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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十三章 邪神さんと変わりゆく世界
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26 クネヒト・ループレヒト

――ユノ視点――

 戦挙管理の手伝いは、基本的にボランティア活動である。


 魔界にも「ボランティア」という概念があったのかと、少し見直しそうになったけれど、参加者の大半は、学園に何らかの負債のある人たちで、その利息返済の場なのだとか。

 どうやら、ここでいう「ボランティア」は、「無料奉仕」という側面だけがクローズアップされたもののようで、語源ともなった「志願」して参加している人は少ないらしい。


 というか、「利息返済」というのは嘘で、元本も利息も減らない。


 なお、学園側の言い分では、「利息も含めて今すぐ全額返済するか、身体や臓器でも売るか(※食用)、奉仕活動で返済期限を延ばすか選べ」と、選択肢を与えているから合法だと思っているらしい。

 ボランティアというか、奴隷である。

 魔界では借金しないように気をつけよう。



 それはさておき、「基本的に」というのは、「本来であれば、お姉様は奉仕される立場ですので、お姉様にお手伝いいただけるなら、学園にお給金を支払ってもらうよう要請(※脅迫)します――いえ、私個人がお支払いしますわ!」などと言いだした莫迦な人がいるためだ。


 もちろん辞退した。

 お金は欲しいけれど、コレットの目のある所で、彼女も無料奉仕している所で、そんな特例を作るわけにはいかない。



 ただ、それはそれで一件落着したのだけれど、なぜかそのやり取りがほかの所に拡散していて、しかも、「今ならお金でユノが雇える」と歪んで伝わってしまったせいで、いろいろなところから申込みが来ている状況である。


 現在、リディアがその対処に当たってくれているけれど、私を誘う前より仕事が増えているのは、私のせいではないとしても申し訳なく思う。




 さてさて、しばらくほとぼりを冷ますついでに、私は早速クリスマスの準備に掛かることにする。



 まずは、会場となる実験場の掃除から。


 (くだん)の第三実験場は、校舎から徒歩で三十分ほどのところにある、ドーム型の建物だった。

 イメージ的には東京ドームを小さくした物――実際の東京ドームのサイズを知らないので、何個分とかいう表現はできないけれど、外径で五十メートルほどの大きさで周辺には何も無いため、秘密基地感が強い。

 いや、サイズといいロケーションといい、秘密基地とするには目立ちすぎているのだけれど、悪いことをしていそうな雰囲気的に。

 それか、大惨事が起きそうな名前のせいか。



 しかし、そんな外観のイメージとは裏腹に、内部は極めて清潔で、整理整頓も行き届いていた。


 その中でも最大の特徴は、実験場というだけあって、建物中心にある直径二十メートルほどの半球状の実験場になるのだろう。

 何の実験をするのかまでは分からないけれど。周囲には観測分析するための部屋や、実験に使う道具などを仕舞っておく倉庫なども多数ある。

 当然、私が使用を許可されたのは、その実験場のみである。


 器具を壊されるのを危惧しているのだろう。

 なんちゃって。



 それはさておき、ほかにも、実験動物などを一時的に飼育するためのものなのか、大小様々な檻のある部屋も空いていた。

 まあ、クリスマス会場にするには不適切なので関係無いけれど。



 それで、会場となる肝心の実験場はというと、真っ当な実験をするなら当然のことなのかもしれないけれど、偶然の入り込む余地を極限まで排除した、管理された空間であるような印象を受ける。

 施設全体がそんな感じではあるけれど、実験場は特にその傾向が強いように見える。


 今更ながらに、そんな所で飲食してもいいのだろうか?

 精密な観測や計測の装置なんかもあるのだろうし、普通は駄目だと思うのだけれど……。



『もしかしたらユノの料理魔法のデータを取りたいのかも』


 朔がそれっぽい理屈を出してきたけれど、そういうのは魔王城の方でも散々計測していて、一応の結論も出ている。



「原理的には物質変換に近い能力かと思われるが、変換結果に統一性がなく、論理性は見いだせない。また、明らかな質量の増大も見られるため、純粋創造能力が混じった、新種の能力である可能性が高い。ただし、魔法やスキルであれば発生するはずの魔力が一切観測できず、現状では魔法なのかすらも分からない。なお、料理そのものの分析は、担当者によるつまみ食いや摩り替えの危険性を考慮して、一部の人物による実食による所感にて行っているが、天上の物といっても過言ではない美味さに加えて、料理ではあり得ないレベルでの体力魔力の回復にステータス上昇など、広く知られると争いの火種になることを懸念し、緘口令(かんこうれい)を敷くこととする」


 確か、こんな感じだったか?



 もちろん、学園の設備でなら何かが掴めるかもしれないと希望を持っているのかもしれないけれど、それならそれで、正式に依頼されれば承諾したのだけれど。


 というか、その緘口令が原因で、人目につきにくいここを指定されたのだろうか。

 なるほど?


 緘口令の重さと、機器の価値を天秤にかけての判断というなら納得できる。

 緘口令なんて大袈裟だと思っていたけれど、ゴブリンであの騒ぎなのだから、適切な判断だったのかもしれない。



 なので、朔の予想は外れていると思うけれど、念のために分体を使うのは最低限に、アリバイ作りもしっかりと行おう。


◇◇◇


 掃除の必要が無く、設備を壊さないように片付けも最低限で止めたため、今日の段階でやるべきことは早々に終わった。


 仕方がないので、アリバイ作りの方の準備を進めることにする。



 といっても、こちらも大して手間が掛かるものでもない。



 戦挙管理の手伝いにおける私の役割は、不正参加者や不審者の確保、若しくは排除である。

 これを夜間を中心に行う。



 夜間である理由は、当初は8時開始で17時に終了していた戦挙活動における時間制限が、5日目以降は撤廃されて、夜戦も行われるようになるからである。


 これは夜行性の種族や、アンデッドのように夜間に真価を発揮する種族に配慮したルールなのだけれど、最初からそうしないのは、対象が少数派であることと、人手不足――外部委託(アウトソーシング)すると料金が割高になるためらしい。



 とはいえ、このルールでは、その対象となる人たちが夜戦解禁前に淘汰(とうた)されてしまうおそれがあるなど、条件的に不利になってしまう。

 なので、救済策として、ポイントの不利と引換えに、この時期から参戦することもできるようになっている。

 戦挙の中弛みは、既存参加者が夜戦解禁を警戒して、戦力の温存を図ろうとするのもその一因なのだろう。




 さて、巡回するに当たって、私の親衛隊とやらが戦挙に与えている影響が大きいことを考えると、堂々と巡回すると問題が起きる可能性がある。


 私でもそれくらいは予想がつく。

 ボランティアに参加するだけで騒ぎが起きた後だしね。


 とはいえ、完全な隠密行動だとアリバイ作りとして不適切なため、ひと目で私だと分からない程度に偽装した上で、存在をアピールする必要がある。

 もちろん、朔の玩具にされる前振りである。




 そこで用意されたのが、コスプ――変装用の衣装だった。


 時節を考慮しての赤を基調としたサンタクロース風の、魔界の衣料事情を考慮して肌の露出面積多めの、朔やアルが好きそうな感じの物である。


 ただし、変装という要素を満たすためか、サンタ帽子を目深に――というか、顔全体をすっぽり覆っている。

 サンタというか、テロリスト御用達(ごようたし)のバラクラバである。

 むしろ、目出し帽ではないので、肌の露出と視界ゼロの、もっとヤバい人かもしれない。


 色が違えば秘密結社なんかの人たちが被っているあれにも見えそうだけれど、赤い色は暗所では黒ずんで見えるそうなので、区別はつかないかもしれない。



 ちなみに、明るい場所では赤が鮮明に、青は黒ずんで見える。そして、それが暗所では逆になる現象を「プルキニェ現象」という。

 これを利用して、街路灯を青色にすることで印象づけて、防犯に活用する動きもあるらしい。

 実際に効果があるかは知らない。



 日常生活の役に立たない蘊蓄(うんちく)はさておき、赤い色では防犯の役には立たないかもしれないけれど、隠密性は上がっているということで納得しよう。

 赤より肌色の方が多いとか、隠密性なら自力で上げられることは考えない。



 さて、水着にミニスカート、ブーツにグローブ、そして目出し穴の無い目出し帽と、ボランティアを行うには猟奇的な格好だけれど、恐らく問題は無い。


 なぜかというと、元の世界の欧米では「黒いサンタクロース」なる怪人がいて、サンタクロースに同伴しているからだ。

 そして、良い子にはサンタクロースからご褒美が、悪い子は黒いサンタクロースがお仕置きするとか袋に詰めて連れ去ってしまうのだとか。

 欧米版「なまはげ」といったところだろうか。



 私にもサンタクロースの存在を信じていた時期があったのだけれど、両親から黒いサンタクロースの話を聞いた時は、妹たちを護るために「撃退してやる!」と息巻いていたのを覚えている。


 その時の両親の心境は――いや、その話をするに至った理由を想うと申し訳なく思う。

 これから親孝行しないとね。


 ……何の話だったか?



 さておき、それからすると、良い子にはご褒美を与えて、悪い子にはお仕置きした上で、都合の悪いことは伝承の存在に(なす)りつけられるこの服装はベストマッチともいえる。


 というか、元より私には服装の決定権は無いのだから前向きに捉えるしかないのだけれど。

 せめて変な噂が立たないように立ち回ろう。


◇◇◇


 6日目。


 5日目日没以降、中途参加者が活動を開始した。

 現状では中途参加者同士での遭遇戦が多く、ルナさんたちは陣地に引き籠ったまま動いていない。


 サボっているわけではなく、襲撃を警戒して陣地の防衛に努めているのだろう。



 リディアが言うには、これはさすがに警戒しすぎだそうだ。


 残り5日程度なら、持込んだ物資で戦い抜ける――などと考えず、たまには戦挙区域外でしっかり休息するなどしないと、蓄積された疲労は終盤戦に差となって現れるそうだ。

 戦挙戦の経験の浅いチームあるあるだそうで、その場その場での戦闘能力や戦術も重要だけれど、持久戦――というか、持続力も重要な要素となるのだ。


 もちろん、こういった経験談は、戦挙開始前にルナさんたちにも伝えられている。

 とはいえ、その経験者リディアはゴリ押しで勝っているので説得力に欠けたのか、分かっていても陣地から長時間離れて休むことに心理的な抵抗を覚えるのか、現状ではあまり活かされていない。


 もし、私の訓練で強くなったと慢心しての判断なら、魔界から撤退する前に再教育しなければならないけれど。



 とにかく、ルナさんチームの5日目の得点は微々たるもの。


 そして、ついに首位から陥落して現在2位。

 この途中経過を聞いて焦っていたので、作戦とか想定どおりのことではなかったのだろう。




 なお、1位のチームは副学長先生が支援しているチームで、チームリーダーは私たちの転入初日に因縁をつけてきたマク何とかさん。


 取り巻きの皆さんも含めて、随分と鍛え直したのか、ヤバい薬物でもやったのか、体積が以前の倍くらいの筋肉ダルマになっていて、当時の面影は全くない。



 そんな彼らの戦闘スタイルは、筋肉の生み出す高い攻撃力と防御力を活かしたカウンター、若しくは相討ち狙い。

 つまりはコウチンの劣化版だ。

 コウチンは最適化されてそうしているのに対して、彼らはそれ以外できないという意味で。



 戦力的には、順当にいけばルナさんたちが勝つと思うけれど、彼女たちの間合い操作技術はまだまだ甘いので、まぐれ当たりでもあるとどうなるかは分からない。

 もちろん、技術が未熟なのはお互い様なのだけれど、筋肉に極振りしている人は脳まで筋肉になっていると、ダメージや苦痛に鈍いこともある。


 冗談のように聞こえるかもしれないけれど、全身を凶器にできる私がいるのだから、全身を筋肉にできる人がいてもおかしくない。

 むしろ、その方が魔法の本質に近いまである。


 よくよく考えてみれば、古竜たちだって大災害の象徴だし、三魔神も暴力の化身だったり筋肉の化身だったりアイドルオタクの化身だったりするし、強者といわれるのは何かを体現できるまでに特化した人が多いような気がする。


 もっとも、もう少し階梯が上がれば、「強者」という物差しにも、後ろに(笑)がつくようになってしまうのだけれど。


『ユノにもついてるよ。(可愛い)ってね』


 ……。




 さておき、マク何とかさんのチームは、彼らと同じく副学長先生の麾下(きか)にあるチームからの支援を受けていて、ほかのチームより有利な状況で戦挙に臨んでいる。


 もちろん、関係者同士が示し合わせた上でのポイントのやり取りや、特定チームに対する明らかな支援行為などは「失格」も含めた処分の対象になる。

 しかし、そのあたりは副学長先生の指示か、問題にできないギリギリのところでやっているようだ。



 リディアは憤慨していたけれど、私はこれをずるいとは思わない。

 むしろ、実力が足りない分を工夫で補っていると褒めてあげてもいい。

 まあ、副学長先生が絡んでいなければだけれど。


 子供同士で競っている場に、大人が首を突っ込むのは無粋でしょうに。


 ルナさんチームもいろいろと恩恵を受けているけれど、それは彼女たちが築いてきた実績とか、「私」というカードを使わせない対価だったりするので、少し毛色が違う。

 何より、戦挙開始以降は、彼女たちだけで頑張っている。



 もっとも、マク何とかさんや副学長先生に問題があったとしても、管理委員会か学園が処分を下す案件である。

 私は私の役割を果たせばいい。

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