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12 Yo! Say

 アル的にはものすごくやる気が無さそうだったけれど、男性用の近衛兵の衣装のデザインも決まった。


 結局、男性用の物はハイレグではなく、ハーフタイツになった。

 懸念されていた部分はクリアしているけれど、鎧部分がなければ、お城は海の家状態になる。


 まあ、湯の川は常夏の国なので、ある種のクールビズだと考えれば筋も通っているのだろうか。



 そして、アルは失ったやる気を回復させるためと言って、私のラスボス衣装もバージョンアップさせてきた。

 ラスボス第二形態用とか、妖精たちが何かを刺激するという意味不明なコンセプトで【H-LIMIT】と名付けられたそれは、もうレオタードでも何でもない、紐というかベルトの組み合わせで出来た何かだった。


 一部の天使もこんな感じの制服? だけれど、もっとベルトは太かった。

 いや、天使と同じにされても困るけれど。



「ふっ、これでは戦場ではなく、扇情に立ってしまう。だが、それがいい」


 駄洒落を言えば許されると思うなよ?


『魔法少女っぽくないのはいかがなものかと思うけど、出すところを出して誤魔化しの利かない曲線は、素材の良さを充分に理解してなきゃできないね』


 朔も何を言っているの?



 しかし、こんな公序良俗をガン無視したような紐が、エスリンやレオには好評だった。


「なるほど。服は布で作るものという概念を壊し、最低限の紐だけでこれほどの物を作るとは――。しかも、それで下品にならないどころか、我が君の良さをここまで活かせるとは、これが英雄というものか」


「ああ、まさかこの俺が戦わずして負けを認めることがあるとはな……。全く、とんでもねえ奴と同じ時代に生まれちまったもんだぜ」


 エスリンは朔の意見に影響されまくりだし、レオは見えない何かと戦っていた。

 何にしても、この人たちは私が着ていれば何でも褒めていそうな気がするので、当てにしてはいけない。



「そういえばさ、専門じゃないから上手く説明できないんだけど、あっちの世界に『超ひも理論』ってあってな、それで世界にあるいろんな謎を解明できるらしい。つまり、俺が作ったのはそれかもしれん。自分の才能が怖い……!」


 駄洒落が利かなかったから、小難しい話で煙に巻きにきたか?


『採用!』


 まあ、朔がこう言った時点で諦めるしかないのだけれど。




 さておき、私の装備はワンオフなので必要無いのだけれど、一般向けの物は大量生産する必要がある。


 そこで、詳細を伏せたままで、シャロン――というか、教会を通じて湯の川の職人たちに発注したのだけれど、この情報が拡散して様々な憶測を呼んだ。

 さらに、トシヤのような知識はあるけれど思慮が足りない人が、悪気はなかったと思うのだけれど、核心を突いてしまった。


 すると、お城か教会かで働き手の追加募集があると勘違いした――特に選考会に間に合わなかった獣人たちや、ローゼンベルグの人たちがやる気を出してしまってさあ大変。


 アルの悪ふざけの延長でそういう話が出たというだけで、まだ決定事項ではないのだけれど、実物の制作――それもそこそこの数となると、誤解されても仕方がない。

 それでも、それでやる気になっている人たちを落胆させてまで、訂正するほど合理的な理由も無い。

 もしかすると、ここまで計算してのものだったのだろうか。


 英雄って怖い。



 仕方がないので、エスリンとかレオとかをリーダーに指名して、丸投げしようか――いや、そのふたりは、少し前まで何十万もの人たちを束ねていた王だった人たちだ。

 下手に丸投げすると、超巨大な組織を作りかねない。


 いや、作るだけならいい。

 私の名前の下に作るとかでなければ。


 というか、最近のふたりを見ていると、王という責務から解放されて活き活きしているように見えるので、命令というか、断れないお願いをするのも酷か。


 それに、能力があるからではなく、その意志がある人がやればいいのだと常日頃から言っているのは私である。

 そういうところでブレると、みんなを迷走させることになってしまう。


 というか、お城が町に対して影響力を持ちすぎないように、町の方でも派閥だ何だと面倒なことにならないようにと、影響力の強い魔王クラスの人はお城に置いているのだけれど、よくよく考えれば、それとも矛盾しているような気がする。


 基本的に、レオとかエスリンとかは最大戦力であると同時に象徴であって、実際に組織運営や政治を行っていたのは、三獣士の人とかグエンドリンとか、若しくは彼らと同じような地位にあった人だったのだろう。

 本当にお城に必要だった人材も彼らだったのではないのだろうか?

 いや、そういう優秀な人材は町の方でも必要だろうし、まずは全体的な底上げを優先するべきか。


 というか、なぜ私がこんなことを考えなければならないのか。

 誰か、湯の川はどこへ向かっているのか、どこへ向かえばいいのか教えてほしい。




 さておき、やる気を十二分に発揮した職人たちの頑張りによって、装備はすぐに揃った。



 なお、湯の川の人たちには、「ローゼンベルグやほかから大量の移民があったため、神殿騎士及び大吟城での勤務となる人を若干名追加募集するかもしれない」という公式声明を出した。


 もちろん、公式というだけあって、各方面の了承は取っているので独断ではない。

 むしろ、これくらいは独断でもいいと言われたくらいなのだけれど、そういう特権はここぞというときまで取っておくべきだと思う。


 また、お城というか私の預かりとなっている魔王たちにも、戦うこと以外は無能な彼らの代わりに、実務ができる部下を若干名つけることも許可した。

 もちろん、町の方を混乱させないことが条件になるけれど、今のところは同族同郷意識と同じくらいに、湯の川への帰属意識もすぐに身につくようなので、観察は必要だけれど、心配しすぎることはないように思う。




 どこに向かっているか分からない湯の川では――だからこそというべきか、一定の衣食住は保障されていて、それ以上も努力次第で得られる。


 資源は豊富で、利権といわれるようなものを持っているのは教会だけ。

 その運営も極めて健全――盲目的なまでの信仰心は不健全だけれど、そのおかげであからさまな不正や不適切な癒着などもない。


 そうなると、人口増加による行政医療教育関係施設の増加増築など、優先順位の高いものは存在するけれど、優先順位が低いからといって必ずしも後回しにされることもない。



「時間も資源もあるんだし、やっちゃえばよくね?」


「パパっとやって終わらせちまえば大丈夫だって!」


「ユノ様なら『自分で考えて、やりたいことをやれ』って言うんじゃね?」


「「「それな! ウェーイ!」」」


 などと、その場のノリと勢いだけで生きることも可能である。



 私の言葉を引用するのはいいのだけれど、言葉は伝わっているのに真意とか意図が上手く伝わっていないのは少し残念だ。

 言葉は便利だけれど、想いを伝えるのは難しいね。



 なお、帝国辺境での活動で回収した日本人の子たちを、徐々に湯の川に受け容れている。


 ただ、私が以前日本で過ごしていたことは、そういう設定を広めたことでみんなが知っていて、彼らも私と同郷だというだけで、微妙な影響力を持ってしまっている。

 そのせいか、湯の川でもウェイウェイ言う人が若干増えた。

 というか、彼らの馴染みようを見ていると、この世界への適性の高さは充分に窺える。



 彼らは、空気の読めなさを除けば、日本でも特定コミュニティ内で上手くやれるのではないかと思う。


 そこで、主神たちに召喚される人の基準を訊いてみた。

 望んでいない人まで召喚しているようなら問題だしね。


「ああいう子たちの中にもいろいろ抱えてて、そうしていないと生きていけない子もいるんだよ。大体は無自覚で、上手くいっているうちはいいんだけど、何かの弾みで(つまず)いたときに、ほかに拠り所がないことに気づいちゃったりするとね、『ウェーイって何だったんだよ』とかって自己否定しちゃったりね。まあ、こっちで馴染んでるっていうのが、何よりの証明だよ」


 などという回答をいただいた。


 よく分からなかったけれど、泳ぎ続けていないと死ぬ魚のようなものなのだろうか?

 まあ、バグでなければいいのだけれど。



「そういえば、君には君の家族の状況は伝えたけど、君のことを君の妹たちに伝えなくていいのかい? 今はまだ直接やり取りすることはできないけど、ビデオレターとかそういうのを届けるくらいはできるよ?」


 ついでに、そんな提案もされたのだけれど、それは保留させてもらっている。



 もちろん、私としても、異世界で元気に過ごしていることくらいは伝えておきたいとは思う。


 しかし、性別が変わって――戻っていることや、耳や尻尾や翼が生えたこと、神やらアイドルやらになっていることをどう伝えればいいのか分からない。

 いきなり変わり果てた私を見せて「誰だコイツ?」となられても困るし、言葉を尽くしても「何言ってんのコイツ?」となるような案件である。

 恐らく、段階を踏んでいかなければ理解を得られないことだと思う。


 まずは生存報告から健康状態、折を見て性別について、オプションパーツの追加から転職のこと――やっぱり無理な気がしてきた。


 幸い、十年くらいの時間の余裕はある。


 今は生存と健康だけ報告して、後は改善できそうなところを改善するのがいいだろう。

 何をどう改善すればいいのかさっぱり分からないけれど、日本人の子たちが造っている娯楽施設なんかも形になれば、言い訳に使えるかもしれない。

 彼らには頑張ってほしい。

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