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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十三章 邪神さんと変わりゆく世界
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18 悪魔合体(物理)

 主神たちの承諾は得たとはいえ、やりすぎないように釘を刺しておくくらいはしておこうと、アルの農場に出向く。



「お、ユノじゃん。ところでさ、寄生蜂とか狩り蜂っているじゃん。獲物に卵産みつけるやつ。いや、この場合だと、イメージ的には冬虫夏草の方が近いか? とにかく、それで閃いたんだけどさ――」


 挨拶もしないうちからそんな話は聞きたくない!

 挨拶の後でも嫌だけれど!



「こんにちは。そんな話は聞きたくないのだけれど」


「他種族を苗床にしてみればどうかって。大地からだって生るんだから、いずれ土に還る肉体だっていけるはずだろ? でも、普通にやると母体が何であれゴブリンが増えるだけ。俺が目指してるのはそういうことじゃないんだ」


 止まらない男だな……。

 というか、アルは一体何を目指しているの?



「で、普通じゃない方法を試そうと、適当なオスと掛け合わせてみたんだ。もちろん、両方にめっちゃ嫌がられたけど、その辺は《洗脳》とか《催眠》とかでオッス×オッスさせた。まあ、見てる方もつらかったんで、おあいこってことで。つっても、普通にやってたんじゃ時間がいくらあっても足りない。今の魔界に必要なのは、長い停滞を打ち破る特効薬だからな。それもできるだけ早く。本当なら妊娠――っていっていいのかは分からんけど、その期間だけでも数か月。もちろん、そんなに待ってられない。そんなわけだから、いろいろと真っ当とはいえない方法も採らせてもらった」


 それでも、後ろめたいことがある――そう感じるだけの良心は残されているのだろう。

 どこかに向かって歩きながら、超早口で(まく)し立てている。




「で、その結果がこいつらだ」


 そういってアルに紹介されたのは、何匹かのゴブリンらしきもの。

 1頭は体長が二メートル超と、平均的なゴブリンのサイズの倍くらいもあった。

 それ以上に、頭部に生えた牛のような角が目を惹く。



「こいつはミノタウロスとホブゴブリンの掛け合わせで、便宜上『タウ()()』って命名した。――待て、駄洒落だと思ってるかもしれないけど、元々のタウリンもラテン語で『牛』って意味の『タウルス』が語源だ。それにゴブリンを足して『タウリン』。むしろ、原点回帰といってもいい」


 何も言っていないし、考えもしていなかったのだけれど?

 というか、待ってほしいのはこっちだよ?



「ちなみに、タウリンは人体において重要な働きをする分子なんだけど、猫は自己製造量が充分じゃないから不足しやすい。で、場合によっては死ぬらしい。だから、キャットフードにはタウリンの含有量が記載されてるのが多いんだけど、お前も気をつけろよ?」


 何の話?



「まあ、こっちのタウリンの繁殖が畑でできれば、魔界でも牛肉擬きが流通するようになるかもしれない」


 それは重畳(ちょうじょう)……。

 いや、超常?




「で、こっちはコカトリスと掛け合わせた『ジド()()』。『ニワト()()』にするか悩んだんだけど、鶏っぽくないから地鶏にした」


 アルが次に指差したのは、こちらは通常のゴブリンサイズだけれど、鳥の胴に手足頭がゴブリンの悪夢の産物。

 どう見ても鶏でも地鶏でもない。



「鳥と人型の差にサイズの違いもあって交配させるのは苦労したんだけど」


 そんな生々しい話は聞きたくない。



「コカトリスを動けなくするのは当然として、どうやってただの穴をそういう対象と誤認させるか。まあ、お前のポスター貼ったら一発だったんだけど。っていうか、一発じゃ済まなかったんだけど」


 何をしてくれているの……!?



「見た目はあれだけど、これで鶏肉も流通させられるかもしれない。卵も産んでくれるといいんだけど、雄鶏だからなあ……。そういや、あっちの世界で、男性に子宮を移植するのは理論上は可能だって聞いたことがある……。いや、こっちの世界にはキメラとか意味不明なのいっぱいいるし、雄でも卵産むかもしれん。というか、雄同士で子供作るよりは常識的だろ。とりあえず、男の娘として育ててみるか。ゴブリンの男の娘って斬新じゃね?」


 錯乱している。

 そもそも、卵が欲しいなら普通に鶏でも飼えばいいのではないだろうか。

 それとも、ゴブリンに産ませることに意味があるのか?


 ああ、悪魔族は辛抱できない人たちだった。




 浪漫とかの話になると私には理解できそうにないので、どうにか理解できそうなところに目を向ける。



 今度は全長は平均よりやや大きめだけれど、やたらと横幅のある重量級。


 牛、鶏ときたのだから、次は豚なのだろう。

 しかし、これならわざわざ新種を作らなくてもオークでもいいのではないだろうか?

 繁殖力も強いらしいし。



「こいつは予想どおりだと思うけど、オークとの掛け合わせで『()()元豚』。ネーミングの元となってる三元豚は、三品種の豚の掛け合わせってことで、これはゴブリンとの掛け合わせだからリン元豚」


 ネーミングセンスが酷い。

 というか、発想からして酷いので、ネーミングセンスの問題など霞んでしまう。



「本当は『スモウト()()』って付けたかったんだけど、各所から怒られそうだから止めた」


 危ない。

 ネーミングが問題になるところだった。



 これで牛鶏豚と馴染みのある食材が揃った――揃ったといっていいのか?


 改めて見てみると、何というか感想に困る。

 一応、家畜か農作物かは知らないけれど品種改良の範疇で、上手く軌道に乗れば魔界の救済にも繋がる可能性もある?

 もう、何が何だか分からない。



 そんなことを考えていると、アルが貯水池から一匹の魚を掬いあげた。


 いや、魚なのか?

 シルエットは魚なのだけれど、顔がゴブリンだった。


 大昔に流行った、人面魚とかそういう感じ。



ブリと掛け合わせた『ゴ()()ン』だ」


 ネーミングはもう少し捻ろう?

 同音異義語は誤解を招くよ?

 というか、ゴブリンの遺伝子ってどうなっているの?




「とりあえず、自分好みの種馬――種ゴブリンを作れるってところで、養殖に対する興味を助長できるかと思う。で、同時に品種改良するために、他の作物の栽培や家畜の飼育なんかも増えるのも期待してる。とまあ、ひとまずこんな感じで、ここから煮詰めていこうと思う」


 さすがに目的は忘れていなかったらしい。



「でも、これだけじゃ肝心なことが解決できてないんだよな。結局は『他人の物を奪えばいい』って奴が邪魔になる。一応、腹案はいくつかあるけど、『これ』っていうのがないんだよなあ。それでも、そろそろ次に向けて動かないと時間的に厳しいんだけど……」


 それどころか、真面目に考えていた――それでどうしてこうなったのかは分からないけれど。

 問題解決能力と創造力は別のものということだろうか。


 まあ、私のように、創造力は過分にあるけれど、問題解決能力が低い――むしろ、問題も創造しているようなのもいるのだし、それと比べればバランスが取れているのかもしれない。



『行き詰まってるなら、気分転換でもしてみれば? そもそも、アルフォンスの日本への同行って強制じゃないし、アルフォンスの故郷の日本ってわけでもないんだから拘る必要も無いでしょ。魔界の救済なんてインスタントにできる規模の仕事じゃないんだから、じっくり腰を据えて取り組めばいいと思うけど。その間はボクらもちゃんと側で見てるし、アピール目的なら中途半端は逆効果だよ?』


「いや、日本だけは絶対に行かせてもらう。これは純粋に俺の我儘だけど、譲れない。それに、ユノの好感度稼ぎっていうなら、不可能を可能にするくらいじゃないと駄目だろ。インスタント救済、できれば最高じゃん」


「我儘は構わないのだけれど、簡単に行き来はできないそうだし、拘束期間も長くなるし、そんな簡単についてきてもいいの? 日本で何をするつもりかは知らないけれど、家族は大事にした方が良いと思うよ? それと、私を口説くのも構わないのだけれど、奥さんの目の前でというのはどうかと思うよ?」


「ユノ様、それは問題ありません。私たちは皆ユノ様と姉妹になることを望んでおりますので、ダーリンのユノ様攻略を応援する立場です。もちろん、必要があれば協力も惜しみませんので、ダーリンが留守にしても、一年くらいならどうにかしてみます」


『根回し済みとはさすがだね。でも、姉妹ってどういうこと? 嫁仲間とかじゃないの?』


「もちろん、竿姉妹ですわ。ダーリンがユノ様とヤッた後で私たちとヤれば、それは私たちも間接的にユノ様とヤッたということ!」


「…………」

『…………』


 これがサキュバス的価値観というもの?


 いや、ほかのみんなもとか言っていたし、奥さんたちの総意なの?

 人の繋がりって、そんな物理的なものだった?

 もしかして、一夫多妻制ではこれが普通なの?



『……可能性って点だと、時間制限無しの魔界の救済でも充分なんだけど』


「時間かけたらどうにかなるってもんでもないし、ある程度悪魔族だけでもやれる道筋立てるだけでいいだろ。それに、どっちかっていうと、時間が無いのは俺じゃなくて魔界の方だからな」


『ちゃんと納得してのことならいいけど、ユノを面倒に巻き込むのは止めてね』


「もちろんだ」


「そこはわきまえておりますわ」


 何だかよく分からないけれど、随分と外堀が埋められているような気がする。


 まあ、それ自体は構わないというか、むしろどういう形であれ、私に挑もうとする姿勢は好ましい。

 アルやアイリスの成そうとしている神殺しがどうなるのか、殺される側としても楽しみだ。


 ……やっぱり、ゴブリンの惨状を見ると、少し不安かも?

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