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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十三章 邪神さんと変わりゆく世界
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33 作戦

 ルークの精神と肉体は、ナイトが吹き飛んでいく様子を目の当たりにして限界を超えてしまった。


 苦痛からの解放と引換えに、失われていく尊厳やら何やら。



 しかし、虚無にも似た心境の中でも、恐怖だけは消えなかった。


 ナイトの何が初代様の逆鱗に触れたのかは分からないが、ルークの状況がナイト以上に悪いことは一目瞭然である。

 可能であれば出直すべき状況だが、存在が露見している状況では、ひと言断りを入れるなどしなければ心証を悪くするおそれがある。

 ただし、現時点でも心証が最悪であろうことを考えると、死んだ振りでもした方がマシかもしれない。



「恐れ入ります! 初代様とお見受けします!」


 ルークの選択は、ヤケクソ気味な開き直りだった。

 彼は汚泥の中で平伏し、頭を下げたまま大きな声で堂々と挨拶を始めた。


 しかし、その大声が虫の侵入を水際で防いだことで安心し、残心をとっていなかったユノを驚かせ、この状況で何事も無かったかのように振舞える精神力でリディアをも怯ませた。



 そのまま沈黙していれば、ただの汚物として排除されただろうが、今の彼は魔力溢れる元気な汚物とでもいうような状態である。

 いつかは排除するにしても、元気なうちは、ふたりも躊躇(ためら)いを覚えてしまう。

 それで状況が好転したわけではないのだが、ユノが彼の言葉に耳を傾けさせる切っ掛けにはなった。



「ゆえあってこのような場所から、このような無様な姿で失礼いたします! 自分は真に魔界の未来を憂う組織、『雷霆の一撃』に所属する戦士であります! 初代様より頂戴した力を宿してルークの名を頂き、分隊長としてこちらでの任務に着任している次第であります!」


 聞かされている方からすると、ゆえもクソもない状態で、失礼など通り越している状況だったが、続く言葉は無視できないものだった。




 ユノからしてみると、やはり自身と初代様を結びつける要素がないため、人違いだという感想は変わっていない。


 人違いの候補の中には、彼女の父親――初代大魔王ノクティスもいるのだが、彼はずっと神界で仕事中であるため、彼らとの接点があるはずがないと除外された。


 そうなると、やはり心当たりらしきものはなく、「初代」というのは学園長のことか、彼女の知らない誰かのことであるとしか考えられない。


 その気になれば、ルークの存在を喰えば意図するところも分かるのだが、それは物質的な意味だけではないにしても、あれを喰おうという気にはなれない。

 そもそも、問題は「初代様」以外のところにあったので、それは後回しにしても構わないものだった。



 ユノが関与したことで進化した種族がいるなど、後者については多くの()()がある。


 その中でもよく問題視されるのが、世界樹の創造である。

 そして、彼女は魔界でも世界樹は創っている――が、その管理は悪魔に任せている。


 部外者がその世界樹に触れる可能性は極めて低いが、そうだとしても、それは悪魔の管理責任である――自分は関係無いと、言い訳がましく考えている。

 というより、彼女にとって、彼らのような状態は進化とはいわず、因果だけを背負い込んだ物好きである。



 ただ、そういった変化であれば、ユノの意図していないところで何かがあった可能性は否定できない。

 彼女にとっては大したことではないことでも、普通の人々にとってはそうではないこともよくあることで、料理ひとつで大魔王を狂わせたようなことも含めると、今度は心当たりがありすぎるのだ。


 さらに、彼の言った「ルーク」は現地語だったが、混乱しつつも無限に近い並列思考の中で日本語に変換され、同名のロメリア王国貴族を思いだして更に混乱していた。


◇◇◇


 ある程度体制派の情報にも通じているリディアには、「雷霆の一撃」という名に覚えがあった。


 彼女の知る限りでは、雷霆の一撃は小規模な過激派集団であるが、体制派との直接的な衝突は確認されておらず、比較的脅威度が低いと評価されていた、魔界ではよくある組織のひとつであった。



 しかし、現在の闘大の異変は、その規模の組織で行えるようなことではない。

 そうすると、体制派の評価が間違っていたか、短期間で劇的に増強したかでなければ辻褄(つじつま)が合わない。


 可能性としては前者の方が高いのだが、ルークと名乗った男の言葉とリディア自身の経験から、後者の可能性も捨てきれない。



(雷霆の一撃にもお姉様のような存在が協力していたとなると、短期間で劇的な成長をしていたとしてもおかしくないですが、お姉様であれば、このような取ってつけたような無様な強化はしないでしょうし……)


 リディアたちは、ユノとの訓練で壊れないように自己防衛――進化していった結果、「観ること」について非常に大きな成長を遂げていた。


 それができなければ始まらないので当然ではあるのだが、その本質を理解するのは簡単なことではない。



 ユノが相手ではまだまだ「観る」には至らない彼女たちだが、ユノ以外の相手であれば、多くの要素を観ることができるようになっている。


 例えば、ルークの魔力の強大さは当然のように観えるとして、魔力の(むら)の大きさと多さに拙い循環も一目瞭然。

 最適化を語る段階ですらないため、それはひと言、「不自然」としかいいようがない状態である。



 そして、リディアたちの受けた最適化――持てる能力を余すところなく活用するための訓練は、ルークのような身の丈に合わない不自然な魔力を「強さ」とするものとは相容れない。

 その点だけでも雷霆の一撃が間違っていることは明らかだったが、その不自然な力の元凶が何なのかは、現時点では判断材料が少なすぎて分からない。


 現段階で推測できるのは、他者に対して強大な魔力を宿らせる能力を持つ存在がいることと、それをお姉様と結びつける何かがあるということだけ。



「本来であれば、我らが団長が挨拶に来るのが道理なのですが、団長のキン――ライナーは現在魔界の命運を決するための作戦の最中ですので、別動隊を預かる自分が挨拶に参りました!」


 ルークは、現状を説明する際、団長のことをコードネームである「キング」と呼ぼうとしたが、初代大魔王の御前で「王」を名乗るのは不敬かと考えて、「ライナー」と言い直した。


 無論、彼もライナーとリディアに面識があることは知っていたが、細かなところに配慮できる精神状態ではなく、リディアがこの場にいることも知らないため、失言に気づいていない。



 そして、リディアはそういった失点を見逃すほど甘くはない。


(ライナー? もしかして、あのライナーでしょうか? 別人の可能性もありますが、雷霆――なるほど、あの男にお似合いの名ですし、これほどの統率力を持ったライナーが何人もいるとは考え難いですね。となると、恐らく間違いないでしょう。しかし、なかなか骨のある男だと思っていましたが、これほどの牙を隠していたとは――ああ、そうですか。ルークとやらの能力はデーモンコアの恩恵ですか。魔王城で保管されているはずのデーモンコアをどうやって手に入れたのかは分かりませんが、なかなかやるではないですか。そして、デーモンコアと初代様とお姉様を無理矢理結びつけて、よく分からない勘違いをしているというところでしょうか。まあ、そこまで当てろというのも酷ですが、あの男がデーモンコアを持っているとなると厄介ですね……。それで、あの男が首謀者だとすると、学園を狙った理由はルナになるのでしょうか? もちろん、お姉様が手に入るならそれが一番でしょうが、少しでもお姉様のことを調べていれば無理はできないでしょう。そうすると、《転移》の妨害は私がルナを逃がすことを警戒してか、それとも私も標的にされているのか――心当たりはありませんが、あの男が我がバルバトスに雇われたことにも裏があると考えると、警戒した方がよさそうです)


 リディアは、一瞬で一連の流れについてのおおよそを推測した。



(後はライナーの作戦ですが、ルイス陛下を狙うのは間違いないとして、いつどこで――というところだけの問題だとすると、戦力が揃っている魔王城に攻め込むのは、さすがにデーモンコアがあってもリスクが高いでしょう。そこまで莫迦な男には見えませんでしたし、やはり手薄になったときを狙うのが定石ですしね。そうなると、やはり今日の視察を狙う――内通者でもいたか、諜報に長けた人材がいたか――まあ、そこについて考えても仕方ありませんし、こちらの予定が洩れていたと考えるべきでしょうか。そうすると、私の持っている魔晶も狙いのひとつなのかもしれません。先日、お姉様から報告のあった、女子寮に不審者がいたというところにも繋がりますしね。しっかりと要所を押さえられているとは、さすがお姉様です!)


 更にリディアは、ライナーの能力や性格から、驚くほど正確に作戦を予想してみせた。

 彼女がライナーと交流を行ったのは僅かな時間でしかなかったが、彼の能力の高さと状況を照らし合わせれば、これくらいのことは造作もない。



(――やはり、《念話》も封じられていますね。お爺様と連絡が取れれば、いろいろと確認もできたのですが……。それに、ルナたちにも警告をしておきたかった――いえ、この場合は、頭の回るアイリスさんにしておいた方が正解ですね。まあ、さすがに《転移》は難しいですが、《念話》ならこの程度の妨害は突破できそうですし――いえ、必要ならお姉様が手を打たれているはずですし、まずはお姉様と情報を共有することが先決ですね!)


 リディアは、ルークにバレないよう細心の注意を払って《念話》を試みるが、当然のように妨害があることを確認したに止まった。


 なお、リディアが現在展開している隠匿魔法は、本来アクティブスキルを使うと解除されてしまうものである。

 さらに、空間情報攪乱(かくらん)下では繊細な魔力制御が必要になるのだが、ユノとの訓練で強化された彼女の魔力操作は、ちょっとした不可能を可能にする域にまで達していた。


 そんな優秀さにもポンコツさにも磨きがかかっているリディアは、高度に思考しながら、最終的にお姉様に結びつけて思考を放棄するようになっていた。


◇◇◇


 一方のユノは、やはりルークのいう「初代様」について思い当たることがなく、ようやく思い至った心当たりは、「これまでに捕えて放置している不審者のひとりがそうなのかな?」である。


 コンピューターで例えると、ユノの情報処理能力は現代のスーパーコンピューターを遥かに凌駕する性能を持っているが、ソフトウェアがポンコツなので、充分な性能を発揮することはできないのだ。


 それどころか、彼女はOSからして一般的なものとは違う――そもそもの物差しが違うため、人間的な感覚での問題の本筋を見失うことが少なくない。




 ユノのそういったところを補ってくれるのが朔である。


 ただし、朔にも問題解決より個人的な楽しみを優先するという悪質な仕様があるため、面白くなりそうな状況では沈黙、若しくは誘導を始めてしまう。



 今回の場合においてはまだ様子見である。


 魔界での活動も終盤を迎え、有終の美を飾るための要素を探していたところに現れた彼らは、絶好の玩具になり得る存在である。

 朔にとっては、そんな彼らを利用価値を見いだす前に、問答無用で排除されてしまっては堪らない。


(待って、ユノ。彼の言ってた『初代様』って、もしかして君のお父さんのことなんじゃない? 何で彼らが君のお父さんのことを持ち出したのかは分からないけど、理由も分からないまま排除したら、お父さんに迷惑が掛かるかもしれないよ)


 朔もユノの父が月で仕事中であることは知っていて、関与している可能性が低いことは理解しているが、理由はともかく、そう言っておけばユノを止められることも理解している。



 ユノも、朔の性癖は知っていて、本当に必要なときには必要なアドバイスをすることも知っている。

 そうでないときには玩具にされたりもするが、朔の知恵に助けられる場面も多いので無下にはできない。



(言われてみれば、私じゃなくて、父さんたちの残してきた因縁の可能性もあるのか。聞いた話だと“立つ鳥跡を濁さず”とはいかなかったみたいだし、本人たちも全く知らないところで、ルナさんの血筋がどうとかって歪んで伝えられているのもあったし。当時は、勇者や魔王関係の調整が出鱈目だったって主神たちも言ってたし。――とすると、どうしたものかな。父さんを連れてくるのが一番――いや、自覚の無いことだと困惑するだけだろうし、そんなことで大事な仕事の邪魔はしたくないなあ)


(それならユノの方で適切に処理して事後報告でいいんじゃない? 幸い、彼らは何の「初代様」なのか明らかにしてないし、ユノも初代世界樹の女神って意味なら嘘にはならないし)


(事後報告はともかく、その二つ名は嫌だな……。というか、二代目がいるならさっさと引継いでほしいのだけれど……)


(現状世界樹を創れるのはユノだけだから、十六夜たちが進化して作れるようになるまでは無理だろうね。というか、名称以上のことを期待されてるわけじゃないんだし、気楽に構えてればいいじゃないか。それより、とりあえず彼の話を聞いてから方針を決めよう)


(……そうだね)


 何となく上手く丸め込まれたような気がするユノだったが、不得意な分野で朔に張り合うほど拘りがあることでもない。


 ユノは神として振舞うつもりはなく、崇められるのも遠慮したいと思っているが、場合によってはその立場を利用することは否定しない。

 彼女が嫌がっているのは、神を名乗ること以上に、それによって舞い込んでくる面倒事や、失われてしまう可能性である。

 したがって、神を名乗った方がそれらを軽減できるなら、嫌々ながらも演じるだろう。


 何より、どんな問題でもとりあえず解決してくれる世界樹創造は止められそうにない。




 そうして、ユノに代わって主導権を握った朔が話を進める。


『それで、君たちはここで何をしようとしてるの?』


 朔も、ユノほどではないにしても、魔法の本質を理解している。


 むしろ、朔の方が本来の到達点であって、ユノの方が到達点の更に向こう側に行ってしまったイレギュラーなのだが、それを指摘できる存在がいないため、彼女たち自身も誤解している。



 ユノとルークは、第三実験場の分厚い扉を挟んで結構な距離があったが、朔の言葉(まほう)はそんな物に影響されることなくルークに届いた。



 ルークにとって、それは衝撃的な体験だった。


 デーモンコアの力を受け止めて、無理矢理魂が活性化させられているとかチャクラが回されているような状態で、邪神化した根源に触れたのだ。



 本来であれば、その階梯に至る過程で精神なども鍛えられているはずで、そうでなければ理解できないだけで済んだ可能性もあった。

 しかし、なまじ感じ取れるようになっていただけに、彼の階梯では負荷にしかならないものが、全く鍛えられていない魂と精神に直撃した。


 例えるなら、感度三千倍の状態で拷問を受けたようなものだろうか。



「わ我、ワレワレは、我、ワレウォェェッ!?」


 許容量を遥かに超えたストレスはルークの肉体を蝕み、彼は言葉ではなく血反吐を吐き出した。



 これにはユノと朔も驚いた。


 朔としては普通に話しかけただけつもりだったのが、彼の感覚が隠されていた朔の本質を覗ける程度にブーストされていたことと、それに対する免疫が全く無かったことで引き起こされた、誰も想定もしていなかった特殊なケースだった。



(えええ、何をしたの? あの人、精神が崩壊しかけているのだけれど?)


(……ボクにも分からないよ。ボクはユノほど魂や精神を認識できてるわけじゃないから……。きっと、取ってつけたような魔力が悪かったんじゃないかと思うけど、ゴメン、しくじった)


(いや、朔に任せたのは私だし、私がやっても同じ結果になってたかもしれないから、謝る必要は無いのだけれど……。でも、これ、どうしようか? このままだとどう見ても私が容疑者になるよね? というか、リディアに見られているし、言い訳できる段階でもない……?)


 ユノの心配事は少しずれていた。



(それはボクに任せてくれればいいよ)


 朔には、「懲りた」とか「殊勝」などというオプションは無い。

 時には今回のように失敗もするし、反省や謝罪もしたりもするが、それと自重などはまた別の話である。


 朔にとって重要なのは、ユノで遊ぶこと――彼女の可愛さや格好よさを世界に知らしめることである。

 遊び場を台無しにしない程度に人や世界を護りもするが、多少の失敗は素材を引き立たせるためのスパイスでしかない。




 再び主導権を掌握した朔は、現状について考えを巡らせる。


 朔も雷霆の一撃という組織については覚えがないが、それがどういったものかについてはおおよその予見当はついている。



 体制派に不満を持つ組織で、魔王城に潜入できるだけの能力と度胸がある組織。

 面白そうだからという理由でデーモンコアが持ち去られるのを見逃し、その後の窃盗犯の再潜入にも、皆がそちらへ意識を向けないようにそれとなくコントロールしてきた。

 同時に、流出したユノの情報については意図的に放置した。



 全ては、ユノが華々しく活躍できるだけの相手を用意するため。

 そして、それの興味がユノに向くように。


 何もしなくてもユノの周囲にはトラブルが絶えないが、だからといって増やしたり盛ったりしなくていい理由にはならない。

 派手になればなった分だけ、ユノが輝くのだ。


 耐久力だけならデネブは悪くはなかったが、技術的に未熟すぎて、まさかの組技で完封されてしまった。


 朔の目指すユノの運用法は、可憐に華麗に舞い踊る魔法少女である。

 戦乙女のコスプレまでは悪くはなかったが、投げ技や関節技は想定外といわざるを得ない。

 出たとこ勝負のライブ感も悪くはないが、限度というものがある。



 アイリスに化けて油断を誘おうとした窃盗犯は論外だった。

 大人しく諜報活動に勤しんでいればよかったものを、ああまで堂々と出てこられては、朔にも誤魔化しきれなかった。

 むしろ、下手なことを口にされるとユノが警戒する可能性もあり――すぐに忘れるはずだが、念には念を入れて、その前に速やかに消えてもらうしかなかった。



 その点、黄竜コウチンは非常に良かった。


 ただし、戦いが始まるまではだが。


 コウチンの覚悟が良い感じに固く、ユノの期待値が上がりすぎて、魔法少女系の物語ではお見せできないような惨状になった。

 コウチンの戦闘スタイルが回避を捨てていたことも一因だが、短時間に何度も何度も破壊と再生を同時に与えられ、生死の狭間どころか生死が重なり合った彼の姿は、朔から見ても「悲惨」のひと言。

 アクマゾンで販売されている「ユノ様名場面集(1,108巻)」でも、収録の是非で論争が起きたくらいである。


 それはユノ自身も「やりすぎた」と反省していたし、次回以降は朔の制御を入れられる余地が生まれたことは収穫といえるが、やはり古竜クラスの相手を無駄遣いしてしまったことは痛恨の極みである。



 そして、今回のルークと名乗った男は、デーモンコアの力を身につけて現れた。


 それは朔の期待どおりの展開だった。


 ただ、身につけたといっても、彼女たちからすれば残念な出来のもの。


 デーモンコアの能力を余すところなく発揮できれば、少なくともデネブ以上の脅威になると予想していたのだが、結果はまさかのあれである。

 一般人が相手ならあれでもよかったのかもしれないが、ユノが相手ではかえって弱体化しているまである。


(デーモンコアの力は彼らの魂を侵食していた。それが肉体にも影響して強くなったように勘違いしてたみたいだけど、精神の方は据置きだった――ってところかな。やっぱり、魂に干渉するのに、魂をしっかり認識できていないところに問題があったのかな。とりあえず、ルークやナイトってことはチェスの駒か――ルークでこれだと、クイーンやキングにも期待は持てないけど……。デーモンコアも、魔力量だけなら結構なものだったし、上手く使えばいい線いくと思ったんだけどなあ。素材には大した差はないだろうし、そうなると使い手の問題か――いや、湯の川の住人たちは勝手に進化してるし、それも無関係かな。やっぱり、そもそもデーモンコア程度だと、ユノの創ったもののように上手く進化を促せないのか。質の差は最初から分かりきってたことだけど、神格を半分くらい分割したものが料理に負けるなんてね。こんなことなら、デーモンコアの方に細工をしておくべきだったかな――いや、さすがにそれは露骨すぎるか。まあ、仕方ない。今回はユノの引きの強さにワンチャン期待くらいで、ダメージコントロールを優先かな)


 朔の悪巧みはこれひとつではないが、期待値を考えると、簡単に放棄するのは惜しいものだった。


 とはいえ、自由に動くことができない朔にできることは限られている。

 当然、それで諦める朔でもないが。

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