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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十三章 邪神さんと変わりゆく世界
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22 また歯車は回る

 アルフォンスは困惑していた。


「不束者ですがよろしくお願いいたします」


 リディアがいつ来てもいいように、何があってもいいように準備を整えていたところ、《転移》してきたリディアは、三つ指をついてアルフォンスの想定外の言葉を口にした。



 意表を突いたという意味では、緒戦はリディアに軍配が上がった。


 とはいえ、リディアの言動は意表を突こうとしてのことではなく、彼女なりの純粋な誠意を現しただけである。

 それも元を正せばアルフォンスの誠意から発生したものではあるが、双方が異文化交流の難しさを再認識させられた形となった。




「ええ!? 婚約の申込みではなかったのですか……」


 事実を知ったリディアは、あまりの恥ずかしさに俯いてしまう。


 もっとも、恥ずかしくて死にそうになっているわけではなく、恥ずかしくて殺したいのを我慢しているのだが。

 自省よりも、まず外因に当たる悪魔族的感性である。



「いくら何でも、まともに面識もないような人にいきなり求婚したりしないよ……。っていうか、高価だっていってもひとり用の《転移》魔晶だよ? 君の価値とは釣り合わないでしょ」


 アルフォンスとしては、リディアがなぜそのような結論に至ったのか不思議で仕方がない。



 時空魔法の価値は今更語るようなものでもないが、その有用性に対して使用者は少ない。

 それは、汎用性を追求した魔法道具の使用においても通じることで、適性の有無での効果の差は歴然。あまりに適性が低いと事故の元となる。



 《転移》魔法には様々な様式が存在するが、共通している点のひとつに、攻撃魔法のような使い方は難しいというものがある。


 通常、敵性対象の一部、若しくは全部を強制《転移》させたりするのは、デバフと同様の抵抗を受ける。

 そのため、よほどの実力差がないと成功しない。

 空間の断裂を作って攻撃する魔法もあるにはあるが、やはり対象に重ねるように出すのは難しいし、「出せる所に出してから飛ばす」のは燃費が悪すぎる。



 しかし、術者本人がファンブルで被る被害は、特殊な術式でも組んでいなければ軽減できないことが多い。

 当然、その「特殊な術式」には余計な魔力や手間が必要になるし、それ自体にもファンブルの危険性があるので、絶対の安全を保障するものでは無いが。


 そうして、《転移》がファンブルした先が、石や土の中であったり、有毒ガスが充満する生存不可能な領域であったりなど、《転移》失敗による事故は、容易に生命の危機を招く。

 そのため、時空魔法使いは、自身より能力の劣る者が使う、又は素性の定かではない《転移》の魔法道具を嫌う傾向にある。




 アルフォンスもその例に漏れず、そしてリディアも同じような感覚を持っているだろうと、最低限の信頼に足るような物を渡したにすぎない。

 座標以外の術式は、全てとはいかないまでも開示していたし、《転移》先の環境についてはそれを調査する方法もある。

 事実、リディアが《転移》してくる直前に、その術式が使われた反応があったことを確認している。

 さすがに待伏せを完全に看破できるような術は彼でも持ち合わせていないが、そこは信用か覚悟してもらうしかない。



 アルフォンスはそんなことを考える一方で、リディアとの婚姻関係を結んだ方が後のことが円滑に進むのではないかなどとも合理的に考えていた。


 そして、自ずと彼女との夫婦生活にも思いを馳せる。


 悪くはない――が、それはアルフォンスの想像上のリディアであって、目の前にいるリディア本人についてはほぼ何も知らない。

 これからお互いを知っていくことに魅力を感じないでもないが、今の状況で嫁を増やすと、後の予定に差し障ることに思い至り、自制した。



「それはひとまず置いといて、これからあるものを見てもらうつもりなんだけど、いろいろ理解できないものも混じってると思う。質問は後で受けつけるつもりだけど、答えられないところも多いから、理解できなくても現実なんだって受け止めてほしい」


 アルフォンスにとって、この口上は必要なものである。

 分からないものを全て説明していてはいくら時間があっても足りない。

 そもそも、アルフォンスにも理解できていないことも多いので、質問されても困るだけである。



「分かりました――と言いたいところですが、その前にひとつだけ。貴方の目的は何なのですか?」


 そして、リディアにとっても、この確認だけは必要なことだった。


 アルフォンスが何をしているかも重要だが、それ以上に、目的が不明なままでは信用するのは難しい。

 嘘を吐かれるおそれもあるが、そこは彼女自身の観察眼や上司の判断に委ねるしかない。



 その質問は、アルフォンスにとって想定内のものだった。

 当然、その答えも用意していたのだが、先の流れの後で、「嫁の家族や故郷を救いたいと考えるのはおかしなことかな?」などと答えると、誤解を招く可能性がある。


 婚姻を断ったかと思いきや亭主面かとか、婚姻を断った女の前で別の女との惚気かなどと受け取られると、面倒なことこの上ない。


 たとえこの場では表面に出さなかったとしても、そういった不満は積み重なっていくもので、限度を超えるとそれまで溜め込んでいた分に利息まで付いて大爆発することも珍しくない。

 何なら、爆発したからといって解消するわけでもなく、更に次の爆発時の燃料となることもある。


 無論、リディアがそういった人物ではなく、ビジネスライクに受け取られる可能性もあるが、よく知りもしない相手の好反応に期待して危険球を投げるのは下策である。



「目的は、大事な人に喜んでもらうこと。その手段として、魔界の救済に手を貸すつもりだ」


 そこでアルフォンスは手順を少し飛ばして、黒幕がいることを明らかにした。

 用意していた言葉も嘘ではないが、魔界の救済などという大それた考えは持っていなかったのも事実である。



「その人についてはまだ明かせないけど、君たち悪魔族に対して毒にも薬にもなる人だ。その人は、魔界の救済は俺たちの主導じゃなく、悪魔族自身にさせるべきだって考えだから、俺にできるのはその手助けだけ。そのパートナーとして選んだのが君たち体制派。数ある組織の中で、最も可能性が高いのが理由だけど、懸念もある――大魔王が強権を発動して、俺やその人を拘束しようとするとかね。ほかの勢力でもあり得ることだけど、組織力や彼自身の力を考えると笑えないから。前に攻撃したのは悪かったと思ってるけど、俺にも絶対に捕まれない理由があったんだ」


 情報の補足に加えて、保身も忘れない。

 最終的には、ユノの名前を出せば全て不問にされると予測しているが、少しの手間で危険を排除できるのであれば、それを惜しむ理由は無い。



「交渉役に君を選んだのは、こういった状況とか、救済の内容とかを正しく理解して、伝えるべき人に伝えてくれると信頼してるから。信頼を押しつけるようで悪いけど、俺にも君たちにも残された時間も少ないから、これをラストチャンスだと思ってほしい」


 売り手主導の「限定品」だとか、「最後のチャンス」などといった謳い文句は、詐欺にも使われる手口である。

 しかし、騙しているかどうかは、最後まで説明した後で彼女に判断してもらうしかない。

 そして、そこまでいけば、疑念を抱くどころか選択の余地が無いことに気づくだろうとアルフォンスは考えている。




 リディアにとって、アルフォンスの魔界救済が目的ではなく、手段であったことに幾分かの納得を得ることができた。


 人族であるアルフォンスに、積極的に魔界を救済する理由が無い。

 グレモリー家が理由であるなら、彼らだけを救済すればいいことで、その方が比較にならないほど容易なのだ。


 しかし、それが何者かの指示によるものであれば、その何者かの意図次第のところはあるが、彼自身には他意は無いと判断してもいい。


 その何者かについては、「毒にも薬にもなる」とアルフォンスが言ったことを信じて、薬になるよう努めるしかない。

 そして、そのためには、ここでアルフォンスの手を取らないという選択肢は無い。



「ひとまず理解しました。では、早速ですが、魔界を救済する方法について教えていただけますか?」


 それ以外のことに関してはまだ判断できる段階にないが、それらはアルフォンスの言う魔界救済を確認してからのことである。


◇◇◇


 視察を終えたリディアは悩んでいた。


 それは確かに魔界救済の可能性があるものだった。

 むしろ、現状ではそれ以上の方策など無いと断言できるレベルのものである。



 ゴブリンを養殖することで、魔界の食糧事情を大幅に改善することができることは、以前から可能性として挙げられていた。


 今回、それを一歩前進させた「ゴブ輪栽式農法」は、その副産物として得られる農作物もそれに貢献する。


 また、ゴブリンを主原料としてゴプリンやゴブロクといった甘味や酒類などに加工することもできるため、新たな産業の発展や雇用にも繋がる可能性がある。

 さらに、ゴブリンの新種を開発することで質の向上も望め、特定条件を満たせば外界進出の鍵にもなる。

 これによって、一次産業と二次産業の発展は約束されたようなもので、それらに後押しされる形で三次産業も発展していくだろう。

 悪魔族の気質的なものも、「ゴブリンの変質には飼い主との絆が重要」などと、嘘か本当か分からないことを言われては、強奪の対象としての魅力は減少する。

 さらに、「強引に飼い主と引き離されたゴブリンの嘆きはデスを呼ぶ(※嘘)」と言われると、嘘だと知らない者は無理をしないだろう。



 ついでに、現場にあった奇妙な呪いのオブジェクトには瘴気を中和する効果があるらしく、しかもそれが人の手で作られた物だとなると、魔界に生きる全ての者にとって大きな可能性となり得る。


 現状は属人的な能力の産物らしいが、ほとんどの魔法や呪いには原理原則が存在する。

 それに則れば再現不可能なものは存在しない。

 現状再現不可能なものは、原理原則が解明されていないだけなのである。


 つまり、この原理原則が不明の物を研究することで得られる成果は、生来の魔力が強すぎるがゆえに瘴気の発生という問題を抱えていた悪魔族に、新たな可能性を示すものである。



「理解できないことも多かったですが、魔界始まって以来の快挙だということは認めます。ですが、これを……こんな下品なものを、お爺様や陛下の前で説明しろと!? それで、もしもそのことがお姉様のお耳に入りでもしたら……。あの男、絶対に許しませんわ!」


 アルフォンスから説明を受けた、セクハラとも取れる数々の妄言。

 貴重な紙を使って書き綴られた、「取扱説明書」という名の怪文書。


 一応、彼の顔を立ててひととおりの説明は受けたものの、実証実験を行わなければ本当に信じることなどできない。


 そして、その実証実験をするには、リディアひとりでは不可能である。

 それなりに多数の人を使う必要があるものの、事の重要性から誰でもいいというわけではなく、それ以前にルシオやルイスの判断を仰ぐべき案件である。



 アルフォンスが新たな《転移》魔晶をさらに複数寄越してきたのも、そのつもりなのだろう。

 次は更に踏み込んだ話をするために、大魔王ルイスなり、この件の責任者を連れてこいというのだ。

 当然、彼らを誘致するための説得はリディアに一任する形であるが。



 リディアもそのこと自体に不満は無い。

 しかし、ゴブリン養殖の中身について、大地がママになるだとか、雄でもメスイキしたらママになるとか、素面――正気では話せないような内容も多い。

 新種のゴブリンに至っては、何から何まで狂気の沙汰である。




「知ってるかい? こいつら、どんなに姿が変わり果てようともゴブリンなんだ。肉の味とかはしっかり変わってるらしいのにね。大事なのは外見じゃない、中身なんだってことかもしれないな。ゴブリンって、野菜じゃなくて、概念だったのかもしれない」


 リディアもアルフォンスも、何の話だか分からなくなっていた。




 リディアは料理技法には明るくないため、ゴブリンの加工についても理解はできなかった。


 ただ、「料理魔法」というもっと理解できないものを知っているため、衝撃が小さかったのは救いだった。



 何にしても、今更知らないふりはできない。

 それに、料理魔法に比べれば設備だけは大袈裟で、手法と出来はお粗末なものだが、方向性は一致しているようにも思える。



 ユノの料理魔法では、動物――特に昆虫は原料とすることはできない。


 原料となるのは植物性のもののみ。

 ならば、アルフォンスが野菜と言い張るゴブリンも使えるのではないか。


 もしかすると、親愛なるお姉様の女子力向上の一助になれるかもしれないと考えると、それまでの葛藤などどうでもいいものに変わる。


 しかし、もしものときのことを考えると、ユノとアルフォンスを接触させたくはない。

 あんな穢れの塊を、清純なお姉様に見せるわけにはいかない。


 もしかすると、お姉様の清純さが彼を浄化するかもしれない――十中八九そうなるだろうが、それも嫌なので、ひとまずルシオに報告することにした。


◇◇◇


 魔界でも有数の知恵者であるルシオでも、リディアの報告の大半が彼の理解の及ぶものではなかった。



 過去にも、「ゴブリンは野菜である」という新説に驚かされた。


 もっとも、僅かな水と肥料――食料で育成できるのは事実だったものの、植物系の魔物に特効のスキルや魔法の効果が認められなかったことから否定されたが。


 それでも、安価で容易な養殖法としては素晴らしいアイデアだった。



 しかし、今回は野菜どころか牛や豚や鶏――果てには魚になるという。

 それどころか、「ゴブリンは概念」まできた。


 ルシオの知るゴブリンの進化は、単純な上位個体であるホブゴブリン、魔法が使えるようになったメイジやシャーマン、戦闘能力に加えて統率力を獲得したキングやロードなど、飽くまで「ゴブリン」の延長にあるものだ。


 それが進化――この場合は品種改良というべきだろうが、ゴブリンがウシやブタやトリや魚になる。

 それ以外の原種やその延長線上のホブゴブリンなどは、加工品として甘味や酒類となるなど、全てがルシオの理解の遥か斜め上をいく。



 そんなことがありえるのか――というか、可愛い孫娘に何と下品なことを口にさせているのか。

 その報いは必ず受けさせるとして、最早論理がどうとかいう問題ではない。


 当然、こんな子供が見る夢のような内容を、そのまま大魔王ルイスや体制派の重鎮たちに報告するわけにはいかない。

 ルシオに求められているのは、専門的な理論を、万人に分かるように解説することなのだ。


 これを丸投げするならルシオに存在意義はなく、リディアを更に辱めることになってしまう。

 とにかく、詳細な報告書の作成のためには、自身の目で確認しなければならなかった。


◇◇◇


 ルシオは、現場視察と、孫娘への仕打ちに対するクレームを入れるためにアルフォンスの農場へと足を運んだ。

 しかし、そこで待ち構えていたアルフォンスに、クレームをつける機会もないまま、リディアが受けたものより更に踏み込んだ説明を受けて困惑していた。



 リディアからの報告を受けたことを前提に、口頭での説明はほどほどに、ちょうどいいタイミングだと、ミノタウロス(オス)やオーク(オス)がゴブリンらしき生物を出産する様子を見せられた。

 更に追い打ちをかけるかのように、卵からゴブリンが孵化する様子や、ゴブリンの稚魚が元気に水槽を泳いでいる様子も見せられた。



 リディアの報告で、ある程度は心の準備をしていたルシオだったが、実際に目にするとあまりに酷い光景だった。

 どのような禁忌に手を出せば、これほどまでに罪深いことが可能になるのか。


 真っ当に学問を修めてきたルシオにとっては若干怒りすら覚えるものだったが、同時に、理論は不十分でも正解に辿り着けるセンスと、文句の付けようのない成果には激しい嫉妬を覚えた。



 感情的なものを無視すれば、これほどまでに有効なものはそうそう無い。


 また、もうひとつの目玉である瘴気を中和する呪いのオブジェクトは、どこかで似たような物を見た記憶があった。

 それがどこで見た物なのかを思い出せずにモヤモヤする(※瘴気障害)ものの、アルフォンスから提出されたデータに目を通す方が重要だったため、違和感は頭の隅に追いやられた。



 まだまだ観測を継続する必要はあるが、現状ではその呪いのオブジェクトが瘴気を中和する効果があることは間違いない。


 その呪いのオブジェクトと同等の物を魔法で作れたたと仮定すると、推定される製作に要する魔力量と、瘴気の中和量の効率はお世辞にも「良い」とはいえない。


 それでも、それまでの不可能が可能になるという点だけでも価値がある。


 それに、魔力を用いずとも効果を発揮することもある「呪い」の性質を解明できれば、効率などという物差しは不要になる――などと、ルシオは頭の中で計算を重ねる。


 ただ、ひとつだけ、どうしても分からないことがあった。



 アルフォンスは、これらを無償で現体制派に提供しようというのだ。


 その価値が理解できていないわけではなく、「魔界を救済する可能性」であることを正しく認識した上でのことである。


 もっとも、それに見合うだけの対価を要求されても支払えないが、悪魔族の価値観では、大魔王の座を要求されてもおかしくないほどのものである。



 少し前までのルシオであれば、アルフォンスの行動の意図に気づくことはできなかっただろう。

 親子であっても、損得勘定や弱肉強食がまかり通るような魔界において、奉仕の精神や無償の愛などといった概念は存在しなかったのだから当然ともいえる。


 リディアはいうに及ばず、コレットやジョージも能力や将来性を期待されているから愛されているのであり、そうでなければ売られたり捨てられたり、それ以上に酷い結末も珍しいものではない。



 しかし、現在のルシオは、「無償の愛」が存在することを知っている。

 どれだけ出来の悪い者でも、その者が諦めない限りは側で優しく見守ってくれる、母のような存在が実在することを。


 そんなルシオだからこそ、アルフォンスの魔界救済案を見てピンときた。


(なるほど。奴にこれを望んだ者とは、恐らく――いや、間違いなく彼女だ。デーモンコアの発見に、料理魔法――手料理というご褒美で私たちのやる気を刺激して――そういえば、最近デーモンコアを見ていないが、研究はどうなっているのだろうか? まあいい。彼女自身が救済をしないのは、その影響力を危惧してのことと、私たちと人族との関係を見直す切っ掛け作りといったところか。なるほど。全ては繋がっていた。やはり私たちは彼女に愛されているのだ。リディアよ、アルフォンス・B・グレイの意図が分からんなどと――やはりまだまだ未熟よな。ご褒美欲しさに張り切っている姿は、お前も、アルフォンス・B・グレイも、私であっても変わらんというのに、自分のことはよく見えておらんようだ。彼女の前では、悪魔族も人族も変わらんということだ。だからこそ分かる。愛とは与えられるだけでは駄目なのだ。与えてこそ真の愛なのだ)


 頭脳明晰なルシオは、アルフォンスの裏にいる人物に当たりをつけた。


 ただし、頭脳は明晰だったが、目――いや、頭脳以外の全てが曇っていた。



 とはいえ、やはり考察については当たっている部分も多い。


 特に、呪いに関しての考察は、システム依存の魔法から脱却して、真なる魔法に至る手掛かりともなるものである。



(説明が難しいところも、単に私たちが理解できる段階にないだけのこと。以前の私ならば否定しただろうが、彼女と出会って、私など知識ばかりを詰め込んだだけの、真に大切なことは何も知らない子供なのだと気づかされた。彼女が関与しているのであれば、謎などあって当然。良い女には秘密があるものなのだからな。それに見合う良い男になるには、それを包み込める度量が必要になるということだ。そして、このアルフォンス・B・グレイという男は、その点では私たちの一歩先にいるということなのだろう)


 ルシオの妄信にも似た思考停止は、上手い具合にアルフォンスの言動や成果を受け止め、またいい具合に真実にも至っていた。

 そして、つまらない嫉妬心などに囚われている場合ではないと、この研究を受継ぎ、更に発展させなければならないのだと気合を入れ直していた。



 もっとも、明晰な頭脳が邪魔をして、そのために必要な報告書の作成や資料の準備に非常に苦戦することになる。

 それも、彼曰く「愛の力」で突破に成功するのだが、それはもう少し先の話である。


◇◇◇


 後日、ルシオからの報告を受けた大魔王ルイスやその側近は、その内容の非常識さに困惑した。

 しかし、彼女の関与が仄めかされると、ルシオ同様の濁りきった――一周まわって澄んだ瞳で、彼らも視察に赴くことを決定した。


 全てが良い方向に動いていると、何の疑いも持たずに。

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