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47 お仕舞い

ちょっとだけ矛盾解消

「じゃあ、終わったことだし、安全な所まで引き揚げようか」


 とりあえず、ここに来た目的は達成した。

 これ以上ここに留まる必要も無いので、当然の提案をした。



 すると、ソフィアが上を指差した。


 種子の欠片が消失したことで、夜ではなくただの暗闇となったそこには、闇よりも黒い球体が鎮座していた。



 どう見ても種子である。


 吸血鬼の真祖が召喚したのはこれだ。



 真由とレティシアは別口で、何がどうしてこうなっているのか分からない。


 彼女たちの方は、種子召喚の揺らぎに便乗するような世界の干渉があったことまでは分かっている。


 しかし、あちらの世界からこちらの世界の観測とか、異世界への転移を可能にするだけの魔素か魔力を、さすがに自力で賄ったというわけではないだろうし、ほかに心当たりもない。

 母さんの能力が絡んでいるなら主神も知っているはずだし、本当にわけが分からない。



 さておき、種子の気配は比較的穏やかではあるものの、この世界の存在からすると異質なもの。

 まあ、気づくよね。


 真由とレティシアは私に夢中だったか、気づいていてもスルーしてくれていたのだけれど、ソフィアは少々放置状態だったし。

 誰も気づかなければ無視して帰って、後で処理しに来ようと思っていたのだけれど。



「何、あれ? 何かすごくヤバい感じがするんだけど……」


「あれは……あの時の邪神? いや、ちょっと違う?」


 さすがにこうまで堂々と指摘されては、ふたりも無視できなかったらしい。

 面倒なことになってきた。


 とはいえ、魔王が空気を読めないのは今に始まったことでもないので、ここでソフィアを責めても仕方がない。



「知っているのか、レティ!?」


「真由ちゃん、こんな時にまで……。うん、あれは無限の魔力で、どんな願いでも叶えられる神の力――私たちの使ったあれのもっとヤバいやつだと思う」


「無限じゃないし、叶えられるのは想像力次第だけれど」


「お姉ちゃんも知ってるの?」


「うん、まあ。兄弟姉妹みたいなもの、かな? 後で専門の業者に処理を頼んでおくから大丈夫だよ」


「兄弟姉妹って何の……? というか、これって蜂の巣みたいな扱いするものなの?」


「というか、姉さんにそんな伝手というか人脈があるんですか? そっちの方が驚きです」


『その業者さん、自分のところの作業で手一杯だから無理だって』


「……」


 朔め、余計なことを。

 いや、まあ、「協力する」と言ったのは私だし、私の方が上手くできるのも事実だと思うけれど。



 さて、あれを片付けるのは簡単なのだけれど、さすがにこの状態だと骨が折れる。

 だからといって、ここで翼とか出すとまた問題が増える。


 人間には認識できないようにやるという手もあるけれど、日本でもバレるはずのないことを何度も暴いてきた勘の良い妹たちのこと。

 その後の私の言動から何かを察するかもしれない。



(いずれバレるんだからいいじゃないか。それに、君の妹たちは勘が良いんだろう? 悪さをするとすぐバレるって言ってたよね。じゃあ、君の分体すら感知するかもしれない。同じバレるにしても、堂々としてるのと、こそこそしてるのと、どっちが怒られるかな?)


 それはそうかもしれないけれど……。



(そもそも、主神に頼るのは悪手だよ? 実行部隊の神族がここに来て、君に(ひざまず)いたりしたら、言い訳とかできないよ?)


 それは確かにそうだ。

 神族も空気が読めない。

 私を発見すれば、間違いなくそうする。


 神は天に、私は地にいるくらいの距離感がちょうど良い。


 とにかく、朔の言いたいことは分かった。

 腹を括るしかないのか。


 まあ、ここまでは良い流れなので、案外このまますんなりいくかもしれない。




「真由、レティシア。ちょっと離れていて」


 私に抱きついたままだったふたりを引き剥がす。


 直後に、むしろ抱きつかせたまま目を閉じさせた方が良かったかもしれないと思い直すも、後の祭り。

 いつかはバレるのだし、軽くスルーできる感じでやるしかない。



「ちゃらららららーん」


 1、2、3! と、手品っぽく翼を出して、素早く種子を回収して、翼を収納する。

 ハトを出す手品があるのだから、これくらいはありだろう。



「えっ? 翼? まさか、堕天使?」


「姉さんが黒く……? 不良――はっ、非行と飛行をかけてるの!?」


 人間の知覚能力なら一瞬だったと思うのだけれど、思いのほかしっかりと見られたらしい。

 うちの妹たちは優秀だ。



「中二か!」


「また駄洒落!? 見た目は可憐なのに、中身はおじさん!?」


 言い方。

 うちの妹たちには配慮というものが足りない。


 さておき、これで全て終了だ。



「じゃあ、帰ろうか」


「おい待てよ」


「説明」


 妹たち的には終わっていないらしい。

 帰ってからゆっくり――とならないのは、私に信用がないせいだろうか。

 悲しい。


◇◇◇


 ひとまず、この世界に来てからの、私の変化について説明させられた。


 といっても、最も説明が困難だと思っていた「人間ではなかったこと」については元から承知していたらしく、ふたりとも思うところはあるようだけれど、そこはスルーしてくれた。


 性別については、むしろ納得された。

 納得したものの、認めたくない部分もあるようだけれど、それを私にどうしろというのか。


 年齢についても、私が気にしていなかっただけで、おかしいとは思っていたらしい。

 まさか、同い年とまでは思っていなかったようだけれど。


 オプションパーツについては、耳と尻尾は可愛いから許可された。

 まさかの許可制だったとは。

 翼は「狙いすぎ」とか「大きすぎる」と文句も出たけれど、肌触りが良いのでギリギリ許可された。

 もっとも、なぜそんなものが生えたのかに関しては理解を得られなかった。



「ネコとかトリとか、動物を食べるのは、まあ、理解できなくもないですけど、天使を食べたんですか……?」


 ネコは食べないよ?


「その胸はウシを食べたってか? それでそんなにバインバインなのか? 毎日牛乳飲んでる私への嫌味か?」


 真由が怖かった。



 ソフィアとの関係も訊かれた。


 私が地下迷宮に潜って――と説明を始めたところで、「地下迷宮あるんだ!」と、真由が目を輝かせた。


 真由は迷宮が好きなのかと思って、「私の絡んだ事件は大体迷宮入りするよ」とアピールしてみたのだけれど、「私たちが後始末してるからだよ!」とキレられた。

 難しい年頃らしい。



 さて、迷宮で、ソフィアが魔王として立ちはだかった――というところで、ソフィアの来歴にも触れた。


 彼女が魔王だとか吸血鬼になった理由。

 そして、彼女とレティシアが離れ離れになってから二百年以上経っているとか、その間ずっとレティシアを捜そうとしていたこととか。

 にわかには信じられないような話もあったはずなのだけれど、私のことに比べればまだ理解できると受け入れられた。


 私がいて良かったね、ソフィア。



 それから、ソフィア的には侵入者をちょっと脅かすつもりで戦闘を仕掛けて、返り討ちにされたという話になった。



「あまり戦いは得意じゃなかったけど、迷宮は守らなきゃいけないし、ちょっと脅すだけのつもりで、殺すつもりはなかったし、負けるなんて思ってなかったのよ。でもね、(もてあそ)ばれて、拷問されて……。これ以上は、言えない……」


 当時を思い出したのか、蒼くなって震えていたソフィアには同情の、私に非難の目が向けられた。

 なぜだ。

 喧嘩両成敗とか過失相殺とかじゃないの?


 判官贔屓(ほうがんびいき)が悪いとはいわない――そもそもの「善悪」とかいう基準には大して意味は無いけれど、お姉ちゃんとしては、もう少し信用してほしいところである。


 それに、ソフィアとはその後できちんと和解して、今ではおっぱいを吸われるまでになっているのに、いつまでも昔のことを引き摺りすぎだろう。



 また、その流れの中で、使い魔たちの紹介もした。


 命ある全てのものの天敵ともいえる使い魔たちを前に、お化け屋敷で「ホラーとか全然平気」「しょせん作り物ですよ」と豪語していたふたりも、若干ビビっていた。

 というより、それを使い魔にしている私に引いていたようにも見えた。


 なぜだ。

 ここは尊敬される流れではないのか?



 それと、なぜか知らないおじさんが混じっていて、当然のように挨拶していた。


 誰?


 悪意があるようには感じないけれど、誰か説明はしてくれないのだろうか?




 さておき、真由とレティシアのことも聞いた。



 まず、父さんと母さんの関係者の中で、異世界について知らないのは私だけだった。


 母さんは純粋な日本人だったけれど、異世界へ召喚されて、勇者として戦った。


 母さんと私と真由を除く全員が異世界出身で、真由もレティシアやほかのみんなから異世界のことを聞いていた。


 もっとも、当時のレティシアは世間知らずの子供だったため、大した知識など持ち合わせていない。

 大人たちも、詳細な情報は話さなかったようで――恐らく、下手に移住計画を話してしまうと、いろいろと悪影響が出ると考えたのだと思う。


 なので、「異世界が実在する」程度の知識でしかないらしい。



 さておき、私に伝えなかったのは、仲間外れにされていたとかそういうことではなく、フラグを立てないため――恐らく、因果を作らないためだったのだろう。


 私については、「何が起こっても不思議ではない」というのがみんなの共通認識で、私が起こした問題を、私が提供した魔素によって解決するというのが日常だった。


 また、反社会的勢力の人たちが本当に狙っていたのは、会社ではなく私だったとも聞かされた。

 話が届いていない末端が勘違いして暴走することは多々あったけれど、会社への干渉も、妹たちへの接触も、全ては私を手に入れるための作戦だったとか。


 にわかには信じられないけれど、会社の業績は良かったとはいえ、犯罪行為に訴えてまで手に入れるほどではないと言われればそのとおりである。


 とにかく、以前から異世界のことや私のことについていろいろ知っていたため、現在特に混乱することなく理解できているらしい。



 そして、どうやってふたりがこの世界に来たかについても訊いた。


 私が失踪したからといって、日本の警察や民間組織に捜索を依頼することはできない。


 もちろん、私が反社会的勢力だとかそういう理由ではない。

 少なくとも、日本には私が死亡するような危険はないし、迷子になるとも考えられないからである。


 もし、私が日本のどこかで保護されたとして、念のためとでも病院にでも運ばれて、私が人間ではないとバレた方が問題が大きくなる。



 そうやって対応を決めかねていると、突然我が家のリビングに、七色に輝く小さな石が出現したそうだ。


 いきなり話が飛躍したので何のことかと詳しく訊いてみると、それは異世界人の間ではそれなりに有名な物だったらしい。


 あちらの世界の物で例えると、ドラゴン〇ールのような物。

 所有者の願いを何でも叶えるという、「神の秘石」と呼ばれるそれは、お伽噺などにもよく出てくる物らしい。


 レティシアも、実物を見るのは初めてだったものの、すぐにそれだと断定できるだけの存在感があった。

 これをもって、私が異世界にいるとほぼ断定された。



 なぜだ。

 私と秘石を結びつけるものは何もないはずだよね?



 勇者の従者のみんなも、魔王の配下のみんなもそれを目にしたことはない。


「そんな物があんなら戦争なんかしてねえ」


「兵士や無辜(むこ)の民の犠牲も減らせたでしょうね」


 などと、都合よく手に入るものではないと証言した。



 しかし、一方では、


「でも、(わか)ならその辺で拾ってきそうな」


「むしろ、若様から採れそう」


「若様からの贈り物かな」


「「「あるな」」」


 などと納得していたそうだ。



 そうして、私が異世界にいると断定されたのだとか。

 解せぬ。



 もっとも、秘石をどう使えばいいかは誰にも分からなかった。


 手に持って願えばいいのか、特殊な儀式が必要なのか。


 試しに、「お兄ちゃんをここに連れてきて」と願ったこともあるそうだけれど、何も起こらなかったそうだ。

 異世界にいるであろう私を呼ぶには能力不足なのか、ほかに条件があるのか。



 とにかく、何も分らない物に頼っても仕方がないと、私がいつ帰ってきてもいいようにと日常を守りながら、私の捜索を続けていたそうだ。


 なお、そのことについて迷惑を掛けたと謝罪したところ、「お姉ちゃんいた時ほど忙しくなかったから」「久しぶりに羽を伸ばせたね」と返されて、言葉が続かなかった。



 そうして、秘石が出現してから一か月ほどが過ぎた今日、真由とレティシアが学校から帰宅すると、リビングの秘石が尋常ではなく輝いていたそうだ。

 そこで、ふたりで「「行こう」」と決心して光に近づくとここに来ていた――ということだ。




 正直なところ、話を聞いてもよく理解できなかった。

 事実として、ふたりはここにいる。


 しかし、これで大団円というわけでもない。

 予定が狂って、日本に置き去りの人も多数いる。

 いろいろと調整が必要だ。


 というか、既に近いうちに父さんと母さんが湯の川に来る方向で話が進んでいる。

 もちろん、ただ家族の再会を喜ぶためだけではなく、今後の方針を決めるためにだ。



「それじゃ、落ち着いたところで――」

「ねえ、お姉ちゃんって冒険者もやってるんだよね? というか、本当に冒険者ギルドってあるんだね!?」


「う、うん。あるよ。冒険者の資格も取ったよ。こっちのこと、レティから聞いてたんじゃないの?」


 もうここに用はないので引き揚げたいのだけれど、いつになく興奮した真由が解放してくれない。

 まあ、ここは勇者が言うところの「ゲームのような世界」らしいし、そういうのが大好きな真由が興奮するのもよく分かる。


 しかし、ゲームとは違って死んだら終わりの過酷な世界なので、そのあたりはきちんと教えてあげなければいけない。



「私が育った村にはギルドはなかったから、噂でしか聞いたことなかったんです」


「なるほどね。ああ、でも、真由がやっていたようなゲームとは少し違って、魔物と戦う以外の依頼もいっぱいあって、噂で聞く『職安』? みたいな雰囲気もあるよ』


「それこそギルドじゃない! で、お姉ちゃんランクいくつ? S級? ライバルとか、英雄級の人もいたりするの?」


「私はB級……だったかな? 最近ギルドには行っていないから、更新していないの。S級っていうと、アルとかがそうだったかな? ああ、アルっていうのは、アルフォンス・B・グレイって名前の友達ね」


「へえ、友達とか作れてたんですね。日本じゃまともに友達作れてなかったみたいですけど、やっぱりこっちの世界の方が姉さんには合ってたんですかね?」


「その『アルフォンス』ってどんな人? 紹介してくれる? でも、お姉ちゃんも本気出したらS級とか余裕なんでしょ?」」


「うん、まあ、合っているといえば合っているのかな。でも、S級はどうなのかな? 魔物を斃すだけじゃ駄目みたいだし。偉い人の後見とか承認が必要みたい」


「合ってるっていうか、合いすぎでしょ。それと、この娘が本気出したら世界の危機よ」


「あはは。ソフィアもそんな冗談言うようになったんだね」


「そうですよー。お姉ちゃん、力の大きさの割にやること小さいから、そんな大それたことできませんよー」


「確かに貴女の言うとおり、この娘は力の割にはやることは小さいわ。でもね――いえ、言っても理解できないでしょうし、自分の目で確かめた方がいいわね」


 止めてよ。

 (けな)した上で変なプレッシャーをかけないで。



「で、あんた誰よ?」


 そして、ソフィアの興味が知らない人に向いた。

 私も気にはなっていたけれど、何かを聞き逃した可能性もあって訊けなかった。

 ナイスな空気の読めなさである。


 というか、誰もツッコまないので、ソフィアが召喚した人なのかもと思っていたけれど、違ったようだ。



 その人は、髪はくすんだ青色のワンレングス。

 青白い顔にド派手なメイク。

 そのメイクでも隠しきれない青々とした髭の剃り跡。


 名前は、アドンたちの自己紹介に混じって名乗っていた――確か、ドミトリーさんだったか。

 そのアドンたちが、妹たちが怖がっているのを察して私の中に戻ったため、彼の存在だけが非常に浮いている。



「あ、あたくしは不死の大魔王の元配下の死霊術士でしたが、アドン様、サムソン様、マリアベル様のような素晴らしい配下をお持ちの尊いお方に、是非とも拝謁賜りたく(まか)り越し――」

『ストップ! ユノはわきまえない分には寛容だけど、謙りすぎるのは好きじゃない。嫌われたいならそのままでもいいけど、もうちょっと自分らしく振舞った方がいい』


 ナイスだ、朔。

 あまり丁寧――というか、難しい言葉で話されると、本当に畏まっているのか莫迦にされているのか分からないし。



「で、用件はユノに挨拶するだけ? それとも、ヴィクターを裏切ってこっちにつきたいの?」


「む、無論、許されるのであれば貴女様の下で働かせていただきたく思いますが、あたくし、以前の職場でも幹部のひとりとはいえ末席でしたので、大した情報を持ち合わせておりません……」


「うちに来たいなら来ればいい。情報なんて要らないよ」


 むしろ、聞きたくない。


 そういうのが因果となるのだ。

 そういう因果が既にできているなら話は別だけれど、現状ではヴィクターさんの敵はアナスタシアさんか帝国になるだろうし、わざわざ火中の栗を拾いに行く必要は無い。

 話すなら、アナスタシアさんにしてあげてほしい。



「なんと!? やはりあたくしの勘に間違いはなかったわね。――ユノ様、このドミトリー、貴女様へ忠誠を誓います。貴女様の神のごとき寛容さに少しでも応えられるよう、身命を賭して励む所存ですわ!」


「え、止めて。妹たちが見ているから。分かったから、頭を上げて」


 ドミトリーさんがいきなり平伏して、額を床に擦りつけながら忠誠を誓っていた。


 私にとっては見慣れた光景だけれど、妹たちは、モンスタークレーマーが店員さんに土下座を強要する映像を見て憤慨するくらいに正義感が強いのだ。

 もちろん、これは私が強要したわけではないけれど、ふたりがドン引きしているのは事実である。



「忠誠は受け取るし、いつ裏切ってもらってもいいけれど、人と話すときは相手の目を見て話しなさい。いや、ガン見されると気分が悪いから、適度に見なさい」


『で、君は死霊術士とか言ってたけど、実際には何ができるの?』


 朔も!

 そういうのは帰ってからでいいでしょうに。



「死霊術士とは、簡単に説明しますとアンデッドに特化した魔物使いでございます。一般的な魔物使いのような汎用性はありませんが、煩雑さもありません。利点につきましては――」

『ストップ。そういうのは撤収してからにしようか。配属なんかはその後で。持っていく物、連れていきたい人なんかがあれば、準備と申告を』


 さすが、朔。

 私の意を酌んでくれたようだ。


 ドミトリーさんにしてみれば理不尽なやり取りになったかもしれないけれど。



「はっ! 連れていくのは部下が2名、準備は三十分で済ませますわ!」


『分かった。準備が終わったら聖堂前に来て』


「畏まりました!」


『じゃあ、ボクらも移動しようか』


「そうね」


「「はい」」


 そして、やはり朔は頼りになる。

 話を落としどころに持っていくのがお上手だ。




 そうして、来た時にも通った長い階段を歩いて登る。


 途中から真由が階段の長さに文句を言い始めた。

 声には出していないけれど、レティシアも同じ気持ちのようだ。


 ふたりとも引き籠りというほどではないもののインドア派だったので、体力がないのだろう。

 だから、いつ何があってもいいようにと、外に連れ出して運動をさせようとしていたのだけれど――いや、ちょくちょく訓練にも付き合わせていたし、体力的な問題ではないのかも?

 もしかして、瘴気のせいで体調不良になっているとか?

 そうすると、「病は気から」という言葉もあるし、鍛え方が足りなかったということ。


 今回は私たちがいたからいいようなものを、辺境に放り出されていたら詰んでいたかもしれない。

 次からはあまり甘やかさないようにしよう。


 この厳しい世界では、あっという間に命を落としてしまう可能性もあるのだ。

 私の甘さでふたりが傷付くことがないよう、心を鬼にしなければいけない。



 そう考えていたのに、ソフィアが疲れて動けなくなったレティシアを背負ったりするから、私も真由を背負わざるをえなくなってしまった。


 這ってでも、石に齧りついても自力で登らせるつもりだったのに……。


 ふたりの教育方針について、ソフィアとは後でじっくり話し合わなければならないようだ。

 それでも、ここであまり強固に反対すると、アドンやサムソンに背負わせる流れになりそうだったので、致し方ない。



 そんなこんなで地上に戻ると、眩しい太陽の光と、亡者の群れに出迎えられた。


 ここでいう「亡者」とは、ソフィアが召喚したデュラハン群――確か、走り屋何とかといった彼らが、契約時間を超えても帰還せず、地面――というか、現世にしがみついていた。


 それが、私を見るなり這い寄ってくるのだ。

 ホラー映画かな?



 後で聞いた話では、ソフィアは彼らの召喚時に、「契約完了後に私との面会及び口利き」という条件を付けていたらしい。

 勝手なことを……。


 だからといって、契約終了からしばらく、強制送還に逆らって現世にしがみついていたとは、大した根性である。


 こんな人たちを野放しにしては危険だ。


 とりあえず、さっきのドミトリーにでも預けようと思う。

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