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35 拗らせ

 ライアンの《憤怒》のスキルが暴走を始めた。


「ぐがあああああああっ!」


 ただ、同時に《嫉妬》と《色欲》のスキルを獲得したことと、魔王化が始まった影響で、すぐには動けないのは不幸中の幸いか。



 ライアンは目にいっぱいの涙を溜めながら、その元凶となったふたりを憎々しげに睨みつけ、獣のような咆哮をあげている。


 その様子から、動けるようになればふたりに襲いかかるであろうことは明白である。

 そうすると、《転移》が使えるニコルはともかく、一般人に毛が生えた程度のティナには、避けようもない惨劇が待っているのは誰の目にも明らかだった。



 とはいえ、《憤怒》が暴走したライアンには、敵味方の区別がつかなくなる可能性も高く――彼を心配して止めようとしたベネットが「ぬわーーっっ!!」と弾き飛ばされたことから、もう理性が働いていないことが窺える。

 このままライアンの魔王化が完了すれば、ティナとニコル以外にも被害が及ぶだろう。



 多くの者たちにとっては「逃げる」という選択が最適なのだが、状況が複雑すぎる上に、頼りにしていたそれぞれのリーダー格が機能していないため、独自判断で動ける者はいなかった。


 それに、魔王化によって増大を続けているライアンの魔力は尋常ではない。

 理性を失ったライアンの厄介さを知っている者たちにとって、下手に彼の気を惹いて、「反射的に攻撃されるかもしれない」というのはただの不安では済まない。



 ニコルも、自身や眷属たちと《転移》することは可能だが、それでアルフォンスの不興を買うようでは正解とはいえない。

 魔王化しつつあるライアンは脅威だが、彼やその背後にいる者たちとどちらが厄介かというと後者なのだ。

 むしろ、彼の好感度を稼ぐために、彼に協力するのが正解だったが、さすがに魔王化したライアンは手に余る。


 正に、誰もが進むも地獄、退くも地獄といった状況である。




 そんな中で、状況を正確に理解できているのはアルフォンスだけだった。



 ライアンが、《憤怒》に加えて《嫉妬》と《色欲》を獲得し、新たな魔王となろうとしている。


 こんなことでも魔王になれるのかという感想もあったが、恋人を奪われた心の痛みは彼にも覚えがある。



 アルフォンスは、ユノへのアピールもあるが、かつての自身とライアンを重ね、どうにか救いたいと――せめて同じ過ちを犯させないようにしたいと思った。


 幸いなことに、元勇者の魔王の証言や能力から、ライアンがどの程度の能力を得るかの想像もつく。

 大罪系スキルがどの程度のレベルになるかが不安要素だが、対処が難しいユニークスキルに比べれば、地力や経験の差で補えるはずのものだ。



「ライアン君は俺がどうにかして正気に戻させる! あんたらは外の部隊に保護を求めろ! 吸血鬼の方は――抵抗を続けてる吸血鬼に投降を呼びかけるとか、争いを収束させるように動け!」


 アルフォンスは素早く指示を出すと、ベネットと吸血鬼たちを館から離れたところへ強制《転移》させた。

 若いとはいえ魔王を相手にするのに、かなりの魔力の浪費ではあるが、足手纏いを抱えたままよりはマシだと判断したのだ。


 ただひとり、ティナを例外として。



「あれ? ええっ!? 私は!? 何で私だけ残ってるの!?」


 アルフォンスは、ティナだけは《転移》の対象にはしなかった。


 とはいえ、彼女を囮だとか人身御供にしようという理由ではない。



「残念だけど、力尽くで彼を倒せば解決する問題じゃない。彼を正気に戻せる可能性が一番高いのは君だ。君のことは俺が全力で護るから、悪いけど付き合ってもらうよ」


「え、えええっ!? 無理ですよ! ほら、彼、何かすごいことになってますし!」


 アルフォンスのような、パッと見はイケメンで頼り甲斐のありそうな大人の男性に、状況が違えばときめいてしまいそうな言葉をかけられたティナだが、ゴリラ――むしろ、オーガのように物理的に頼もしくなっていくライアンの様子に、それどころではなかった。



「男ってのは、女の子が思ってるよりかなり繊細なんだ。彼のあの姿も、繊細な自分を隠すため、弱い自分を護るための鎧だって思えば可愛く見えない?」


「見えませんよ! 怖いですよ! 私は普通にイケメンが好みなんです!」


「君、ライアン君のことが好きなんだろ? 多少姿形や種族が変わっても、ライアン君はライアン君だよ? 吸血鬼になっても、君は君だよね? 変わらない愛が通じれば、ライアン君も元に戻るかもしれないんだ。だから、彼に声をかけてあげて!」


「え、いや、親に決められただけの婚約者なんで……。まあ、里の中では優良物件かなと思ってたんですけど、実際には……。というか、もうあれライアンじゃないです。ただの怪物――愛に飢えたモンスターです」


「ちょっと、何てこと言うの!? ライアン君を護る鎧がどんどん大きくなってるじゃないか! っていうか、彼、めっちゃ泣いてるじゃないか! 何でもいいから声をかけてあげて!」


「何でもって……。ライアン、私たち、もう別れましょう? 残念だけど、私はもう貴方の子供を産んであげることはできなくなったし、貴方の妻になるには相応しくないわ。それぞれに相応しい場所で生きるのがお互いのためなの。分かって?」


「おォいいィ! 言い方ァ! せめて、本当に残念そうに言って! っていうか、子供だけが愛の形じゃないだろ! 子供のいない、できない夫婦に愛がないなんて言わせない! 種族が違っても、子供ができなくても、お互いがお互いを想い合っていれば――いろんな形の愛があっていいはずだ!」


 アルフォンスは必死だった。


 ライアンと過去の自身を重ね合わせて、彼を救いたいという想いもあった。


 それ以上に、ティナの言葉を認めてしまうと、アルフォンスとユノとの関係や将来にも影響するおそれがある。

 子供ができないから駄目だとか、種族が違うから駄目だというのは到底許容できない。




「ライアン、君も落ち着くんだ! 今は彼女が裏切ったと、好きだった分憎しみを感じているかもしれないけど、彼女だって被害者で、変わっちゃった自分に戸惑ってるだけなんだ!」


 アルフォンスはティナの説得を諦めた――というわけではないが、そろそろ魔王化が完了しそうな雰囲気のライアンにも説得を試みた。


 しかし、《憤怒》《嫉妬》《色欲》に支配されて暴走状態にあるライアンに、それを受け止められる余裕は無い。



 ライアンはただ反射的に、声のした方――というより、憎い存在がいる方に手を伸ばした。


 全長五メートル近くにまで肥大化したライアンの、丸太のように太い腕が、その鈍重そうな巨体からは想像できないスピードでティナへと迫る。



「《鉄壁》!」


 それを、射線上にいたアルフォンスが、盾術のスキルを使って阻む。

 しかし、素の防御力は低く、防御系スキルも不得手なアルフォンスでは、ティナを保護することには成功したが、彼自身が僅かにダメージを受けてしまう。



 手札の多いアルフォンスには「ティナを護る」という条件の下でも、「受け止める」以外の選択肢もあったし、無傷で切り抜けることも可能だった。



 しかし、ライアンが獲得した《嫉妬》のスキルが問題だった。


 アルフォンスは、《嫉妬》スキルの効果が、相手が使用したスキルを弱体化する――しかも、使用するたびに弱体化が累積させていき、一定以上弱体化したスキルを自身でも使用可能にするものだということを、アナスタシアたちから聞いて知っていた。



 現に、ベネットたちを《転移》させた際に、彼の時空魔法のレベルがひとつ下げられている。

 ライアンに直接使ったわけでもないのにだ。


 ただし、これはある種のデバフのようなもので、永続する魔法は存在しないという原則に則っている。

 したがって、いつかは時間経過等で回復するものだが、能動的な解除方法が不明で、現在のライアンの魔力量からすると、数時間から数日は継続すると予想される。


 つまり、この状況下での回復は望めない。



 ライアンが魔王化――いまだ途上ではあるものの、完了してもステータス上はまだアルフォンスが有利だが、スキルを下げられ続け、奪われるようだと勝負の行方は分からなくなる。

 そのため、アルフォンスは、スキルを使用せずに立ち回るか、使用するスキルを制限するといった工夫を強いられている。



 さらに、ライアンが獲得したもうひとつの大罪系スキル《色欲》については、情報がほとんどない。

 彼のマッシブな肉体と合わせて、慎重に立ち回らざるを得ない。



 《色欲》の詳細は、アナスタシアやフレイヤといった歴戦の大魔王や神族ですら、その能力を知らなかった。


 また、アルフォンスのような性技の使い手や、トシヤのような異常者や倒錯者が獲得するような単純なものでもないらしく、ほかの大罪系スキル所持者に比べてその数が少ない。

 さらに、その《色欲》という外聞の悪いスキル名のためか所有を隠匿されることもあって、その能力は謎に包まれたままとなっていた。



 ちなみに、《色欲》の効果は、そういった衝動を強化する領域を創ることで、領域内の生物の判断力や思考能力の低下、特定分野の洗脳効果上昇などの効果を齎す精神攻撃である。

 身も蓋も無い表現をすると、「とてもエッチな気分になる」ものだった。


 ゆえに、アンデッドや無生物には効果がないのだが、干渉力が非常に強いため、吸血鬼のような元人間にも効果を及ぼすこともある。


 現在、アルフォンスがティナの腰に手を回していたり、ティナが必要以上にアルフォンスと密着しているのもその影響下にあるせいで、両者共にその自覚は無い。



「止めるんだ! 君も今は感情が高ぶってるだけだ! その感情のままに彼女を害して、スカッとするのはその瞬間だけなんだ! 落ち着いたら、きっと後悔する! 一度は愛した人を手にかけたって、一生後悔することになるぞ!」


 アルフォンスは自身の経験と後悔から、ライアンに同じ(てつ)を踏ませないよう、心まで魔王に堕ちてしまわないように声をかける。



 前世のアルフォンスは、学生時代に初めてできた彼女を教師に寝取られ――あまつさえ、目の前で行為を見せつけられるという経験をして、激高した彼は、その場で通報という報復に出た。


 そして、教師は逮捕されて職や社会的信用を失い、彼女にも誰も知らない土地への引っ越しを余儀なくされるレベルの社会的ダメージを与えてとてもスッキリしたものの、後日何も失うものがなくなった彼女にグッサリ刺されて、生死の境を彷徨(さまよ)う事態に陥った。



 当時はそれを理不尽な報復だと考えていた。


 しかし、人生をやり直す機会――生まれ変わって意識だけは活性化していた赤ん坊の時代に、彼女も被害者だったのではないかとか、救えなかった自分にも非があるのではないかとか、一度は好きになった相手の人生を壊すような行為はどうなのかとか、余計なことを考える時間に恵まれた。


 そして、新しい人生では、好きになった人を大事にしようという決意をしたのだ。



 ティナがNTRているのかどうかは別にして、激情でいろいろなものを見失っているライアンは、かつてのアルフォンスと同じ状況にある。


 皮肉にも、傍目には怪物の魔の手から姫を守る騎士のような構図になっている。


 さらに、《色欲》の効果で姫と騎士がイチャイチャしているようにも見えるためか、ライアンの《憤怒》と《嫉妬》はアルフォンスにも向けられていた。

 とはいえ、その方が下手にティナを狙われるよりは護りやすい。



「《鉄壁》! く、《鉄壁》はもう限界か――! 頼むから、君も何か声をかけて! 今は大丈夫だけど、長引くのはさすがにまずい!」


 アルフォンスにとって、ライアンの単調な攻撃を凌ぐことは難しいことではないが、このまま使用したスキルのレベルを下げられ続けるのは好ましい展開ではない。


 《嫉妬》で下げられるスキルに限界はあるのか、あったとしてもアルフォンスのスキルがそれを上回るのか。

 そこまでの情報はもらっていないのだ。

 上位の大罪系スキル《傲慢》を所有しているアナスタシアも、《極光》を要請できる立場にあるフレイヤも、《嫉妬》など取るに足らないもので、上辺以上の情報は不要だったのだ。


 それに、詳細を知っていたとしても、レオンの例にあるように、魔王化が完了すればスキルが変質する可能性もある。

 そうなると、状況が大きく変わってしまう。



「《城壁》! くっ、スキルレベル3以下は一発アウトかよ! 防御スキルも伸ばしとけばよかった……! ほら、君も頼むよ!」


「え、えーと、お兄さん頑張ってください!」


「俺にじゃねえよ!」


 ティナが声援を送ったのはアルフォンスにだった。



「う゛お゛おおおお!」


 仲睦まじげなふたりの様子に、ライアンの抱える闇は濃さを増し、それに比例して攻撃も激しさを増す。



「ライアン、もう私たちのことは放っておいて!」


「ぐあ゛あ゛あああ!」


「言い方!」


「ええー、もう、注文多いよお。というか、貴方どこの誰で、ライアンの何なんですか? 私を巻き込まないでくださいよ!」


「俺はただの赤の他人で――ただのお節介で首を突っ込んだだけで、当事者は君たちふたりだよ!? 俺が介入しなきゃ君は殺されて、ライアンは闇落ちして、誰も幸せにならなかったんだよ!? 俺としては、君たちが不幸になるのを避けたい――できればふたりとも幸せになってほしいんだけど、さすがに無関係の奴がどうこうできる問題じゃないから、最後は君たち次第――おおっと!? まずは彼を落ち着かせないとどうにもならないから、君の力を借りたいんだけど――よっと! 彼のためじゃなくて、自分のためでもいいから、力を貸してくれない? 《縛鎖》!」


 戦闘経験が豊富なアルフォンスにとって、ライアンの単調な攻撃はいくら攻撃力が高くてもそれほどの脅威にはならない。

 当然、会話をしながらでもしくじることはない。


 さらに、回避とスキルによる防御を巧みに使い分け、ライアンがバランスを崩した「ここぞ」というタイミングで、魔法による拘束を仕掛けた。

 スキルレベルを下げられることより、ティナを説得する時間が欲しかったのだ。



 アルフォンスの使用した《縛鎖》は、元素魔法のうち「金」属性に属する中級魔法で、魔力で生成された鎖で対象を捕縛するものだ。


 ライアンの属性は「木」寄りであるため、「相克」となり効果が増す。

 むしろ、彼我の能力差を考えれば「相乗」となってもおかしくはなかったが、《嫉妬》の効果によって辛うじて相克の範囲に収まっていた。



 とはいえ、僅かなミスで負けや死に繋がるような戦いを幾度も経験しているアルフォンスは、希望的観測を基に戦術を組み立てたりはしない。


 アルフォンスは、間髪入れずに《電麻》という、殺傷力は低いものの対象を感電させて麻痺状態にさせる魔法を重ねた。

 《電麻》は木属性であるため、直前の《縛鎖》との相克により雷撃のダメージはほとんど入らなかったものの、状態異常としての麻痺はその限りではない。


 その結果、《縛鎖》に麻痺の状態異常を付与した形となった。



 本来であれば、木属性の魔法は、同じく木属性の強いライアンとは「比和」の関係になるため通じにくい。

 それどころか、ライアンの属性が大幅に強化される可能性もあった。


 それを、アルフォンスは魔法や属性の相性を計算して、そこに絶妙なタイミングでの魔法の行使に威力の調節にと、暇を持て余した達人しか辿り着けないような境地の技術で、魔法の合成とでもいうような、主神も想定していないシステムの使い方をしていた。



 当然、アルフォンスもただの酔狂でそんなことをしたわけではなく、《嫉妬》スキル対策になるかと試していたのだ。

 しかし、さすがにそんなに旨い話はなかったようで、スキルはしっかり下げられていた。



 それでも、ライアンをほぼ無傷で、ほぼ理想的な状態で拘束できた。


 当然、それで終わりというわけではなく、まだ安心できる状況にはない。

 むしろ、これも何度も通用するものでもなく、説得するには時間が足りないと、冷静に分析していた。



「よし! これで二、三分は稼げる。今のうちに彼を正気に戻させるように、君も声をかけて! ライアン君、落ち着くんだ! 君が彼女を憎く想うのは、それだけ彼女が好きだったってことで、一時の激情で傷付けたりしたら、君は絶対に後悔する! それに、大罪系スキルや魔王の称号は、その流れを後押しする! くっ、やっぱり正論だけじゃ彼の心に届かない! ほら、頼むから君も何か声をかけて!」


「カッコいい……。 えっ、何ですか? 無理ですよ! だってもう、立派なオーガになっちゃってるのに! 私、もう貴方のことが分からないの。だからね、人は人同士で、オーガはオーガ同士で暮らした方が幸せだと思います」


「君、可愛い顔して意外と毒舌だね……。というか、姿はあんなでも中身はライアン君だから! 君だってライアン君が不幸になればいいとか、そんなことは思ってないよね!?」


「ええー、可愛いなんてそんな……。でも、お兄さんもカッコいいですよ。強いし、何か余裕もあるし。ライアンみたいなお子様とか、ニコルみたいな勘違い野郎とかとは全然違ってて、正直いいなって思います!」


「おい、後半無視すんな。今はそっちが重要なんだよ!」


「今重要なのは、私とお兄さんがこうやって密着してて、何だかすごくドキドキしてることですかね。というか、ちょっと血ぃ吸ってもいいですか?」


「おい、ちょっと待て。何で吸血衝動に囚われてんの!? や、止め――ライアン君が見てるでしょ! 吸うなら彼のを吸いなさい!」


「いたたたた!?」


 アルフォンスは、突然直近に現れた敵に動揺するも、首元を狙ってきたティナの顔面をアイアンクローで掴んで、彼女の吸血を阻止した。


 片手で彼女を抱き寄せながら、もう片方の手で彼女を押さえるという奇妙な状態だが、彼女から距離をとってしまうと、拘束から脱出したライアンから護りにくくなるし、彼女からの攻撃にも備えなければならなくなる。



「ええー、タイプじゃないし。というか、痛いですよお。痛くしませんから、ちょっとだけ! 眷属にしたりもしませんから!」 


「きゅ、吸血鬼は処女か童貞が好みなんだろ!? 俺は童貞じゃないぞ! 子供もいっぱいいるんだぞ!」


「お兄さんなら、子持ちでもきっと美味しく頂けそうな予感があるの。これって恋? だからお願い、ひと口だけ!」


「断じて違う! ライアン君も落ち着け! 泣くな! これは浮気とかじゃなくてただの吸血衝動! というか、どこを触ろうとしてんだ!? この娘ちょっとヤバいぞ!? ライアン君、いろいろ考え直した方がいいかもしれないよ!」


「うごお゛お゛お゛おお!」


 身動きの取れないライアンは雄叫びを上げ、両腕がフリーなティナはアルフォンスの身体を(まさぐ)っていた。


 当然、吸血鬼化してもなお低い彼女の能力ではアルフォンスを傷付けることは難しいのだが、倫理的に問題があるところは防御力も低い。

 むしろ、刺激によって硬度が上がるようなことがあれば、各方面からの非難を免れない。


 ライアンの暴走を止めるために、ティナに声をかけさせるというアイデアは悪くなかったはずだが、彼の《主人公体質》は、彼が脇役でいることを許さなかった。



 こうして、狩人と吸血鬼、ライアンとティナとニコルの問題が、アルフォンスを中心とした問題に摩り替わり、事態は新たなステージに移り、混迷を深めていく。

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