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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十三章 邪神さんと変わりゆく世界
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29 キャプテンシー

――第三者視点――

 魔界村の郊外にある、雷霆の一撃の秘密基地のひとつ。

 そこからそう遠くない荒れ地に、二百名近い雷霆の一撃の団員たちが集結していた。


 当然、その光景は非常に目立つ。

 辺鄙(へんぴ)な場所で人目が少ない時間帯とはいえ、反体制派を掲げ、現在闘大に潜入工作をしている彼らがとるような行動ではない。



 当然、彼らが集まっているのには、それなりの理由があった。



 彼らの同志であるイオが、体制派の動きの《予知》に成功し、体制派打倒の目処が立った。

 それに合わせて、闘大でも大規模な作戦を行うことが決定されたのだ。


 それによって、近隣の秘密基地から可能な限りの人員を集め、決行に向けての準備を進めているところだった。



 その理由が体制派に知られれば一発でアウトだが、規模は違うものの、ハンターたちが狩りに行くために郊外で待ち合わせをしたり、準備をしていることは珍しくない。

 これだけの規模のものはなかなかないが、それでも大規模な「大空洞探索」などではあり得る数でもある。

 それに、多少不審に思っても、殺気立っている彼らに近づいて確認しようという物好きはそうそういない。




 雷霆の一撃の悲願達成に向けての大きな一歩を前にして、闘大攻略部隊は大いに沸いていた。


 というのも、あまり期待していなかったところに、しかもギリギリのタイミングで届いた朗報だったのだ。

 そうして、いつ暴走してもおかしくないくらいにテンションが上がっていた。



 《予知》スキルは、上手く嵌ったときの効果は素晴らしいものの、必ずしも狙った未来を観られるわけではなく、観られたととても確実性が担保されているわけでもない。

 実現までの期間が長ければ長いほど、そして、術者の能力を超える存在が関与するほど確実性は下がる。

 後者に関しては、ファンブルという形で発動しないことも珍しくない。



 大魔王ルイスやその側近の動向を《予知》するにはイオの能力は不足しており、それを覆せるだけの力を持っているデーモンコアも、彼女との相性が悪かった。

 そんな事情もあって、ここまで目立った成果挙げられていなかったし、それほど期待もされていなかった。


 彼らは、《予知》とはそういうものだと認識していたからこそ、それが不発だった場合に備えて活動をしていたのだ。

 それが、この闘大攻略部隊である。


 なぜか初代大魔王と一緒ではポンコツになってしまうコードネーム持ちの隔離という意味もあったが、パワーアップしたという事実で、不都合な事実を無視することくらいは余裕である。



 残念ながら、《予知》の成功によってこれまでの彼らの労力の多くが無駄になった。

 また、既に犠牲者もでていたのだが、それに憤ったり嘆いたりする者はいない。


 彼らは《予知》の恩恵の大きさも知っていたため、少しばかりの嫉妬心は抱きながらも、それが雷霆の一撃の、何より団長ライナーのためになるならと喜んで受け入れた。



「同志イオの執念が実を結んだということか。彼女の雷霆の一撃への、団長への想いが本物だったからこそ、運命の女神が微笑んだのだろう」


「想いの強さでは負けていないつもりだったが、今回は完敗だ。今頃、団長に褒められて、もしかしたら可愛がられてるんだと思うとちょっと悔しいが……」


「諦めるのはまだ早いぜ。俺たちだって、明日の結果次第でまだ褒めてもらえるチャンスはある。ちょうど明日はクリスマスイブだしな、良い子にはサンタクロースがプレゼントを持ってきてくれるはずだぜ」


「ははっ! お前、いい歳してまだサンタクロースなんか信じてんのか? ありゃ教会の策略だろ。莫迦な民衆を『都合の良い子』でいさせるためのよ」


「夢見るくらい別に構わねーだろ。俺だって本気で信じてるわけじゃねえけどよ……、そうでもなきゃ、叶わないもんだってあるだろ。まあ、団長に好かれたいとか抱かれたいって無理を言うつもりはねえ。褒められたいって思うくらいはいいじゃねえか」


 そう言ったきり俯いてしまった男を揶揄(やゆ)するような声は上がらない。



 ライナーには老若男女問わずに惹きつける不思議な魅力があり、時として彼のように何かに目覚める者もいた。

 雷霆の一撃や黄金の御座は、そういった者が集まってできたものであり、程度の差はあれ皆同じ気持ちなのだ。


 ライナーが意図してのことではないが、カリスマや信仰心などで団結している組織は、その強さに応じて厄介さが増していく。

 それは、彼らと対立関係にある者たちに限ったことではなく、時として、憧れや信仰の対象に牙を剥くこともある。

 後者は特に、強さと魅力が釣り合っていない存在の、底や粗が見えた時に起きやすい。

 例えば、オタサーの姫が、オタクくんの好感度管理ミスをした時などである。



「……そうだな。俺たちはずっと理想を現実に変えるために戦ってたんだし、こんな時くらい奇跡に頼っても許されるよな?」


「そ、それでお前らのやる気が出るってんならそれでいいんじゃねえの? つってもまあ、明日の作戦を成功させてからだけどな!」


 サンタクロースの存在を否定した男も、それについては異論は無かった。

 ただ、先ほどの発言の後で今更奇跡に頼るというのも気恥ずかしかったのか、話題を逸らしていた。



「うむ。詳細は偵察班が戻って、彼らの報告を受けてからになるが、大筋は変わらんだろうし確認しておこう」


 このようなやり取りはこれが初めてではない。

 彼らは同志であると同時に、ライバルでもあるのだ。


 ライナーの目が届かない所では、何かあればマウントや揚げ足をとろうとして、しばしば衝突が起きる。

 それでも、決定的な破綻が起きないのは、彼のカリスマの賜物だろう。


 そもそも、《威圧》が挨拶代わりの悪魔族では、この程度のことはじゃれ合いである。


 ただ、管理職としては、こんなことでいちいち話の腰を折られては堪らないので、分隊長の男は、「またか」という心持ちで、ブリーフィングという(てい)の仲裁に入った。




「同志イオの《予知》で判明した目的地は――あれ? ええと、何だったか……なぜか名前を度忘れしてしまったようだが、確か、有名な大昔の大魔王――だったか? とにかく、その居城跡だ」


 分隊長は、有名なはずの大魔王のことを思い出せないことに違和感を覚えながらも、拘る必要は無いと割り切って話を続ける。


 聞いている方も、その情報は周知されていたものであり、ただの確認作業にすぎなかった。

 そして、分隊長同様、その大魔王の詳細について覚えている者はひとりもいない。


 また、悪魔族の性質上、知ったかぶりは当然の対応である。

 違和感はあっても、無知を曝して晒してマウントをとられないよう、沈黙を貫くのも当然のことだ。



「目的地は分かったが、そこまでの道程は重度の瘴気で汚染されていて、踏破は難しい。もっとも、踏破可能だったとしても、《予知》で示された時刻は明日の昼過ぎ。今から行動を起こしたところで間に合わない。本隊は《転移》で直接向かうそうだが、準備や座標計算だけでギリギリ――多少は切り詰めなければならないそうだ。つまり、我々が合流したところで同行できるかは不明で、場合によっては余計な負担になる可能性がある」


「待ってくれ、それじゃ俺たちは留守番ってことになるのか? この大一番に参加できないってのかよ!?」


「手柄を立てられなきゃ希望もクソもねえじゃねえか! ちょっとはサンタを信じてみようかと思ったらこの仕打ちとはな!」


「信じさせておいて裏切る。これが奴らのやり方か……。絶対に許さないぞ、体制派め!」 


 《予知》の成功に浮かれていた団員たちだが、分隊長の状況説明でようやく現況を認識し、それと同時に口々に不満を漏らす。

 中にはそれを体制派への恨みへと転嫁している者もいたが、特に指摘されることはなかった。



「慌てるな! 本隊と同行することは難しいかもしれんが、合流できないとは言っていない。我らにはまだ希望がある!」


 しかし、その喧噪も、分隊長のひと声でピタリと収まる。

 もっとも、分隊長としての地位や彼の人柄がそうさせたというわけではなく、残された「希望」に興味があったからである。



「目的地への移動を可能とする物がまだひとつ残されている。――そう、リディアが持つという《転移》の魔晶だ!」


 分隊長のいう「希望」とは、彼らが従事している作戦の主目的そのものだった。



「そりゃまあ、俺らはその調査に来てるんだし? 入手できれば使えばいいとして、そもそも、まだリディアが持ってるのか?」


「普通に考えりゃ、そんな重要な物をいつまでも持たせたままってのもあり得ねえしな。どっちかっていうと、無いことを確認する作戦だったろ」


「確かに、『あればいいな』って話はしてたけどよ、『ある』と考えるのは希望的観測にすぎるだろ。そもそも、体制派にとってのリディアはまだ次期大魔王候補のひとりだぞ? 今は協力関係にあるが、この先どうなるかは分からん微妙なポジションだぞ?」


 しかし、それがリディアの下にあることはいまだに確認されていない。

 むしろ、団員のひとりが言ったように、リディアを含め、バルバトス家と体制派とは協力関係であるが、支配関係にあるわけではないため、そんな貴重なアイテムをいつまでも持たされているとは考えられていなかった。

 そのため、当然のように団員からツッコミが入る。


 次期大魔王候補のリディアが、正当な手順で大魔王になる可能性はある。

 しかし、彼らと同じように、魔晶を使ってのクーデターを起こす可能性も無いわけではないのだ。



「だから慌てるなと言っているだろうが……」


 分隊長も、それくらいは理解している。

 その上で、推論を述べる。



「確かに、我々の調査では、魔晶の有無は確認できなかった。だが、同志イオの《予知》で、目的地にリディアがいたとの報告もあった。つまり、リディアは目的地に行くための何らかの手段を有しているということだ。無論、リディアは優れた時空魔法の使い手だ。座標が分かっていれば、自力で《転移》することも不可能ではないだろう。それか、直前に体制派と合流する可能性もある。だが、どちらにしても、そういう予定であれば魔力の無駄遣いなどせず、今の段階で合流しておくのが道理。現に、ルシオ・バルバトスがそうしているようにな。恐らく、リディアが残っているのは、もうひとりの初代様の世話役とかそのあたりの事情で、不測の事態に備えて連絡役も兼ねているのだろう。そして、《予知》の状況は、目的地の異変を知ったリディアが、後から到着したところだろう。当然、自前の《転移》で魔力を浪費して、後の戦闘で役立たずになるような愚は犯さないだろう。そうなると、やはり魔晶を所持している可能性が高い」


 続く分隊長の話は、大半の隊員たちを納得させるだけのものだった。



「確かに、筋は通ってるが……。というか、《予知》の内容知ってたんなら先に教えてくれればよかったろ」


「まあ、魔晶があるって理由があるなら、この厳重すぎる警備にも納得できるしな」


 それに、希望を信じたい彼らも、積極的に状況を結びつけていた。



「……でもよ、こっちの初代様がリディアを《転移》させるって可能性はないのか?」


 普段であれば雰囲気に流されて意見がまとまるところだったが、彼らにとっての最大の不確定要素の存在がそれを許さなかった。

 むしろ、その要素の大きさは無視できるようなものではなく、あっというまに団員たちの間に不安が伝播していく。



「……さすがに初代様の存在については我々では判断できん。そのあたりは本隊の方でも判断に困っているようだったが、同志イオの所感では、初代様が関与していれば《予知》は成立していない――こちらの初代様については承認を得ているから可能だが、無許可や敵対状態では絶対に不可能だそうだ。少なくとも、《予知》で見た範囲での初代様の関与は無く、緊急事態だと分かった上で、リディアが初代様の能力で《転移》させられたのだとしても、初代様が一緒に《転移》してこない理由が分からない。つまり、理由は不明だが、初代様はこの件に関与してこない――と考えていいのではないだろうか」


 先ほどまでとは打って変わって、分隊長の推論は自信なさげなものだったが、今度は誰からも反論は上がらなかった。

 分隊長も含め、たとえ根拠は無くても、表現しようのない不安から逃れたかったのかもしれない。



 暗く沈み始めた雰囲気を払拭するべく、分隊長が話を続ける。


「皆も知ってのとおり、《予知》は絶対のものではない。だが、それは実現する可能性のことであって、その要素を否定するものではない。つまり、リディアが魔晶を持っていることはまず間違いなく、このまま何事もなければ《予知》の現場に現れる。だが、我々が行動を起こすことで、後者についてはその事実や意味を変えられるかもしれん。上手く説得できれば、こちらの援軍として――いや、さすがにそれは時間的に厳しいか。ひとまず、《転移》阻止の工作を終わらせて――と、今の進捗状況はどうなっている?」


 《予知》は関係者を排除したり、その行動を変化させることによって実現しないこともあるが、解釈を変えることで、違った状況で実現させることもできる。


 そこで分隊長が考えたのは、リディアを懐柔して、雷霆の一撃の勢力として現場へ派遣することだった。



 雷霆の一撃には、半年くらい前からリディアを――というより、バルバトス家を勧誘する案が存在していた。


 その理由は、「バルバトス家であれば、雷霆の一撃の理念に賛同してくれるのでは?」というライナーの勘である。

 それは何事もなければ実行されていただろうが、この後のデーモンコアの発見から奪取に研究にと、その作戦の肝となるライナーがそちらに忙殺されて棚上げされたままになっていた。


 彼らはここにきてそれを思い出したが、具体案などは無いので、本当に思い出しただけだった。



 それでも、パワーアップした今の自分たちなら理解させられるかもしれないとも思っているが、《転移》で逃げられるとどうしようもない。

 仕掛けるにしても、そうならないための工作は必須である。




 結局のところ、いろいろと理屈をつけて不確定要素に目を瞑っているが、「参加する理由が欲しい」というのが全てである。


 彼らが、彼らなりに「魔界を良くしたい」と考えていることも、そのために命を懸けられるくらいの者が多いことも事実だが、それ以上に、ライナーに認められたいと思っている者が多くいるのだ。

 そのために命を懸けることなど当然であり、むしろ、最初から全てを捧げている者たちばかりである。



 元より、人を惹きつける不思議な魅力と相応の実力を持っていたライナーが、デーモンコアを得たことでそれらが更に強化された。

 さらに、神話の時代の英霊が、彼を王と仰ぐ。


 団員たちが狂信者化するのも無理からぬ話である。


 あるいは、彼なら本当に初代大魔王に次いで、魔界を統一する王になったかもしれない。

 デーモンコアを手にして、身に余る因果を紡いでいなければ。

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