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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十三章 邪神さんと変わりゆく世界
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49 思惑

 警備員たちが内心で戦々恐々としていた中、その元凶もまた「やりすぎた」と反省していた。


 もっとも、「よく考えるとそうなるよね」という感想程度のものでしかないため、本当の意味での反省はできていない。


 また、アイリスのフォローや、それに警備員たちが乗ったことで、「それほど大きな問題ではなかった」と誤認したことも、その流れに拍車をかけていた。


 むしろ、アイリスの話題ばかりが取りあげられていて、、伝えたかったことが伝わっているのかが分からず、もう一度実践するべきなのか、その場合は何を消すべきなのかと悩んでいたくらいである。



「少々刺激が強すぎましたが、ユノの伝えたかったことは伝わりましたか?」


 そんな状況を打破したのは、やはりアイリスだった。



「大雑把に説明すると、魔法も本人の一部――いえ、魔法も本人そのものなんですよ。言葉にすると簡単なものなのですが、一般的な認識とは違いますし、その結論に至るための過程がかなり省略されてますので、なかなか理解し難いと思いますが」


 当然、アイリスが優先するのはユノの好感度稼ぎなのだが、そのためにも他者への配慮を忘れない。



「もっとも、私もきちんと理解できているわけではありませんので、偉そうなことは言えませんが、それでも、私の魔法の射程距離ですとか成功率は、皆さんがご覧になったとおりです。彼女の理論はそれの遥か先にあるものです。きちんと理解できれば、彼女がやったようなことも可能になるんですよ。……とにかく、まずは『できる』と信じて、何があっても諦めないことが重要です」


 いくらアイリスでも、理解できていないことを説明することは難しい。

 それでも、強めに言い切ってしまえば反論されることはないと考え、矛盾が出ないように注意しながら、《巫女》スキルの力も借りて押し切った。



「な、なるほどなあ。何言ってんのか分かんねえと思ったら、俺らにゃ難しすぎたってわけだ!」


「道理でなあ! そっちの嬢ちゃんちょっとあれなのかと疑って悪かった――いや、すんませんでした!」


「俺ら何にも知らない莫迦ばっかだからよ、大目に見てくれ――ると嬉しいです、はい」


 待っていましたとばかりに乗ってくる警備員たちに少し引きながらも、アイリスはリディアたちに目配せする。



「……そうですね。まだまだお姉様の教えを理解するには至りませんが、今はなすべきことに集中しましょう。ルナ、心の準備はいいですか? 向こうに着いたら彼に事情を話して、迎撃の準備を」


「……うん、いつでも大丈夫」


 ルナは、リディアから《転移》の魔晶を受け取ると、いまだに諦めがついていない様子のジュディスに「絶対に戻ってくるから」と一方的に約束して、アイリスや戦挙のチームメイトたち、それからユノを一瞥する。

 死地に赴くことに不安や恐怖はあったが、それでも正体不明の期待感もある。



(「できると信じて諦めない」なんて、今更額面どおりには受け取れないよ。っていうか、あの訓練は、こっちが何を言ってもできるまで終わらないし、諦めたくなっても、初めて会った日のジュディスみたいに身体を操られて「できる」って示されたら諦めさせてくれなかったよね? しかも、その後で殴られるんだよ……。それに、それでひとつできるようになったら課題が倍以上に増えて、いつまで経っても終わりが見えない……。あれって精神的に()るんだよ……)


 ユノがルナたちに行っていた訓練は、基本的にそれぞれの最適化と更新の繰り返しで、表面上はそれほど特別なものには見えない――むしろ、地味とすら思えるものだった。


 しかし、感度三千倍状態のビショップたちが朔の気配を感じて怯えていたように、彼女たちも認識できていなかっただけで同じもの――ある意味ではより性質(たち)の悪いユノの可能性に曝され続けていたのだ。

 可能性とは良くも悪くもなるものだが、そもそも規模が規格外すぎる。

 世界の創造すら能力の一部でしかないユノの可能性は、たとえ加減していたとしても人間には刺激が強すぎた。


 本来であれば廃人になっていてもおかしくない――それで済めば幸運という荒行で、彼女たちが自己を保っていられたのは、ユノがそれを望んでいなかったからにすぎない。


 それでも、彼女たちが新たな可能性の種子を宿したのは、彼女たちの意志の強さによるところが大きい。



「うん、信じて諦めないことなら負けない自信があるし、借り物の力(デーモンコア)でイキってる人たちにもちょっと理解させてくる!」


 ルナにとって、「死」が恐怖の対象であることには変わりはないが、それ以上に恐ろしいものがいくつもあると知った今では、足を止める理由にはならない。

 ルナはそう言い残すと、《転移》の魔晶を使って姿を消した。



「では、私も。お姉様の名に恥じないよう頑張ってまいります!」


 そして、リディアもユノに向けて宣誓してから、反応を待たずに《転移》を発動する。



「お、俺も仕事に戻らねえと! じゃあな、嬢ちゃん! 助かったぜ!」


「そ、そうだな! あちこち壊しちまったから後始末が大変だぜ!」


「じゃあ、俺たちも行くわ! 嬢ちゃん、困ったことがあればいつでも呼んでくれ!」


 そして、これを機とみた警備員たちも、そそくさとその場を離れていった。




 後に残されたのは、ユノとアイリス、そして、エカテリーナと戦挙戦ルナチームからルナを除いた面々である。

 ひっそりと、意識を失っているエイナールも残っていたが、誰も彼を意識していないためにカウントされていない。



「あらあら、随分と怖がられてしまいましたね」


 アイリスは、警備員たちが蜘蛛(クモ)の子を散らすように逃げていったことを思い返してくすりと笑う。



「怖がらせるようなことをした覚えがないのだけれど……」


 ユノとしては彼らに敵意を向けたわけでもなく、そう言われても理由が分からず困惑するばかりである。

 むしろ、彼女の主観では、警備員たちの魂や精神の状態は多少乱れているものの、「死」などの避け難い不幸に直面した者のそれとは異なる――つまり、恐怖ではなく、アイリスが揶揄(からか)っているだけだと思っている。


 それに、誤解されるのはいつものことでもあるので、深刻には捉えていない。

 精々が、「変な噂にならなければいいな」と思う程度である。


 それも、魔界ではルイスやルシオがいろいろと手回ししてくれているおかげで表面上は大事にはならないため、特別に危機感を抱いているわけではない。



「それでも、本当のユノを知れば、きれいに手の平を返すと思いますが――そのときが楽しみですが、今はやるべきことを済ませるのが先ですね。私はこれから残りの負傷者の救助に行きますが、ジュディスさんとメアとメイ、手伝ってもらえますか?」


「もちろんです」


「いいよー」


「了解です」


 アイリスの誘いに、三人はノータイムで承諾する。


 彼女が三人を指名したのは、「負傷者救助」という仕事に対して役に立つと評価しているからで、性格的に扱いづらいエカテリーナと休息が必要なキリクを除外しただけだ。


 それに対して即断した三人は、今この場にユノと取り残されるのは気まずい――と思っていたところだったので、その提案は渡りに船だった。

 一方で、アイリスについていくことで、気になっている「ユノの正体」について教えてくれるのではないかと期待している面もあった。



「エカテリーナは副学長先生の世話を、キリクさんは、私の部屋に食事が用意されていますので、それでも食べて体力の回復を優先してください」


「ええー、この人、多分放っておいても死なないっすよ?」


「分かった。悪いけど少し休ませてもらうよ。今回はさすがに疲れたよ……」


 キリクにとって、この配慮はとても有り難いものだった。



 キリクが、ビショップたちとの戦闘で精も根も尽き果てていたのも事実である。

 それ以上に、彼があれだけ苦労した相手が拍手ひとつでクソ雑魚化するなど、ユノに不満を抱くわけではないが、徒労感を感じても無理はない。



「エカテリーナも、副学長先生が目を覚まして異常が無ければ、食事をしてもらっても構いませんから」


「……うー、分かったっす」


 エイナール担当に嫌悪感を露にしたエカテリーナだったが、エサの誘惑に屈した。



「ユノ、それではまた後で。私は私にできることをしながら、信じて待つことにします」


 アイリスは、そうしてユノが自由に動くためのお膳立てを完了させた。



 アイリスも、大局的に見ればユノの出番が無い方が平和だということは分かっているが、魔神アナスタシアと同格の可能性を秘めたデーモンコアが相手となると、英雄や大魔王でも、勝利どころか生存すらも絶望的だと考えている。


 ユノに言わせれば、「神殺しは人間の特権」なのだが、それが意味するところが直接戦闘に限らない。

 むしろ、それ以外の可能性が高いのは明らかである。

 暴力では彼女を本気にさせることすらできないのが現状なのだ。


 そして、今回の相手は神の力――神器に相当する物を使用する人間である。



 アイリスも、アルフォンスが神器を所有していることは知っている。

 しかし、一概に神器といっても、優劣や相性が存在するのは湯の川では周知の事実である。

 世界樹は別格としても、主たる用途が兵器である神剣と、歪ながらも世界を維持するデーモンコアでは明らかに格が違う。




 アイリスが考えている「ユノが干渉しない」条件は、アルフォンスたちが対処できている間、若しくは対処できていなくても相手が神器を使っていない場合である。

 もっとも、後者に関しては、雷霆の一撃は既にデーモンコアを有効活用しているのは間違いないが、ビショップのように自滅するようなら最後まで見届けるだけだろう。



 とはいえ、それまでにアルフォンスたちが対処しきれなくなる可能性が高いが、それではユノが介入するかどうかは「状況次第」としかいえない。


 彼女が、アイリスやアルフォンスを依怙贔屓(えこひいき)しているのは事実だが、それゆえに判定が厳しくなっているところがあるのも事実である。

 それが命を賭してやっていることであれば、どういう結末になるとしても、最後まで見守るのが「ユノ」である。

 あるいは、雷霆の一撃の理念や行動が、アルフォンスの奇行以上の可能性を感じさせるものであれば、彼らの応援をするかもしれない。


 この可能性は、闘大襲撃――未来ある若者の可能性を奪おうとしたことでかなり低くなっているはずだが、絶対ではない。

 最低限、デーモンコアの使用についてひと言物申す(※肉体言語含む)くらいはあるだろうが、闘大の襲撃にも相応の理由や覚悟を示されると、どう転ぶか全く予測ができない。



 悪魔族の性質的にその可能性はかなり低いが、雷霆の一撃のリーダーか側近が異世界人の転生者であれば、状況は大きく変わる。


 そんな極めて低い可能性まで考慮していてはキリがないが、ルイスという実例も存在するし、ユノという例外も存在する。


 そういった万一の場合で、更に相手が歴史や政治などの高度な専門知識を持っていたりした場合は、学生レベルの知識しか持っていないアイリスやアルフォンスでは、頭脳戦になると分が悪い。


 いくらユノが善悪正誤に拘らないといっても、そこに信念や決意というようなものがあってこそであり、根拠の有無はそれに大いに影響するものだ。



 そういう意味では、アイリスの選択はユノ好みのものである。


 《蘇生》というマイナス点を加味しても、信念の伴わない戦いに身を投じるよりは遥かに高評価である。


 アイリスは、ユノの好感度を稼ぐためなら命を懸けることも厭わないが、決して無駄死にをするつもりはない。

 黄竜と対峙した時のような切り札があればもう少し迷っただろうが、今の彼女が戦闘に参加することで稼げる好感度などたかが知れている。


 そもそも、その切り札も《蘇生》以上に駄目出しされたものであり、何らかの改善を加えたものでなければ好感度を下げるおそれもある。

 欲をいえば、ユノの活躍を直に観たいという想いはあったが、そのために本懐を遠ざけては本末転倒である。


 アイリスは、正しく彼女のすべきことを理解し、行動していた。




 ひとり残されたユノは、これからのことを考えていた。


 アイリスの意図のうち、都合の良い部分は朔に説明されていたので、この先の展開次第では自身の協力が必要になることは理解した。

 ただ、その展開というのが、具体的にどういうものなのかが分からない。


 また、雷霆の一撃の――ライナーの本当の目的が分からないところも、対応に困る一因である。

 闘大の襲撃からして、大したものではないと思いながらも、身の丈に合わない力を得て精神に異常をきたした者たちの暴走とも考えられなくもない。

 狂信者の扱いに困っている彼女だからこそ、共感できる悩みでもある。



 それでも、デーモンコアの危険性を認識していれば最初から介入してもいいくらいなのだが、ユノにとってのデーモンコアは「魔石のちょっとすごいやつ」である。

 そのため、危機感など抱きようがなく、むしろ、「アルフォンスたちならどうにかできるのでは?」と過剰な期待を抱いているくらいだ。


 そして、その価値を正しく認識している朔にとっては、舞台を整えるための道具であるため、あえて情報を伏せている。

 アルフォンスたちには悪いが、良い感じでピンチになってもらわないと、ユノの活躍が映えないのだ。



『まあ、ユノが本気を出せば手遅れになることはないけど、どういう立場で介入するかは考えてた方がいいと思うよ』


「アルたちの手に負えなくなった時点で、いろいろな設定とか無視してってなるなら、選択肢なんて無くない? というか、私の扱いはアルやアイリスに委ねているし、独自判断は駄目なのでは?」


『アイリスはさ、ありのままのユノを尊重して、ユノの好きなようにやればいいと言ってくれてる。それで、アルフォンスは、恐らくユノの意志を尊重して――人間扱いしようとするだろうね。だから、最悪は意地を張って手遅れになるかもしれない。男の意地ってそういうものらしいし。まあ、ユノがどうするかはユノが選ぶことだけど、ボクとしてはアルフォンスには期待してるから、こんなところで消えられるのは惜しいんだけど』


 朔は自身の希望を免罪符に、ユノをギリギリのタイミングで干渉させる方向へ誘導しようとする。



『別に、ヤガミたちに頼まれた秩序維持だとか、アナスタシアの代理だとかって重く考える必要は無いよ。ユノはユノとして――例えば、通りすがりの魔法少女として参戦してもいいわけだし』


「結局それなのか……。でも、いくらアルの意志だといっても、私が(そそのか)したことでアルに負担を強いるのは本意ではないし、それはそれでありなのかなあ?」


 そして、わざと自身の趣味を盛り込むことによって、本題への意識を薄れさせる。



 ユノも、中途半端に干渉するべきではないという基本的な考えは変わっていないが、アルフォンスが命を懸けるかもしれない理由が、彼女が深く考えずに――ちょっとした意趣返しのつもりで発言した「魔界の救世主」であると思うと心が痛む。


 決めたのも行動に移したのもアルフォンスだとしても、朔の言う「男の意地」のようなものを理解できていなかった自身にも非があるように思えてしまうのだ。



「……魔法少女以外に、良い案ない?」


 結局、見事に誘導されたユノだったが、魔法少女として乱入することについては違和感を覚えるだけの正気は残っていた。



『うーん、無い!』


 もっとも、自身で案が出せない以上、それが覆ることはない。

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