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01 システムあれこれ

 私の手にあるのは一冊の分厚い本。


 主神たちとの邂逅(かいこう)時に、彼らから手渡された、システムの仕様書とかそんな感じの物である。

 世の魔法使いや研究者が知れば、喉から手が出るほど欲しがる物だろう。



 しかし、仕様書として機能しているのはごく一部。

 残りの大半は、不具合をまとめた――つまり、解消しきれていないバグの山である。



 彼らが私に何を期待しているのかは知らないけれど、私も朔に丸投げしている。


 その結果、私が手を入れた世界樹システムの解析を合わせて、そこそこのことが判明したらしい。




 まず、この世界は、地球を基に創られた、それによく似た世界である。


 単純に同じ物を複製しなかったのは、ここが異世界であることを強くアピールするため。

 全く違う物にしなかったのは、単純に想像力が及ばなかったからだそうだ。


 半端な感は否めないけれど、そのおかげで、大半の動植物などに元の世界の常識が通用する。

 異世界からの転移者にとっては、混乱も少なくて済むというメリットもあった。

 ……そうかな?



 なお、元の世界の常識が通用しない最たるものが、システムとか神の存在である。


 地球には、いつまで経っても助けにこない神は当然として、システム――特に、それ自体が力を持っているルールは存在しなかったはずだ。



 そして、非常識の中でも特に身近なものが、魔法やスキルである。


 まあ、私が知らないだけで、地球にも超能力とかはあったのかもしれないけれど――種子とか根源の性質を考えると、無い方が不自然なのだけれど、この世界の魔法やスキルほど一般に浸透していないのは間違いない。




 さて、その魔法について、少し分かったことがある。



 こちらの世界で魔法を使うには、いくつかの手順――というか、決まりごとが存在する。


 まず、種子などが放出した魔素を、それ以外のものが摂り込むと、魂とか精神といった「個」というフィルターを通して、その個体に応じた魔力に変換されて体内――実際には物理的な要素だけではないけれど、とにかく個体に蓄積される。


 そして、その魔力を用いてシステムに働きかけ、効果を引き出すのがこの世界での「魔法」である。



 詠唱や発動句といったものは魔法の発動を補助するものだけれど、実はその有無で効果が変わったりすることもない。



 一方、《無詠唱》だと、魔力の消費が増える。


 これは、単に《無詠唱》が、システムの提供するスキルだからである。


 通常の魔法の行使では、魔力を用いてシステムに接続するところまでは同じだけれど、詠唱は魔法に必要な処理をひとつずつ行っていくのに対して、《無詠唱》はそれを省略する。

 その省略されている分は術者のイメージで補うしかないのだけれど、「《無詠唱》では魔法の威力や精度が落ちる」というのが通説になることからも分かるように、人間の情報処理能力では難しいことのようだ。



 結局のところ、《無詠唱》とは、スキルの分だけ余分に魔力を消費するし、威力や精度も落ちることが多い。


 それでも使われるのは、速度というメリットがあるからである。

 また、システム――というか、種子の性質上、「イメージを形にする」という形式が本質に近いせいか、少しだけファンブルも発生しにくい。

 もっとも、「イメージが足りていないところは適当に補完される」ので、威力や精度の低下が起こるのだけれど。



 さておき、詠唱などについても、魔素や魔力が意志や感情の強さに呼応する性質を持つため、そうすることでテンションが上がるのなら、効果も上がることもある。


 それを詠唱の長さや正確さのせいだと勘違いした人が今でも研究を続けているのが、現在の魔法学の基礎になっているそうだ。



 ちなみに、アルや一部の魔界の人たちが使っている、身体や服に紋章のようなものを描いておいて、そこに魔力を通したり組み合わせたりして詠唱の代わりにするという技術は、イメージの補完という点では非常に優秀らしい。

 ただし、その紋章自体に深い意味や正解は無いため、使用者を選ぶものなのだとか。


 それでも、選ばれた者だけが使える特殊な技術ということで、気分良く、更に一連の動作や決めポーズでテンションも上がるらしく、魔法の威力は結構上がっているそうだ。


 ただ、一連の裏事情を知った上でそれを見せられると、何ともいえない気分になる。




 さて、システムというのは、種子と世界を中継して、この世界で生活していくための補助をするものである。


 システムは種子の一部であるけれど、種子そのものではない。


 例えるなら、自転車に対する補助輪のようなものだろうか。

 それが無いからといって、魔法が使えないということはない。



 そういったシステムを介さない異能が原初魔法、あるいは一部のユニークスキルである。


 それらは効果が強力であったり、システムでの対抗が難しかったりなど利点も多い。

 しかし、取得には運や才能が重要で、運良く取得できたとしても制御ができなかったりとデメリットも多い。



 余談だけれど、私がシステム準拠の魔法が使えないのは、システムに接続するためには魔力が必要なのに、私には魔力が無いからである。

 その素になる魔素ならいっぱいあるのだけれど、魔素は測定とか検知することができないので、どう頑張っても接続できないのが原因だった。


 これもバグ――といいたいところだけれど、魔素を扱える存在がシステムを利用するケースが考慮されていないのも分からなくもない。


 主神たちでも魔素そのものは扱えないけれど、システムを直接操作できる立場にある。

 なぜシステムが創れたかは彼らにもよく分からないそうだけれど、使う分には問題は無い。

 そして、彼らの世界の状況から「神はいない」と考えていたため、魔素を扱えるような存在が、しかも意志を持って存在するとは想定していなかったのだろう。




 さておき、理由が分かったなら解決できるかというと、そういうわけでもない。


 理由のひとつは、私が自前の魔法――彼らの定義でいうところの原初魔法を使えるからである。


 

 美味しい料理や飲み物が出せるのに、世界を好き勝手に改竄できもするのに、今更火や電気を出しても意味が無いだろうと言われては反論は難しい。


 まあ、それは冗談にしても、本当の魔法が使える私が、魔法擬きを使うことに何の意味があるのかというと、そのとおりである。

 使えると便利かなと思う場面はあるけれど――虫除けとかは本気で使いたいと思うけれど、それだけのために人や時間を使うのも申し訳ない。

 むしろ、「それくらいなら人を雇え」と言われてはぐうの音も出ない。

 彼らも忙しいのだ。



 種子を用いた創造は、その種子の能力と想像力の範囲内でいろいろと創れるのだけれど、明確なイメージのなかったところは適当に補われてしまう。

 そのため、彼らが半ば思い付きで創ったこの世界の大部分は適当なのだ。


 問題が無ければそれでいいのだけれど、実際には意図と違うところが多くあって、その修正や調整に追われ続けて、ほかのことに割ける余裕が無いのだ。


 それに、彼らの種子では創造にも修正にも制限や限界があって、手当たり次第にとはいかないのも問題だったらしい。


 もちろん、私の能力にも制限や限界はあるけれど、世界のひとつやふたつ、みっつやよっつや沢山創って弄ったところで、限界どころか大して消耗もしない――どちらかというと、疲れるより先に飽きてしまうと思う。

 というか、世界はそうやって創るものではないと思うし。



 彼らの世界創造能力はあまりに貧弱で、世界をひとつ創るだけに何日もかかったそうだ。


 最初、「神話に倣って~」というようなことを言っていたけれど、それだけの時間をかけて、手順を踏んでいかなくてはできなかったのだとか。


 もちろん、イメージを補完するのに、手順を踏むことは悪くはない。

 私もよくやっているし。

 考え無しにやると被害が大きくなるからね。



 ただ、「世界」というのは、単純な物質とか環境だけで構成されているものではない。


 何というか、もっとアレな感じ――方向性? 可能性? 違うかな?

 とにかく、上手く説明できないけれど、一番重要なものが抜けているように思う。

 そのくせ、よく分からないところに心血を注いでいる。


 それを世界創造といわれても、正直なところ困惑する。



 だから、彼らの注文に、「彼らの要望を満たしつつも、柔軟性のある世界を創れる世界樹を提供する」という形で応えたのだ。


 なぜかドン引きされたけれど。

 挙句の果てに、「本物」とか失礼なことも言われたけれど。


 創れと言われたから創ったのに、この扱いである。




 とにかく、私と彼らの種子との階梯の差は、そこまで大きなものではないと思う。

 むしろ、数の差があるので、ほとんどの分野では私より優秀だと思う。

 それに、今の種子は発芽させた状態なので、開花すれば超えられるのではないだろうか?


 いや、そのあたりは開花してみないと分からないかも。


 そもそも、どうすれば開花するかも知らないけれど――よくよく考えると、元々、システムは領域の範囲はすごかったけれど、深度は浅かったような?


 やはり、実際の花のように、種類とか個性とかがあるのだろう。

 この子たちの個性は私とは違うのだろう。



 そう考えると、実は私は「創造」に特化しているのかもしれない。

 ふふふ、いいじゃないか。


 もう脳筋とは言わせない。

 私はクリエイティブなクリエイター。


 何だか知的な感じがして、とても良い。

 眼鏡とかかけてみたら似合うかもしれない――ああ、バケツを被っていると分からないか。

 いっそ、バケツにかけるか?

 ……それだと頭のおかしい人だな。




 さて、主神たちは、簡単そうに世界を創る私のことを、簡単に世界を壊すのではないかと危惧しているようだ。


 なぜそういう考えに至るのかが理解できない。



 確かに、ロリコンとか外道を殺したりもしたけれど、たまたまその場にいたからというだけで、根絶とか、それ以上どうこうしようとは思わない。


 上から目線で、この世界は存在するに値しないとか、人間は滅ぶべきとか、そんなことをなぜ私が判断して実行なければならないのか。

 できるかできないかでいえばできると思うけれど、やりたいかやりたくないかでいえば、全くやりたくない。



 やって何が得られるのか、何かが解決するのか。


 一から世界を創り直す?

 それこそ何の意味が?

 その世界をベースにしなくても、いくらでも創れるのに。



 そもそも、自分の思いどおりになる世界というのは自身の領域のことであって、誰もが持っているものだ。

 それを自分以外に求めているのが勘違いというか、認識がおかしい。


 自身の領域を認識して、それと世界や根源の関係を認識していれば、私の言っていることも分かると思うのだけれど。



 同様の理由で、世直しにも特に興味が無い。

 個人的な理由で動くこともあるけれど、基本的に調和の神の「人の世界のことは人の手で」という方針を指示する。


 そもそも、人間は――人間に限らず、どんな生物でも間違えるのだ。

 その間違えることも可能性のひとつなのだから、それを許容できないのなら、最初から創造などしなければいい。


 全てのものには終わりがあるのだ。

 それが早いか遅いかの違いで、その終わりに至った経緯や残されたものを次に繋げてあげるのが、残された人とか上位者の役目ではないだろうか。



 それも嫌だというなら、自分自身を排除するのが一番手っ取り早い解決法だ。


 あれも嫌、これも嫌となると、きっとその人の望む世界というのはどこにも存在しないのだから。

 というか、世界を創れるとか壊せる階梯にいて、そんな浅い考えの人がいるはずがないと思うけれど。




 理解できないことはさておき、主神たちが思いつきで創ったこの世界は、意図せず出来上がった仕様とバグだらけである。


 ついでにいうと、調整も雑すぎる。


 人間を救うための世界のはずが、人間が生きていくには過酷すぎる環境だったなんて、何の冗談かと思った。


 もっとも、私としては、その分必死に頑張っている人が多くて良いことなのだけれど、頑張らざるを得ない当人たちからすると、笑いごとではないのだろう。



 しかし、それを修正するにも、よく考えてやらないと台無しになる。


 例えば、イージーモードにしすぎると、あっという間に資源を食い尽くして、人間同士で争うようになるかもしれない。

 そもそも、そうなってしまったのが主神たちの元いた世界で、その世界の人たちを救いたいという想いで始めたことである。



 彼らにとってみれば、元の世界と同じ道を歩ませることは認められないだろうし、過酷な世界に放り込んで苦しませたいわけでもないというのは分かる。


 それでも、あまり力を与えすぎても駄目だし、種子の存在に気づかれて、再び争いの火種になることも避けなければいけない。

 アザゼルさんの反乱のように、危ない時もあったようだし。



 結局、彼らは現地時間で一万年以上の間、この世界をほぼ放置していた。



 もちろん、勇者や魔王の超強化バグや、異世界への転出の禁止など、あまりに危険なことには対処はしていたらしい。


 一方で、大まかなバランスは、世界を創った当初のままらしい。

 なので、世界における人類の生存圏の割合は、ほぼ横ばいとなっている。



 時折、アルのような傑物が大規模な開拓をすることもある。

 しかし、アルも経験したように、それ自体が争いの火種となったり、そうならなくても慢性的に資材が不足している中では維持も難しい。


 勇者などの超人的な力を持つ人たちの力を借りても、治安の維持程度が関の山。


 まれに新天地の開拓を達成する傑物が現れても、その人が死んだり衰えたりするまでに安定化させられるかは、運に頼るところが大きい。


 その近辺で、その地域を整備、維持できるだけの資源を確保できるかは、精度の高い調査方法が確立されていないこの世界では運頼みなところが大きい。

 一応、そういう魔法もあるにはあるそうだけれど、射程や効果範囲などの問題で、実際に試してみなければ分からないのが現実らしい。


 ファンタジー世界なのに、変なところは現実的だ。



 それでも、人間が国家の枠を超えて協力し合えば、もう少しマシな状態になるのだろう。

 ただ、そういう全体的な視点で見ていない人たちには、実感できるものではないのだろう。




 それはまあ、愚かさも含めて人間たちの選択なので好きにすればいいと思う。



 ただ、湯の川の存在がバレると、標的にされる可能性が高い。

 そうなったときには、アル――というか、グレイ辺境伯領の人たちにも大きな迷惑を掛けてしまうだろう。

 さすがにそれを「私知らない」するのは外道な気がする。



 情報統制が上手くいっているとはいい難い――というか、かけた覚えがない。


 湯の川や私に関する書籍やグッズがアクマゾンで売られているとか、神族による下界温泉ツアーなんかも企画されていたり、人間界以外は漏洩とかそういうレベルではない。



 ついでに人間界でも、先のアザゼルさんの騒動が原因で、各所でいろいろな噂が流れている。

 決して私だけのせいではないと思うのだけれど、だったら誰が悪かったのかというと、これといって犯人はいない。

 いや、実行犯はいるけれど、彼を捕まえて処分したところで何も解決しない。

 むしろ、彼を上手く使わないと、もっと大変なことになる。

 しかし、自由にさせるのも問題で――。


 何か対策をするべきだと思うけれど、アイリスが魔界のことで手一杯な今、頼れるのが彼くらいしかいないのが問題だ。

 彼も悪い人ではない――どちらかというと好感を覚える好漢なのだけれど、何かにつけて調子に乗りやすいのが玉に瑕なんだよね……。


 まあ、監視を理由に、観察するのもいいかもしれない?

 しかし、奥さんや家族との団欒を邪魔するのも悪いし、ひとまず保留かな。

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