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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十三章 邪神さんと変わりゆく世界
478/725

45 正解

 誤解を解くのはアイリスに任せよう。

 優秀さでいうとリディアも群を抜いているけれど、彼女は時折――私のことになるとポンコツになるので任せられない。


 というか、私が頑張るともっと(こじ)れるような気がするし、彼女にできなければ諦めるしかないといった方が正確か。

 適材適所ともいう。



 もちろん、世界を改竄してしまえば私でも可能なのだけれど、人間の在り方を変えてしまうようなものは死者蘇生以上の冒涜である。

 ゆえに、厳に慎むべきである。




「初代大魔王を召喚した――と言いましたか?」


 しかし、アイリスが気にしたのはほかの部分だった。

 そういえば、彼らはそんなことも言っていたような……。



 もちろん、初代大魔王こと私の父さんは、月にある神域で絶賛仕事中――今は私の差し入れのお弁当を食べて感動の涙を流している。

 主神たちも食べたがっていたけれど、今は持ち合わせが無いので次の機会まで我慢してもらおう。


 とにかく、彼らのいう初代様は、人違いか詐欺師といったところだろう。


 確認のためか、こちらに目配せしているアイリスには、首を横に振って否定しておく。



「そうだ――いや、そうでしゅ。俺っ僕たちの団長が英霊として召喚しましたった。聞いて驚け――いや、驚いてくだたい。団長は、実は初代大魔王の血を引いてて、デーモンコアと団長の血を触媒に召喚に成功したんでしゅ!」


 敬語が話せないなら無理に使わなくていいのに。


 何というか、精神状態が言葉にも表れていて、痛々しくて見ていられない。

 そもそも、彼ら的には、これは話していい情報なの?



 それはそうと、父さんに、私たち以外の子孫について再び尋ねてみたけれど、やはり身に覚えがない――そういう相手は母さんが最初で最後だと、今度は冷や汗を流しながら弁解していた。



「まさか、テロリストが初代様を召喚しているわけが……。だけど、こいつらがやたらと強かったのは事実だし……」


「もし本当だったら、俺らは初代様に弓引いたってことになるのか!?」


「慌てるな! 俺たちにだって、女神――のような嬢ちゃんがついてくれてるんだ! 初代様にだって引けを取らないぜ!」


 おっと、論点がズレそうになっている。


 初代大魔王の話題は、案の定警備員さんたちにも広がって、大きな動揺を生んでいた。

 というか、動揺しているだけならよかったのだけれど、動揺を誤魔化すために肥大化した方弁が、アイリスにまで飛び火している。 



「ふん、俺たちの邪魔をしたということは、初代様の邪魔をしたも同然! どう落とし前をつけるつもりだ!? 今すぐ俺たちを自由にして、リディア・バルバトスとルナ・グレモリーを引き渡せば大目に見てやらんでもない――ありませんが……」


 もうひとりいるポーンさんが、彼ら自身が用意した拘束具で拘束された情けない姿で、威勢のいいことを言い始めた。

 しかし、全方位を威嚇するつもりで視線を巡らせていた中で私を見つけて、一気にトーンダウン――というか、言葉に詰まっていた。


 まさか、私がいるのを忘れていたのか?

 お莫迦さんなのだろうか?



「もう一度だけ言いますね。私は初代大魔王ではありませんから、顔色を窺う必要はありませんよ。その上で、貴方たちの質問に答えるなら、そもそも、私は邪魔なんてしていません。貴方たちが魔界の未来のために行動すること自体は良いことだと思いますし、場合によっては応援してあげたいところなのですけれど、その内容が、『前途ある若者の学びの場を襲撃して、あまつさえその可能性を奪うこと』では、それで何を得るつもりなのか全く理解できません」


『君たちは、大魔王ルイスを斃すことで、それとリディアやルナを手に入れて何をするつもりなの?』


 彼らから情報を聞き出すつもりなのか、朔が後を継いでくれた。

 なるほど、彼らが答えるかどうかは別として、自然な流れだと思う。

 これを話術というのか。



 しかし、彼らの態度が目に見えて強張った。

 目があんなに泳ぐ人は初めて見たかも。


 もしかして、私というよりは朔を怖がっているのかな?

 朔の気配も消しているはずだけれど、子供や勘の良い人には気づかれることもあるし、朔の気配は超怖い――というか、ヤバいからなあ。


「しょ、しょれは、しょの、い、一向に外界に進出しようとしにゃい腑抜けに、大魔王の資格はにゃいと。団長にゃら、きっと、上手くやれる――」

「る、ルナ・グレモリーは、外界進出の、ための、初代様の、真の覚醒のための触媒で、リディア・バルバトス、は、仲間に、しようと――」


 朔の脅迫が効きすぎたのか、ポーンさんたちが一斉に話し始めた。


 ただでさえ噛み噛みだったり、間が分かりづらかったりするところにこれでは、内容が頭に入ってこない。

 まあ、あまり意味のあることを話していないことは分かったので、聞き流しても問題は無さそうだけれど。



『要は、何の根拠も無い自信と、具体性の無い計画で、こんな莫迦げたことを始めたってこと?』


「い、いくりゃ初代様といえど、バカげちゃなどと言われりゅのは心外でしゅ!」


「俺、たち、は、本気で、命懸け、でっ……!」


 ビビりながらも反論する気概だけはいいのだけれど、本当にそれだけである。



『君たちが言ったことは、その団長とやらが正規の手続きで大魔王になれば叶うことだよね。後何年かくらい待てなかったの?』


 当然のように朔の正論で叩かれる。



「そっ、それは、魔界にょ未来にょためには、一刻も早きゅ……」

「あんな、腑抜けに、いつまでも、任せている、わけにゃあ……」



『君たちは、魔界の状況について、それと、ルイス陛下が何を考えて何をやろうとしているのかを知ってるの? 知ってればこんな莫迦なことはしないって意味では振出しに戻るわけだけど。というわけで、君たちの理念や行動に、理解や共感できるところは無い』


「「……」」


 さすがにここまで断言されてしまうと、これ以上の反論はできないようだ。

 それか、舌を噛みすぎてもう喋れないか。

 すごく血が出ているし。



 そもそも、最大の問題は、彼らが問題の本質を理解していないことで、彼らのやり方ではいつまで経っても根本的な解決には至らない。


 初代大魔王――父さんはその本質を改善しようとしたのだけれど、やむを得ない事情があったり、認識が甘いところがあったりして失敗しただけ。

 失敗という結果は残念だけれど、その失敗を次やほかに活かせるならいいのだ。


 私としては、父さんが悪魔族としては異端すぎた――人族だけではなくて、悪魔族の認識も甘かったことと、時間や状況的な余裕がなかったせいで、後継者を残せなかったのが最大の失敗だと思う。


 ……いや、待てよ?

 むしろ、娘である私が今からでも意志を継ぐべきだろうか?


 いや、それだときっと私の肩書が邪魔になる。

 万が一にも、初代大魔王の遺志ではなく、神意になってしまっては困るのだ。



 やはり、アルの研究成果をルイスさんに活用してもらうのが妥当なのだろう。


 少々――いや、かなり問題はあるものの、あれには悪魔族の抱える問題の本質を改善できる可能性がある。

 それに、もうひとつの可能性は現状では属人的すぎて、本格的に研究するのは、状況にもう少し余裕が出てからでないと無理だろう。



「魔界の状況――いえ、私たちが抱えている問題とは、力では解決しない問題でも強引に力で解決しようとする性質でしょう。欲しいものは奪えばいいというやり方が通用するのは、欲しいものを作っている、若しくは持っている者がいる間だけです。魔界ではそれが限界に近づいているので外界に矛先を向けようとしているだけで、根本的なところが変わらなければ、外界に出られたとしてもいずれは同じ問題に直面する――若しくはその前に人間との戦いに敗れて滅びるでしょう」


 朔の問いに対して答えたのはリディアだった。


 私がルイスさんや学長先生たちに話した内容が、彼女にどこまで伝わっているかは分からない。

 元女神で現大魔王のアナスタシアさんと敵対する件に触れていないのは、全ては聞いていないか、聞いているけれど、神関係について触れるのはまずいので伏せているのか。


 学長先生もリディアも莫迦ではないので、最低限の情報は共有しているだろうし、恐らく後者かなとは思うけれど、ゼロからこの結論に至っているのだとすると嬉しい。



「何を莫迦な。強者が弱者から全てを奪うのは当然のことではないか――いえ、ないでしょうか?」

「脆弱な人間ごときに俺たちが負けるだと? そんなことがあるわけないだろう! あ、いえ、偉そうなこと言ってすみませんでした……」


 リディアの言葉に、ポーンさんたちがまたもや一斉に反論する。


 躁鬱(そううつ)が激しいのはともかく、ツッコミどころが満載である。


 とはいえ、反応を見る限りでは、警備員さんたちの多くも彼らと同様の認識のようだ。



 事実はどうあれ、結果的に初代大魔王が率いた悪魔族は、勇者を筆頭とした人族に負けている。

 特に当時と構図が変わったわけでもないので、再戦したところで結果は同じ――いや、アナスタシアさんも敵に回す可能性も考えると、もっと悲惨な結果になるだろう。


 そもそも、負けた彼らが、彼らの言い分どおりに全てを奪われていないのは、当時の女神ヘラの手助けがあったからなのだ。


 もっとも、そんなことを言っても信じられないだろうし、何かをしようとしているリディアの邪魔をするつもりもないので、余計な口は挟まない。



「陛下や彼が目指しているのは、そんな体質からの脱却でしょう。今更生き方を変えるのは難しいとか、なぜ今になってとか、それで何が変わるのかとか、思うところはいろいろとあると思いますが、状況を考えるとほかに選択肢は無く、残された資源と結実するまでの時間も考慮すると、今すぐに始める以外はないのです」


 一応、朔の概算では、回帰不能点までまだ十数年くらいの猶予はあるはずだけれど、こんな調子でテロとか略奪が起き続ければ、その分だけ早くなる。


 それも含めて、リディアの答えはおおむね正解だろう。



「本来なら私たちにそんな選択肢は無かったのですが、必要な舞台を整えた上で、私たちの手に委ねてくれたお姉様のおかげで希望が見えてきたのです。つまり、お姉様こそが真の女神様なのです! アイリスさんは精々天使様といったところ。真の女神は、お姉様なのです!」


 あれえ?

 この娘は何を言って、何と戦っているの?

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