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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十三章 邪神さんと変わりゆく世界
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24 戦挙開始

――ユノ視点――

 親衛隊絡みのことを除けば、ルナさんたちの戦挙準備は順調に進んで、ほぼ万全の状態で開始の時を迎えることができた。



 陣地となる研究室は、学長先生もお勧めの一階の角部屋。


 外壁は頑丈な上に高価なので、相当の腕力と財力がなければ破られない。

 窓はシェルターで塞いでしまえば、外部からの侵入を防止できる。

 さらに、天井や床にも侵入防止及び迎撃用の罠を設置して、完全に要塞化。

 そこに繋がる通路は長い直線。


 彼女たちの陣地を攻めるためには、狙い打ちにされることを覚悟でそこを進むしかない。

 遠距離攻撃で対応しようにも、ジュディスさんとキリクという壁がそれを阻む。

 捨て身の特攻も、メアとメイ、そして条件付きではあるものの高威力の魔法も扱えるようになったルナさんが迎撃する。

 通路沿いのほかの部屋には罠が仕掛けてあって、それによって出た被害は相手持ちと大変お得。

 今ならなんと、囮用の案山子も付いてきて、お値段はなんと、たったの優勝しての出世払い!

 やったね。タダより高い物はないよ!



 冗談はさておき、彼女たちは、私との訓練を経て幾分か戦闘能力が向上した。


 相手が私では大した意味は無いとはいえ、レベルや身体能力も向上した。

 しかし、それ以上に「流れを読む力」が養われたことが大きいはずだ。



 相手の視線や魔力の流れなどから意図を読んで、身体や魔力の動きで行動を察する。

 基礎能力で上回って、間合いも制しているなら、主導権を奪われるおそれは皆無といっていい。

 もちろん、油断などがあれば話は別なのだけれど、油断するとどうなるかは私がきっちり教えているので大丈夫だと思う。



 なお、開始以降は特定の誰かに肩入れしていると思われないように、できる限り参加者に干渉しないようにするつもり。


 つまり、ご飯も差入れもしないつもりなのだけれど、そう宣言すると、みんな目に見えてテンションが下がってしまった。

 気持ちは分からなくもないけれど、私の干渉の無い状態で各々の力を試してもらいたいと思っているので、こればかりは譲れない。


 もちろん、アイリスやコレットとリディアは対象外だし、それで戦挙に参加するみんなに気を遣う必要も無いので安心してほしい。


◇◇◇


 戦挙初日。


 開始直後、親衛隊のスピード自慢の人たちが、ルナさんチームを強襲。


 しかし、単独ではルナさんチームの型に嵌った戦術を突破できずに撃破されるか、足止めされている間に追いついてきた後続に背後から襲われて最速での退場となっていく。


 単独参加者が落ち着いてきた頃合いで、チームでの参加者たちが参戦するものの、連携の取れた精鋭と烏合の衆ではまともな戦いにはならない。

 そして、単独参加者同様に足止めされて後続に襲われるか、罠が仕掛けられているほかの講義室に逃げ込んで無力化される。



 それが続くと、残った親衛隊は、「このままでは駄目だ」と感じたのだろう。

 まずは後顧の憂いを断つべく親衛隊同士で争い始めた。



 結局、初日は親衛隊同士の潰し合いがメインで、一般参加チームの大半は下手に巻き込まれないよう様子見せざるを得なかったようだ。



 初日終了時点では、ルナさんチームに被害無し。


 獲得ポイントは、開始直後の乱獲のおかげで暫定一位。

 上々のスタートである。



 なお、初日だけで親衛隊の二割強が脱落して、巻き込まれた一般参加チームがいくつか脱落。

 学園設備備品の破損も多数。


 戦挙初日に合わせて戻ってきたリディアも忙しそうに駆けまわっていて、所感では、「こんなに荒れた戦挙は見たことも聞いたこともありません。恐らく、過去最大規模の被害額――学園にとっては売上となるでしょう」ということだ。


◇◇◇


 2日目も基本的に前日と同じ流れ。


 親衛隊同士の潰し合いは継続しつつも、隙を見てルナさんチームを襲撃しようとするチームが出てくる。

 ただし、抜け駆けしようとしてバレたチームは袋叩きに遭う。

 変なところで息がピッタリだ。



 若干手持ち無沙汰になったルナさんチームは、チームをルナさんとジュディスさん、残りの三人のふたつに分けて、一般参加チームの攻略を始めた。


 一方が攻略で、もう一方が防衛。

 ただ、攻略といっても、基本的に遊撃で撃破数を稼ぐだけ。

 大きなチャンスがあれば拠点も襲撃するつもりのようだけれど、危なそうなら無理せず早々に撤退する方針らしい。

 臆病なのか、慎重なのかはまだ判断できないけれど、私が教えた間合い操作を実践してくれると思いたい。



 さておき、親衛隊は、なぜか拠点攻略以外では彼女たちとは敵対しない方針らしい。

 それどころか、彼女たちと遭遇すると、一般参加者の攻略情報を教えてくれたり、時には協力してくれることもある。


 どうやら、彼らの最大の目的が「私の歓心を買う」ことにあるため、私の見ている前で正々堂々と挑んで存在と力をアピールするのと、私が見ていない所でも、彼女たちを通じて自分たちの株を上げるのは相反しないことらしい。


 最終的に双方が生き残っていれば戦うことになるけれど、「負けてルナたちの地位を奪えなかったとしても、好感度が高ければ温情があるかもしれないと期待しているのでしょう。浅ましいことです」と、リディアが分析していた。



もっとも、彼らの援護が無くても、私が鍛えた彼女たちは、多少の数的不利はものともしない。


「頭数だけ多くても、手数も威力も精度もユノさん以下だし、割とどうにでもなっちゃうんだよね。レベルが上がっても大して強くなった実感無かったけど、相手が悪かっただけだったんだね……。私たち、もう充分に強くなってるから、あの訓練はもう終わりだよね?」


「ユノ殿は我々の力量が上がるのに合わせて、常に一定の壁になるよう加減を調整していたのでしょう……。あの地獄のような訓練で、何度心を折られたかも分かりませんが、こうして成長を実感すると感慨深いものがあります。いえ、もう訓練は結構ですが!」


「戦闘能力の上がり具合にもびっくりだけど、連携も段違いだよね。あいつら、先生には通じない連携でも面白いように嵌るし、先生が褒めてくれた連携だと反応もできないでやんの。あ、いや、調子に乗ってすんませんでした……」


「先生が相手では分からないことでも、学生が相手ではよく分かります。同時に、拙どもが未熟だったことも……。お師匠様と先生の教えのおかげで、拙の戦術はここに完成形が見えましたので、もうあの特訓は結構です。いえ、マジで」


「君らはまだよかったじゃないか。集団訓練だったんだろ? 俺なんか『出遅れてる』って理由でマンツーマンだったんだぞ? え、いや、鍛えてもらったことには感謝してるけど、またやりたいかっていわれると、なあ……?(※特に魂や精神の混線が無かった彼の訓練は、彼女たちと同程度の成果を得るために凄惨を極めていた)」


 みんな強くなっているのは自覚しているようだけれど、訓練は不満だったようだ。


 生かさず殺さず、大怪我をしてもすぐに回復してもらえる。

 そんな、いろいろと限界に挑戦できる良い訓練だったと思うのだけれど。

 何が不満だったのだろう?




 さてさて、順調に脱落者が出て参加者が減っていく一方、戦挙会場内及び周辺の人口はあまり減っていない。



 理由のひとつは、脱落したチームの原状回復作業である。



 学園の敷地や設備は当然学園の所有物なのだけれど、戦挙参加中に限って、許可を受けた上で貸与されている形になる。

 なので、脱落した直後に返還義務が発生するのだ。


 怖いのは、遅れれば遅れるほど遅延損害金(最大10割/1日)が発生して、場合によっては、脱落以降のほかのチームの戦挙活動による被害についても原状回復の対象となることだ。


 なので、お金や後ろ盾のない参加者は、必死に作業や防衛を行わなければならない。

 甘い夢を見ていられた参加中とは違って、増え続ける負債という名の現実と直面して、ある意味では戦挙戦以上に本気になる人が多いのだとか。



 なお、この時期はハンター協会なども閑散期なため、そこから安く労働力を募ることも珍しくない。

 学園に通う生徒の実家は比較的裕福な家が多いので、こういった機会に一般の労働者にも富の再分配を行っているのだと(うそぶ)いているけれど、私の目は誤魔化せない。


 戦挙で最も儲けているのは、間違いなく学園である。

 学園が胴元で、戦挙結果も賭けの対象になっているし。


 私は賭けていないけれど――今はアルに預けているとはいえ、子供たちの養育費も必要だし、賭けようか真剣に悩んだけれど、その子供たちの教育上良くない気がしたので断念した。

 賭け事も遊びの範囲で楽しむならいいと思うのだけれど、今の段階で教えるようなことではないと思う。


◇◇◇


 3日目になると、(ふるい)に掛けられた有象無象の大半が脱落しているせいか、戦闘の件数は減った。


 その一方で、質は上がっているらしい。


 リディアの所感での話だけれど。

 彼女は、忙しい中においても、何かにつけて「私が不自由しないように」と気をかけてくれている。

 それ自体が「不自由」なのだけれど、そんなことを言ってはサプライズがバレてしまうおそれもあるし、私が上手く立ち回るしかない。




 そのリディアの解説では、実力者同士の交戦が増えたため、これまでのようにあっさり決着がつくこともなく、残りの日程やほかのチームの状況も考えて、決着を持ち越すような場面も増えてきたらしい。


 私の感覚では大差ないのだけれど、ルナさんたち参加者自身もそう言っているのだからそうなのだろう。

 ルナさんたちの戦果が、前日比でややマイナスだったことの言い訳かもしれないけれど。



 また、この日の昼頃に、エカテリーナが本格参戦してきた。


 とはいえ、彼女の目的は戦挙戦で勝ち抜くことではなく、強者との肉体言語による対話である。

 そのため、本格参戦するのは強者が出揃って、邪魔が入らない後半になると思われていたのだけれど、どうやらお祭りのような雰囲気に触発されて、我慢できなかったらしい。


 もっとも、我慢できなかったのは彼女だけではなく、戦挙にエントリーしていない一般生徒や,

出入りの業者もこっそり参加しているとかで、リディアたち運営が休む間もなく対応している。


 そんな感じで、何が何だか分からなくなってきたけれど、割とよくあることのようで、戦挙は続行される。


◇◇◇


 4日目。


 遊撃に出ていたメア・メイ・キリクの3人と、エカテリーナが衝突した。


 個の力で優位にいるエカテリーナに対して、三人は連携で対応。



 これまでの相手には通用していた三人の個人技や連携も、敏捷性が高くて勘も良いエカテリーナが相手では、有効打を取るのは難しい。


 エカテリーナが敏捷性か勘の良さのどちらかだけなら三人にも勝機はあったと思うけれど、両方が揃うと少々荷が重いようだ。

 特に、彼女のように素早い相手に有効的な範囲攻撃が、建物内であったりその近辺では満足に使えないのが厳しかったのだろう。

 損害賠償的な意味でも。


 当然だけれど、私の不参加を条件とした損害賠償の肩代わりも無条件ではない。

 故意は当然として、明らかに過剰な力の行使による損害は免責事由とされていたようで、「エカテリーナの牽制のため」という事由は非常に際どいところである。


 なので、トライさんの弟子で、収入はお小遣い制のメアとメイ、そして、ただ貧乏なキリクには、そうまでして彼女を倒すことに意味を見いだせなかったのだろう。



 なお、アルの農場の視察から帰ってきた学長先生にこの件を確認してみたところ、「エカテリーナを倒せればセーフ、そうでなければアウトだろう」とのこと。

 結果オーライな魔界らしい考え方である。



 それよりも、学長先生が私を見て、意味ありげに微笑んだり頷いたりするのが不気味で気になったけれど、アルから私について何か聞いたのだろうか。




 やる気に満ち溢れた人の、頑張っている姿を見るのは好きなのだけれど、今回のアルのそれはやる気というより狂気が勝っていて、内容も下世話すぎるので、もう「結果だけでいいか」と、事細かに観測はしていない。


 もちろん、子供たちを預けている手前もあって、彼らの心身の安全を護れる所にはいるけれど、何をやっているのかの詳細は知らない。

 知りたくない。


 ということで、アルが、リディアや学長先生に何を話したかも一切知らない。

 必要があれば私の素性も話してもいいと許可を出しているので、何かを知られたか悟られた可能性もあるけれど、彼の反応からはその内容は窺えない。



 というか、どちらかというと、私の素性というより、ちょっとした秘密とかゴシップネタを知って浮かれているような感じに見える。

 アイドルとか、そっち方面の話でもしたのだろうか?

 ……まさかね。




 私や学長先生のことはさておき、三人の判断は間違っていなかったようだ。


 エカテリーナに襲撃された三人は、キリクを殿にして後退。


 しかし、三人の中では最も近接戦闘が得意なキリクでも、エカテリーナを相手に防御主体で戦うのは難しい。



 一方で、エカテリーナなら、強引にキリクを倒すこともできたと思う。

 ただ、「メアとメイからの反撃を許さずに」は難しいと判断したのだろう。

 そして、キリクをスルーして彼女たちを先に落とすことも難しかったからか、攻めあぐねている感があった。

 言い方を変えると、両者とも「しっかり間合いを把握している」。

 傍目には地味だけれど、間合い操作が分かってきた証である。


 少なくとも、以前のように「とにかく魔法やスキルの撃ち合うだけ」という状況よりは前進していると思う。

 後で褒めてあげよう。



 特に、数的不利を抱えながらも依然優位にあったエカテリーナだけれど、一度負ければ脱落な彼女が、拠点が無事なら再起できる――破れかぶれの特攻も可能な3人を相手に、残りの日程も見据えて「まだ無理をする状況ではない」と撤退したのは少しばかり感動した。


 猪突猛進しかできなかった彼女が、戦闘中に冷静な判断ができるようになったのは大きな進歩であるといわざるを得ない。

 例えるなら、「待て」を覚えたイヌとでもいうか。


 まあ、それが普通で、特別褒めるようなことではないのだけれど。

 莫迦な子ほど可愛いとはこういうことだろうか。



 3人の方も、エカテリーナが能力差に任せて突っ込んでくるだけなら勝機もあったのだろうけれど、冷静に隙を窺われては――エカテリーナが間合いの有利を活かしている間はチャンスは無いに等しい。


 最悪の場合は、相討ち覚悟での特攻や、キリクを犠牲に失点を最小限に抑えるなどの案もある中で、綱渡りのような戦闘を行っていた。

 私とのものほどではないけれど、この状況は双方にとって良い訓練になったのではないだろうか。



 そうして、時間にして数十分。

 三人はエカテリーナの仕掛けを凌ぎながら陣地付近まで後退。

 エカテリーナも、彼らを深追いすることなく大人しく撤退した。


 まあ、彼女にとっては戦闘の勝敗や戦挙のポイントより、肉体言語による対話の方が重要らしいので、現段階ではそれなりに拮抗した戦いに満足したのかもしれない。



 さておき、三人はダメージ的には軽微だったものの、魔力の消耗は激しかったようで、大事を取って以降の遊撃は中止。


 拠点の方にもお客さんは現れなかったため、ポイントは足踏み状態。

 この日の戦挙時間終了後、体力ややる気を持て余していたルナさんとジュディスさんに、「だったら少し訓練する?」と提案したのだけれど、明日以降に障るといけないからと全力で断られた。


 やりすぎたことなど一度もないはずなのだけれど、優勝も目指せる状況で少しナーバスになっているのかもしれない。



 とはいえ、私もそろそろ打上げ兼クリスマス会の準備もしなければいけないし、アリバイ付きの自由時間ができるのは有り難い。

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