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38 輝き

――ユノ視点――

 私の「残り何とか」をお尻に突っ込まれたライアンくんが、元の状態に戻った。


 いや、新たな何かに目覚めた彼は、「生まれ変わったと」表現するべきなのかもしれない。

 なんだか様子がおかしいし……。

 やはり、トシヤのように好きでやっているならともかく、無理矢理というのはまずかったのかもしれない。



 というか、私の「残り」って何?


 パッと思いつくのは「残心」だけれど、それは集められるものなのだろうか?


 次いで思いつくのは残り香?

 新陳代謝はしていないので、残りかすのようなものは無いと思うのだけれど……。


 一応、水っぽかったので残り湯とか?

 さすがにないか。

 それで吸血鬼が死ぬなら、ソフィアも死んでいるはずだしね。

 精々、何かの弾みで魔素が漏れたりした時に、ポーションみたいになるくらいだろう。



 分からないことはさておき、ライアンくんが、喪った母親や仲間のこと、婚約者との関係のこと、吸血鬼に対する感情にもひと区切りついたのだとすると、良いことだと思う。


 しかし、アルを巡って元婚約者――ティナさんだったかと争っているのはどういうことなのだろう。



 私も同性に好かれる男の人に憧れたことはあったけれど、どう頑張っても愛玩動物のように可愛がられるか、恋愛感情的な意味にしかならなかった。


 アルには、テッドさんとかフェイトさんとか、良い感じの友人兼部下がいたので羨ましくもあったけれど、やはりというか、そんな彼の魅力を理解する男性もいるのだ。



 もちろん、一概に同性愛を否定する気はないけれど、同性婚だと子供――特に、彼の場合は跡取りの問題がつきまとう。


 もしかすると、アルなら魔法で解決してしまうかもしれないけれど――というか、良縁ってこれのこと?

 どちらかというと、合縁奇縁(あいえんきえん)かな?



 とにかく、将来的に同性婚とか子供のできない吸血鬼とか、そういう人たちにも子供ができる可能性がでるのなら良いことなのだろう。

 さすが主人公というべきか、落としどころが個人間のものじゃなくて、世界的なものだったとか、私のような凡人とは発想のスケールが違う。

 頑張れ、アル。




 さておき、通信珠からの報告を聞く限り、吸血鬼に同様の処置をした場合、死んだり人間に戻ったりしたらしい。


 目を離していた地下水路では一体何があったというのか。



 分からないことだらけだけれど、私が関係しているのだとすると、私のおっぱいを一心不乱に吸っているソフィアには害はないのかが心配になってきた。


 夢中で吸っていて可愛いと思うべきか、大の大人が我を忘れているのを注意すべきか。


 というか、吸収しきれなくなった魔素というか魔力が周囲に漏れ出していて、同時に自他の境界が曖昧になっているのは、今の彼女の階梯ではよくないのではないだろうか。



「ええと、体調は大丈夫? 調子悪くなったりしていない?」


 ソフィアは、幼児退行にしては鬼気迫る感じで、少々触れ難い雰囲気はあったけれど、思い切って訊いてみた。



「大丈夫よ。ちょっとすごすぎて腰は抜けたけど、魂は抜けてないわ。ギリギリね」


 一応、自身の状態は把握していたのか?

 いや、把握していたなら結構危険な状態だと分かりそうなものだけれど、それでもやらなければいけない理由でもあったのだろうか?



「ええと、あんまり無理しちゃ駄目だよ? 用法容量を守らないと何が起きるか分からないし、魂は抜けてはいないけれど、結構不安定になっているよ?」


「……そう。次から気をつけるわ」


 一応、注意喚起だけはしておいたけれど、やはりソフィアにはそうしなければいけない理由があったみたいなので、これ以上は言わない。


 自他の認識を深めることは、自身の領域を広げるためには重要なことだし、長い目で見れば、きっとソフィアのためにもなる。

 まあ、少々階梯をすっ飛ばしすぎているのはどうかと思うけれど、だからといってこの程度であれば、不可能ということでもないだろうし。




 さて、召喚魔法とは、とても恐ろしい魔法である。



 アルスの迷宮にいた魔物の大半はソフィアが召喚したものらしい。


 一部は、冒険者が持ち込んだものとか、自然発生とか、繁殖したものとか例外はあるけれど、基本的にはアドンやサムソンをはじめ、獣や虫までもが彼女たちが召喚したものなのだとか。


 虫については、迷宮内の衛生とか環境管理という名目で召喚していたと言っていたけれど、虫そのものが不衛生だとか、虫が苦手な人の気持ちを考えたことがあるのだろうか?



 さておき、出現した魔法陣は10個。


 一応、今回は「不死」とか言っていたから虫ではなくアンデッドだとは思うけれど、ゾンビとかのグロも苦手な人は多いと思う。


 そういう私もそのひとりだ。

 虫型のゾンビという線も捨てられない。


 そんなものが、10個もの魔法陣から飛び出してきたなら――などと、考えただけでも悪寒が走る。


 そんなタイミングで魔法陣から変な呻き声が聞こえてきたものだから、ちょっとびっくりした。


 その後の光や煙もマリアベルの時の時には無かったものだけれど、これを進歩といっていいのかどうかは分からない。



「何でもかんでも光らせて、『ゲーミング』って名前つければ売れると思うなよ!」


 などと、何のことかよく分からないけれど、妹の真由が憤慨していたし、重要なのは中身だと思う。




 さておき、ソフィアが召喚したのは、10体のデュラハンだった。


 虫とか新鮮なゾンビとかでなくてよかった。



 なお、デュラハンとは、別名では「首無し騎士」という種族なのだけれど、同族であるマリアベルも含めて、この10体も全員が首を小脇に抱えている。

 というか、それは種族名として適切なのか?


 まあ、これもバグなのだと思うけれど、どう修正すればいいのか分からないので、気づかなかったことにした。


 種族名の件とは別に、実態と違うところも偽装とか不当ではないかと思う。

 日本だと景品表示法とかに引っ掛かるのではないだろうか?



 しかし、マリアベルの証言を信用するなら、本当に首の無いデュラハンもいるらしい。


 つまり、デュラハンは、首が無くてもデュラハンとして成立する。


 ということは、彼らが抱えているそれには何の意味があるのだろう?

 首のように見えているけれど、実は(カルマ)だったとかそういうことなのだろうか?

 理解できそうにないし、特に興味も無いのでそれ以上考えるのは止めた。



 さておき、デュラハンといえば馬と馬車がセットで召喚されるようだ。


 日本では、抱き合わせ商法は場合によっては違法なのだけれど、全部込みでデュラハンというか、首はセパレートされているのに馬と馬車は不可分とか、これまた意味が分からないけれどツッコまない。



「このたびは、私ども『走り屋マクラー連』をご用命いただき、誠にありがとうございます。私、代表を務めます『首無し芳一』と申します。以後よろしくお願いいたします」


 さて、スーパーカーっぽい名称とは裏腹に、馬も馬車も電飾で眩く輝いている、いわゆるデコトラ調――今風にいうとゲーミング馬と馬車というのだろうか?

 とにかく、馬や馬車がピカピカだったり、これまたピカピカ光る首を名刺感覚で差し出されるとか、ちょっと理解が及ばないというか、情報量が多すぎて反応に困る。


 そういう挨拶は、私じゃなくて、召喚主であるソフィアにやってほしい。



「おい、私のご主人様が困ってるじゃないですかー。あんたらの召喚主はあっちですー。調子に乗ってると叩き殺しますよー?」


 私が困惑していたのを察してか、影から無断で出てきたマリアベルが差し出された首を払い除けてくれた。


「あ、あんたはもしかして、あの伝説の走り屋、『黒い幽霊』か!? 極限まで小型軽量化したボディでコーナーとか隙間を攻める! 高いグリップ力で壁をも走り、たまに飛ぶという、あの!?」


「あまりに速すぎて30体に分身していたように見えたとか、対象が死を告げられたことにも気づかなかったという、あれか!?」


「少し前から一切噂を聞かなくなったと思ったら、こんなところに……」


「古い話ですー。今の私はご主人様の走狗ですー」


 これ以上理解できない情報を増やすのは止めて?

 それと、マリアベルが何だかゴキ〇リっぽく聞こえるのだけれど?



「そうか、あんたもこっちに来てたんだな」


「そのスピード感、さすがだぜ」


「機を見るに敏。それが勝利への第一歩ですー。あと、飛ぶのは止めましたー。というか、飛ばすのは止めてくださいー。デュラハンは飛ばすものじゃありませんー。ご主人様、聞いてますかー?」


 マリアベルは一体何と勝負をしているの?


 それと、止めてほしいのは投擲?

 それとも左遷?



「耳が痛いな。だが、あんたのような有名人と肩を並べて戦えるのは心強い」


「ああ、俺たちの馬は馬力はあるが飛べないからな」


「えっ? 私は参加しませんよー? 当然、ご主人様もですー」


「「「なん……だと……!?」」」


「当然でしょう? 私やご主人様が出るならあんたら必要無いんですからー。ちょっとは頭を使わないと退化しちゃいますよー?」


 えっ、頭って使わないと退化するの!?

 能無し……いや、脳無し?

 ……なるほど?



「無駄話はそれくらいにして、そろそろ仕事にかかってくれるかしら? 契約内容の変更や契約時間を延長するつもりもないから、時間を浪費して困るのはあんたらよ。分かったらさっさと行きなさい」


「おっと、時間指定は厳守でした! みんな、準備はいいか!? お客様に『死』をお届けするのが私たちの仕事です! いつもどおり拒否権は認めませんし、吸血鬼だからといって例外ではありません! 今日も一日ご安全に!」


「「「ご安全に!」」」


 ちょっと何を言っているのか分からなかったけれど、キラキラと輝くゲーミングデュラハンたちは、私たちを残して先行していった。


「それじゃー、私たちも行きましょうかー。あー、そういえば、私のダンナインザダークとファントム号はどうなってます?」


 旦那さん?

 そういえば、旦那さん、どこ?




 この後、すっかり存在を忘れていて、半ば観光名所になりつつあった旦那さんを回収してきた。


 そして、半年近い放置プレイにに憤慨していた旦那さんへの賠償として、馬具とファントム号を私の能力で神器に創り変えることになった。

 ついでに、それに便乗してきたマリアベルの大剣も創り変えることになった。


 まあ、彼女にはいろいろと便利に働いてもらっているし、ボーナスということでいいだろう。


 そうなると、アドンやサムソンにも何か考えるべきだろうか?



「うへへ、これで私も神器持ちですー」


 創り変えた途端に、マリアベルが生まれ変わった大剣に頬擦り――というか、大剣に頭部を擦りつけていた。

 危ないので止めさせるべきか、それとも新手の砥ぎ方なのか。


 旦那さんも何だか荒ぶって――喜んでいるのだろうか?


 創るのは簡単だからと、その場で創ってしまったけれど、早まっただろうか?

 分を超えた力で因果がどうとか言っていたのは私なのに。


 まあ、次から気をつけるしかないか。

 マリアベルたちにあげた物は手遅れだけれど、身の丈に合わないと思ったら使わなければいいだけだし、決断して行動を始めたタイミングが最速なんだってアルも言っていたし。




 ところで、今回のアルはとても良かった。


 暴力で解決するだけなら簡単だっただろう。

 結果が予想の遥か斜め上だったけれど、解決には違いない。



 ミゲル師たちも、悪条件の中で結果は芳しくなかったけれどよく頑張ったと思う。

 というか、作戦と運が悪かった。


 頭領さんたちがあんな最悪な行動をしている中で、ミゲル師たちは別だから信用してくれといってもなかなか通じるものではないし、ティナさん以外の人たちは、思いのほか丁重に扱われていたこともあったのだろう。


 むしろ、「今頃になって」とか「お前らのせいで」などと噛みつく人も少なからずいた中で、最後まで粘り強く誠意をもって対応しようとしていたところは、アルに負けず劣らずよかったと思う。



 なお、ミゲル師たちに噛みついていた人たちや、イキっていた吸血鬼たちは、レオやエスリンが現れると空気と化した。

 噛みつくなら誰が相手でも噛みつくくらいの気概でやればいいのに、やり返してこない相手にしか噛みつけないのは好みではない。

 フラストレーションが溜まっていたのは分からなくもないけれど、ミゲル師たちを責めるのは筋違いではないだろうか。



 とにかく、アルもミゲル師たちもできる範囲のことをやった。

 それぞれに一応の区切りはついたのではないだろうか。


 ミゲル師たちの手を取った村人の数はそう多くなかったけれど、だからといってそうしなかった人が死ぬとかそういうことではなく、頭領さんたちや吸血鬼たちとの新たな生活が始まるだけのこと。

 現状よりは良くなる可能性は充分にあるし、どういう結果になったとしても彼ら自身の選択の結果である。

 それは幸せなことだと思う。




「俺、意識のほとんどは《憤怒》に支配されてたけど、兄貴の言葉はずっと聞こえてました! 正直惚れたっす! 俺も『湯の川』って所に連れてってください!」


「いや、君はここで復興の象徴に……」


「吸血鬼にされて絶望してた私に、種族が違っても愛は成立するって言いきったお兄さん、すごく格好よかった。感動した! 私、お兄さんとなら生きていけると思う!」


「え、いや、君に向けて言ったわけでは……」


「そんなっ!? 身体だけじゃなく、心まで弄んだっていうんですか!? 酷い! 責任取って結婚して!」


「ちょっと、言い方!?」


「それを言うなら俺だって初めてを奪われたんだぜ!? 責任取るっていうなら俺の方だろ!」


「あれは治療行為というか……。座薬的な?」


「ちょっと、今は私がお兄さんと話してんのよ! 邪魔しないでよ、莫迦!」


「お前こそ邪魔なんだよ! 俺と兄貴の絆に割り込む隙なんかねえんだよ! ブス!」


「そのブスに振られて泣いてたのはどこのどいつよ! あーもう、私にはもうお兄さんしかいないのよ! あんたはうざいからどっか行ってよ!」


「ちげーし! あれは兄貴の器の大きさに感動してただけだし!? ってか、自分のことだけじゃなくて兄貴の気持ちとか考えろよ! 俺、兄貴のためならヒロインにだってなってみせるぜ!」


「あんたにヒロインなんか百年早いわ! お尻に異物を入れられただけでヒロインになれるなら、快楽堕ちした私はもっとヒロインよ!」


「待って! ねえ!? ヒロインの定義どうなってんの!?」


 アルの周辺は何だか拗れているけれど、それは彼らの間で解決していけばいいこと。


 とにかく、アルの本気の言葉が彼らに届いたのだから、もう一度――何度でも本気でぶつかればいいのではないだろうか。



 あれは、「もしかしたら私に言っているのかな?」と、私ですら勘違いしそうになったくらいの本気だったし、不可能ではないと思う。

 思い返すと、少し自意識過剰だったような感じで気恥ずかしい――というか、私にも「恋愛」というものを教えてくれるのかと少し期待したのだけれど、それくらいに私好みの、大変素晴らしい魂の輝き具合を見せてもらった。

 最終的に違う問題が発生しているけれど、狩人の紡いできた因縁はかなり薄れたように思う。

 本気になったアルはすごいね。


 ある意味では、今も本気でぶつかり合っている最中だけれど、イヌも食わない類いのものだと思うので、ここからは私も私のやるべきことに集中しよう。

 といっても、何事も起きなければソフィアを見守っているだけなのだけれど。


 さて、ソフィアはどんな輝きを見せてくれるだろうか。

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