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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第二章 邪神さん、異世界で変身する
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18 慣れ

誤字脱字等修正。

 褒めすぎたせいか、息も絶え絶えになっているリリーを抱えて階段を降りる。

 戦闘よりも消耗しているようだけれど、幸せそうな顔をしているので大丈夫だろう。


 ここまでほとんど出番のなかったミーティアは、不満を言うどころか、これまでにないほど上機嫌だ。


 途中から「リリーが褒められた数を、ミーティアのボーナスにしよう」というゲームを始めたところ、リリーに対処できるギリギリの妨害を、指折り数えながら喜んでやってくれていたのだ。

 もちろん、ボーナスとは《竜殺し》のことだ。


 そして、褒めるのは私だけではなく、ミーティアが褒めた分もカウントしている。


 褒めるか否かの判断はミーティアの自己申告に任せているけれど、ミーティアには古竜の矜持とやらがあるので、こういうことで不正はしないはずだ。


 現在までのカウントは1,750回。

 ……不正はしていないはずだ。


 なお、単位はリットルなので、町に帰ったら樽を買い占めなければいけない。


 それだけ戦闘機会が多く、リリーが優秀だったこともあるのだけれど、失敗してミーティアに魔法を当ててしまっても、「謝っとる暇があるなら手を出さんかあ!」と、ミーティアが変なキレ方をしていたのも原因のひとつだったのだろう。

 妙な迫力があったし。


 もちろん、ミーティアも本気でキレていたわけではない――ある意味では本気だったのかもしれないけれど、素っ気ない態度に見えても、それなりにリリーを気に入っているのは確かなようで、何かあれば丁寧にアドバイスをしていた。


 また、リリーもミーティアを怖がってはおらず、懐く――というほどではないものの、気を許しているように見える。

 あるいは尊敬だろうか。


 まだまだ私を通して相手を見ているという感じではあるけれど、上手くやっているようで何よりだ。


◇◇◇


 ひとつ目巨人を倒して、その奥にあった階段を降りた先には、10メートル四方――この迷宮では最小単位の小部屋があった。



 全員がそこに入った瞬間、入ってきた扉が消えて壁になった。


 もちろん、先に進むための扉はそのままあるのだけれど、ただ退路を断たれた――ということでもなく、室内にはご丁寧に「1階行き」と表示されたポータルが用意されていた。


 罠か? 普通に考えれば罠だよね?


 私なら壁を破壊して戻ることもできるかもしれないけれど、この狭い室内でやると衝撃波とか何とかで大変なことになる。

 だからといって領域を使って喰うと、迷宮全体がどうなるかが分からない。

 ミーティアも、竜型でのブレス以外の攻撃では傷を付けられそうにないという。


 看板を信じるなら、11階から1階に戻れるということで、11階を探索するかの二者択一ということになる。


 一体それに何の意味が?



 階段を守るひとつ目巨人を斃したと安心したところに仕掛けられた罠、というのが最も理解できるものだ。

 もしかすると、疲れ果てて帰らざるを得ない人だっているかもしれないと考えると、なかなかいやらしい罠である。


 ここに来るまで、私たちにとっては魔物も罠もアトラクションでしかなかったけれど、カインさんたちのレベルだと死んでもおかしくないような罠もいくつもあったと思うし、これが安全だと判断する方がどうかしている。


 しかし、ここまでにあった罠は注意深く観察すれば、私たちでなくとも必ず発見できて、回避もできるように設置してあった。

 私には朔の探知能力があるからそう思っているだけかもしれないけれど、全ての罠にはどこかしら攻略する糸口があった。


 これを攻略する糸口はどこにある?


 ああ、でも冒険者が設置したものという可能性も――ちょっと厳しいか。


 クリスさんも、ポータルは運用コストが高いと言っていたし。

 それなら維持管理にかかる費用くらいは請求されるはずだ。



「何これ?」


 ひとりで考えても分かりそうにないので、ミーティアにも意見を求めてみる。


「何とは、ポータルじゃろう?」


 やはりそうなのか。

 しかし、それはそれでどこに飛ばされるのかが不安になる。


『ユノが言いたいのはそういうことじゃなくて、この迷宮が何なのかってことなんだけど』


 え、いや。そういうこと――そうかも?


「言葉が足りんにもほどがあるじゃろう……。それにじゃ、今更すぎるじゃろう」


 そんな細かいことは重要ではない。

 要は、このポータルや迷宮自体の目的は何なのか。どこからどう見ても人工物な迷宮なのだから、何かしらの目的があるはずだ。

 というか、その目的次第では、迷宮内は監視されていると考えるべきではないだろうか。


 同化して迷宮全域を探査するべきだろうか――いや、そうするにしても、今ここでリリーを巻き込む必要は無い。



 情報が足りない。


 それほど難しく考えずに始めた迷宮探索だけれど、このまま何も知らずに進めるのは危険な気がする。

 駄目元でも情報を集めた方がいい。

 既に手遅れの可能性はあるけれど、最悪は迷宮ごと消滅させることも考えなければいけない。


 とにかく、迷宮探索は当分保留にしよう。




 それでも、迷宮の目的については多少探っておく必要がある。


 今回はミーティアに人柱――竜柱になってもらったのだけれど、不思議なことに1階の入り口近くの隠し部屋に《転移》して、そこから再び俺たちのいる11階の小部屋に戻ってきた。


 つまり、このポータルは双方向で有効らしい。

 どういうことだ?


◇◇◇


 翌日の朝早くから、アイリスに会いに教会へ向かった。


 できれば昨日のうちに寄りたかったのだけれど、ミーティアが「たるったるー」とうるさいので、樽を求めて町中を走り回らされたのだ。


 どうにも、私の心配はミーティアには伝わっていないようで――というのも、ミーティアの価値観では力は隠すものではなく誇るものなのだ。

 だから、実力や手の内を隠して群衆に紛れようとする私のことを面白く思っていないらしい。

 とはいえ、「儂はユノの本当の姿を知っておる」という事実にもよく分からない優越感を感じているようで、更に何も知らない哀れな被害者が現れるのを心待ちにして、私に合わせて正体を隠してくれている。



 そのミーティアはといえば、「今日は一日休み」だと伝えると、早速お酒を取り出してチビチビとやり始めた。


 用事が終われば買い物に行くつもりなので、一緒に行こうと誘ったのだけれど、「つまみも頼む」と言うだけで動こうとしない。


 このところ、暑さも鳴りを潜めてきたので、秋冬用の服を買いに行きたかったのだけれど――もしや、あの大量の酒が冬ごもりの準備なのだろうか?

 冬眠するのか?



 それはさておき、リリーはついてくるというので、お手々繋いで仲良くお出かけだ。

 嬉しそうに揺れる尻尾が、子犬のようで大変愛らしい。

 やはり尻尾はこうでないと。


◇◇◇


 教会では、数日前に首切り死体が置かれていたというのに、正気を疑うレベルで通常営業だった。


「公式記録では、五十年ほど前の勇者様が地下50階まで到達したようです。それと、グレイ辺境伯が、非公式ですがそれ以上とか。それでも最下層にはまだ誰も到達していないようですね」


 正直にいうと、リリーを教会という名の、汚い大人の社交場に連れてきたくはなかった。

 いつものように指名料という名のお布施を支払ってアイリスを呼び出した時の、「アイリス様、指名入りました!」コールでリリーが怯えている様子に心が痛んだ。


 教会の職員さんたちは、極めて真摯(しんし)に職務を果たしていると思うのだけれど、雰囲気というか体系がおかしい。

 アイリスに訊いたところ、アイリスの取り分は指名料の30%だそうだ。

 そういうことを訊きたかったわけではない。


 なお、30%というとかなりブラックな職場に思えるのだけれど、残りは慈善事業のための資金や、災害などの非常時における活動費や予備費として、内部留保されているらしい。

 そこだけなら非常に良い話で、リリーにも積極的に聞かせてあげたい。


 しかし、一部のシスターが、指名獲得のためか僧衣に必要以上にスリットを入れていたり、ボディラインを強調するものだったりするのはいかがなものかと思う。

 などと、超ミニスカートで太もも丸出し――今日は太ももどころかほぼ生足、ワンポイントになぜか片足だけにガーターリングをつけた私が言っても説得力が無い

 ガーターリングなんて存在は、今日初めて知ったよ。



「勇者召喚ですとか《転移》魔法の暴走でできた場所だそうですので、その研究をしていた大魔法使いが迷宮の主だという噂もありますよ」


『気になる噂だね。調べたいところだけど――』


「新年会の後なら――むしろ、ユノ側の迷宮攻略と、王国側の召喚術の情報開示を交換条件にできるかもしれません。それに、その時なら私も同行できますし」


『まあ、そうだろうけど――アイリスも来るの? 結構危険だと思うよ?』


「置いていくつもりなんですか? さすがにユノのようには戦えませんが、魔法ならそれなりに使えるんですよ?」


『迷宮の主とか、その目的次第かな? ああ、でもあれだけの迷宮を造れるなら、小細工は無駄――むしろ、頭の回るアイリスがいた方がいいのかな? とりあえず、ユノの本気の戦闘の余波で死なない程度にレベルは上げないと駄目だね』


 私が余計なことを考えている間に、またしても話は進んでいく。


「レベル上げ――ふふふ、また協力してくださいね?」


 レベル上げという言葉を聞いた途端、アイリスの様子が変わった。

 なぜかリリーが警戒している――というか、協力?

 何かをした記憶は無いのだけれど、リリーがいなければ飛びかかってきそうなアイリスに、一抹の不安を覚える。


 アイリスはとても良い娘なのだけれど、たまに怖い時がある。

 この動悸もまた魅力――なのだろうか?



 アイリスから得られた情報はかなり有益だったように思う。

 中でも、勇者の情報やグレイ辺境伯の情報などは、教会で高い地位にいるアイリス様様といったところだ。


 まあ、あんな事件の後なので、元気そうにしていたというのが一番の収穫だけれど。


 ざっと見た限りでは警備も増えているようだし、仕事も私以外の指名は受けていないそうなので、先日のような雑な作戦にはもう引っ掛からないと思いたい。




 とりあえず、記録に残っている情報はアイリスから入手できた。

 そうすると、後は現場の声を聞いてみたい――と、ギルドに足を向ける。


 今日は生足成分が多めなせいか、それともご機嫌な様子のリリーの可愛さが留まるところをしらないからか、すれ違う人々の視線が下方向に集中している気がする。


 前者はもう慣れた。

 悲しいことではあるけれど、見られるだけなら仕方ないと開き直っている。


 しかし、後者――リリーも可愛いので、目が行くのも理解できるけれど、欲望混じりの目で見るのは許容できない。


 ロリコン、死すべし。


 とはいえ、実力行使に出るわけにもいかず、ロリコンに災いあれと呪いを送ることと、少しでもリリーの負担を減らそうと、スカートをヒラヒラさせて歩くことくらいしかできない。


◇◇◇


 ギルドに足を踏み入れると、お馴染みのエリート冒険者さんたちの他に、見慣れない一団がいた。


「お、ユノちゃん! 今日は一段と可愛いねえ!」


「ああ、生きてて良かった――」


「生あ――仲良きことは美しきかな!」


 お馴染みのみなさんのいつもと変わらない出迎えに会釈で返し、買取カウンターに向かう。


 彼らは口と頭と人相は悪いけれど、絶対に手を出してこないので、ある意味安心できる存在だ。


 むしろ、以前見知らぬ中級冒険者さんに絡まれた時など、私の代わりにその人たちを排除してくれたりもした。

 少なくとも、番犬レベルで頼りになる。


 しかし、今いる見慣れない彼らは、少なくとも冒険者には見えない。

 どちらかというと、その立ち居振る舞いから、軍人というか騎士っぽい雰囲気が漂っている。


 ただ、彼らの装備は高級そうなものではあるけれど、制式ではなく、秘密の部隊だとか極秘任務中なのかもしれない。


 その彼らは、異様な装備の冒険者――この町のエリート冒険者さんの多くは、迷宮で得た武器防具の中で最も性能が高い物を身に着けるため、全体的に統一感がなく、時に変態的なファッションになることもままある。


 その中にあってなお、私の姿はさらに異様に映るらしく、目を丸くしてガン見されている。

 何だか失礼な話だけれど、何か行動に移そうとするなら番犬さんが動いてくれるだろう。



「納品」


 買取カウンターの上に翳した手の影から、大量の魔石を出す。


 大量といっても常識の範疇で、朔の中にある在庫は軽くこの百倍以上はある。

 それに、私から採れる魔石――神の秘石があるので、何があっても食うには困らないと思う。


「おお、今日もずいぶん稼いできたな!」


「魔物だって、同じ狩られるならユノちゃんに狩られたいだろうしな!」


「俺にも魔石があったら、ユノちゃんに狩ってもらえるのかな?」


 いつものように、背後から歓声と寝言が聞こえる。

 エリート冒険者である彼らの反応を見るに、もう少し出してもよさそうな感じに思えるけれど、何事も控え目なくらいがちょうどいい。



「まさか、あんな可憐な少女が――」


 見知らぬ一団の方からは、そんな声も聞こえてきたものの、それももう慣れたもの。


 いちいち男だと説明しなくていいのは非常に楽で、心に余裕のようなものが生まれている。

 何ならウインクしてあげてもいいくらいだ。



 魔石の査定を待つ間に、いつものように中央のテーブルに向かい、ギルドまでの道中で適当に見繕ってきたお酒を大量に出す。

 もちろん《竜殺し》とは比べ物にはならないけれど、そこそこ良いお酒である。


「みんなに」


 両手を広げてくるりと一回転する。

 見知らぬ一団のひとり――リリーと同じくらいの年齢の少年が、顔を真っ赤にしていた。


 見えたか?


 まあ、反応が可愛いのでよしとしよう。



「いよっ! 待ってました!」


「ユノちゃん、いつも悪いな!」


「俺、ユノちゃんに会うために昼間の仕事は辞めたんだ!」


 彼らにとっては(ひが)むに値しない稼ぎであっても、こういう気配りは重要だと思う。

 何より、お酒が入って口が軽くなることも期待している。



「迷宮」


「おっ、何だユノちゃん。迷宮に興味あるのか?」


「迷宮って、島にあるえらく難度の高いあれのことでいいのか?」


 無言で頷く。


「結構なお宝があるから、密航者が出るくらいに人気は高いな。おかげで上層はいつもカオスだけどよ。まあ、『扉開け』の商売も、迷宮ドロップアウト組の飯のタネだからなあ……」


「魔王だか魔法使いだかが最下層にいるとかって話はよく聞くな。誰も最下層まで行ったことねえのに、何で知ってんだって話だけどな」


「何百年も前からあるんだろ? それでいまだに攻略者出ないって相当だぜ」


「歴代の勇者が、必ず一回は挑戦するんだってな」


「他の迷宮は攻略されたのも結構あるんだけどな。最近じゃ王都のとか」


「王都のは貴族のボンボンの遊び場に造られた紛いもんだろ。てか、そもそも10階以上の深い迷宮がそんなにないしな」


「東の迷宮は階層はそんなでもないが、やたら広いってな」


「それはあれだろ、魔族領まで繋がってるとか、海竜のねぐらに繋がってるとかって話だろ」


「おいおい、ユノちゃんが困ってんだろ。島の迷宮の話だろうが」


「そういや、10階の門番が目から光線出したとかって、うちの爺さんが言ってたな」


「お前の爺さんが? 嘘くせえ。目から光線ってのより、お前の爺さんってのが」


「嘘じゃねえよ! 爺さんは勇者の従者だったらしいんだよ!」


 私がお題を出した瞬間から、怒涛の勢いで話が始まる。


 恐ろしく速い酔っ払い具合。

 私じゃなければ聞き逃しちゃうね。


 彼らの話の真偽は不確かだけれど、アイリスの話にはなかった噂程度のものの中には、面白いものもあった。



「で、孫がこれか? 笑わせんなよ」


 嘘じゃないと言い張る従者のお孫さん――トゲトゲモヒカンさんにお酒を注いであげる。

 本人のものではなかったとしても、体験談には興味がある。

 ミーティアがいないので真偽が確かめられないのが残念だ。


「話して」


 彼らは何だかんだでいろいろな知識を持っている。


「おおっ! ユノちゃんは信じてくれるのか! だったらお前らなんかかどうでもいいわ!」


「マジかよ、ユノちゃん!? 悪い男に騙されちゃダメだ!」


「酔っ払いの言うことなんか信じちゃダメだぜ?」


「ユノちゃんが信じるなら、俺も信じるぜ! むしろユノちゃんとの運命を信じるぜ!」


 ノイズが酷いので、「早く話して」と目で訴える。



「実はさ、爺さんは――」


「失礼。その話、我々も興味があるのだが、ご一緒させてもらってもいいかな?」


 モヒカンさんが話始めようとしたところ、見知らぬ一団のひとり、重装備の騎士っぽい男の人がこちらに近寄ってきて、胸に手を当てて名乗りを上げた。


 いや、名乗ってはいないけれど。

 どうやら話に混ぜてもらいたいらしい。



「話の腰を折って申し訳ない。私は【サイラス】という。後ろにいるのは私の仲間で、左から順に【ジェイソン】、【スペンサー】、【セシル】、【ソウマ】」


 ほほう。先程顔を真っ赤にしていた少年がソウマくんというのか。


 黒髪黒目に年齢的なもの、アイリスから聞いていた名前とも合致する。

 恐らく、この少年が今回召喚された勇者だろう。


 まさか、こんなところで会うことになるとは。


 他の人は、護衛とか、お目付け役とか、従者と呼ばれる類の人たちだろう。

 二十代後半から三十代半ばの男性だけで構成された集団――華がない。

 多感な年頃の少年に配慮してのことだろうか。


 それはそれで免疫がなくなってしまいそうだけれど。



 ちなみに、彼らが素性を隠しているのは、この少年をお披露目して、諸外国から王国が十歳の少年を召喚したと批判されるのを避けるためとか、いろいろと理由があるらしい。


 難しいことには興味は無いけれど、私をこの小さな勇者の代わりにしようとする流れは阻止しなければならない。



 さておき、従者さんたちの装備が制式ではないのは、冒険者に紛れるためかと思うのだけれど、ここで紛れるには、もっと奇抜な装備をしないと駄目なのだ。


 全身から棘を生やした世紀末モヒカンさんはまだマシな方で、裸エプロンの僧侶さんとか、全裸に覆面の忍者さんとか、パンツは穿いているから大丈夫とか、パンツも穿いていないけれど忍者だから大丈夫とか、ファッションではなく頭がおかしい人も少なからずいるのだ。


「ユノです」


 とにかく、見た目はただの小娘を相手に、先に丁寧に名乗られてしまったので、私も応じざるを得ない。


 椅子から立ち上がって、スカートの裾を摘んで片足を引く。

 そして、淑女のように――と、ふわっとしすぎてよく分からない注文をつけられたお辞儀をする。

 カーテシーとかいう作法らしく、セイラさんに仕込まれたもののひとつだ。


 ソウマくんの顔がまたしても真っ赤になっていた。

 彼の目線だと、ギリギリなのだろう。


 純朴なソウマくんの反応が可愛くて癒される――いや、これはソウマくんに免疫をつけるための善意であって、決して楽しんでいるわけではない。



「俺はユノちゃんがいいなら構わないぜ」


 モヒカンさんがそう言うので、更にお酌して続きを促す。


 聞かれて困ることはないはずだし、手掛かりになり得るかもしれない少年に死んでもらっても困る。


 そもそも、私は子供が嫌いではない。

 むしろ、好きだ――もちろん、そういう性的嗜好ではない。

 純粋に、可愛いものが好きなだけだ。


 それを口にすると男っぽくないと言われるし、犯罪の匂いがしたりもするので内緒にしていたけれど、今は誰に遠慮する必要も無い。

 小さい子に対しても、「母性」のひと言で済むのだ。

 女装って、もしかして最高なのでは?


 とにかく、彼らもこれから迷宮へ挑むのだろう。

 そんなことをさっき誰かが言っていたし。


 直接手を貸すことはできないけれど、この程度の援護で役に立つのなら安いものだろう。 

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