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08 討入り前の娘

「つまり、現状ではレティの召喚はできないように保護されてるけど、あんたが主神たちの代行者となることと引き換えに、こっちに連れてきてくれるってことでいいのね?」


 少しばかりの無駄話でソフィアの余裕も戻ったのか、話題が本筋に戻った。

 特にショックとかは受けていないようで、それについてはひと安心だ。



『代行者っていうほど大したことはしないつもりだけど、まあ、義理を果たす程度の雑用くらいはね。ただ、妹たちをこっちの世界に連れてくるには、いろいろと障害があって時間がかかりそうだから、いっそのこと、彼女たちが通っている学校を卒業するタイミングを目処にしようかって話になってて。ふたりの卒業までおよそ一年半。こっちの世界と向こうの世界の時間の流れが違うから、こっちでは十年ちょっとくらい。ということで、もう少しの間、我慢してもらえるかな』


 上手く事が運べば、時間の流れを調整してもう少し前倒しすることも可能かもしれないとのことだけれど、このバグだらけの世界では、余計なことはしない方がいい気がする。



「十年か……。これまでの年月からすると、長いのか短いのか、もうよく分からないけど……、それでも、ようやく会えるのね……。信じていいのよね?」


「もちろん」


 やらなければいけないことは多いけれど、スケジュールにはかなり余裕があるので、期限をオーバーすることはまずないはずだ。

 最悪の場合、分体や世界樹をいっぱい出して帳尻を合わせてもいいわけだし。



 最低限必要なのは、妹たちの召喚に対する保護の一部を解くこと。

 召喚できないのは論外だけれど、無条件で召喚できるのもあまりよくない。


 できれば、システムから付与されるユニークスキルも、変な因果を生まないようにキャンセルするか、難しいならよく吟味できるようにしておきたい。


 極端な話、妹たちを連れてくるだけでいいなら、私が日本に行けるように結界をどうにかすればいいだけなのだ。

 しかし、それだと妹たちが世界を超える際に、ユニークスキルが付与されてしまう。

 そこの調整は私にはできないので、彼らに頼るしかないのだ。



 要するに、妹たち用の召喚魔法を創るという解釈が近いだろうか。

 まあ、それが後々スタンダードモデルになるかもしれないけれど。



 それと並行して、向こうの世界で、妹たちが召喚された後の各種工作もしておく。


 最低でもふたり、場合によっては水上さん――母さんの従者さんたちや、父さんの配下の亜門さんたちも来ることも想定すると、向こうの世界では同時に多数の行方不明者が出ることになる。


 何の工作もなければ間違いなく事件扱いされて、万一こっちの世界の痕跡でも発見されたりすれば、余計なトラブルの種となりかねない。


 なので、私にはよく分からないけれど、向こうで法的にも物理的にも魔法的にも痕跡を消す準備をするそうだ。




「それで、これから私はどうすればいいの? 召喚魔法の研究を続けてもいいけど、レティの召喚の役には立たないのよね?」


『特に義務とかはないし、召喚するときには連絡するから好きにしてていいよ。でも、どうせなら妹がこっちに来たときのために、彼女が少しでも過ごしやすい環境を作っておくとかはどうかな?』


 朔の言ったとおり、特にしなければならない義務のようなものはない。

 今のところ、ではあるけれど。


 それこそ、こっちへ来る人たちの詳細が分かれば、住居などの用意をするくらいか。

 それも、アルや町の人たちに頼めばすぐに出来上がるだろう。


 なので、レティたちを召喚する役には立たないかもしれないけれど、研究は続けてもらっても構わない。


 いや、主神たちも決して万能ではないのだし、違うアプローチからも続けてもらった方がいいのではないだろうか?



「そう。だったら、魔族領の問題――吸血鬼の魔王を退治しに行こうかしら」


 研究を続けてもらうように提案をしようかと思っていたところ、思わぬ答えが返ってきた。


「今更復讐の続きってわけじゃないんだけど、あいつがまだ生きてて、これからもあんな実験を続けるかもしれないなら、潰しておいた方がいいでしょ?」


 意外に思ったのが顔に出ていたのか、ソフィアがその理由を補足してくれた。



『なるほど。今はヴィクターの支配下にあるみたいだし、そのヴィクターが目立つ動きをするのを嫌ってるような感じだから、当面は放置しててもいいかなと思ってたんだけど、前倒ししても全然問題は無いかな。それに、ユノもそろそろ魔族の人たちとの約束を果たさないといけないしね』


 約束……?


 ああ、そういえば、ミゲル師たちとしていたな。


 吸血鬼に囚われている人たちを救出するためのお手伝いで、勝算のある作戦が立てられるくらいに鍛えてあげよう――ということだったと思うけれど、そろそろ(さま)になってきただろうか?



『とりあえず、魔族の人たちの作戦に乗じて討伐に出るのがいいかと思うんだけど、彼らの仕上がり具合の確認と、ヴィクターの動向も一応確認しておいた方がいいかな。それと、アナスタシアと調和の神くらいには話を通しておいた方がいいかも』


 うーん、主神から裁量権も貰っているのだし、アナスタシアさんとかには事後報告でもいいように思うのだけれど……。

 まあ、今ならまだ湯の川にいるだろうし、断りだけ入れておこうか。


◇◇◇


 アナスタシアさんは、捜し回るまでもなく見つかった。


「ちゃんと報告できて偉いわね~」


 過剰なまでに褒められた。


 私はどれだけできない子だと思われていたのか。

 というか、いつまで私の頭を撫でまわしているつもりだろう?



「でも、ヴィクターを刺激しすぎないようには気をつけてね。あの子、基本的にヘタレだから、正面から攻めてくるようなことはないと思うけど、心の弱い子は追い詰めすぎると何をするか分からないからね」


 まだアナスタシアさんが何かを言っていたけれど、私をワシャワシャする手が止まらないので頭に入ってこない。



「ヘタレって……。アナスタシアから見ればみんなそう見えるんじゃないの? あ、ユノ以外は」


「ユノちゃんは、そうね。大物ね。《威圧》しても揉みくちゃにしても全然堪えないからねえ。でも、ヴィクターが臆病なのは本当。あの子が魔王になって五百年くらいかしら、何度もチャンスはあったはずなのに、大きな行動に出ることはなかったし、レオナルドの台頭を許したり、考えすぎて機を逸するタイプなのよ」


「あー、頭と口ばかりが働くタイプか」


「といっても、仮にも大魔王だし、そこそこは強いわよ。それに、逃げ足も速いから、ここの古竜たちでも結構苦労するんじゃないかしら」


「古竜っていっても、もうユノに頭が上がらない生き物ってイメージしかないわ……。それに、どんなに逃げ足が速くても、ユノから逃げられるとは思えないし――霧化して逃げようとしているのに掴まれたり、霊体を素手で掴んだり、《転移》魔法で移動中の人を捕まえたり……。あの娘には常識は通用しないわ」


「竜神のブレスも掴んでたわよ。しかも、それを分解して編物をしてたわ……! ユノちゃん、恐ろしい子!」


「ほう、面白そうな話をしているな。聞いた話だが、私の邪眼の力も掴んで投げ返していたらしいぞ」


「おう、俺も混ぜろよ! ユノのすごいところか? 素顔を見せただけで飛んでた神が地に落ちたとか、数えきれないくらいの天使の軍勢を半分に減らすって言ったら、天使の数じゃなくて身体を縦や横に半分にして結局四分の三くらい殺してたとかよ、可愛いから許されてるけどよ、ちょっと普通じゃないぜ」


「何それ? 察するにディアナのことよね? 九頭竜と対戦したときのディアナ、数十万の天使の軍勢がいたんだけど? 四分の三ってどういうこと? ちょっと詳しく話しなさい?」


 エスリンとレオまで寄ってきてさあ大変。

 数の暴力反対。



『ちょっとした成り行きで絡まれたってだけだよ。その時に天使を(けしか)けられて、自衛のために多少殺したけど、十万とかは知らないなあ(本当は軽く百万以上は殺してるけど)。上手く隙を突いて王手をかけただけだし、レオナルドは話を盛りすぎだよ』


「そうよねえ。いくらユノちゃんでも、ディアナの領域の中で、数十万の天使はさすがに……。いや、でも、ユノちゃんなら……」


「ユノ様なら、二十万のローゼンベルクの民を、ローゼンベルグの町ごと収納してしまいましたけどね」


 あれ?

 アナスタシアさんのワシャワシャしていた手が止まったと思ったら、なぜか万力のように締めつけてくるのだけれど?

 私でなければ潰されているかも――というか、痛いのだけれど?


 頭を潰されてもどうということはないけれど、痛みはあるんだよ?




 さておき、アナスタシアさんからいわれのない暴力を受けたものの、報告は済んだし許可も下りた。


 命令系統的には、主神から直接委託を受けている私の方が上位だと思うのだけれど、アナスタシアさんが父さんの育ての親だと知ってから、余計に逆らい難い。


 そして、父さんとの関係が明らかになってから、向こうは私との距離を詰めようとしているように感じるのだけれど、私にとってはふたりの関係を伝聞でしか知らないこともあって、苦手意識がすぐに消えるようなことはない。


 もちろん、父さんの恩人であることは確かなようだし、私の方からも歩み寄るべきだと思う。

 その場合、血の繋がりはないにしても、私から見れば彼女はお祖母ちゃんになるのかな――などと考えていると、とても不穏な笑顔を浮かべた彼女が私を見ていた。


 顔に、「言ったら殺す」と書いてある感じ。

 気配とか殺気は読めないけれど、空気が読めるの私は、見えている地雷は踏んだりしない。

 アナスタシアさんでなければ、「やれるものならやってみろ」と言っていたかもしれないけれど。


 そんなことを考えていたからか、変わらぬ笑顔のままの彼女が無言で近づいてきたので、ひとまず逃げた。


 この世界の人はみんな勘が良すぎて怖い。

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