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02 ちちなる神

 アル、アナスタシアさん、フレイヤさんの3人に、主神に会ってきたことを伝えた。


 黙っていた方がいいかとも迷ったけれど、妹たちの召喚に当たって、情報の出所を隠し通すのは難しいと判断したからだ。



 もちろん、主神たちの同意を得てのことで、彼らの正体や目的、システムの詳細までは伝えていない。

 そんなことを伝えたところで困るだけだろうし、そこで父さんと母さんが働いていたことを伝えただけで充分に困惑していたし。



「なるほど、おおよその事情は把握したわ。まさか、あの子がまだ生きていたなんて――ユノちゃんがその娘だったなんて、にわかには信じ難いけど。言われてみれば確かに面影も……。いや、やっぱり美化されすぎてる気がするわ。でも、主神の下で働いていたなんて、迷走は遺伝するものなのかしら」


 アナスタシアさんは――というか、アナスタシアさんの前身である女神ヘラは、父さんの育ての親だったらしい。

 それで、てっきり死んだものと思っていた父さんが生きていただけでなく、私がその娘だということに驚いて、感慨深そうにしていた。



 アナスタシアさんには、ヘラの知識や記憶が引き継がされている。


 とはいえ、それは世界的に役割が定められているような人が業務に支障をきたさないよう、予備として育成されていた人に、システム的に埋め込んだというか刻み込んだという表現が正しいらしい。

 それなりに記憶の影響は受けるようだけれど、転生とか複製ではなく、歴とした別人である。


 それでも、やはり特別な感情や思い出などは無視できないようで、父さんのことは、もっと強く止めておけばよかったと後悔していたらしい。




「えっ!? あの悪乗りしすぎたストーリーが正式に採用されたの? 主神様、頭大丈夫か? ええ、ちょっと待って、だから俺が矢面に? え、待って、無理。というか、おっぱい吸わせてもらう約束ってどうなったんだよ? それと、この前魔界の様子を見に行こうと思ったら、《転移》失敗したんだけど、何か知らない?」


 アルを筆頭に、私以外のみんなで考えたとんでもストーリーは、主神たちに「結構いいんじゃないか? じゃあ、今後はそういうことでよろしく」と軽い感じで承認された。


 もちろん、アルひとりに責任を押しつけるわけではないけれど、そういうことを上手くやれそうな人材がアルしかいないのだ。

 アイリスは大空洞調査が終わってから引き籠り気味だし、シャロンたちは私を過大評価しすぎているし、今は本当にアルしかいないのだ。

 頼むよ、本当に。


 というか、おっぱいって何だ。

 そんな約束をした覚えはないのだけれど、どういうこと?



「魔界のことはさておき、おっぱいって何? なぜ吸うの?」


「は? お前こそ何言ってんの? おっぱいって本来吸うもんだろ?」


 言われてみればそうかもしれない。

 いや、でも、あれ?



「で、当面はあんたを主神様との連絡役――というか、代理だと思っていいのね? といっても、主神様の判断を仰ぐ必要があるのは、あんた絡みのことが大半だろうし、この神選はどうかと思うけど……。まあ、あんたは悪知恵が働くタイプじゃないから、その点は安心か」


 フレイヤさんは何だか人ごとだと思っている様子。

 いや、人ごとか。

 こちらからは特に何ができるわけでもないし。




 なお、システムの復旧自体は、私の手でほぼ終わっている。


 ただ、本当に直っているかの確認や、試運転だとか、再接続やら再起動、それに管理の習熟訓練などもあって、完全に再始動するにはまだしばらく時間がかかるそうだ。



 これは、一見すると父さんの仕事を邪魔しただけに思えるかもしれない。


 しかし、私が手を出さなければ復旧まで数年から数十年かかっていただろう。

 傷付いた種子が失った性能分の補完まで考えると、何千年とかになっていたかもしれない。


 その一番手間が掛かるところを私が補完して、ついでに全体的なスペックも何百万倍にも上げた。

 そう考えると、ここ最近の仕事を振り出しに戻してしまったものの、トータルで考えれば仕事時間は減るはずなのだ。



 とはいえ、当面はスペックの把握や増やせそうな機能の把握に手一杯で、本格的な復旧作業はまだ先になる。

 もちろん、重要な部分については優先的に復旧するそうだけれど、そういうところこそ充分なテストを行わなければならない。


 特に、業務連絡なんかは腐っても神の言葉なので、連絡先を違えたり傍受されたりすると非常にまずい。

 なので、遺憾ながら、フレイヤさんの言うように、必要があれば連絡役をしなければならない。



 面倒くさいなあとは思うものの、ずっとどこかに出向いている母さんよりはマシだろうし、父さんに会う口実と考えれば悪くはない。

 今度、お弁当でも創って持っていてあげようかな。




「まあ、とんでもない状況になったものだけど、あんたが主神様と喧嘩にならなくてよかったわ」


『ユノにあまり神って存在が良いイメージではなかったのは確かだけど、だからって争いたいわけではなかったしね。放っておいてくれるなら大人しくしてるつもりだったし、乗り込むのもどうかなとは考えたんだけど、このまま禁忌の対処とかさせられ続けるのもまずいかなって。こっちの良かれと思っていることと、あっちの思惑は違うかもしれないわけだし』


 私だってこの世界がバグだらけとは思ってもいなかったし、結果的には確認しておいてよかった。


 それでも、母さんはまだだけれど、父さんには会えた。

 さらに、妹たちをこっちに召喚する目処もついたのだ。


 少々仕事を押しつけられるくらいは仕方がない。


 それと、妹たちのことはソフィアにも伝えた方がいいと思うのだけれど、どこまで伝えていいのかは考える必要がある。



「大人しい……? 大人しいって何だっけ?」


 アルが辺りを見回して怪訝(けげん)そうに呟いた。


『元々ここは、君が用意したボクたちを閉じ込めておくための檻でしょ。城が用意されてたり、敷地が無駄に広かったりは町造り前提としか思えないし、多少予定と違うところはあっても、おおむね成功なんじゃない?』


 朔の言うとおりだろう。


 まあ、私も大きくなりすぎていることは否定しないけれど、この町の中だけに限れば大きな問題は無い。


 対外的な問題は、さきの言葉のとおり、アルに頑張ってもらうしかない。



「多少……? 多少って……? いや、俺が蒔いた種ってのはそうなんだけど、さすがにラスボス――裏ボスのいる万魔殿ができるとは思わないだろ。単身とはいえ、大魔王と古竜が侵攻してきて手も足も出せずに――というか、赤子、じゃないけど子供に手を捻られて撃退されるとかヤバすぎでしょ。これを俺に――人間にどうにかしろと言われても、根回しとか裏工作にも限度ってもんがあるんですけど」


『諦めたらそこで試合終了だよ?』


「うぐっ……! 試合ってか、もっと大きなものが終わりそう! さすがにおっぱいひとつと釣り合いが取れるようなものでは――いや、しかし諦めるには惜しい! こう考えるとどうだろう――両方ならと!」


 何このおっぱいにかける情熱。


 というか、独り言怖い。

 いつものようにおどけているのだと思うけれど、せめてもっと小さな声でやるか、おっぱい云々は頭の中だけにしてほしい。



「それで、ユノちゃんが主神と直接交渉できるようになったってことは、私が出した交換条件も無意味になったのかな」


 お、アナスタシアさんがアルを無視して話題を変えてくれた。

 これは乗っかるしかない。



「条件的にはそうなのだけれど、一度約束した手前もあるし、頑張っている人たちもいるし、もう少し続けるつもり。あ、結界の方は世界樹を設置して補強しておいたから、当面の間は大丈夫だと思う」


 ついでに、デーモンコア――アナスタシアさんの半身のようなものも見つけたけれど、回収後すぐに失くした。

 というか、存在をすっかり忘れて大魔王派の人たちに回収されて、更に盗難に遭ってしまった。


 言えない。

 言うわけにはいかない。


 もちろん、それの回収を頼まれていたわけではないので、問題は無いはず。

 それでも、さすがに失くしたというのは都合が悪い気がする。



「そう、ありがとう。でも、また世界樹か……。とにかく、私にできることがあったら何でも言ってね」


 しかし、素直に感謝しているアナスタシアさんを見ると、良心が若干痛む。



『今のところは大丈夫。ただ、結界を補強しすぎて出入りが完全にできなくなったのは問題なんだけど、それは現地の管理者と協力して解決法を考えるつもり』


 あれ?

 そのあたりのことはアナスタシアさんたちに相談しようと思っていたのだけれど、朔的には都合が悪いのか?



「そうなの? まあ、結界が壊れるよりはよっぽどマシだけど、それは任せる――といっても、魔界を第二の湯の川にはしないでね?」


 思いのほかあっさりと受け入れられた。


 まあ、面倒な条件とか付けられても困るし、それでいいなら非常に助かる。

 それに、現場の人たちの方が、現況に即した案を出してくれるかもしれないし。



「本当に加減のできない娘ね。でも、そのくらいで済んだのは幸運なのかしら。あんたのことだからうっかり信者を増やしたり伝説を作ったりしてるかと思ってたけど、やればできるじゃない」


 フレイヤさんが、何だか母さんみたいなことを言う。



 さておき、ファンはできたようだけれど信者はできていない。

 雰囲気的にはどう見ても狂信者だけれど、祀られる対象にはなっていないはずなので、断じて信者ではない。


 伝説のデーモンコアを発見したけれど紛失した。

 正確には、所在は分かっているけれど、取り戻すにはいろいろとリスクとか何とかがある。

 なので、必要に迫られるまで放置する。


 うん、ギリギリセーフだ。

 私はやればできる子。




「とにかく、一応の指針ができただけでも前進かな。アルフォンス君には頑張ってもらわないといけないけど、ユノちゃんのおっぱいがかかってるんだから頑張れるわよね?」


「できる限りはやりますよ!」


 ちょっと待って。

 なぜ蒸し返すの?

 というか、いつの間に決定事項になっているの?



「愛と欲望の女神の名において、あんたの欲望を祝福するわ! ちなみに、この娘のおっぱい最高よ。揉んだら気持ちいいだけじゃなくて、何かご利益がありそうな感じ。マジ神器って感じ」


 え、欲望?

 豊穣はどこにいったの!?



『まあ、揉まれたからって減るものでもないし、別に構わないんだけど、奥さんたちとは揉めないようにしてね』


 朔まで!?

 いや、確かに減らないけれど。


 というか、上手いこと言ったつもり!?


 何だか分からないけれど、主神に会ったことを話したら、私のおっぱいの話に摩り替わっていた。


 これもバグだろうか?

 ファンタジー世界って怖い。

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