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自覚の足りない邪神さんは、いつもどこかで迷走しています  作者: デブ(小)
第十三章 邪神さんと変わりゆく世界
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03 成長の兆し

 アイリスの補佐をしている私の方では、今のところ大きな問題は起きていない。



 コウチンの襲撃――は、正確には未遂になるのだろうか?


 それについてはアイリスとルイスさんが口裏を合わせたというか、ふたりの間で(おおやけ)にはしないという暗黙の了解があったようで、一応は平穏が保たれている。


 ロリコンたちに拉致されていたコレットも、みんなに心配をさせないようにか、それについて触れることはなく、ただ「帰省していた」と話すのみである。



 当事者たちがそうしているのであれば、私からは何も言うことはない。


 そうして、みんなと団欒をしつつ、時折訓練に付き合う日常が続いていた。




 訓練といえば、料理魔法の訓練をしていたメイドさんの中に、正体不明の「肉っぽい何か」を発生させる人が出てきた。


 もちろん、私は何の干渉もしていない。

 強いていうなら、彼女は人目を忍んで、お茶会の後の食器を嗅いだり舐めたりと、奇行に走っていたことだろうか。

 それも彼女だけに限ったことではないけれど。



 原材料はそこらの雑草。

 調理法は、バケツを振るだけ。


 それだけで、本当に牛肉っぽい何かが出る。

 頭がイカれているのだろうか? ウシなのに。


 しかし、お味の方も、ミノタウロスっぽくてなかなか好評。


 ただし、生成にものすごく魔力を消費するのか、メイドさんがものすごくやつれる。

 見ていて気の毒になるくらい。



 そうまでしてお肉が食べたいものかと――いや、この件の元凶の一端として、身体を労わるようには言ったのだけれど、


「私がこのスキルをマスターすれば、家族のみんなにも美味しいものを食べさせてあげられるんです! それに、いつか料理屋を開くことが私の夢なんです! だから、これくらいで音を上げてる暇なんてありません!」


 と、「夢」とまで言われては、それ以上は強く言えない。



 それに、それを聞いたルイスさんたちが感動して、


「うむ、見事料理魔法をマスターした(あかつき)には、開業資金は俺が出そう。励めよ!」


「貴女はやればできる娘だと思っていたわ。貴女がメイドを辞めても、私たちはずっと友達よ。お店を出したら、絶対に遊びに行くからね!」


「困った客が来たら、私たちの名前を出すのよ? きっちり型に嵌めてあげるから、貴女は料理のことだけを考えなさい」


 なんだか美談ぽくなっていた。



 そして、そんな彼女に触発されたのか、コレットが料理魔法の研究に着手した。


 そんな彼女の現段階での考察は、料理魔法とは物質変換系の能力ではないかというもの。


 なお、詳細については難しそうだったので聞き流させてもらった。

 私には、コレットが頑張っているという事実だけで充分である。



 さておき、物質変換系などと、極めて恐ろしい響きである。

 ただ、私の料理魔法は、主神たちによると「純粋創造系」という()()に属するものだそうで、それとは違うらしい。

 メイドさんのはそれで合っているそうだけれど。



 そんな彼女は、【メイドマスター】なる称号を得て、ほかのメイドさんたちの羨望の的になっている。

 落ち着いて考えてみると、これはメイドさんの職務の範疇(はんちゅう)なのだろうか。

 まあ、本人が納得しているならいいか。


 とにかく、人間の可能性はすごいと再認識させられた。




 だからというわけではないけれど、いろいろと思うところもあって、エカテリーナやリディアたちの訓練内容も変えてみた。

 メイドさんがよく分からない進歩をしたのだから、彼女たちもできると信じて。



 もっとも、近接戦闘を通じてという点ではそれ以前と変わらない。


 今は、そこから一歩踏み込んで、間合いの制し方――その前段階である「観の目」とかについて教えている。



 私が彼女たちの間合いを制することができるのは、確かに技術の差もあるけれど、彼女たちに限らず、みんな隙だらけだからである。

 私自身、誰かに学んだわけではないので、どう教えればいいのか分からないし、それ以前に上手く言語化もできないのだけれど、間合いとは、物理的なものだけではないのだ。


 魂や精神が認識できれば私の言っていることの意味も理解できると思うのだけれど、認識できない人にそんなことを言っても混乱させるだけっぽい。

 なので、彼女たちにも分かりやすい魔力に例えてみようとしたのだけれど、魔力の認識もズレているようで、どうにも上手くいかない。



「あ、《魔力感知》スキルのこと? 先生はそれでみんなの攻撃を見切ってるってこと? ズルいよ!」


「そういえば、お師匠様に聞いたことがあります。《魔力感知》を極めれば、相手の魔力の流れも見えると」


 戦闘訓練にはあまり参加していなかったメアとメイが、自分たちは関係無いという余裕からか、適当なことを言って更に混乱させてくるし。



「違います。というか、私はスキルは使えませんし、魔力が動くのは、精神というか、意志の後です。そもそも、魔力が動くとか流れるというのがおかしいのだけれど……」


 恐らく、ひとつずつ段階を踏んで覚えさせていくのがベターである。

 しかし、どう段階を踏めばいいのかも分からない状況で、いたずらに引っ掻き回されるのは困る。



「貴女たちも何も分かっていないようですし、訓練した方がいいみたいですね」


「ほっほっほっ。ふたりともよかったのう」


「「ええっ!?」


 なので、巻き込んでしまおう。

 トライさん(保護者)の承認も得たし。


 もちろん、いきなり無茶はさせられないので、様子を見ながらだけれど。




 結局、できることからコツコツとやっていくしかない。


 ということで、まずは物理的な間合い操作を覚えさせる。

 それがある程度できるようになれば、何かが足りないことに気づくだろう。

 気づいてくれるといいな。




 さて、基本的に無手の私は、武器を持っている人に比べて攻撃の届く間合いは狭い。


 それを圧倒的な身体能力でカバーするのもひとつの手段――というか、突き詰めれば「レベルを上げて物理で殴る」のが最も効率的なのだと思うけれど、彼女たちの訓練でそれをやっては身も蓋もない。


 ということで、間合い操作の妙を実演してみせるのだけれど、この世界の人たちは何かあれば魔法やスキルに頼ろうとするので、その隙を突いて終わりになってしまうことが多い。

 なので、現状では参考になっているかは微妙である。




 私が知る限りで、悪魔族の中で最も戦い慣れしているのは、トライさんことトライアンさんだ。

 強さでいえばルイスさんの方が上だけれど、「巧い」という意味で。



 トライさんの得物は仕込み杖で、戦闘スタイルは、初見殺し系の技や連携を得意としているらしい。

 それでも、人並み以上には真っ向勝負もできるし、高威力の大魔法も使うことができるし、部隊の指揮もできると、何にでも対応できるタイプ。


 私としては、スキルを使うべきところと使ってはいけないところの見極めが、ほかの人より格段に優れていることが素晴らしいと思う。

 スキルや魔法を卒業してくれると、もっといいのだけれど。



 私との手合わせでは、基本的に仕込み杖の間合いを保ちつつ、その隙を埋めるように発動が早く隙も少ない魔法で牽制してくる。


 至近距離では対抗手段が無いからと、とにかく距離をとろうとする人が多い中、僅かでも可能性が存在するその距離を守ろうとするのが素晴らしい。

 まあ、今の段階では早いか遅いかの違いでしかないけれど。



 それでも、一歩踏み込まれると私の間合いになるギリギリの状況で、距離をとって逃げるだけとか、破れかぶれで突っ込んでくる人より長く粘る技量は賞賛に値する。

 同時に、その胆力にも。

 レベル云々だけではなく、それだけの経験を積んできたということだろうか。



 さて、実戦であれば、私に魔法を使うのは悪手になる。

 一応、余波で吹き飛ばすような使い方もできるけれど、往々にして状況を打開する一手にはならないし、そればかりでは訓練にならないので、重火器や爆発物、時にはちょっと本気を出して理解させる。


 とはいえ、現状では、魔法を全く使えなくしても訓練にならないので、ある程度は付き合ってあげる必要がある。



 そういった縛りがある中での組手で、トライさんの仕込み杖を用いた変則剣術はユニークだけれど、初見殺しの側面が強いだけで、正統な剣術より対応力に劣る。

 私が相手でなくても、ある程度手の内を知られてしまうと、なかなか厳しいかもしれない。



 その発展性や隙を補っているのが魔法である。

 彼の魔法は、種類こそ少ないものの、使い方が非常に上手い。

 洗練度合いでいえば、アルを上回っているかもしれない。



 それでも、得物の差による物理的な間合いとか、魔法による手数の増加も、突き詰めてしまえば対処法は同じ。



 例えば、物理的な攻撃なら、細かな出入りなんかで揺さぶりをかけて相手の攻撃を誘発させて、それを空振りさせたり受け流したりする。


 もちろん、単発だと決定的な隙にならないこともあるし、カウンターに対するカウンターなど、対策が用意されていることもある。


 なので、相手が死に体なるまで揺さぶり続けて、充分な隙を積み上げたところでガツンといく。

 そうなるまで来ないだろうと油断していてもガツンといく。

 そうやって、勝ちパターンに乗るところにまで追い詰めたら、後はずっと私のターン。


 そのためには「仕切り直し」をさせないのがポイントだ。

 さらに、そのために必要なのが、相手のやろうとしていることを読む力であって、それを突き詰めれば「領域の使い方」にも通じる。

 最後はかなり飛躍しているけれど。



 魔法だと、発動前の一瞬の隙に間合いを詰めることもできる――トライさんくらいになると巧妙に発動を隠してくるけれど、精神や魔力の流れが見えていると、物理攻撃とも大した差はない。

 というか、私でなくても対応がしやすいから、「一対一の戦いにおいて、魔法使いは不利」という認識になっているのだろう。



 ただ、私の場合は、システム製魔法のことをよく知らないのと、魔法無効化能力や領域を使わないとどうにもならないことがあるのがネックになっている。


 そして、トライさんにはそこを上手く突かれて仕切り直しされてしまうことがある。


 それでも、どれだけ上手く逃げても、トライさんのスタミナには限界がある。

 やはり、呼吸に囚われているのが悪いのか。



 まあ、私の集中力にも限界があるのだけれど、飽きると強制終了させるだけなので結果は変わらない。

 とにかく、その勝負強さは素直に賞賛したい。




 とまあ、基本的にその積み重ねが間合い操作である。

 そして、それが一方的に成立しているのは、世界の認識の差が理由だろう。



 ひとつの例として、彼女たちにとって、身体能力の強化とは、魔力を体内で循環させることで発動させるものだという認識になっている。


 確かにそれでも身体能力は上がるのだけれど、魔力は血液――というか、物質ではないのだから、循環させるという認識からしておかしい。

 その方がイメージしやすいのかもしれないけれど、そういうところから治していかなくてはいけないので結構大変だ。



 そもそも、魔力とは、彼女たちの可能性そのものである。

 よって、循環させるのではなく、自身の身体に漲らせる――その全てが自身であると認識するのが正解だと思う。

 そこに魂や精神を重ねて、初めてひとつの世界となるのだ。


 これが不十分どころかちぐはぐな彼女たちは、その揺らぎや(むら)から、行動が大体読めてしまう。


 もちろん、私も完璧にはほど遠いし、システムに対する無知もあるので、まれに私の予測を超えてくるものもあるけれど、それが偶然でしかないうちは私に勝つのは難しい。


 とはいえ、私の戦闘能力は創造能力に比べれば大したものではないようだし、いくらでもやり方はあるとは思うので、いつか私に勝っ(不可能を可能にし)てほしいと思う。




「身体のどこかに魔力の発生器官とか貯蔵器官があるわけではないし、それも、脳とか、心臓とか、丹田とか、人によって意見が分かれる程度のものなら、そんなに重要視するようなものでもないと思うのだけれど。納得できないなら、貴女自身が――貴女の全てで魔力の発生器官や貯蔵器官になってしまえば――もう魔力になってしまえばいいじゃないですか。魔力とは貴女たちの可能性そのものなのだから、貴女ができると思えばできるはず。貴女たちの身体を、貴女たちの可能性で満たすだけ。簡単でしょう?」


「師匠が何を言ってるのか難しくてよく分かんないっすけど、頑張るっす!」


「決して簡単なことではないと思いますが、お姉様が『やれ』と仰るなら、やり遂げてみせますわ!」


 駄犬ズの反応は芳しくないものの、指示には素直に従っている。



「もしかして、ユノさんの訓練って、最初からそれを教えるために――。確かに、ユノさんの求めるレベルで身体を動かすのは大変だったけど――」


「いえ、お嬢様。そうでなければステータスと実際の戦闘能力の乖離(かいり)に説明がつきません! ユノ殿は私たちを限界に追い込むことで、自然とそうなるよう仕組んでいたのでしょう!」


 いや、システムに頼らない身体の使い方を覚えさせただけだから。

 もちろん、いずれはそうなればとは思っていたけれど、システムに頼りきりの戦闘は、それだけ無駄だらけで、見ていられなかったの。



「ふむ。それが例の神降ろしの秘術に必要になるというわけか。『健全な精神は健全な身体に宿る』だったか。なかなかイカれた発想だが、それくらいでなければ神の力は宿せんということだな」


「先生がいつも空っぽに見えるのは、そういうことだったんだね! あの時の先生すごかったのは、空っぽの方がいっぱい入るからなんだ!」


「普段の空っぽの状態を補うのが女子力というわけですか。先生の教えは高度すぎて拙にはまだ難しいです」


 トライさんは何かを勘違いしている様子。

 そのお弟子さんたちは、私を褒めているのか(けな)しているのか微妙なところ。


 というか、この人たちはいつの間にか馴染んでいる。

 まあ、アイリスとも上手くやっているようだし、引き続きルナさんにも魔法を教えてくれているので有り難いのだけれど。



「お前ら、それは一応緘口令を敷いてるんだから、そんな簡単に口に出すんじゃねえよ。それによ、ユノを見て見ろ。見てるだけでも癒される、戦いなんてくだらねえって思えてくる。それが一番重要だろ」


 ルイスさんは、あの一件を経て大きく変わった。


 なんだか、股間の当たりから妙な存在感を放つようになった。

 原因はアイリスの創った怪しげな領域を取り込んだことだと思うのだけれど、それが悪い方に向かわずに落ち着いているのがすごい。

 ただの力の強さだけではなく、精神的な強さを身につけたとでもいうか、良い感じで落ち着いているように見える。


 こうして堂々とお風呂に入ってくるようになったのもその影響だろうか。



 とはいえ、この状態は彼の階梯では本来あり得ないことなので、経過観察は必要だろう。

 なお、奥さんのイングリッドさんや御母堂のエヴァさんも、彼の成長具合に感慨深そうに首肯(しゅこう)している。

 どこに感心する要素があるのやら。



「癒されるのは結構ですけど、時と場所を選んでいただければと。特に、ユノには神様との約定がありますし、私も巫女としての力を失うわけにはいきませんので、お手付きにされると困ります。それに、それは私たちのような乙女には刺激的すぎますので、隠させてもらいますね」


 成長という点ではアイリスが著しいだろうか。


 彼女自身やルイスさんの局部には、彼女の掛けたモザイク的な処理が施されている。

 朔が開発した魔法がシステムに採用されて一般化したものらしい。


 なお、両目に掛けられて視界を塞がれているトライさんを見ると分かるように、一種の状態異常としても機能している。



 状態異常や弱体化のような、他者に直接作用する魔法というのは、極端に成功率や効果が落ちるものである。

 アイリスがそれを事も無げに行っているのは、あの一件で魔法の本質というか、それに繋がる何かを掴んだのかもしれない。

 度々暴走はするものの、転んでもただでは起きないところは、彼女の良いところだと思う。


◇◇◇


「ところで、ルナさん。貴女、生徒会総戦挙は参加するのかしら?」


 お風呂上りの夕食前のひと時、リディアがルナさんに話しかけていた。


 うっかり流しそうになったけれど、選挙ではなく戦挙?

 何それ?



「ええと、できれば参加してみたいところではあるんですけど、私個人の実力はまだまだ論外ですし、チームを組むにしても伝手が……」


「その総戦挙とは何でしょう?」


 アイリスも気になったのか、ふたりの会話に割り込んだ。


 そういったイベントなどの告知がいちいち行われないところも、魔界の問題のひとつだと思う。



「ルナさんから聞いていなかったのですか? 大空洞探索の時にもパーティーを組んでいたので、てっきりそういうものなのだと思っていましたが」


「えっと、説明しますね。闘大では、夏季休暇が終わると、普通に秋季から冬季にかけての講義が再開されるんですけど、中には種族的な理由とか、冬支度に失敗して冬眠する人がいたり、講義の方も座学がメインになるので出席しない人が増えるんです。そこで、どうせならって、この期間は公式な序列戦が開催されるんですけど、ここで一位を獲得すると次期生徒会長になれるんです! ちなみに、お姉様が5期連続で1位で、これは闘大総戦挙記録タイです!」


 説明はコレットが行ってくれた。

 おおむね理解はできたものの、「どうせなら」がどう繋がっているのかは理解できなかった。


 とにかく、暇だから腕試しをしようという解釈でいいのだろうか。



「そういえば、リディアさんは序列1位でしたね。それで、生徒会長になるというのはどういうことなんでしょうか?」


「ふふふ、私が1位などとんでもありません。私が1位なのであれば、お姉様は王――いえ、女神様ですわ。それで、質問の答えですが、生徒会長とは、少しばかりの特典はありますけど、ただの称号ですわ」


 アイリスの問いに、リディアが答える。


 この娘の忠犬ムーブが少し怖い。


 というか、神なんて気軽に言わないでほしい。

 他人の言葉でも因果は巡るんだよ?



「一応、私はずっと個人で参加していたのですが、一昨年あたりから、あの四天王たちがなぜかチームのように振舞っていて……。確かに実力はそれなりにあったんですが、人格的に問題があったので……。彼らともどこかできちんと向き合っていれば、あのようなことにはならなかったのでしょうか……」


「それはお姉様のせいではありません! あの人たちがあんなだったのは、全部あの人たち自身と、そう育てた大人の責任だってユノさんが言ってました!」


 大空洞での一件か。


 彼らの能力的なことはよく分からないけれど、彼らが精神的に未熟すぎたことと、それまで紡いできた因果があそこで巡ってきただけのこと。

 なので、「コレットの責任ではないよ」というようなことを言った覚えがある。

 詳細は、コレットの信頼を得るのに必死で覚えていないけれど。



「お姉様が言うならそうなのですね」


 切り替え早いな。

 まあ、思い入れがなければそんなものかもしれない。

 それに、リディアが責任を感じることではないのも事実だし。



「デメリットが無いなら、参加すればいいのでは?」


「そうできればいいんですけど、今の私では力不足で……。私ひとりの問題ならいいんですけど、ジュディスにばかり負担を掛けるのは……。いえ、最初からジュディスが助けてくれると思ってるわけではないんですけど……」


「何を仰いますか。従者の私がお嬢様をお助けするのは当然のこと! お嬢様に勝利を捧げることこそ従者としての務め――と言いたいところですが、リディア殿が不参加、四天王も欠けた状況では、暫定上位にいるエカテリーナ殿や私には多くの敵が群がるでしょう。そうなると、勝利を捧げるどころか、今の地位を守ることもできないかと……」


「私は参加するっすよ。個人で! できればジュディスっちとも戦ってみたいっすね!」


 分かりやすく仲間が欲しそうな雰囲気を出していたルナさんたちを、空気を読まないエカテリーナが一刀両断した。

 というか、戦いたいなら、今戦えばいいのではないのだろうか?

 駄犬だと、そんなことにも気がつかないのだろうか。



 ちなみに、リディアが参加しないのは、彼女は今期で闘大を卒業することもあって、裏方に徹するからだそうだ。

 なお、卒業後の就職先は未定で、できれば私に関する仕事がしたいらしい。



「闘大総戦挙ねえ。もうそんな時期か……。悪いが、ユノとアイリスは参加禁止だ。理由は言うまでもないと思うが……。ユノは言うに及ばず、アイリスも巫女だ。万一にも天罰とか落とされたら敵わんからな」


 そこにルイスさんが追い打ちをかける。



「残念ですが、陛下がそう仰るのであれば参加できませんね。とはいえ、間接的な支援なら大丈夫ですよね?」


「それくらいならな。だが、やりすぎるなよ?」


 特に残念そうでもないアイリスが、ルイスさんの言質を取っていた。

 ルイスさんの含みがあるような返事は、アイリスの邪まな領域を目にしているからだろうか。



「確か、メンバーは5人まで。協力者は登録さえしていれば、外部の者でも可――だったか?」


「そのとおりです、閣下」


 話に割り込んできたトライさんに、リディアが律義に答える。

 なお、トライさんの「閣下」という敬称は、彼がかつて体制派の要職についていたからだそうだ。



「ならば、メア、メイよ。お前たちが協力してやるとよい。同年代の強者との邂逅(かいこう)は、お前たちにとってもいい刺激となるだろう」


「おっ師匠様がそう言うならメアはいいよ。でも、同年代の強者って、先生以上の人っているのかな?」


「先生は飽くまで例外なのでしょう。拙は最高学府である闘大に、どのような猛者がいるのか興味がありますし、今の拙がどの程度のレベルにいるのかを知りたいとも思います」


「あっ、メイだけ良い子ちゃんぶるのずるい! 私も姉弟子として、ふたりに協力してあげる!」


 ルナさんたちに仲間ができたようだ。



「よかったですね」


 一応、アイリスは、ルナさんのサポートという形で魔界に来ている。

 そんな彼女にとっても良い状況になってきたと思っているようで、素直に喜びを表していた。


 だったら、万全を期すとまではいかないと思うけれど、私も少しは貢献しておこうかな。



「それでは、私は戦挙が始まるまで、しっかり訓練をつけてあげることにしましょうか。先ほど私が言ったことが実践できれば大怪我をするようなこともないと思いますし、そのつもりでペースを上げていきますので、頑張ってついてきてくださいね」


「「「えっ」」」


 何人かの悲壮な声が重なった。



「頑張ってくださいね」


 アイリスの、私は無関係とばかりの声援が飛んだ。



「もしかして、実戦訓練が増えたりするんですか?」


「その方が効率的ですし」


 ルナさんは当然のことを訊いて、当然の返答に蒼褪めていた。



「大怪我をしないというのは、訓練でのことも含んでですよね?」


「死なない程度に大怪我できるというのは、良い訓練になると思いますよ」


 ジュディスさんは的外れなことを訊いて、合理的な返答に涙目になっていた。


 楽な訓練など存在しない。

 つらいほど、苦しいほど、実戦の際に活きてくるのだ。


 もちろん、私は根性論者ではないので、ただ苦しませるだけという不合理な訓練は行わない。



「先生、それはもしかして私たちもですか?」


「メアさんも参加するのですから、当然でしょう?」


「先生、実は拙は褒められて伸びるタイプなのです」


「褒めるときは褒めていますよ? コレットは毎日のように褒めていますし」


「えへへ」


 メアさんとメイさんも何を言っているのだろうか。

 基本的に褒めて伸ばすのが私の方針である。


 ただし、褒めすぎると魔王級になるので、控えなければならないのだけれど。


 それはともかく、コレットは可愛いなあ。



「……まあ、やりすぎんようにな」


 ルイスさんにも釘を刺された。


 当前のことだけれど、デネブとやった時のような、彼女たちに抵抗できない力は使わない。

 そんなことを心配されるくらいに信用がないのだろうか?



「大丈夫っすよ。死線を超えるか超えないかってところの感覚は、段々癖になってくるっす」


「お姉様の手解きが受けられるのでしたら、私ももう少しここに残りたいところですわ」


 駄犬ズは、ほかの人たちよりも基礎能力が高いからか、少し余裕があるらしい。

 特殊な嗜好に目覚めているわけではないと思いたい。



「そもそも、トライさんの訓練もあるのですから、後に響くような無茶はしませんよ」


「いや、最近はマンネリ気味だったしのう。良い機会だから、遠慮せずに限界まで扱いてやってくれ」


「「そんなっ!?」」


「おっ師匠様!? 捨てないで!」


「そんな、信じていたのに!?」


 みんな大袈裟な。

 とはいえ、トライさんの更なる承諾も得た。


 彼の大事なお弟子さんに、戦挙で万が一のことがあっては大変なので、予定を変更して、ハードにいくことにしよう。



「皆さんの訓練の出来次第では料理が出るかもしれませんし、頑張ってくださいね」


 そして、ご褒美もチラつかせてやる気も上げておく。

 やる気の有無は効率に響くしね。



 こうして、ルナさんたちに短期集中訓練をつけることになった。

 頑張るぞー!

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