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16 開き直り

 ミゲル師たちは、(くだん)の内通者の女性に対する処分を保留した。

 その理由は、彼女が内通者である確たる証拠がないことと、彼女が内通者であったとしても、その動機が判明しないと処分を下せないとかいう甘いものだった。


 処分は彼らに任せるといった手前、私たちはそれに従うだけなのだけれど、その疑うより信じようとする人間性は好ましく思う。


 ただし、信頼という意味でなら、私もその女性やミゲル師たちの人間性より、レオと三獣士の能力を信じさせてもらう。

 それとこれとは別の問題であって、それでミゲル師たちから嫌われるとしても忖度(そんたく)するつもりはない。


 なので、彼女に関しては、湯の川への移住は拒否させてもらう。

 私にはここの吸血鬼を受け容れるつもりがない以上、吸血鬼側についた彼女も同様である。

 もちろん、無実が証明されればその限りではないけれど、悪魔の証明をしろなどというまでもなく、みんなに任せておけば尻尾を掴んでくれるだろう。




 そんなこんなで調査は継続されているのだけれど、彼女は積極的に情報収集を行っているわけではないようで、証拠を押さえるには、前回レオたちが確認した吸血鬼との密会の場でも押さえるしかなかった。



 捕まえて古竜の前で証言させるのもひとつの方法かと思ったけれど、ミーティアだけだった頃ならともかく、いっぱいいる今は、誰に頼むかで問題になる。

 というか、誰かひとりを選ぶと、ほかのみんなで結託して異議を申立ててきたりするし、公平性の観点からとか言って、全員でついてくる可能性もある。


 ちょっと竜眼で真偽を測る程度のことで、古竜を何頭も連れてくるとか、さすがに過剰すぎる。

 大は小を兼ねるといっても限度というものがあるのだ。

 《洗脳》だってアウトなのに、スキルではなくても脅迫も大概駄目だと思う。


 それに、「古竜は群れない」と言っておきながら群れている彼らの言葉に説得力があるのかも疑問である。



 そんな益体(やくたい)もないことを考えてしまうのは、動きがなくて暇だからだろうか。


 レオたちだけではなく、アルやソフィアも容疑者やほかの内通者の有無の調査に行ってしまっている。

 恐らく、収録も一段落して、待機にも飽きたのだろう。

 なので、私はひとりきりで待機していなければならないのだ。


 正確には、グエンドリンとマーリンがいることもあるのだけれど、彼女たちはかなり無理のある作戦の考案に四苦八苦していて、お茶でも出して労うことと、邪魔にならないように大人しくしているくらいしかできない。


 私がここにいる意味はあるのかは疑問なのだけれど、私がここで見守っているとか、帰りを待っているというのは、みんなのモチベーションを向上させているらしいので、分体を消すこともできないのだ。


◇◇◇


 事件とは、そうやって油断していると起きるものだ。



 深夜、件の容疑者と吸血鬼が密会している現場を目撃したという報告が入った。


 随分と中途半端な言い方だと思ったら、目撃はしたものの、吸血鬼の方には気づかれて逃げられたらしい。



 その時、その場にいたのはアルとソフィアのふたり。


 彼らは、その現場において、増援を呼ぶよりも対象の確保を選択した。


 結果として失敗したわけだけれど、応援が到着するより先に逃げられることも考えられるし、その選択が間違いだったと判断するのは尚早である。

 確保に際しても、吸血鬼の確保にソフィアが、容疑者の確保及び保護にアルがそれぞれ動いたのも、悪くはなかったと思う。



「一度はちゃんと確保したのよ? でも、《霧化》されたら拘束なんてできないし、その後すぐに《転移》されちゃったから」


『魔王からは逃げられないんじゃなかったの?』


「例外はあるわよ! あんたみたいに霧を気合で掴むとか莫迦なことできるはずないし、《転移》とか《帰還》なんて、適性のない私じゃどうしようもないじゃない!」


 しかし、責めているわけでもないのに逆ギレはどうなのだろう。



『最初に遭った時にアルフォンスの《転移》を妨害してたじゃないか』


「あれは迷宮だったからで、普通は《転移》を妨害するなら大掛かりな装置とかが必要なのよ! ちょっとハッタリ利かせただけじゃない!」


『アルフォンスも「俺くらいになったら《転移》なんて予兆で分かる」とか偉そうなこと言ってなかった?』


「何事にも例外はある! 容疑者ガン無視で魔法の構築とかできるわけないだろ! 女に刺されるのはもう懲り懲りなんだよ!」


「誰が容疑者ですって!? 何の証拠もないのにおかしなこと言わないで!」


 アルと容疑者の女性までもが逆ギレしていた。


 遅れてやってきたレオとエスリンにミゲル師たちも、こんな光景を見せられるとは思っていなかったようで困惑していた。

 もちろん、私も困っている。




 さておき、私としては、アルとソフィアがその現場を見たという証言だけでも充分なのだけれど、ミゲル師たちはそれでは納得できないようだ。


 もちろん、立場を利用して強権を発動しようと思えばできるのだけれど、それをするなら最初からやっておけばよかったことで、もう機を逸しているといわざるを得ない。



『せめて証拠になるような物でも残ってないの?』


「《転移》直前に一撃入れたから、戦闘跡があるわ!」


 ソフィアがそう言って指差した先には、薙ぎ倒されて間もない電柱くらいの太さの木があった。


 しかし、ソフィアの攻撃力からすると、「戦闘」というには規模が小さい。

 それに、血痕などの言い逃れのできない証拠は見当たらない。

 腹癒せに折っただけと言われても否定できないだろう。



「はあ!? そんな物の何が証拠になんのよ! というか、あんたら何なのよ!? なんで余所者がここにいるの! こんな得体のしれない連中引き込むなんて、ミゲル、あんたこそ裏切ってんじゃないの!?」


 当然というか、容疑者の女性もそこを突いてくるし、それどころかミゲル師たちを非難していた。

 いや、客観的に見ればソフィアは吸血鬼だし、アルは変質者だし、真っ当な追及にも思える。



 もっとも、そんな言い逃れが通用するのは、彼女のように事情を知らない人だけ。

 見渡せる範囲ではそんな人たちはいないようだけれど。


 つまり、彼女の行為は、彼女が内通者であることを知らない人にまで、その事実を広める危険があるものだ。

 せっかくミゲル師たちが情報を止めてくれていたというのに、自らボロを出しにいくスタイルは、笑えないコントを見ているようでつらい。



 そんなことより、彼女の口調はソフィアの魔王の気性と《憤怒》を刺激するもので、そっちの方が喫緊の問題である。


「いや、本当はソフィアさんの攻撃で《転移》寸前の吸血鬼に深手を与えて、ついさっきまで結構な血痕と吸血鬼の左腕があったんだけど、灰になって消えちゃったんだよ」


「何の証拠にもなってないじゃない! 早く離しなさいよ! この、変態! あんたらもぼけっと見てないで助けなさいよ!」


 容疑者を確保しているアルが、冷静さを失いかけているソフィアに代わって状況を補足してくれた。


 ただし、そこに状況を打破できる要素は何もなく、容疑者の女性を勢いづけるだけだった。


 しかし、アルがただの変態ではないと知っている人たちには、彼女を助けようとする動きはないようで――というか、誰かが解決するのを待っている様子だ。

 そういう人任せな姿勢はどうかと思うのだけれど、よく分からないことに首を突っ込んで面倒事になるのは避けたいという気持ちは、私にも理解できる。


 それでも、どんなに困った事態になっていても、神も仏も助けてくれたことはないので、自分でどうにかするしかないのだ。




「灰になったっていうのは、死んだっていうこと?」


 だからといって、何も分からないままでは着地点すら見出せない。

 もう少しばかり情報を出してもらおうと、質問を投げかけた。



「吸血鬼の身体って、木端微塵になっても魔力さえ残ってれば再生するって話したと思うけど、ある程度原型が残ってるなら、それを繋ぎ合わせた方が効率よく再生できるのよ。でもね、パーツを回収するだけの余裕が無いとか、敵に奪われた場合なんかは、そのパーツを破棄してゼロから再生するの。特に、後者は封印とかされちゃうと、再生できなくなるしね」


 ソフィアが何やら説明してくれたので、ひとまず「ふむ」と頷いてみたものの、実はよく分かっていない。



 木端微塵になっても死なないのに、肉体に固執するのはどういうことなのか。

 封印されたら再生できないというのも、何を言っているのかよく分からなかった。


 まあ、深く追及するようなことでもないので、件の吸血鬼がまだ生きているということが分かればそれでいい。




 ソフィアに言うと、「あんただけには言われたくないわ」と返されるのだけれど、吸血鬼もよく分からない種族である。

 もっとも、主神たちの世界にもそういう伝承があって、そこから中途半端に設定を拾ってきているだけっぽいので、整合性などあってないようなものなので仕方がない。



 細かいところはさておき、魔力が残っている間は不死――と、矛盾しまくった設定はいかんともし難い。


 一応、その「魔力」を、「個として確立できている根源の末端」といい換えて、それを認識できている間は不死――というならまだ分からなくもない……?

 いや、やっぱり分からない。


 それにしても肉体に固執というか依存しすぎな感じはあるし、きっとどこかしらにバグを抱えているのだろう。

 面倒くさいので追及はしないけれど。




 さておき、件の吸血鬼の残骸は灰になってしまったそうだ。


 霧はよくて灰は駄目という線引きも意味が分からないけれど、吸血鬼という種族の階梯を考えると、灰より霧の方がアウトだと思う。

 灰は物質だけれど霧は現象という意味で。

 いや、霧も水という意味では物質だけれど……まあいい。


 本質と表現のズレの問題なのかもしれないけれど、ソフィアを見た感じでは、主神がそこまで考えていなかっただけだと思う。



 とにかく、吸血鬼にとっては、灰化することに概念的な意味があるのかもしれない。


 やはり、「不死」というには肉体に縛られすぎているし、概念的――というか、精神的にも脆弱だ。


 吸血鬼――というか、アンデッド全般にいえることだけれど、不死だといいながら死を恐れているとか、永遠でも何でもない時間で魂をすり減らして自らの意味を見失うとか、何の冗談かと思う。




 さておき、不死なのに食事や睡眠が必要とか、首を切り落とされたり心臓を貫かれると一時的に死ぬという、私にはよく分からない感じは、肉体に縛られているということなのだろう。


 そのくせ、太陽の光や聖属性では必ずしも死ぬわけではない。

 一体どういう階梯にあるのやら。



 とにかく、《霧化》した吸血鬼に干渉できる私は、灰化した吸血鬼にも干渉できるはずだ。

 吸血鬼には吸血鬼の原理というか概念があるのかもしれないけれど、概念にも階梯というものがある。


 存在の階梯が高いと、扱える概念の階梯も高いというわけではないけれど、それはやってみれば分かることだ。

 もっとも、私が何となく「できそう」と思っているあたり、やる前から結果は出ているようなものだけれど。




 ひと握りの吸血鬼の灰――粉末状の吸血鬼を通じて根源に侵食を試みる。

 もちろん、何の問題も無く(※個人的な感想)当該吸血鬼のものらしい情報を取得できたので、朔の能力も借りて、それを再構築していく。


 再構築に際して微妙な引っかかりがあったけれど、恐らくその吸血鬼が、ひとつの世界に重複して存在しようとしていることに対する矛盾が引き起こしているものだと思われる。

 なので、朔が再構築しているこっちが「真」だと指定してやることで、それも治まった。


 そして、吸血鬼の粉末はあっという間に吸血鬼の左腕にへと戻っていく。

 今頃、その吸血鬼は、治ったはずの左腕を失って慌てていることだろう。


 というか、空間的には断絶しているけれど、概念的には繋がっている左腕が勢いよく跳ねているのでほぼ間違いない。

 視覚的にエグイ。



 とにかく、絵面は酷いけれど、アルの証言が正しかったことは証明できた。


 残る問題は、吸血鬼がこの左腕を取り返しに来るのを待つか、若しくはこのまま本体まで再現してしまうかである。


 望ましいのは前者なのだけれど、また「破棄」とやらからの再生をしようと無駄な努力を試みられると、私たちは無駄な時間を過ごすことになる。


 朔が再構築したのは間違いなくその吸血鬼の腕なのだけれど、私たちの干渉で出来上がったそれは本体より高い階梯にあるので、低位階からの干渉は難しい。

 酷い話もあったものだ。


 つまり、その吸血鬼はここにある左腕を回収しない限り、何をどう頑張っても隻腕のままということになる。

 むしろ、早く取り返しに来ないと、いろいろとズレている影響で胴体の方の調子が悪くなるかも?


 私たちとしては、時間的な猶予があるなら取り返しに現れるのを待てばいい。

 しかし、いつになるか分からないことを待ち続けるのは結構つらい。

 それに、吸血鬼が左腕とか諸々を諦める可能性だってある。


 魔法というファンタジーがある世界では、腕に代わるものなどいくらでもありそうだし。

 それでは何も解決しないけれど、本人には分からないだろうし。



 即時解決という意味でなら後者が手っ取り早い。


 しかし、私たちの能力で再構築したものは、やはり階梯が上がってしまうおそれがある。


 私から見れば微々たるものだとしても、止むを得ない場合を除いて慎むべきだろう。

 そんな場合があるのかは知らないけれど。


 とはいえ、慎んでばかりで停滞してしまうとか、問題が大きくなられても困る。


 結局、何が正解かなんて分からないのだから、その場その場でバランスを取るしかないのだろう。



 というか、よくよく考えれば、本体の方は再現しなくても腕との繋がりを利用して持ってくればいいのではないだろうか?

 それなら、私の干渉は腕と本体との空間的なものだけで済むし、本体に影響を与えることもないはずだ。

 一応、空間的なものに干渉する際に、他のものを巻き込んで合体事故を起こしたりしないように気をつければ完璧だ。




 そうと決まれば実践あるのみ。


 吸血鬼の腕を軸にするためにアンカーを打ち込んで、本体との間にある概念的な繫がりを強化すると同時に、空間的な断絶を無かったことにする。


 その瞬間、私たちの前にひとりの吸血鬼が出現した。


 混乱している様子は見れば分かる。


 しかし、なぜか全裸だった。


 彼があまり褒められた人格ではないことは再構築の時に理解していたけれど、これは理解も予想もできなかった。

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