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13 追加召集

 魔族の人たちに、出来立てホヤホヤの装備を貸与した。


 ただし防具だけ。

 しかも、体系のクッキリ出るピチピチのハーフタイツとレオタード。


 ジェンダーフリーなので、どちらを着るかは個人の自由らしい。

 ……ジェンダーフリーを勘違いしていないだろうか?



 当然、どちらにしても「このデザインはどうにかならなかったのか」とか、「武器の方は貸してくれないのか」という声もチラホラ届いた。


 前者の方は、まだ若い人ならともかく、四十、五十も近くなってきた、若しくは年齢以外の要因でも身体のラインが崩れている人が着ると、結構な惨事になる。

 ハーフタイツの上に贅肉が乗るとか、レオタードがきつすぎてハムみたいになるというか、段々になっていると何かの幼虫みたいとか。

 また、見栄を張ろうとしているのか、胸や股間に詰め物をしている人もいる。



 ある意味では、私とは逆方向の視線誘導効果があるといえなくもないけれど、着用者の尊厳とかも傷付けている。


 発案者のアルもさすがにこれは酷いと思ったようで、「城内で採用するときは選考基準に容姿も入れること」と、朔に申入れてきた。

 目の前の惨事には対処しないつもりらしい。



 なお、第二案の「彼らにオプションパーツを支給して、階級が上がるごとに魔法効果と露出面積が増える」という仕様にされると、最上位にいる私は全裸かそれに近い状態にされるかもしれない。


 確かに私は裸族だけれど、それは飽くまでプライベートな時間と空間の中でのこと。

 却下したい。


 彼らには悪いけれど、安全性は向上しているそうだし、糞尿塗れになるよりは尊厳にも優しいと割り切ってもらいたい。



 一方、武器の方は確かに切実である。


 頭領さんたちの本隊の方ですら、新たな武器の入手も既存の物の整備も満足に行えない状況では、予備人員とか非戦闘員でしかない彼らのための武器など残されていない。


 一時は最前線で戦っていたミゲル師たちですら、剣を(くわ)や鎌に持ち替えての参加になる。

 武器よりは手に馴染むそうだけれど、それを戦闘用に扱えるスキルは持っていないそうだ。



「ええと、防具……をもろうただけでも有り難いんですけど、できれば武器のような物もあればいただければと……」


「防具みたいな魔法の装備じゃなくてもいいんです! 普通の、もう使わないような物でいいんです」


「むしろ、捨てちゃうようなやつでもあれば……」


「いえ、さすがに棒きれでは……。達人が使えば何でも同じということかもしれませんが、残念ながら私たちはその域にありませんので……」


 そこで、ミゲル師たちが陳情に来た際に棒を勧めてみたのだけれど、彼らの認識では棒は武器にはならないらしい。


 刃こぼれだらけでぼろぼろな剣とか棍棒と変わらないと思うし、新品でも刀線刃筋を立てないと棒と変わらないのに。

 釈然としない。



 そもそも、戦って勝つことが目的ではないのだ。

 それなのに、武器を持って強くなったと勘違いされては、上手くいくものもいかなくなってしまう。

 とはいえ、武器が無いせいで萎縮されても駄目なのだけれど。


 まだ情報不足で詳細な作戦は立てられていないけれど、真正面から制圧できるだけの力が無いのに、捕虜を救出して護り通す余力なんてあるわけもない。

 必要なものは、ここ一番で吸血鬼の想定を上回る一芸だ。


 つまり、彼らは吸血鬼たちに脅威と認識されてはいけないのだ。


 それでも、現段階での作戦では陽動班は殺されるか捕虜にされるか、犠牲になることは避けられない。

 もちろん、逃げ切れるならそれに越したことはないのだけれど、吸血鬼もそこまで甘くも莫迦でもないだろうし、望みは薄い。


 そして、この役目は、そもそもの発案者であるミゲル師たちがやることになるだろう。

 彼らが命を落としてしまうのは残念だけれど、せめて命を懸ける価値があったと彼らが思えるような成果が出せるように、しっかりと訓練を積んでもらうしかない。


◇◇◇


 魔族領での活動再開から半月ほどが経過したところで、レオとエスリンの側近だった人を何人か呼び寄せた。


 彼らを大吟城で採用する前に、実際に組ませるとどれくらいの効果があるのか、どのくらいのことができるのかを調べておこうという実験である。



 レオの部下として、いつも一緒にいるクロードとジャンとポールの3人。

 部下というより、悪友といった感じが強い。



「えっ? この人が偵察? 見敵必殺しかできないだろ? ちゃんと情報持ち帰ってんの?」


「獲物を見つけたら一直線に走り出すイメージしかねえわ。足の速さで隠密能力カバーできちゃうから性質(たち)が悪い」


「大方、ユノ様の前で良い格好したかったんだろ」


 割と容赦がなかった。

 レオはといえば、反論したくてもここまで成果らしい成果を出せていないのは理解しているようで、大人しく言われるままになっていた。


 彼は顔も身体も(けだもの)だけれど暴君ではなく、どちらかといえば親分肌っぽい。

 その範囲が狭いのと、口下手なので相手の方から距離を詰めてもらわないと仲良くなれないようなので、泡沫魔王には怖がられていたみたいだけれど。



「苦手ならそう言ってくれればよかったのに」


 そんな彼にもフォローを入れておいた。


 なお、ここで「できないなら」とは言ってはいけない。

 男の子は案外繊細なので、意地を張られたり拗ねたりされると面倒くさいのだ。



「いや、悪かった。ほかの奴らにできるなら、俺にもできると思ったんだが……」


 チャレンジ精神は大事だ。

 次からはTPOを考えて発揮してもらいたい。


 なお、彼ら三人も隠密偵察より威力偵察の方が得意らしいけれど、レオのお守りをしなければならなかった都合上、隠密偵察も人並み程度にはこなせるそうなので、しばらく彼らに頼らせてもらうことにした。




 エスリンの部下はふたり。



 ひとりは私と直接面識のあるグエンドリン。


 もうひとりは、アザゼルさんにホルマリン漬けにされていた人のうちのひとりで、元ローゼンベルグ筆頭魔術師兼軍師のマーリン。



 なお、マーリンも「リン」仲間だったけれど男性だった。

 てっきり、〇〇子とか〇〇ビッチ的な意味だと思っていたのに。


 ああ、でも中性的な顔をしているし、もしかすると性転換しているとか、何かの事情がるのかもしれない。

 それに、ホルマ「リン」も仲間外れだし。

 よく分からなくなってきたので、この話題には触らないでおこう。



「ユノ様の下で働けるなど、身にあまる光栄です! この身も心も全てユノ様に捧げますので、いかようにもお使いください!」


「その節は大変お世話になりました。そのご恩に報いる機会をいただけると聞いて、このマーリン、この上ない喜びに包まれております!」


 硬い。

 そして重い。



「私の下ではなくて、私の下のエスリンの下で、ね。それはともかく、これから顔を合わせることも増えると思うし、よろしくね」


 勘違いさせるような召集をしたという点では私にも落ち度はあると思うのだけれど、元部下に無視されている形のエスリンの気持ちも考えてあげてほしい――と思ったら、彼女はこの上なく上機嫌だった。

 どこに彼女が喜ぶツボがあったのだろう?


 というか、なぜかレオもドヤ顔で、三獣士は落胆していた。



『ユノの「下で」ってとこに反応したんじゃない?』


 え、そんなこと言ったかな?


 言ったとしても、立場的なものではなく、体面的なもののつもりだったのだけれど……。

 まあ、今回は逸早く気づくことができたので修正していけばいいだけだ。




「ところで、作戦の概要と彼らの能力を考えますと、方向性としては妥当だと思います。ですが、成功の定義にもよりますが、今回の作戦での目的を『この作戦での犠牲者以上の捕虜を救出する』とした場合、成功の可能性は低いと思われます」


「彼ら全員が最大限に能力を発揮できれば、成功率は50%くらいになりそうですが、訓練ならともかく、新兵が戦場でどれだけ動けるかは……。彼らは私たちと同じ魔族ですが、エスリン様の下で訓練を積んだ私たちと、彼らを一緒にしてはいけません」


 しかし、私が口を開くよりも早く、グエンドリンとマーリンに作戦の駄目出しを食らった。



 もっとも、この作戦は、アルが「これくらいしかないんじゃないの?」と適当に立てたものだ。

 情報が集まれば、アップデートというかブラッシュアップすればいいと思っていたけれど、情報が集まってこなかっただけである。


 というか、私は成否については重要視していない。

 彼らが全力を尽くして、区切りがつけられればいいだけなのだ。


 もちろん、諦めるという選択肢も、それはそれでありだ。

 意地になって作戦を強行して、余計に区切りがつけられなくなる可能性もあるのだから。



『成功率を上げる案でもあるのかな?』


 それでも、成功するならそれに越したことはない。


 失敗から得られることも多いけれど、今回の失敗の結果は十中八九「死」であり、生きていればその先に紡ぐであろう可能性を考えるともったいない。



「内通者でも作って、攪乱(かくらん)するとかできればいいんですけどね」


「それなら、俺たちの方で適当に捕まえてこようか?」


『捕まえて、洗脳でもするの? 誰かそんなスキル持ってるの?』


「いえ。でも、ユノ様のお顔を見せれば一発でしょ」


「この娘の顔見てとち狂った吸血鬼が求婚して、振られて灰になってたわよ」


「マジか。すげえな。普通なら『何言ってんだ?』ってなるだろうに、ユノだと普通にありそうとか思っちまうぜ」


「攻略難度高いな、おい。いや、だからこそゲーム内の甘々イチャラブに価値が出る!」


「うちのボスもイカされてたしな。吸血鬼なら逝っても無理ねえ」


「まあ、しゃあねえ。ユノ様は男殺しだからな」


「童貞のボスには刺激が強すぎたな」


「おい! お前ら!?」


「さすが我が君。見られただけで殺すなど、見ることでしか殺せなかった私とは格が違う」


「ふふっ。ユノ様は男だけじゃなく、女も機械も殺しますよ」


「私たちも殺されましたしね。最初はびっくりしました――というか、びっくりする暇もなかったんですが、生き返る時の温かく包まれるような感覚は――正に昇天するかのようで……。ふふふ、一度死んでみるものですね」


 ううむ、口を挟みづらい。

 こういう雑談は、せめて本人のいないところでやってくれないかな……。


 とにかく、召集しない方がよかったかなと早速後悔しつつも、新しい体制での作戦がスタートした。


 私たちの戦いは、いつだってその場の雰囲気と勢いでやっているのだ。


 それで何とかできてしまうメンバーなのが性質が悪い。

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