。


 それに、アルフォンスとしては前述の理由で、ルシオはユノの力の行使には代償が必要だと思い込んでいるため、彼女を巻き込むことには消極的である。



「まあ、彼女を作戦に組み込むと、先が全く読めなくなるから最後の手段かなあ。それはそれとして、状況分析はとても良かったよ。さすが魔界の将来を担う逸材だって、ルシオ殿が太鼓判を押すだけあるね」


 アルフォンスはユノを巻き込むことを消極的に否定しつつ、ユノと交流があることを認めた。

 明かすタイミングを窺っていて、ここまでその機会もなく話題にも出なかっただけなのだが、これから共闘しようという相手に、ここで嘘や隠し事をしていると思われるのは悪手だと判断したのだ。



「うむ。だが、彼女の才能を見出したのは、私ではなく孫のリディアなのだよ。無論、才能については私も認めるところだがね。とはいえ、私なら、敵の《予知》能力者が判明すれば、生かしておいてサキュバス族を(けしか)けるがね。まあ、多少のリスクはあるが、上手くいけばこちらが状況をコントロールできるようになる」


 ルシオもコレットの能力を認めながらも、悪魔族らしい負けん気を出してマウントを取りにいった。

 もっとも、彼の案も一考の余地があるもので、ただの大人気なさで終わらないあたりは彼の能力の高さを表している。



「あっ、そうか! 《予知》は夢で見るのが一般的だから、夢のエキスパートなサキュバス族は天敵! 《予知》の射程の長さが厄介だけど、適当に動員するだけでも牽制になるし、運が良ければ夢に侵入もできる! 『《予知》だと思った? 残念! まさかの夜の淫夢でした!』ってなる! さすが学長先生です!」


 魔界では、コレットの素直さは良くも悪くもなるものだが、良いものを素直に受け入れられるのは、間違いなく美徳である。



「それも向こうが莫迦じゃなければ対策してくると思うけど、『そっちの《予知》能力者は把握したぞ』ってプレッシャーは掛けておきたいね。その最低限をクリアできれば、ひとまず俺たちは逃げられて、そちらは態勢を整える時間くらいは稼げると思う。だったら、相手の能力次第になるけど、安全策と採るなら《予知》能力者を潰す。付け込む隙がありそうなら泳がせるって感じかな。後は組織力や財力の差を上手く使って、干上がらせるのがいいと思う。まあ、俺としては、早い段階でどうにかしてひとつ布石を打っておきたいところだけど」


「うう……、役に立たなくてごめんなさい……」


 せっかく思いついた作戦に何度も駄目出しをされるのは、年相応の精神を持つ少女にはつらいものだった。

 ある意味、優秀な彼女を対等に扱っていたということでもあるのだが、そんな正論では少女の繊細な心は守れない。

 ユノもこの展開にはお冠である。



「いや、君の分析があってこその作戦だから。めっちゃ助かってるから」


「うむ。駆け引きは経験でしか得られないものだからな。それで私たちが後れを取っては立つ瀬がないというもの。それに、君はまだまだこれから経験を積んで伸びるのだ。せっかくだから、『布石』について教えてもらうといい。いい経験になるだろう」


 落ち込むコレットに、慌ててフォローするアルフォンスとルシオだが、上から目線のルシオも「布石」については見当がついていない。



「うん、まあ、そんな特別なことでもないんだけど、ちゃんと対話をしておきたいなと」


 アルフォンスの言葉の意味は悪魔族のふたりにも理解できたが、その意図は全く理解できなかった。

 悪魔族にとって、主義主張は強者が弱者に押し付けるものであって、相容れなければ戦って決着をつけるものだ。


 決着がつく前に何を言ったところで説得力はなく、敗者に言えるのは「くっ、殺せ」くらいのものである。



「俺もそれで丸く収まる可能性はほぼないと思うけど、彼らはきっと魔界の状況とか、俺たちが何をやってるかなんて知らないわけじゃないですか。といっても、教えたところで信じないでしょうが、教えなきゃ知る機会なんて永遠にないんですよ。もし俺たちが負けて、彼らの時代になったとしても、彼らのやり方が行き詰ったときに思い出してくれれば、最低限ですけどそれでいいんです。まあ、その頃にはきっといろいろと手遅れでしょうし、思い出したところで役に立つかどうかはわかりませんが、そこまでは俺の知ったことじゃない。ただ、希望というか可能性は繋いでいこうってだけで、彼女がこういのが好きだからやるだけです。もちろん、ここで諦めるつもりはありませんけどね」


「ふむ、彼女の好みなら仕方がない。こういうのは悪魔族も人族も変わらんのだな」


「ユノさん優しいから、そういうことしそう!」


 アルフォンスの主張はやはり悪魔族には理解し難いものだったが、彼女以下のくだりでふたりも全面的に納得した。

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