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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十三章 邪神さんと変わりゆく世界
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34 RはR.I.P.のR

 魂という、生物が生物としてあるための動力源が強化され、肉体もその出力に耐えられるよう再構成されたとしても、それらを活用するための精神が壊れていては、人としての活動はできない。


 コンピューターで例えるなら、高性能のハードウェアとそれを動かすための電力はあるが、OSやアプリケーションが壊れているような状態である。

 それが現在のルークの状態であり、自力での回復が望めない以上、彼は一風変わった魔石のようなものである。



 ただし、朔のような存在にとっては、もう少しだけ価値があった。


 ルークの肉体と魂から、彼の記憶などの情報を読み取るくらいは造作もないこと。

 根源への干渉はユノの力を借りなければ不可能だが、それに限っていえば、朔はユノよりも上手くやれる。



 しかし、ユノに気づかれないようにやろうとするのは非常にハードルが高い。


 戦略的には、多少の嫌悪感など我慢してでも情報を入手するべきで、正直にそう勧告すればいいことである。

 ただ、彼女の場合は、それで状況が悪化したとしても、それ以外の方法で挽回すればいいと楽観視するタイプなので、そうすることで逆に警戒させてしまう。


 力ある者の傲慢というより、困ったことがあれば問題を先送りにする性格ゆえである。



 それは朔にとっては好都合である。


 また、ユノの苦手なものについては朔が代行したり、フィルターを掛けたりすることもある。

 そうして細工を施す余地があるのは喜ぶべきことだが、警戒されていてはその価値も半減である。

 理屈を超えた存在である彼女を相手にするには、どれだけ慎重になってもなりすぎるということはない。



『それで、リディアはいつまで隠れているつもりなのかな?』


 朔は、ユノには「リディアから情報を入手しよう」と提案して、彼女の意識を誘導しつつ、ルークの持つ情報を漁っていく。

 その程度の誘導では深いところまでは探れないが、何もしないよりはマシだと割り切っている。



「やはりお気づきでしたか」


 リディアは、概念防御にも等しい不可視化が見破られたことにも驚かなかった。


 むしろ、「お姉様なら当然」だといわんばかりに誇らしい気持ちになっていた。

 そして、バレてしまっては仕方ないと不可視化を解除し、これ幸いとユノの許へ駆け寄る。


 こういった忠犬ムーブがユノの意識を逸らす一助となり、朔のルーク侵食が進む。



「それで、彼は一体どうしたのでしょう? やはり、お姉様が何かをされたのでしょうか?」


『それは私にも分からない――リディアも気づいてたと思うけど、彼はなんだかすごくバランスが悪かったから、それが原因かなと思うけど』


「なるほど。あの男は『力を与えられた』と言っていましたが、私も不自然さは気になっていました。バランスを欠くとこういう弊害もあるのですね。お姉様の訓練の意味が、今更ながらに理解できた気がします」


 リディアは、朔の適当な説明を好意的に受け止めた。


 ただ、彼女にとって、お姉様の言葉は何よりも重いので当然ではあるが、それは疑いを持たないことと同義ではない。



「ところでお姉様。あの男は、お姉様のことを『初代様』と勘違いしていたようですが、何かお心当たりは?」


 もっとも、疑いといっても国家反逆罪のような重大なものではなく、パートナーの浮気を疑う彼氏彼女のような心境である。


 リディアも、ある意味ではお姉様に「力を与えられた」――むしろ、「生きる意味を与えられた」者のひとりである。

 ほかにも同様の者がいたとしてもおかしなことではないが、自身の知らないところでというのは面白くない。

 万が一にもないとは分かっていても、訊かずにはいられなかったのだ。



『それこそ私には分からないよ。大方、どこからか洩れた噂が歪んで伝わったとかじゃないかな。まあ、私と初代大魔王を結びつけたことには思うところがないわけではないけど』


「やはりお姉様も内通者をお疑いでしたか。もし事実なら由々しき事態ですが、お姉様のことを皆に知ってほしいと思う気持ちには共感できます。むしろ、世界中にお姉様のことを正しく知らしめることこそ、魔界のためになると思うのですが」


 リディアは期待どおりの返答に内心で安堵の息を吐きながら、彼女個人としては緘口令(かんこうれい)に反対であると本音を漏らした。



『……それはちょっと。世の中にはいろいろな人がいて、君たちみたいに素直に受け止められる人ばかりじゃないからね』


「そこまで深くお考えとは、さすがお姉様です! それに、そこまで私たちのことを評価していただいていたとは……!」


 特に深く考えていたわけではなく、特に評価もしていないのに感激しているリディアには、朔もドン引きだった。

 むしろ、ナチュラルに狂信者を増やしていくユノにドン引きしていた。


 ファンに愛されるのは結構なことだが、何かあるとすぐに暴走するようなものは扱いに困るのだ。



『それはともかく、彼から情報を引き出せるかと考えて話に乗ってみようとしたんだけど、こんなことになっちゃったからね。彼くらいの相手ならルナさんたちでも対処できると思うけど、規模も分からないし、別に目的もあるみたいだし、何にしても情報を入手しないとね。ところで、リディアもこんな時間にここに来たってことは、ある程度状況は理解してるってことだよね。彼らについて何か知ってる?』


 リディアは、お姉様が目先の異変だけではなく、更にその先まで見越していたことに感動した。

 もっとも、お姉様が異変に気づいていなかったとしても、それはそれで「この程度のことには動じないのですね!」と感動していただろうが。


 また、お姉様に頼られたことに、彼女のテンションは急上昇。

 僅かに感じていた違和感も頭の隅に追いやってしまった。


◇◇◇


『ふむ。つまり、傭兵団「黄金の御座」、その団長が過激派組織「雷霆の一撃」の団長でもある、と。ついでに、デーモンコアも盗まれている可能性が高い、と』


 リディアの報告を受けた朔は、口に出して問題点を整理する振りをした。


 朔もルークの抜け殻からある程度の情報は抜き出していたため、その多くは既知の内容だった。

 しかし、 リディアはともかく、ユノにそれを知られるのは避けたかったため、一芝居(ひとしばい)打ったのだ。 


 もっとも、当のユノはこの状況にはあまり興味が無いらしく、思考の大半は打ち上げの準備をどうしようかなどといった無関係のことに割かれていたため、その心配は杞憂に終わった。




「申し訳ありません。私の目が節穴だったばかりに……」


『いや、君のせいでもないでしょ。まあ、油断はあったのかもしれないけど、今回はそのライナーがやり手だったというだけだよ。それに、まだ挽回の効く段階――いや、相手からすると、この段階で(つまず)くのは想定外のはずだから、むしろ見せ場がきたと考えればいい』


 ルークから情報を入手した朔は、作戦の全体像の大筋を把握している。


 むしろ、朔からすると、作戦といえるような精度のものではない。



 雷霆の一撃の闘大攻略部隊も、日々偵察を繰り返して、敵戦力の把握などそれっぽいことをしようとしていたようではあるが、総じて「雑」としか評価しようがない。

 魔界では作戦行動自体が珍しいとはいえ、詰めが甘い――最終的には能力差で埋めるつもりであれば、あってもなくても変わらないようなものである。


 また、闘大方面でいうと、《転移》防止工作についてもいろいろと粗が目立つので、評価は自然と厳しいものになる。

 さらに、最高戦力であるルークは既に再起不能で、ナイトも戦闘不能と、最早穴は埋められない状況である。


 朔としては、まだ「ルナの安全の確保」という契約が有効なので、最悪のケースに至らないよう配慮する必要はあるが、ユノの分体を通じてアイリスには報告済みである。

 そして、そのアイリスは、間もなくルナたちと合流する見込みである。


 アイリスは、先日の黄竜戦でのダメージがまだ残っているため無理はできない状態だが、後方支援や指揮をする分には影響は無い。

 そして、雷霆の一撃の闘大攻略部隊では、6人揃った彼女たちを攻略するのは難しいと思われる。



「お姉様……! そうですね。反省は後にして、今はやるべきことをやるしかありませんね」


 リディアはお姉様の優しさに感激しながらも、これ以上の失態は見せられないと気を引き締める。



「……単純にここでの作戦を妨害するだけなら、《転移》の妨害を解除とか、包囲網を突破して範囲外に出ればいいだけですが、それだと学園設備や人的被害が大きくなるでしょう。それに、挽回というなら、逆に奇襲をかけるくらいはしたいですね。そうなると、やはり必要になるのは情報収集――どちらかといえば苦手分野なのですが、これを成長の機会とせよということなのですね!」


『……うん、まあ、そうだね。私はここの確保と、彼が起きたら情報を引き出してみる。リディアは自由に動いて情報を探ってきてくれるかな?』


「はい! お任せください!」


 朔も、ユノと同じく、ポジティブ志向は嫌いではない。

 しかし、それも度を超えると不安要素となる。


 それでも、朔の描いたシナリオでは、誰かが雷霆の一撃の計画を暴き、彼らが「目的地」と呼んでいるアルフォンスの実験場に行く流れを作らなければならない。



 朔がルークから入手した情報では、キングこと団長ライナーと、クイーンこと初代大魔王は、ルークたちとは別次元の能力を持っていて、現政権の打倒を目指している。

 とはいえ、全ての情報を取得したわけではないので、その詳細までは分からない。


 現状、ルーク程度が測れる「別次元」には大して期待はできないというのが本音だが、僅かでも可能性があるなら無駄にしたくはない。



 しかし、これがただの勢力争いであれば、ユノは傍観を決め込む可能性が高い。


 ただし、体制派にはルイスをはじめとしたユノのお気に入りが多く、彼女が(そそのか)して巻き込んだアルフォンスもいる。

 そこにアイリスやルナたちも加えれば、参戦させられる可能性が多少は上がる。



 それに加えて、現場にはコレットも居合わせている。

 彼女が巻き込まれるとなれば、ユノの参戦はほぼ確実。

 ただ、目撃者が少なければ、不可視の状態で片づけてしまう可能性もあるため、説得材料はなるべく増やしておきたい。


 そのために都合が良いのが、頭の回るアイリスかリディアである。

 どちらかといえば、共謀もできるアイリスの方が都合がいいのだが、今回のこの状況では、ユノにバレないように話を合わせるのは難しい。

 そうすると、リディアの優秀さに期待するしかない。


 一応、ユノ自身を唆して動かす手段もあるのだが、最悪の場合は、誰も見ていないところで雷霆の一撃を殲滅してしまう可能性もあるので、本当に最後の手段である。


 なお、その場合においても神族やアクマゾンの協力により映像化することは可能だが、プロデューサー失格の烙印を押されることは避けられない。


 それは、失敗を気に病むことがない朔であっても受け入れ難いものである。


◇◇◇


「それで、私はどうすればいいの? サンタ姿で支援?」


 嬉しそうに駆け出したリディアが見えなくなってからユノが切り出した。



『それもいいけど、今のところは切迫した状況でもないし、とりあえずみんなの出方を見てみよう。問題そのものを闇に葬るには少しタイミングが遅いし、だったらこの不測の事態を前にしてみんながどれくらい成長したのかとか、これから成長するのかを観る方がユノの好みじゃない?』


「それはそうだけれど、朔がそんなことを言うとは思っていなかったから、ちょっと驚いた。いや、まあ、『動け』と言われても困るのだけれど」


 ユノは、こういう局面では真っ先に悪巧みを始める朔が大人しいことを意外に感じながらも、モザイクが掛かったルークの惨状を見れば、朔でも躊躇(ちゅうちょ)するのだろうと納得した。


 攻撃によってああなったのであれば加減を変えればいいだけなのだが、実際には声をかけただけである。

 これ以上何を加減すればいいのか分からない。



 ナイトのように不意打ちに近い状況なら排除は可能かもしれないが、それでは情報入手手段は「存在を喰う」以外には無い。

 ユノにとって、ルークは喰えるようなものではなく、代わりにナイトを喰うというののも、ルークを見た後では躊躇(ためら)われる。


 そうして出した結論が、「リディアがやると言っているからいいか」である。




 ユノは、ひとまず不可視化した領域でナイトを回収して拘束した。


 その際に、肉体と魂から精神を少し引き離していて、しばらく意識が戻らない状態にしているので拘束する必要は無いのだが、何も知らない人のための配慮である。


 彼女の配慮は、どこかずれていた。



 ルークの抜け殻に対しては、手頃な穴を掘ってから使い魔を召喚して埋めさせた。

 当然、殺したわけではないので、呼吸ができるように配慮させている。


 作業完了後の状況を見ると、一風変わった墓石のようにも見える出来だったが、アント餅というお供えもあるので「問題無し」と判断された。


 そして、クリスマス会の準備に戻っていった。


 ユノは、興味が無いものに対しては適当だった。

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