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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十三章 邪神さんと変わりゆく世界
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09 ブーメラン

「せっかく再会できたところに水を差しちゃうけれど、私としては、真由とレティには一度向こうに戻ってもらって、学校を卒業してほしいと思っている」


 ようやく言えた。

 流れとか完全に無視したけれど。

 これも空気が読めない魔王(父さん)が悪い。



「えぇー? 何でよ? 昨日からこっちで何しようかってレティと盛り上がってたのに! お姉ちゃんだけ好き勝手やっててズルいよ!」


「姉さん、お言葉ですけど、こっちの世界では学力ってそんなに役には立たないと思いますよ? 姉さんだってやれてるんですから」


 反発されるのは予想どおり。

 ……毒を吐かれるのも、まあ予想どおり。



「どうしてもこっちでやりたいことがあるっていうなら尊重するけれど、学校を卒業してからでもできることなら、その後でもよくない? ふたりが思っているように、学力はこっちではそんなに役に立たないかもしれないけれど、向こうの学校でできる経験は、こっちでは得られないものだと思うし……」


 しまった。

 説得するための具体的なメリットが思いつかない。



「あー、確かに、試験や受験のための勉強は役に立たないけど、向こうの世界のちょっとした知識や技術はこっちではすごく役に立つよ。それに、向こうではネットで調べれば答えが見つかるけど、こっちにはそんな便利なものはないからね。聞くところによると、知識や技術チートスキルはかなり制限が掛けられてるらしいし。こっちの世界でスマホが使える勇者も、大量破壊兵器とかの情報は検索すらできなかったらしいよ」


 おっと、私が困っているのを察してくれたのか、アルが助け舟を出してくれた。



 なお、アルが言っているのはクリスたちの仕えていた勇者のことで、彼はスマホを媒体として様々な知識や技術を行使できたそうだ。

 ただし、核関連技術だとかヤバそうなものは表示されないようにされていたらしい。

 もっとも、直接本物が購入できるアクマゾンなどの例外もあるのだけれど、購入には莫大な対価が必要になるため、個人で購入できるものではないと放置されていた。


 その結果がオルデアの勇者さんの暴走なのだけれど、あの一件以来、取扱いに配慮を要するような品物には制限が掛けられることになったそうなので、再発はしないだろうということだ。



「メリットデメリットの話だけではなく、おふたりはこのままこちらの世界に定住するとして、心残りはありませんか? 私の前世は、高校を卒業する前に終わってしまったのですが、生まれ変わった今でも、『仲の良かった友人たちと卒業できていれば』と考えることもありますし、私のせいでその節目に影を落としてしまったのではと思うと居た堪れない気持ちになります。普通は時間とともに忘れていくとか思い出に変わるのでしょうが、負い目というものはなかなか消えてくれません」


 アイリスも援護射撃をしてくれた。

 私には感傷的なものはよく分からないけれど、妹たちの表情を見る限りでは効果抜群なようだ。



「あー、それ、分かります。向こうの世界自体に未練はなくても、家族や世話になった人とかへの負い目ってやっぱり残りますよね」


 アルもそれを察したのか方向転換。

 このフットワークの軽さには、いつも感心する。



『君たちも一方的に言われるのは面白くないだろうし、君たちの言い分も聞いておきたいんだけど、こっちの世界でやりたいことって何?』


「えっと、その……。魔法とかスキルを使って無双? みたいな?」


「冒険者になって、冒険とか、観光とか……」


 朔も善意のふりをして追い打ちする。

 この容赦のなさは味方でよかったと思う。


 ただ、相手次第でもう少し手心を加えてくれると助かる。



「冒険者になって、向こうの世界ではできなくて、こっちではきることって、極端な言い方をすれば命のやり取りよ? こっちじゃ割と普通のことだし、駄目とは言わないけど、一年ちょっとくらい待てないことなの?」


 母さんからも駄目押し。


 やはり、英雄とか勇者といわれる人は、機を見るに敏ということか。

 よし、それなら私も続くか。



「冒険も無双も、向こうの世界でもできるよ?」


「お姉ちゃんと一緒にしないで」


「犯罪者は黙っててください」


 なぜだ。


 というか、レティシアの「犯罪者」は酷くない?

 日本だとバレなければ――バレても疑わしいだけだと犯罪にはならないんだよ? 「疑わしきは被告人の利益に」だよ?

 被告人にすらなっていない私は、勝利者だといっても過言ではないのよ?



「ははは。さっきのユノの言ったことは忘れていいが、私も学校は卒業した方が良いと思うよ。いくつか理由はあるが――。そうだな。ひとつは、『人との縁を大事にしてほしい』ということだろうか。世界を移動した後に二度と会うことがないとしても、だからといって、これまで築いてきた絆を粗末にするような人間にはなってほしくない――という、私の願望だけどね」


 理不尽ともいえる私の失態を挽回するためか、今度は父さんが口を開いた。

 攻めどころが縁だ絆だとふわふわしたものながらも、なぜか効果的な様子。



「それと、もうひとつ――むしろ、こちらが本命になるのだが」


 更に話を続ける父さんがこちらを見る。


 何だろう?

 資金や物資の援助要請――ではないと思うので、ふたりが学校に通っている間に、湯の川に何かの施設を造っておくとか、そういう話だろうか?

 ふたりに学校に行けというのは、そういう時間的猶予を作るため?

 まあ、私にできることなら何でも協力するけれど。



「ユノ、お前も学校に通いなさい」


「「「は?」」」


 私と、妹たちの声が重なった。

 もしかすると、心も重なっていたかもしれない。



「私、もう、卒業した」


 なんだかよく分からないけれど、父さんは私が高校を卒業したことを知らないのかもしれない。



「何でカタコト?」


「動揺してるんじゃないですか?」


「お父さん、何言ってるの? お姉ちゃんと一緒に通えっていうの? え、嫌だよ?」


「姉さんが問題起こす未来しか見えないんですが……。縁とか絆とか、物理的に破壊されそうなんですが?」


 妹たちは大反発。

 立場は同じとはいえ、こうまで拒否されると少し悲しい。



「ユノ、お前はもっと普通の人間について学ぶべき――いや、興味を持つべきだ。そうすれば、一般常識の意味も少しは理解できるようになるだろう。そして、これはその絶好の機会なんだ。お前をひとりで学校に通わせるのは不安しかないが、今なら真由とレティシアもついている。真由、レティシア。ふたりには苦労を掛けることになるが、できればユノの面倒を見てやってほしい」


 どういうこと?


 私がふたりの面倒を見るのではないの?

 それと、人間に興味が無いように言われるのは心外なのだけれど?

 私、人間は好きだよ?



「えー!? 理由は納得なんだけど……。えぇー!?」


「えーっと、私たちに姉さんと普通の人とのコミュニケーションの手伝いをしろということですか?」


 父さんの提案もだけれど、妹たちにこうも嫌な顔をされるのはなかなかにつらい。



「私、コミュ障、違う」


「だから何でカタコト?」


「ユノ、お言葉ですが、コミュニケーションとは外面を取り繕っていればいいというものではありませんよ?」


「そうよ。礼儀正しく姿勢良く相手を殴るのはコミュニケーションじゃないの!」


 むう、ソフィアにコミュニケーションを説かれるとは。

 というか、肉体言語もコミュニケーションの一環だよね?


 多少やりあった後で仲良くなった人もいっぱいいるし、アルやソフィアもその例だと思うのだけれど。



「勘違いしないでほしいんだけど、誰に対しても丁寧に接するユノの姿勢はとてもいいことよ。私たちの教えたことを素直に聞いて、良い子に育ってくれたことはすごく嬉しい。でもね、世の中には正しすぎることを受け入れられない人もいるの。ここの人たちはユノが完璧じゃないことを知ってるし、町の人は貴女を神様だとかそういうものだと割り切ってるから平気みたいだけど、そういうのを知らない普通の人は、ユノを見ると心を乱すの」


 つまり、どういうこと?



「ははは、知ってても心は乱れますよ! それを極力表面に出さないように自制してるだけで。まあ、自制できない奴が暴走するのを何度も見たってこともありますけど」


「心が乱れていることは自覚していますが、良くも悪くも愛とはそういうものだと思っていますし、根底にあるものが愛だと理解していれば、何の問題もありません」


「……ごめん、この人たちは少し特別みたいね」


「ははは、ユノは良い友達を持ったね! とにかく、ユノがこの先『世界樹の女神』としてやっていくつもりなら何も言わない。むしろ、私たちでは神の領域のことには口を出せない。だが、もっと人間に寄り添いたいとか、人間に混じって生きていきたいなら、私たちがサポートできる間に経験を積んでほしい」


 なんだか分からないけれど、心配されているのは分かるし、心配してくれるのは嬉しい。

 しかし、そのポイントがズレていると思う。



「別に学校に通わなくても、学べることはいっぱいあると思うけれど。父さんや母さんの教えはきちんと守っているし、ふたりがいなくなってからも手を抜いたりしなかったよ? 学校を卒業してからも勉強は自主的に……あまり成果は出なかったけれど、棒術とか魔素操作の訓練とかも欠かさなかったし」


 妹たちに言っていることと矛盾するかもしれないけれど、学校に行くことが重要ではないのだ。

 ふたりが卒業する意味はあるけれど、私がそうする意味が分からない。

 ふたりの負担になるのは本意ではないし。



「棒術……ね。ごめんね、お母さん、棒は専門じゃないの。専門は片手剣と盾のスタイルなの」


「え、でも……」


「ユノに刃物を持たせるのが怖かったから、慌てて三か月くらい習ってきて、それを教えてたの。はっきり言って素人だったんだけど、極意っぽいこと言って煙に巻いてたのよ。それがまさか、『間合い操作の極意』を極めるなんて……。そういう意味でも、ユノは『普通』を知った方がいいと思うの」


「そういや、どんな達人に習ってたのかって疑問に思ってたのに、瓢箪(ひょうたん)から駒ってレベルじゃねえな。ヤベーな」


「ですが、お義母様の判断は正しかったと思います。先に刃物を扱う武術でその域に達していた場合は、どうなっていたかと考えると……」


 ……どういうこと?



「そういえば、父さんに教えてもらった魔力操作で、15歳になったら次の段階って言っていたのは何だったの? 私なりにいろいろ考えて、それも間合い操作の一助になっているのだけれど」


「何って、普通の魔法とか、魔装だよ。それがまさか、領域展開に至っちゃうとかね。ははは、《名僧知識》をもってしても読めなかったよ!」


「ほら、だから言ったじゃん。絶対違うって。それ、お兄――お姉ちゃんにしかできないやつだって。私たちを巻き込まないでって」


「姉さん、自分にできることは他人にもできるとかって思うの、はっきり言って迷惑だよ」


 そんな……。



「ね? 私たちが目を離したのも悪かったけど、これはユノに『普通』を知ってもらうための、残り少ないチャンスなの。勉強はできなくてもいい――できた方がいいけど、友達を作って、恋人を作ってもいいし――」

「いや、恋人はどうかと思うが、真由やレティシアのおりも気にせずに、普通に学生生活を送ってみてほしい。それはきっとお前のためになることだから」

「ユノに愛を教えるのは、私にお任せください!」

「お父さん、ちょっと待って! 私たちの学生生活はどうなるのよ!?」

「そうよ!こんな耳や尻尾がついてる人をどう生活すればいいの!?」

『正直なところ、その程度の経験でユノが変わるとは思わないけど、ボクのサポートには活きてくるかも』


 何これ?


 みんなで一斉に喋るから収拾がつかないのだけれど?



「よし、分かった! 俺が保護者代わりについていってやるよ」


 アルは何を言っているの?


 なにが「よし、分かった!」の?

 きっと何も分かっていないよね。



「くっ! 私も行きたいところですが、女神様が『あんたの《巫女》スキルは、魔力耐性の無い人には毒だから駄目よ』、と……!」


 アイリスも、歯軋(はぎし)りするほどのこと?

 というか、フレイヤさんが盗み聞きしているのか。


 まあ、聞かれて困ることを話しているわけではないので、別にいいのだけれど。



『向こうとこっちの時間の流れが違うから、向こうに一年いるとこっちでは十年くらい経ってるよ?』


「え、マジ? それはまずいな」


 知らなかったのか――いや、アルには関係の無いことだと思って話していなかったか。



「それに関しては、その時までにはこちらで何とかしよう。元々、ある程度準備ができた段階でそうするつもりだったしな。しかし、ただでさえ人手が足りなかったところに、君のような異世界知識にも明るい人に協力してもらえるのはとても助かる。娘との関係はさておき、これからもよろしく頼むよ!」


 父さんも、味方――いや仕事仲間候補か? ができたと思ってすぐに飛びつかないで。


 というか、《名僧知識》って莫迦なの?

 詐欺師とかに騙されそうで不安なのだけれど?



「俺もユノにはかなり世話になってますから、返せるところで返したいと思ってるだけですよ、お義父さん」


「ははは、本当にありがたい。だが、分かっているね? もし、うちの娘に変な気を起こしたときは――」

「お義父さん、お待ちください! 並大抵の才能や努力ではユノとどうにかなることはできません! ですが、それができるくらいに俺たちが成長するのを、ユノ自身が期待してる節もあります!」


「吹っ切れましたね、グレイ卿――いえ、アルフォンス。まあ、いつかはこうなる気もしていましたが……。私も負けませんよ? ああ、ちなみに私も魔界で成長していますので、ちょこっと階梯は上がっていますよ」


「あなたたち、対象の両親の前でそんなことを堂々と言えるってすごいわね……。とにかく、ユノ。貴女も異存が無いなら学校に通いなさい」


 選択を迫られていたはずなのに、選択の余地が無かったような気がする。


 まあ、ブーメランになったところもあるし、どのみち分体で対処できる範囲のことなので、面倒というほどのことでもないのだけれど、今更学校に通ったことで何が得られるというのだろう。


 そもそも、魔界でも似たようなことをしていると思うのだけれど。


 とはいえ、妹たちも巻き込めると考えればそう悪いことでもないか?

 というか、途中からすっかり黙ってしまっていたけれど、怒っていたりするのだろうか?

 後で、あの頃の私とはひと味違うのだ、心配は要らないのだとフォローでも入れておこう。

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[一言] まさかのユノちゃん女子高生編始まっちゃう? 多属性持ちお姉ちゃんと学校生活なんて妹達のスクールライフはボドボドダ!
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