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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第二章 邪神さん、異世界で変身する
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20 勇者と従者

誤字脱字等修正。

 時間的にも気分転換にもちょうどいいので、露天風呂へ向かう。

 もちろん、リリーとミーティアも一緒だ。



 基本的に、彼女たちと一緒に入るときは、私自身のことは後回しになる。

 リリーやミーティアの身体や頭を洗ってあげたり、湯船に髪が浸からないように上げてあげたり――根が真面目なリリーはともかく、ミーティアの自主性に任せると、かなり適当になるのだ。



 ミーティアは、水浴びとか、入浴自体はは好きらしい。

 また、他人に洗ってもらうのも好きらしいのだけれど、自分で身体や髪を洗うという習慣がない。


 ミーティアも、基本的には汗をかいたりしないので、体臭はそんなにしない――いや、いつも大体お酒の匂いを漂わせている。

 最近では、大体《竜殺し》の良い香りなのだけれど、私と違って汚れや埃などは付くので、やはり洗った方がいい。


 しかし、ミーティアに任せると、酷い時は泡が残ったまま湯船に入ろうとするので、私やリリーが世話をしてあげなくてはいけないのだ。



 人間との価値観の相違なのかもしれないけれど、このお風呂は、人間が人間のために造った物だ。

 最低限の敬意は――マナーくらいは守るべきである。

 彼女の意思も尊重してあげたいけれど、お互いの主義主張が衝突したときは仕方がない。

 彼女の意思を曲げて、私の主張を通す代わりに、私が彼女の世話をするのだ。

 面倒くさいけれど仕方がない。



 リリーにしても、湯船に入る前には、尻尾に抜け毛防止用のネットを被せてあげたりしなくてはならない。


 リリーは素直な良い娘なので、私が言わなくても自発的にしようとするのだけれど、需要が少なく、道具として洗練されているとはいい難いネットを、自分の尻尾に巻くのは難しいらしく、いつも私がつけてあげている。


 そこに、打算などは存在しない。

 強いていうなら、リリーが可愛くて健気だからだろうか。

 何だか分からないけれど、何かに応えてあげたくなるのだ。



 そんなこんなで、ふたりと一緒にお風呂に行くと、なかなか自分のことにまで手が回らない。


 私は、髪は毎日洗う派である。

 毎日洗うと髪に良くないとか、洗わなくても良くないと聞いて、何が本当なのか分からなくて混乱するけれど、そもそも、私の髪はツヤツヤのサラサラなので、乾燥や摩擦、温泉の成分なんかに負けたりしない。


 それに、汗も皮脂も出たことがないので、汚れることも滅多にない。

 ただ、気分的にさっぱりするという理由で、毎日洗っているだけだ。


 それは身体についても同様で、スベスベな肌は滅多なことでは汚れないので、恐らく細菌すらついていない。

 それでも洗うのは、さっぱりするという理由と、他の利用者に対する配慮だ。



 もっとも、それに(かま)けて時間を使っていては、先に湯船に浸かっていて、最後まで私に付き合おうとするリリーが逆上せてしまうし、ミーティアが泳ぎ始めてしまう。

 それでは、「他の利用者に対する配慮」という点で不合格だと思う。


 温泉は多くの人が同時に利用するものなのだから、他の利用者にも気持ちよく使ってほしいし、

温泉の良さを分かち合うためにも、一定の配慮は必要なのだ。

 他に利用者がいないからと、横着していいものでもないと思う。




 いつものように、脱衣場でリリーたちのお風呂セットの用意をしていると、いつもとは違って廊下の方から騒がしい声が聞こえてきた。


「サイラスさん、早く早く!」

「ソウマ、そっちは――!」


 脱衣場に勢いよく飛び込んできたのは、今朝方ギルドで会った勇者の少年ソウマくんだ。


 女子脱衣場に躊躇(ちゅうちょ)なく飛び込んでくるとは、なるほどなかなかに勇者である。


 私は一瞬で脱げることもあってまだ服を着ていて、リリーも咄嗟(とっさ)に気づいてタオルで身体を隠したけれど、とっくに全裸になっていたミーティアは、堂々と仁王立ちしている。


 そして、ソウマくんを止めようとしてだろうか、続けて飛び込んでくるサイラスさん他3人。

 下の毛も生えていない子供ならともかく、彼らは完全にアウトだ。

 あ、私も生えていなかったので、その例えは不適切か。



 ここはひとつ、可愛らしく悲鳴でも上げてみるべきかとも考えたけれど、そうすると、彼らの行き先が迷宮ではなく拘置所になってしまうだろう。

 友好的な関係でいたいならそれは避けるべきだ。


「――はっ!? す、すまない! 私たちは決して怪しい者ではなく――」

「出てってーー!」


 ワタワタと弁明を始めたサイラスさんだったけれど、私も初めて聞くリリーの大声で追い出された。


 それからも、しばらくは廊下の方からあれこれと弁明の声が聞こえていたけれど、しばらくすると、「男性はあちらです!」と、騒ぎを聞きつけた仲居さんに追いやられて静かになった。



 なお、ソウマくんも我に返った途端に逃げ出そうとしていたけれど、私が首根っこを掴んで捕獲している。

 さすが勇者というべきか、瞬発力などの身体能力はリリーより少し高い。

 それでも、私には子供扱いできてしまう程度でしかないのだけれど。


 恥ずかしがって唸りを上げているリリーには悪いけれど、これは絶好のチャンスなのだ。

 邪魔の無いところで、少し彼と話してみたい。




 固まっているソウマくんを手早く脱がして、私も裸になって浴場へと連れて行く。

 少々犯罪チックではあるけれど、変なことをするつもりはないし、異世界なのでセーフだと思う。


 また、リリーが尋常ではないくらいに赤面して恥ずかしがっているのだけれど、裸を見られるのが恥ずかしいのか、男の子に照れているのか、同年代の子そのものに免疫がないのかの判断がつかない。

 後者の方であれば慣れてもらうしかないのだけれど、前者はソウマくんもそれどころではないので、心配は要らないと思う。

 男の子は結構繊細なのだ。



 それでも、やはりリリーにはハードルが高かったのだろう。

 ミーティアを連れて、露天風呂の方へ行ってしまった。

 露天風呂は混浴なので、下手をすればもっと大変なことになるのだけれど、勇者の従者とか護衛という立場上、迂闊なことはしないと信じたい。

 すれば通報だ。



「緊張しないで」


 リリーたちにしていたのと同じように、ソウマくんの頭や身体を洗ってあげつつ声をかける。

 当然といえば当然だけれど、なかなか緊張が解けてくれない。


 純情な少年にとっても、高いハードルだったらしい。


 とはいえ、今更私が男だなどとカミングアウトすると、再起不能になるおそれもある。



「堂々としていなさい。勇者でしょう?」


 このままのペースでは、落ち着く前に逆上せてしまいそうなので、思い切って踏み込んでみた。


「えっ!? どうしてそれを――」


 やはりそのことは秘密だったらしく、慌てて振り向いては真っ赤になって、再び慌てて前を向いた。

 忙しい子だ。


 しかし、こんなに簡単に誘導に引っかかる素直な子を、戦いの道具にするのか。

 王国の評価を下方修正しなければならない――いや、王国にもいろいろ事情があるのだと思いたい。

 ただ、せめて彼の将来のことも真剣に考えてほしいと思う。



「誰にも言わないから安心して。それと、前は自分で洗える? それとも洗おうか?」


「あ、洗えますっ!」


 どうやら私も自分の身体を洗う時間ができたようだ。

 同時に、淫行などの疑いもかけられずに済みそうだ。


 とにかく、私が見ているところでは洗いにくいかと思って、少し離れて座り直すと、私は私で自分の身体をさっさと洗ってしまう。


 ソウマくんも、言われるままに素直に身体を洗っているところを見るに、今更逃げ出そうとするとは思えない。

 それでも、変に追い込んで――万一、走って転ぶようなことがあってはいけない。


 身体に傷は残らなくても、心に傷を負うような転び方――朔の見た漫画では「ラッキースケベ」なる、何とも頭のおかしいアクシデントがあるらしい。

 それが実際に起こるなどあり得ないとは思うものの、異世界に召喚される時点で、既に何かがおかしいのだ。

 注意しておくに越したことはない。




 細心の注意をもって、ソウマくんを湯船に入れて、その隣に浸かる。

 いまだもってソウマくんの緊張は解れないけれど、同じくらいの年齢だった頃の妹たちやリリーとは普通に入っていてことを考えると、家族は別枠なのかもしれない。



「勇者って楽しい?」


 とりあえず、当たり障りのない話題から入る。

 あれ? 当たり障りありすぎない?


「え? あ、あの――怖いこともあるけど、僕が頑張ればみんなが幸せになるんだったら――」


 当たり障りがなかったようで、素直に答えてくれたことにホッとした。


「お父さん、お母さんに会えなくて寂しくない?」


 油断して地雷を踏んだ。


 私のこの質問に、ソウマくんの雰囲気が一変する。

 普通に考えれば寂しいに決まっている。


 私だってそんな意地悪な質問をしたいわけではなかったのだけれど、つい口が滑って、最も興味があったことを訊いてしまったのだ。


 もちろん、そんなことが言い訳になるとは思っていないけれど、この世界への適性だとか召喚される条件、彼自身がどう思っているかを知りたいのは事実だ。

 場合によっては、国王にひと言物申すことも辞さないつもりだ。



「――お母さんとお父さんは死んじゃって、僕はひとりぼっちなんです」


 やってしまった。


「ごめんなさい」


「いや、あの――事故でいきなりお母さんとお父さんが死んじゃって、どうしていいのか分からなかったし、こっちの人はみんな優しいし、友達に会えなくなったのは寂しいけど、大丈夫――です」


 子供に気を遣われてしまった。

 大人としてそれはどうなのか――それよりも、孤独が適正なのか?


 むしろ適正ではなく、選択肢が無いのではないか?

 まさか、ソウマくんの両親も殺されたのではないか――と、いろいろなことが脳裏に浮かぶ。



「サイラスさんたちも優しいの?」


「うん! サイラスさんは――時々怒ると怖いけど、ジェイソンさんもスペンサーさんもセシルさんも、みんなすごく優しい! です。あの、ジェイソンさんは――」


 それでも即答できるくらいには満足しているらしい。


 サイラスさんたちがソウマくんについているのは仕事であって、汚い大人たちの思惑もいろいろと絡んでいるのだろう。

 それでも、ソウマくん自身は彼らにとても懐いていて、彼らのことになると多少饒舌になっている。


 これは客観的に見た私とリリーの関係と同じなのだろう。

 違いは仕事か気紛れかというだけ。



「悪い大人に虐められたら、お姉さんに言いなさい」


 嬉しそうに話しているソウマくんを見ると、サイラスさんたちが義務だけで一緒にいるようにも思えない。

 しかし、上からの命令が来た場合など、常に彼を守ってくれるとは限らない。


 もちろん、それは私も同じなのだけれど、ソウマくんがこの世界に絶望してしまうようなら、私が彼を攫って日本に連れて帰るという選択肢もありかもしれない。

 ソウマくんが望むのであれば、だけれど。



 ソウマくんが逆上せてしまう前に、お風呂から上がって浴衣に着替え――どうしても浴衣が着たかったので、朔を拝み倒して作ってもらったのだけれど、まさかの太もも丸出しのミニ浴衣。


 どこの風俗嬢か。

 風俗に行ったことはないけれど。


 おかげで、廊下で土下座をしていたサイラスさんたちが、頭を上げると見えてしまう――というか、彼らはここでずっとこうしていたのだろうか?

 ほんのり上気しているので、急いで入って出たということか?

 せっかくの良いお湯なのに、もったいない。



「先ほどは本当に申し訳なかった。まさか、我々の他に客がいるとは――いや、言い訳は止そう。とにかく、ソウマまで世話になってしまったようで――どうすれば許してもらえるだろうか?」


「くうぅ〜、ソウマ羨ましい……!」


「ジェイソン、貴様!」


「申し訳ありません! 後できつく叱っておきますので、どうか寛容な処分で――」


 この世界では、リレー形式で話すのが流行りなのだろうか。


 そんなところに、私たちが出たのを察したリリーたちも合流してきて、女湯前で局地的な渋滞が起こった。


 むしろ、追突事故とでもいうべきか。

 私とソウマくんが手を繋いでいたのを見て対抗心を燃やしたか、リリーが私の空いている方の手に飛びついてきた。


 知らない人が多い中で、リリーにいつものような勢いがなかったので、吹き飛ばされずに済んだ。

 システムのサポートを受けられない私は、リリー程度の力でも簡単に吹き飛ばされてしまうので、下手をすれば大惨事になるところだった。



 そこで、ふと、ひとつのアイデアを思いついた。


「仲良く」


 リリーとソウマくんのそれぞれと繋いでいた手を、リリーとソウマくんに繋ぎ変えて、ひと言だけ発する。

 最初は無口キャラなんて楽なものだと思っていたけれど、これはこれで結構難しい。

 加減を間違えば、頭のおかしい人になってしまう。


「え、あ、うん――あ、はい」

「え? え?」


 子供たちの反応は照れてはいるものの、反発らしいものはないし、悪くはないように思う。



「いや、しかし、我々は迷宮に行くためにこの町へ――」


 サイラスさんが何やら反論するけれど、普通に考えればそうなるよね。


「ここにいる間だけでよい。それで許そう――と、そういうことじゃろ?」


 更に驚くことに、ミーティアがフォローしてくれた。

 いや、早くお酒にありつきたいだけなのかもしれない。



「そう」


 しかし、助かったのは事実である。

 今日はサービスしてお酌をしてあげよう。


「そんなことでいいのか――いや、こちらとしても有り難いのだが」


 彼らの立場的には難しいかと思ったのだけれど、思いのほかすんなりと許可がでた。

 仕事ではあるけれど、ソウマくんのことも充分に尊重している――と、そんな印象を受けた。



「いやあ、町中の宿が急にいっぱいになって、高級なところしか空いてないってなった時はどうしようかって思ったっすけど、こんな綺麗なお嬢さん方と出会えるなんて、これも日頃の行いっすかねえ?」


 少々軽い――というかチャラい感じの青年がジェイソンさん。

 そんな姿からは想像できないけれど、斥候としてパーティーの目となり耳となって逸早く危険を察知する、パーティーに欠かせない存在らしい。

 戦闘能力は低いらしいけれど、彼がいないと冒険の難度が格段に増すことになるのだとか。

 私の勉強したとおりである。



「貴殿らが迷宮の門番を倒したから――いや、貴殿らを責めるわけではないが、冒険者たちの耳と行動力を甘く見ていたな」


 ジェイソンさんとは対照的に、「堅物」という表現がピッタリなのが、魔法使いのスペンサーさん。

 プライドは高いけれど、それに見合うだけの実力はもっているのだとか。


 さておき、私たちが門番を倒したことで、近隣各地に散っていた冒険者がアルスに大挙して押し寄せていて、町中の安宿が埋まってしまったらしい。

 冒険者たちの情報網とフットワークの軽さには本当に驚かされる。



「これも神のお導きでしょう」


 私に喧嘩を売っているのが、プリーストのセシルさん。

 基本的に、ヒーラーは教会勤めの方が安全に稼げることもあって、冒険者では不足しがちな役割だそうだ。

 だからこそ、こんな寝言を吐いていても許されるのだろう。



「ジェイソンは後で説教だ。ソウマ、友達ができてよかったな。――だが、君には婚約者がいることを忘れないように」


 そして、パーティーのリーダーであるサイラスさん。

 他は二十代かそれ以下のメンバーの中で、唯一のアラフォー。

 リーダーというより大黒柱、パーティーのお父さん的立場である。


 なお、彼にはソウマくんと同じ年頃の息子がいるらしく、彼と重ねているということはないけれど、負けないくらいに大事に思っているらしい。

 ただ、男手ひとつでの子育て――というか、子育てそのものに理解がある人がパーティーにいないため、少々困っていたらしい。



「恥ずかしい話だが、戦士を育てることはできるが、子供をどう育てればいいのかは家内に任せていたので分からないのだ。よければアドバイスを頂ければ有り難い」


 それを未婚の女性に訊くのもどうかと思うけれど、彼がソウマくんのことを大事に想っていることは伝わってきた。


 そんな彼は、幅広の両手剣を盾の代わりに使ったりもする、少々変わったタイプのタンクだそうで、名実ともにパーティーの支柱なのだそうだ。

 と、改めて彼らの自己紹介を受けたけれど、私たちの自己紹介は軽く済ませた。


 正体はもちろん、ギルドカードに記載されている内容であっても教えることはできないのだから仕方がない。

 むしろ、乙女の秘密で押し通せてしまうあたりに不条理を感じてしまった。


◇◇◇


 それから数日は大きな出来事もなく、平穏そのものだった。


 ただ、それは私たちの周囲に限ったことで、迷宮は予想どおりの大荒れ模様。


 連日のように死者や重傷者が出て、教会も大忙し。

 ギルドも低ランク冒険者の渡島の取り締まりに動き出した。


 おかげで私はなかなかアイリスに会いに行けず、サイラスさんたちもある程度迷宮が落ち着くまでは攻略を控えることになって、今のところは島の隅っこの方で魔物を狩る程度の活動しかできていない。



 今回は、門番を倒してから日が浅く、通行料を取り立てる集団もいない。


 だったら、「行くしかねえ!」となった人が沢山出た。

 攻略者に成りすまして、通行料を取ろうとした人たちまで出たそうだけれど、遅ればせながらエリート冒険者さんの有志が出張してくれて、彼らを排除した上で、今回は通行料が必要無いことや、「ユノちゃんに感謝しろ!」と宣伝しまくっているらしい。


 私の名前を出されるのは困るのだけれど、フォローしてもらったのは事実なので、落ち着いたらお礼を持っていこうと思う。


 迷宮の方はそんな感じで、しばらくはどうにもなりそうにない状況になっている。


 つまり、自業自得ではあるけれど、平穏というよりは、単に動きづらくなってしまった――というのが正確なところだったりする。



 それでも、それは悪いことばかりではない。


 宿に戻ってきたサイラスさんたちに、迷宮のことを話す代わりに、王都がどんなところか、何が流行っているのかなどを聞いたりもできた。


 特に、10層までの正確な地図は非常に喜ばれた。


 対価としての王都の話は、家に帰るために直接役に立つわけではないけれど、どこそこの店の料理が美味しいとか、どんなものが流行っているのかなどを聞いて、王都に行ったらみんなでどこに行こうかなどと話すのも楽しいものだったので不満は無い。


 というか、彼らから召喚術の秘密など話されても、いろいろな意味で困るし。


 それに、そんな話の中で、リリーとソウマくんが少しずつではあるけれど仲良くなっていって、リリーから遠慮が薄れてきたのも嬉しい。


◇◇◇


 そんな中、商業ギルド主催のお祭りがあった。


 サイラスさんたちも含むみんなで一緒に出かけたのだけれど、そこで子供らしくはしゃぐふたりの姿には、とても心が和んだ。


 露店には様々な食べ物が並んでいて、日本文化の影響か射的や輪投げなどの遊びもあったり、私だけではなくサイラスさんたちも童心を思い出すようなのものだった。

 ふたりのテンションが上がるのも無理はない。


 テンションが上がりすぎたふたりが、それぞれに私の手を取って別方向に向かおうとする、新手の大岡裁きを食らったのも良い思い出である。

 まあ、ふたりの身体能力だと、私でなければ死んでいたかもしれないけれど、とにかく、子供は子供らしくしているのが一番である。



 冒険者や、勇者や、従士だ騎士だ何だと肩書があっても、こういった場ではみんな変わらない。


 ソウマくんも、あまり「勇者」なんて肩書に囚われないで、ソウマくんらしく生きてほしいものだ。



 そんな感じで楽しいお祭りだったけれど、秘密を守る都合上、アイリスと一緒に楽しめなかったことだけは残念だった。


 それはまた、次の機会を楽しみにするしかない。

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